トップ > エリア・施設分析 > 岐阜県ホテル市場2026 — 白川郷・高山・下呂と岐阜市業務帯、県内で2倍開く4層構造

岐阜県ホテル市場2026 — 白川郷・高山・下呂と岐阜市業務帯、県内で2倍開く4層構造

投稿日 : 2026.08.14 更新日 : 2026.09.02

岐阜県

エリア・施設分析

岐阜県ホテル市場2026 — 白川郷・高山・下呂と岐阜市業務帯、県内で2倍開く4層構造

岐阜県の宿泊市場は、ひとつの県として語るには内部の差が大きい。世界遺産・白川郷を抱える白川村、飛騨の城下町・高山、温泉地の下呂という観光帯がある一方で、県庁所在地の岐阜市、大垣市、各務原市には製造業と行政需要に支えられた業務帯が広がる。メトロエンジンリサーチのデータで両者を並べると、同じ県内でありながら推定成約ADRには約2倍の開きが生まれていた。

本記事における指標の定義

  • ADR(推定成約ADR):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREIT(インヴィンシブル投資法人)が開示する物件別実績との照合(184物件月・2026年4〜5月)で誤差中央値は約7.5%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。市町村単位のADRは対象施設の中央値(そのエリアの標準的な施設の水準)です。
  • 掲載価格:OTA等に掲載されている全プランの平均価格(2名1室利用時・1室あたり料金・税込、素泊まり〜食事付きを含む)。推定成約ADRとは基準が異なるため、本記事では明示的に区別して表記します。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ。国内約168,000施設を追跡し、うちOTA上で稼働が確認できる約27,000施設・約126万室を分析対象としています。
Key Takeaways
  • — 約2.07倍 — 推定成約ADRは4層に分離。第2層(温泉・古い町並み)12,900円に対し第4層(業務・産業帯)は6,200円。白川村16,500円まで含めれば2.65倍開く。
  • — 7,309室 vs 7,098室 — 観光帯と業務帯の客室ストックはほぼ拮抗。ただし1施設あたりは業務帯63室・観光帯26室と2.4倍の規模差がある。
  • — 1.75倍と1.01倍 — 紅葉期(10〜11月)の季節係数は層でくっきり分かれる。中津川市1.75倍・高山市1.30倍に対し、大垣市1.09倍・各務原市1.01倍。
  • — 白川村の山は冬 — 季節係数は0.89倍で秋は谷。2026年2月の推定成約ADRは26,800円と年間最高で、前年同月比は約+47%。
  • — 427室のうち207室 — 2026年の新規客室の48.5%が岐阜市の東横INN岐阜。2028年までの確定パイプラインは美濃加茂市120室の1件のみ。

岐阜県の宿泊市場は4つの層に分かれている

まず県全体の輪郭を押さえておきたい。メトロエンジンリサーチが把握する範囲で、岐阜県内には運営中かつ客室数が登録された宿泊施設が557施設・17,129室ある(3施設以上が所在する22市町村の合計)。このストックが県内に均等に散らばっているわけではない。市町村別の推定成約ADR(2026年6月・確定基準)で並べ替えると、価格水準はきれいに4つの層に分離する。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

最上位に立つのは白川村の16,500円である。合掌造り集落を抱える世界遺産エリアで、この1村だけが独立した価格帯を形成している。次いで高山市14,000円、下呂市12,900円、美濃市10,900円という温泉・古い町並みの層が続く。3番目のグループは郡上市8,900円から恵那市6,400円までの中山道・奥美濃レジャー帯。そして最下層に、岐阜市8,300円を筆頭とする業務・産業帯が並ぶ。

層ごとの中央値を取ると構造がはっきりする。第2層(温泉・古い町並み)の12,900円に対して第4層(業務・産業帯)は6,200円で、その比は約2.07倍。第1層の白川村まで含めれば2.65倍まで開く。県内の移動時間で言えば片道2〜3時間の範囲に、2倍の単価差が同居していることになる。県内でこれだけの幅が開く構造は岐阜県に限った話ではなく、県内ADRは最大5.2倍開く — 市区町村レンジ全国比較でみる二極構造と空白帯で全国の分布のなかでの位置づけを確認できる。

