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CBRE 2026年3月Cap Rate過去最低 — 東京4.2%/京都大阪4.7%/福岡4.9%とNOI実勢ギャップの徹底検証

投稿日 : 2026.06.08

東京都

京都府

大阪府

福岡県

投資・開発

CBRE 2026年3月Cap Rate過去最低 — 東京4.2%/京都大阪4.7%/福岡4.9%の投資環境とNOI実勢ギャップ

CBREの「不動産投資に関するアンケート – 期待利回り 2026年3月」では、東京都心5区のホテル(マネジメント契約型)の期待NOI利回りが前期比5bps低下し、調査開始以来の過去最低水準を更新した。日本不動産研究所「第53回 不動産投資家調査」(2025年10月)でも、東京の宿泊特化型ホテル期待利回りは4.2%、京都4.7%、大阪4.7%、福岡4.9%という水準が示されている。一方で実勢ADRは京都府の2026年6月時点で前年同月比+22.4%、大阪府+10.9%、福岡県+9.0%、東京都+5.5%(メトロエンジンリサーチ調べ)と、Cap Rate圧縮を支えるNOI成長の手応えは都市によって温度差がある。本稿では機関投資家・REIT IR・PE・ファミリーオフィスを対象に、Cap Rateと実勢ADRのギャップ、想定取得価格の感度分析、海外比較、金利・JREIT分配金利回り・ノンリコース融資コストの三点で「圧縮余地が残っているか」を検証する。

本記事における指標の定義

  • Cap Rate(期待NOI利回り):投資家が要求するNOI(純営業収益)÷取得価格の利回り。CBRE・日本不動産研究所がアンケート形式で投資家から回収した期待値を集計した指標であり、実取引利回りそのものではない。本稿のホテル数値は「マネジメント契約型(運営委託型)」を前提とする。
  • ADR(平均客室単価):OTA等で公開されている販売価格の平均値。実際の成約価格とは異なる(REIT開示データとの照合では、成約ADRより平均+25〜30%高い傾向。売れ残った高価格帯プランがOTA上に残り続けるため公開価格平均が上振れする構造による)。2名1室利用時の1室あたり料金(税込)・全プラン平均(素泊まり〜食事付きプランを含む)。
  • NOI(純営業収益):売上 − 営業費用(運営委託費・水光熱・修繕・FF&E積立等を含む)。本稿の試算では運営コスト比率(売上比)30%を保守値、25%・35%で感度分析。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ、CBRE「Japan Cap Rate Survey March 2026」、日本不動産研究所「第53回 不動産投資家調査」
Key Takeaways
  • 東京4.2% / 京都4.7% / 大阪4.7% / 福岡4.9% の宿泊特化型期待Cap Rateは、CBRE2026年3月調査・日本不動産研究所第53回調査ともに過去最低水準を更新。
  • 実勢ADRの伸びは京都+22.4% / 大阪+10.9% / 福岡+9.0% / 東京+5.5%(2026年6月YoY)で、Cap Rate圧縮を支えるNOI成長は都市別に温度差。
  • 東京4.2%は¥80M/室・OCC85%(感度分析前提値・固定、2026年6月時点モデル想定)前提で必要ADR¥14,400〜¥16,700(コスト25-35%感度)、ミッドアッパー〜アッパースケールで成立し、実勢ADRの突出を要しない健全な水準。
  • 圧縮余地の理論上限は4.0%前後。0.75%政策金利・2.7%長期金利・JREIT6%超分配金利回り・LTV60-65%下のノンリコース融資コストが現実的下限を4.25%付近に縛る。
  • — 海外比較ではシンガポール4.0%が唯一の下方圧力、東京4.2%はNY6.0%・シドニー5.5%より明確に低位。クロスボーダーキャピタルの「日本割安」テーゼは賞味期限が近い

エグゼクティブサマリー

Tokyo Cap Rate
4.2%
調査開始以来の最低
Kyoto / Osaka
4.7%
いずれも横ばい〜低下
Fukuoka
4.9%
地方主要都市の中で最低
Kyoto ADR YoY
+22.4%
2026年6月実勢・¥42,126
10Y JGB
2.7%
スプレッド150bp前後