岐阜県の宿泊市場4層構造 — 層別の推定成約ADR中央値と供給ストック(2026年6月・確定基準)
層主な市町村 推定成約ADR中央値施設数客室数平均規模
第1層
世界遺産圏
白川村¥16,500141007室
第2層
温泉・古い町並み
高山市・下呂市・美濃市¥12,9002867,30926室
第3層
中山道・奥美濃
郡上市・関市・中津川市・飛騨市・恵那市¥7,5001272,46719室
第4層
業務・産業帯
岐阜市・大垣市・各務原市・多治見市・土岐市・可児市・瑞浪市・美濃加茂市・羽島市¥6,2001137,09863室

推定成約ADRは2026年6月・確定基準(表示は100円単位に丸め)。施設数・客室数は運営中かつ客室数が登録されている施設。養老町(n=5)・揖斐川町(n=4)など集計対象施設が少ないエリアは層の定義から除外し、参考扱いとした。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

ここで見落としたくないのが客室ストックの分布である。第4層の業務・産業帯は113施設で7,098室を抱え、286施設で7,309室の第2層とほぼ拮抗している。つまり岐阜県の客室在庫は、観光帯と業務帯でほぼ半分ずつに分かれているということだ。ところが1施設あたりの平均規模は業務帯が63室、観光帯が26室と2.4倍の開きがある。少数の大型施設が業務需要を、多数の小規模施設が観光需要を受け止める——これが岐阜県の宿泊供給の基本形である。

そして単価では観光帯が業務帯の2倍。ストック規模が同等でありながら単価に2倍の差がついているという事実は、業務帯に価格帯の空白が残っていることを示している。後述するように、この空白は季節性の観点でも確認できる。

紅葉期(10〜11月)に何が起きるか — 層で分かれる季節カーブ

岐阜県の年間サイクルを県全体で見ると、8月と10〜11月に二つの山がある。2025年の推定成約ADRは6月の10,000円を谷として、8月に12,900円、10月12,300円、11月12,500円へと持ち上がった。2026年も同じ形をなぞっており、7月までの確定値は前年同月比でおおむね横ばい(6月−3.5%、7月−4.7%)、8月以降は調査時点の掲載水準から13,000〜15,000円台の推定値が出ている。

2026年8月以降は調査時点(2026年8月)の掲載水準に基づく推定。集計施設数N=302〜396施設/月。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

ただしこの県平均のカーブは、層をまたいで合成されたものである。層ごとに分解すると、紅葉期の効き方はまったく違う顔を見せる。ここでは基準の揺れがない2025年の確定値を使い、「10〜11月の平均を6月で割った季節係数」を市町村別に計算した。

2025年の推定成約ADR確定値による。集計施設数が期間中に大きく減る各務原市・関市・土岐市・美濃市は本図から除外。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

観光帯では、中津川市が1.75倍と最も大きく動いた。馬籠宿を含む中山道の紅葉需要が単価に素直に反映される市場である。高山市1.30倍、下呂市1.29倍と続き、飛騨市1.23倍、恵那市1.18倍、郡上市1.10倍と内陸に入るほど係数はなだらかになる。高山の紅葉期にどの国の需要がどのタイミングで価格を押し上げるかについては、欧米ロングホール紅葉需要の先取り価格2026 — 京都・高山・日光のフォワードADRが先行予約の水準から掘り下げている。

一方、業務・産業帯の係数は総じて1.0倍台前半に収まる。大垣市1.09倍、多治見市1.03倍、各務原市1.01倍——秋の需要が単価にほとんど乗っていない。年間を通じて安定した業務需要を土台に運営している市場であり、これ自体は堅い収益構造だといえる。裏を返せば、紅葉期という県全体が動く時期に、単価を積み増す余地がそのまま残っているということでもある。

その余地が実際に取れることを示しているのが、同じ業務帯にある岐阜市と羽島市だ。岐阜市の季節係数は1.28倍で高山市とほぼ同水準、羽島市は1.34倍とそれを上回る。岐阜市はぎふ信長まつりをはじめとする秋のイベントが集中し、羽島市は東海道新幹線・岐阜羽島駅を持つ広域アクセス拠点である。業務帯であっても、秋に動く需要を捉えられる立地では観光帯並みの季節係数が実際に立っている。2026年11月22日には各務原市の航空自衛隊岐阜基地で岐阜基地航空祭2026の開催が発表されており、業務帯の秋需要はさらに厚くなる方向にある。

白川郷の山は秋ではなく冬にある

層別に見ると、もうひとつ通説と異なる形が現れる。第1層・白川村の季節係数は0.89倍。10〜11月の推定成約ADRは6月を下回っていた。

白川村の年間カーブを2024年11月から追うと、山は冬にある。2025年12月21,900円、2026年1月19,900円、そして2026年2月は26,800円と、この時期が突出して高い。合掌造り集落のライトアップに需要が集中する構造である。2026年2月の水準は前年同月(2025年2月18,300円)比で約+47%と大きく伸びており、冬季の集客力は前年からさらに強まっている。掲載価格でも2026年1月は58,500円と年間最高値をつけた。

白川村は施設数14・客室100室、平均7室という極小規模の市場である(集計対象施設が5〜8施設と少ないため、月次の値は振れやすい点に留意されたい)。この規模で冬に26,000円台の推定成約単価が成立していること自体が、世界遺産という資産の強さを示している。紅葉ではなく雪景色が価格を決めるエリアであり、高山・下呂とは別のカレンダーで動いていると理解したほうがよい。

なお2026年10〜11月については、白川村24,300〜25,800円、高山市21,000〜22,900円、下呂市20,300〜20,900円という推定値が出ている。ただしこれらは調査時点の掲載水準に基づく推定であり、いずれの層でも2025年実績より高い係数が並ぶ。層をまたいで一律に上振れしている点から、実勢というより先行掲載の水準を反映した数値と見るのが妥当である。実際の成約水準はチェックイン日が近づくにつれて変動する。

高山295施設の内訳 — 分散型と少数精鋭型の対比

層の性格をより深く理解するには、施設構成を見るのが早い。高山市はメトロエンジンリサーチの価格集計対象が295施設に達し、県内最大の宿泊マーケットを形成している。このうち客室数が登録されている運営中施設は216施設・5,233室で、1施設あたり平均24室という数字になる。

運営中かつ客室数が登録されている施設のみ。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

高山市の内訳を規模帯で見ると、6〜20室が119施設と全体の55.1%を占め、5室以下も39施設ある。両者を合わせた158施設が全体の73.1%だが、客室数では1,424室にとどまり全体の27.2%にすぎない。逆に101室以上の11施設(全体の5.1%)が1,914室、つまり客室の36.6%を抱えている。数では小規模宿が圧倒的、量では大型施設が支えるという二層構造だ。

業態で見ても幅が広い。2026年6月に価格が観測されたカテゴリを施設数順に並べると、旅館67、貸別荘31、ビジネスホテル24、町家10、ゲストハウス10、コテージ7、ホステル7、民宿7、ペンション6、キャンプ場5、リゾートホテル4、シティホテル3となる(3施設未満のカテゴリは表示対象外)。同じ市内に旅館・町家・ホステル・貸別荘が並存し、掲載価格でも町家66,900円からビジネスホテル19,900円まで3倍以上の幅がある。高山市は単一の市場ではなく、複数の市場が地理的に重なった構造といえる。