結論を先に置く。東京4.2%はNOI実勢に裏付けされた圧縮というより、長期金利上昇下でも「コアアセット選好」が継続した結果の需給型圧縮と読むのが妥当だ。実勢ADR成長率が突出している京都(YoY+22.4%)・大阪(+10.9%)・福岡(+9.0%)は、ファンダメンタルズによるCap Rate圧縮余地が論理的にはなお残るが、取得難易度・売り物在庫の枯渇・スプレッド縮小の3点で実務的な圧縮余地は限定的とみる。10年国債利回り2.7%・政策金利0.75%下では、東京4.2%のスプレッドは約150bp。これは過去のホテル投資のリスクプレミアム(歴史的に200-250bp)を下回る水準で、金利が現状維持または再上昇する局面では4.2%以下への圧縮には強い抵抗が生じると判断する。

4都市Cap Rate推移:2019〜2026年の長期トレンドと過去最低水準

まず時系列でCap Rateの動きを整理する。CBRE「Japan Cap Rate Survey」と日本不動産研究所「不動産投資家調査」の宿泊特化型ホテル(マネジメント契約型)期待利回りを四半期ベースで重ね合わせると、コロナ前(2019年Q4)と2026年Q1の差は東京で約30bps、京都・大阪で20-30bps、福岡で30-40bpsの圧縮である。コロナショックで2021年に一時的に拡大した後、2022年以降の訪日需要回復とともに圧縮トレンドが復活し、2026年Q1で過去最低を更新した格好だ。

4都市 Cap Rate 推移(2019Q4-2026Q1、宿泊特化型ホテル・マネジメント契約)
出典:CBRE「Japan Cap Rate Survey」各四半期、日本不動産研究所「不動産投資家調査」第48回〜第53回 よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。一部の四半期は両調査の中間値・直近値を補完。

注目すべき構造変化は2点ある。第一に、京都の上昇カーブの急峻さ。2021年Q4の5.0%から2026年Q1の4.7%まで30bps圧縮されたが、同期間のADR上昇率(京都府2025年平均¥38,600→2026年6月¥42,100=年率換算約9%)を考慮すれば、本来はもっと圧縮されてもおかしくない。第二に、福岡の堅調さ。地方主要都市の中で4.9%は最も低い水準で、博多駅・天神周辺のオフィス系投資マネー流入とホテル需要のスピルオーバー効果が、Cap Rateの相対的な低位安定を支えている構図がうかがえる。

実勢ADRとCap Rate圧縮の整合性検証:NOI成長率の逆算

Cap Rateの圧縮がファンダメンタルズで正当化されるか — この問いに答えるためには、(1)実勢ADRの成長率と、(2)NOIへの転換効率(GOP率・運営コスト比率)、(3)資本コストの3点を点検する必要がある。まず実勢ADRから見る。メトロエンジンリサーチによる4都市の2026年6月実勢ADRと、前年同月比(YoY)は以下のとおりである(税込・2名1室・全プラン平均)。

4都市 2026年6月 実勢ADR vs 前年同月比(税込・2名1室・全プラン平均)
出典:メトロエンジンリサーチ(N=東京都1,853施設/大阪府838施設/京都府1,558施設/福岡県731施設、2026年6月)

京都府の+22.4%は群を抜く高さで、観光庁「宿泊旅行統計調査」の延べ宿泊者数推移と、訪日外国人の京都集中(嵐山・東山・烏丸エリアの稼働逼迫)が背景にある。なお、GW期の京都ADRも前年比+20%超を記録しており、季節別の価格上昇構造についてはGW2026 主要6都市ホテル価格YoY分析で詳しく分析している。大阪府は2025年4月の万博開幕直後の反動を消化した上での+10.9%で、関西全体の底堅さを示す。一方東京都の+5.5%は予想以上に低い。月別では2026年1月+10.7%、2月+5.4%、5月-2.5%、6月+5.5%とぶれが大きく、通年の力強さに欠ける。

このADR成長率をNOIに転換すると、稼働率横ばい・運営コスト率横ばいの仮定でほぼ同じ成長率がNOIにも反映される。つまり「Cap Rate圧縮幅」と「NOI成長率」を比較すると次の構造が見える。

都市2026Q1 Cap Rate2026/6 ADR YoY圧縮余地(残存)判定
東京都4.2%+5.5%限定的需給型圧縮の側面が強い
京都府4.7%+22.4%理論的に大取得難易度がボトルネック
大阪府4.7%+10.9%中位万博後の継続性が鍵
福岡県4.9%+9.0%中位地方枠での競合資金が限定

京都4.7%という水準は、ADR YoY+22.4%という強い実勢に対してCap Rateの反応が緩慢とも読める。理論的にはNOI成長率5-10%が継続する局面では4.4-4.5%程度まで圧縮されても不思議ではない。しかし実務上は、京都の用途地域規制(伝統的建造物群保存地区・新景観政策)による供給制約と、優良物件のホールド姿勢(オーナーが売り急がない構造)が、「圧縮されない理由」ではなく「取引が成立しない理由」として機能している。

想定取得価格×Cap Rateで逆算するNOI実額・運営コスト感度分析

ここからは具体的な投資意思決定のための感度分析である。ラグジュアリー帯ホテル(東京・京都の都心立地、客室40〜60室、ADR¥40,000〜¥80,000)を想定し、1室あたり取得価格を¥70,000,000〜¥80,000,000のレンジで設定する。これは2024〜2025年の実取引データ(JLL・CBRE市場レポートでの都心ラグジュアリーホテル取引価格帯)と整合する水準である。

Cap Rateを4.2%(東京水準)で適用した場合のNOI実額・賃料月額を以下のテーブルで逆算する。運営コスト比率は売上比25%(優良物件)・30%(標準)・35%(コスト高)の3水準で感度を取った。

シナリオ取得価格/室要求NOI/室(4.2%)必要売上/室(コスト30%)必要ADR(OCC85%(感度分析前提値・固定、2026年6月時点モデル想定))判定
① ¥70M/室・東京4.2%¥70,000,000¥2,940,000/年¥4,200,000/年¥13,500実現容易
② ¥80M/室・東京4.2%¥80,000,000¥3,360,000/年¥4,800,000/年¥15,400実現容易
③ ¥100M/室・東京4.2%¥100,000,000¥4,200,000/年¥6,000,000/年¥19,300標準的
④ ¥80M/室・京都4.7%¥80,000,000¥3,760,000/年¥5,370,000/年¥17,300実現容易
⑤ ¥80M/室・福岡4.9%¥80,000,000¥3,920,000/年¥5,600,000/年¥18,000標準的

運営コスト比率25%(GOP率75%)・30%(70%)・35%(65%)の3水準で同じ取得価格80M円・Cap Rate 4.2%を逆算すると、必要売上は¥4,480,000/¥4,800,000/¥5,170,000(年・室あたり)となり、必要ADRは¥14,400/¥15,400/¥16,700(OCC85%(同上、2026年6月時点モデル想定)前提)に分布する。つまり東京4.2%は、ADR¥15,000〜¥17,000帯のミッドアッパー〜アッパースケールであれば、運営コスト水準にかかわらず十分に成立する利回り水準であり、実勢ADRの突出した上昇を要しない。

運営コスト比率×Cap Rateの感度マトリクス(¥80M/室前提、必要ADR・OCC85%(同上、2026年6月時点モデル想定))
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(想定取得価格¥80,000,000/室、稼働率85%(同上、2026年6月時点モデル想定)固定、年間営業日数365日、コスト比率は売上対比)

この感度分析の含意は明確だ。東京4.2%は「平均的なアッパーミドルホテル」であれば十分達成可能なNOI水準であり、京都4.7%・大阪4.7%・福岡4.9%はさらに余裕がある。問題は「市場でこのスペックの物件を¥70-80M/室で取得できるか」という供給サイドの希少性に移っている。

海外主要都市との比較:ニューヨーク・シンガポール・シドニー

東京4.2%の絶対水準を海外と比較する。Asia Pacific Cap Rate Surveyおよび米国市場の取引データから、2026年Q1のホテル(プライムアセット)期待利回りを並べた結果は以下のとおりである。

主要都市プライムホテルCap Rate比較(2026年Q1、参考値)
出典:CBRE「Japan Cap Rate Survey March 2026」、CBRE「Q1 2026 Asia Pacific Cap Rate Survey」、JLL「Global Hotel Investment Outlook 2026」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。NY/シドニーはアッパースケール〜ラグジュアリーの取引利回り中央値、シンガポールはプライム期待利回り。海外数値は粗参照値であり、税制・債務コストの違いで直接比較は困難。
割安/割高判断のフレーム

海外比較で東京4.2%はシンガポール(4.0%)・香港(4.5%前後)とほぼ同水準で、ニューヨーク(6.0%前後)・シドニー(5.5%前後)から大きく圧縮された位置にある。シンガポール・香港との対比で「アジア主要金融都市の中でリスクプレミアムが消えた」と読める。一方、米国・豪州との200bp前後のギャップは、「資本コストの低さ」と「アジア需給の強さ」の合算と解釈すべきで、純粋に「日本が割安」とは言えない。なお、ADRそのものを米ドル換算でNY・パリ・ロンドンと並べた比較は日本のホテルは世界基準で割安かで詳述している。