主要5市町村の供給構成比較 — 施設規模・業態内訳と推定成約ADR(2026年6月・確定基準)
市町村施設数客室数平均規模推定成約ADR構成の特徴
高山市2165,23324室¥14,000分散型。12業態が並存
下呂市642,04132室¥12,900中規模温泉旅館が主体(旅館39施設)
白川村141007室¥16,500少数精鋭型。旅館7・民宿3
郡上市6893514室¥8,900貸別荘9・旅館7・民宿6と小型分散
岐阜市443,00268室¥8,300大型集約型。101室以上13施設で1,956室

推定成約ADRは2026年6月・確定基準(100円単位に丸め)。業態内訳は2026年6月に価格が観測された3施設以上のカテゴリ。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

白川村はこの対極にある。14施設で100室、最大の施設でも31室という構成で、5室以下が8施設を占める。合掌造りの民宿がそのまま宿泊供給になっている市場だ。供給が絶対的に少ないため、需要期には価格が素直に立ち上がる。単価16,500円という県内トップの水準は、この希少性がそのまま反映されたものといえる。高山・下呂・白川郷を一つの周遊圏として捉えたときの投資採算については、飛騨高山周遊圏のホテル投資余地で減室リブランドの試算とあわせて検討している。

下呂市は両者の中間にあたる。64施設・2,041室で平均32室、そのうち旅館が39施設を占める。温泉旅館という同質性の高い供給が集まった市場で、51〜100室の施設が10施設で789室、101室以上が2施設で389室を持つ。高山のような業態の多様性はないが、規模としては中核的な温泉地の標準形である。

そして岐阜市。44施設で3,002室、平均68室という県内最大の平均規模を持つ。101室以上が13施設で1,956室、全体の65.2%を占める大型集約型の市場だ。高山市の客室数5,233室に対して岐阜市は3,002室——施設数では5分の1でありながら、客室数では57%に達する。業務需要を効率よく捌く形に最適化された供給構成である。

供給パイプライン — 2026年の新規客室の半分は岐阜市に入った

供給側の動きを見ておこう。メトロエンジンリサーチがOTA掲載を確認した範囲では、岐阜県内の新規開業は2025年が33施設・736室、2026年が調査時点までで16施設・427室となっている。

※OTA掲載確認ベース。掲載は開業の数ヶ月前から出るため、直近以降の月は今後の掲載で増加する可能性があります。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース)

2026年の427室のうち207室、つまり48.5%を1施設が占める。2026年7月31日に岐阜市神田町で開業した東横INN岐阜である。名鉄岐阜駅から徒歩3分、207室・最大収容374人という規模で、東横インにとってはこの開業により全都道府県庁所在地への出店が完了したという節目の物件でもある。朝食に鶏ちゃんや朴葉みそ、羽島市特産のれんこんを使ったカレーを並べるなど、地域色を打ち出した運営が特徴だ。第4層の業務帯に、県内最大級の単一供給が入ったことになる。

観光帯側では、2026年4月に高山市でユトリアリゾート飛騨高山(104室・リゾートホテル)がOTA掲載を開始した。そして2026年9月14日には、高山市の丘陵地に立つホテルアソシア高山リゾートがリブランドされ「ヒルトン高山リゾート」として開業する。ジェイアール東海ホテルズが運営する同施設は、ヒルトンのフラッグシップブランドとしては岐阜県初進出にあたる。開業時点は約90室で営業を開始し、2027年春に全283室でのフルオープンを予定している。JR高山駅から無料シャトルバスで約8分の立地で、温泉棟やエグゼクティブラウンジを備える計画が公表されている。

2025年の内訳を見ると、施設数では貸別荘13施設が最多で、ビジネスホテル6施設が続く。2026年も貸別荘6施設・ビジネスホテル3施設という構成で、小規模施設の新規参入が数のうえでは中心である。ただし客室数への寄与では、スーパーホテル岐阜・中津川天然温泉(142室、2025年12月)、ホテルアマネク飛騨高山(153室、2025年10月)、KOKO HOTEL 飛騨高山(139室、2025年9月)といった100室超のビジネス・宿泊特化型が押し上げている。