スプレッド比較(対10年国債)

スプレッドベースで見ると、東京4.2% − 10年JGB 2.7% = 150bp。これに対し米国は6.0% − 10年米国債4.0%前後 = 200bp、シンガポールは4.0% − 10年国債2.5%前後 = 150bp。スプレッドで見ると東京とシンガポールは同水準で、これ以上のスプレッド縮小には強い抵抗が見込まれる。

圧縮余地の論理的検証:金利・JREIT分配金利回り・ノンリコース融資コスト

「これ以上の圧縮余地はあるか」という問いに、3つの観点から答える。

政策金利
0.75%
2025年12月引上げ・30年ぶり水準
JHR分配金利回り
6.7%
ジャパン・ホテル・リート、市場平均5%超過
ノンリコース融資コスト
3.0%
LTV60-65%・5年期間・ホテル担保

① 金利環境:0.75%政策金利と2.7%長期金利が課す制約

日銀は2025年12月の金融政策決定会合で政策金利を0.5%→0.75%に引き上げ、これは1995年以来の高水準である。10年国債利回りは2026年5月に一時2.8%まで上昇した。中長期見通しでは2031年度末に2.80%(三井住友DSアセットマネジメント予測)とされ、金利が「上昇基調」か「現状維持」のいずれかが基本シナリオである。低下シナリオは想定しづらい。Cap Rate 4.2%とのスプレッドは150bpで、過去のホテル投資のリスクプレミアム(200-250bp)から見るとすでにスプレッドは縮みすぎており、「金利が下がる」前提が崩れる以上、これ以上の圧縮には強い抵抗が生じると判断する。

② JREIT分配金利回り:6%超のホテル系REITが示す市場の要求水準

ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)の予想分配金利回りは6.7%水準で、J-REIT市場平均約5%を大きく上回る。これは上場市場が要求するホテル投資の「実質利回り」と読める。CBRE調査の鑑定Cap Rate 4.2%とJ-REIT実勢分配金利回り6.7%の間には250bpのギャップがあり、これは(a)REIT特有の運用コスト・物件管理費、(b)市場のリスク認識(株価変動を伴うリスクへの上乗せ)、(c)金利上昇局面でのデュレーション・リスクなどを反映する。未上場のプライベートマーケット側でCap Rateをさらに圧縮すると、上場市場とのアービトラージが拡大し、上場側からの「売り圧」が物件取得競争の歯止めになる構図が見える。

③ ノンリコース融資コスト:LTV60-65%下での持続可能性

ホテル担保ノンリコース融資の調達金利は2026年時点でTIBOR+200-250bp、トータル3.0%前後が一般的な水準である。Cap Rate 4.2%・LTV60%・調達コスト3.0%の場合、エクイティIRRはレバレッジ効果で5-6%水準に到達する。ファミリーオフィスや国内年金が要求するエクイティリターンが5-6%であればギリギリ成立する水準だが、PE・グローバル機関投資家が要求する8-10%のIRRには届かない。これが「ブラックストーンのような大型外資が日本ホテル投資で全件価格競争に勝つわけではない」現象の背景にある。なお、ブラックストーンの2.4兆円対日不動産投資におけるホテル配分シナリオとCap Rate圧縮の方向性については、ブラックストーン2.4兆円対日不動産投資×ホテル配分で詳細を扱った。

Cap Rate圧縮余地の論理マップ(東京4.2%基準)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング、CBRE、日本不動産研究所、財務省国債金利情報、各J-REIT IR資料より作成

取得難易度の分析:売り物在庫・運営コントロール・ブランド競合

Cap Rate圧縮が需給要因で支えられている以上、「圧縮余地はあるか」と「実際に取得できるか」は別問題である。4都市の取得難易度を構造的に見ると次の3点が浮かぶ。

① 売り物在庫の枯渇

京都・大阪は2023〜2024年のADR急上昇局面でオーナーがホールド姿勢を強め、市場流通量が減少。京都中心部では年間流通量が10件未満の年も出ている(JLL「2025年日本ホテル投資市場」)。「売り手が出てこない」ことがCap Rate圧縮の実需面でのブレーキになっている。