岐阜県の主な新規開業(2025〜2026年、OTA掲載確認ベース)
開業施設名客室数カテゴリ層
2026年7月東横INN岐阜(岐阜市)207ビジネスホテル第4層
2026年4月ユトリアリゾート飛騨高山(高山市)104リゾートホテル第2層
2026年5月HOTEL R9 The Yard 本巣(本巣市)43ビジネスホテル参考
2025年12月スーパーホテル岐阜・中津川天然温泉(中津川市)142ビジネスホテル第3層
2025年10月ホテルアマネク飛騨高山(高山市)153ビジネスホテル第2層
2025年9月KOKO HOTEL 飛騨高山(高山市)139ビジネスホテル第2層
2025年6月TAOYA下呂(下呂市)99リゾートホテル第2層

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース)。ヒルトン高山リゾートは既存施設のリブランドのため本表には含めていない。

ここで一点、データの読み方に注意が必要である。2027年以降の新規開業は現時点でOTA掲載確認ベースでは0件だが、これは供給が止まることを意味しない。開業ホテルのOTA事前掲載は開業の数ヶ月前から始まるため、翌年以降の集計は構造的に過少になる。実際、2026年の16施設という数字も、下半期の掲載が進むにつれて増える見込みだ。

より先の供給を見るには建築計画ベースのデータを併用する必要がある。国土交通省「建築動態統計調査」から抽出できる岐阜県内の宿泊施設計画は、調査時点で美濃加茂市山手町の120室(8階建て、2028年12月完成予定、施主はABホテル)の1件のみである(全国の抽出上限200件のうち、開業予定が確認できる81件を対象に集計)。ただしこれも確認申請ベースであり、確認申請は通常開業の1〜2年前に行われるため、今後の申請追加により件数・客室数は増加する見込みである。現時点での確定パイプラインの下限値として参照されたい。

整理すると、2025〜2026年の大型供給は業務帯(東横INN岐阜207室)と観光帯(ユトリアリゾート104室、ヒルトン高山リゾートのリブランド283室)の双方に入っており、県内の供給拡大は特定の層に偏っていない。一方で2028年に向けた確定パイプラインは業務帯の美濃加茂市1件のみで、供給の絶対量としては極めて限定的だ。単価の空白がある業務帯に対して、供給側の圧力は当面軽い状態が続くことになる。

地図で見る岐阜県 — 単価は北へ、客室は南へ

4層の分布を地図上に置くと、県内の構造が視覚的に理解できる。円の大きさは客室数、色は層を示している。

円の大きさ=客室数、色=価格層。座標は各市町村の宿泊施設分布の中央値。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

県北部の飛騨地域に第1層・第2層が集中し、南部の濃尾平野に第4層が広がる。単価は北へ、客室数は南へという明確な勾配がある。地理的に見れば、白川村・高山市・飛騨市が並ぶ北端から、岐阜市・大垣市・羽島市が並ぶ南端まで、県内を縦断するだけで単価は3分の1近くまで下がる計算になる。

この配置は、両者が別々の需要を相手にしていることの帰結でもある。北部は世界遺産と温泉に引き寄せられた広域・インバウンド需要、南部は名古屋圏に隣接した業務・産業需要。観光庁「宿泊旅行統計調査」(2024年)に基づく岐阜県の発表によれば、県内の外国人延べ宿泊者数は230万5,600人で全国11位、2019年の166万330人を大きく上回って過去最高を記録した。国・地域別では台湾18万2,800人、中国15万1,770人、香港11万4,200人が上位を占め、スペイン5位・イタリア6位・フランス7位と欧州各国での全国順位の高さが際立つ。この訪日需要の主たる受け皿が北部の第1層・第2層である。

まとめ — 4層構造が示す岐阜県の伸びしろ

岐阜県の宿泊市場を4層で読み解いてきた。整理すると次のようになる。

第一に、県内の推定成約ADRは白川村16,500円から羽島市4,500円まで3.7倍の幅を持ち、層の中央値で見れば観光帯(第2層)と業務帯(第4層)に約2.07倍の差がある。ところが客室ストックは第2層7,309室・第4層7,098室とほぼ拮抗している。県の客室在庫の約4割が、県内最低水準の単価帯に置かれている構造だ。

第二に、紅葉期の季節係数は層でくっきり分かれる。2025年実績で観光帯の高山市1.30倍・下呂市1.29倍・中津川市1.75倍に対し、業務帯は大垣市1.09倍・多治見市1.03倍・各務原市1.01倍とほぼ横ばいだった。年間を通じて安定した業務需要という強い土台を持つ市場であり、そこに秋の需要を単価へ載せる余地がそのまま残っている。同じ業務帯の岐阜市1.28倍・羽島市1.34倍が示すとおり、その余地は理論上のものではなく、条件が揃えば実際に立つ数字である。2026年11月22日の岐阜基地航空祭のような広域集客イベントは、その典型的な機会となる。

第三に、白川村の山は秋ではなく冬にある。季節係数0.89倍に対し、2026年2月の推定成約ADRは26,800円と年間最高。ライトアップ期に需要が集中する構造で、前年同月比約+47%と伸びも大きい。飛騨エリアを一括りに「紅葉」で語ると、この市場の実態を取り逃がすことになる。

第四に、供給側の動きは業務帯・観光帯の双方に入っている。2026年の新規427室のうち207室が岐阜市の東横INN岐阜、9月14日にはヒルトン高山リゾートがリブランド開業する。2028年までの確定パイプラインは美濃加茂市の120室1件のみで、供給圧力は当面軽い。単価の空白が残る業務帯にとっては、需要を単価に変える打ち手を試しやすい環境が続くといえる。

岐阜県は、単価の高い観光帯と客室量の厚い業務帯が同じ県内で並走している市場である。前者は季節と資産の希少性で単価を作り、後者は安定稼働で量を作る。両者の間に開いた2倍という差は、県全体としての伸びしろの大きさを示す数字でもある。

⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事のうち2026年8月以降の推定成約ADRは、調査時点(2026年8月)にOTA等へ公開されている販売価格を基に算出した推定値であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。特に2026年10〜11月の数値は全市町村で一律に高い季節係数を示しており、実勢というより先行掲載の水準を反映している可能性があります。層別の構造分析については、基準の揺れがない2025年の確定値を主たる根拠としています。

あわせて読みたい

参考資料・出典一覧

■ データソース

メトロエンジンリサーチが追跡する国内約168,000施設のうち、OTA上で稼働が確認できる約27,000施設・約126万室を母集団とする。岐阜県分は3施設以上が所在する22市町村・557施設・17,129室を集計対象とし、市町村別の推定成約ADRは対象施設の中央値を用いた。新規開業はOTA掲載確認ベース、先行の建築計画は国土交通省「建築動態統計調査」から抽出した。

■ 試算前提

推定成約ADRは各施設の公開最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用した推定単価(税抜相当)。季節係数は「2025年10〜11月の平均÷2025年6月」で算出し、基準の揺れを避けるため確定値のみを使用した。層の中央値は各層に属する市町村の推定成約ADRの中央値で、表示は100円単位に丸めている。

■ 限界・留意点

2026年8月以降の数値は調査時点(2026年8月)の掲載水準に基づく推定であり、チェックイン日が近づくにつれて変動する。白川村・美濃市など集計対象が5〜8施設のエリアは月次の値が振れやすい。新規開業のOTA掲載は開業の数ヶ月前から始まるため、翌年以降の集計は構造的に過少になる。推定成約ADRは上場ホテルREIT開示の物件別実績との照合(184物件月・2026年4〜5月)で誤差中央値は約7.5%。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ — 市町村別 推定成約ADR・掲載価格(2025年6月〜2026年11月、岐阜県内 集計対象557施設・17,129室)
  • メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 新規開業データ(OTA掲載確認ベース、2025年33施設/2026年16施設)

■ 政府統計・公的データ

■ ニュース・プレスリリース

関連記事