② 運営委託先の競合激化

マネジメント契約型のCap Rate前提が成立するのは、運営委託会社(MC・MHM・GHM等)が市場ADR以上のRevPARを実現できる場合に限る。優良運営委託会社の人材・キャパシティが限界に近づいており、新規物件の運営委託受託が困難になっている。これがCap Rate前提の信頼性を毀損するリスクを抱える。

③ ブランド競合 — 海外資本×グローバルブランド進出の構造

2025〜2027年にかけてヒルトン・ハイアット・マリオット系の高価格帯ブランド進出が加速している(日本ハイアットの2026年4月公表資料では、開業予定10件・吾汝Atonaブランド新設等)。これにより既存物件のRevPAR耐性は強化される一方、新規開業による供給増がエリア内のCap Rate圧縮を逆方向に押し戻す可能性もある。京都・福岡では特にこの綱引きの影響が大きい。

これら3点を総合すると、東京4.2%・京都/大阪4.7%・福岡4.9%は当面「維持」されるが、これ以上の機械的圧縮は2027年以降の金利・需要環境の組み合わせ次第で抵抗が出る。投資家にとって意味があるのは、(a)Cap Rate圧縮を取りに行く戦略よりも、(b)「優良物件の早期取得 + 運営委託の質確保 + ブランド競合へのポジショニング」を軸にした個別案件のオペレーション・アップサイドを取りに行く戦略である。

機関投資家・PE・ファミリーオフィスへのインプリケーション

本稿の分析を投資家タイプ別に整理する。

投資家タイプ東京4.2%への評価京都/大阪4.7%への評価福岡4.9%への評価推奨フォーカス
機関投資家(コア戦略)許容範囲許容範囲・優先許容範囲京都・福岡 推奨
REIT(増資型成長)新規取得困難選別取得選別取得大阪・福岡の中堅物件
PE(バリューアッド)取得困難・出口で勝負運営改善余地大新規開発余地京都ブティック・福岡新規 推奨
ファミリーオフィス長期保有なら可長期保有推奨地方分散として京都伝統建築物再生 推奨

機関投資家のコア戦略では、東京の4.2%は「リスクプレミアムは消えたが安定性で正当化される」水準で、ポートフォリオのコア配分として許容範囲。京都4.7%は実勢ADR成長率を考慮すれば最も投資妙味が大きいが、売り物在庫の確保が最大の課題となる。福岡4.9%は地方分散ニーズと合致し、博多駅周辺・天神再開発のスピルオーバーを狙う中期戦略が有効である。

PE・バリューアッド戦略では、東京は取得競争激化で「出口でのCap Rate圧縮」を狙うシナリオが描きにくい。一方、京都の小規模ブティック(20-40室)や福岡の運営改善余地のある中堅物件は、Cap Rate圧縮ではなくNOI改善で10-15%のIRRを狙う余地がなお残る。ファミリーオフィスについては、京都の伝統建築物(町家・古民家再生)を15-20年保有する戦略が、Cap Rateの議論とは別軸で実需価値の高い機会である。

結論:Cap Rate過去最低水準の含意

本稿の総合判断を箇条で示す。

  1. 東京4.2%は「ファンダメンタルズ圧縮」より「コアアセット選好による需給圧縮」の側面が強く、ADR YoY+5.5%という実勢では4.2%以下への機械的圧縮には強い抵抗が予想される。
  2. 京都4.7%・大阪4.7%はNOI成長率(京都+22.4%・大阪+10.9%)から見て理論的な圧縮余地は残るが、売り物在庫の枯渇と運営委託先の競合が実務的な圧縮を妨げる。
  3. 福岡4.9%は地方主要都市の中で最も低い水準で、博多・天神の都市再開発スピルオーバーが下支え。中期的にも4.7-4.9%レンジで推移する公算が大きい。
  4. 海外比較ではシンガポール・香港と同水準で、米豪との200bpギャップは資本コスト差と需給強度の合算。「東京が割安」とは言えない。
  5. スプレッド150bp・JREIT分配金6.7%・ノンリコース融資3.0%の3条件下では、東京4.2%以下への圧縮は2027年以降の金利低下シナリオ実現を前提とし、現時点では基本ケースとして織り込みにくい。

機関投資家・REIT・PE・ファミリーオフィスのいずれも、「Cap Rate圧縮を取りに行く」発想ではなく、「優良物件の早期取得・運営の質・ブランド選定」でアップサイドを取る発想に切り替える局面にある。京都・福岡の中規模ラグジュアリー帯と、東京のコアアセット長期保有が、現環境下で最も整合性の高いポジショニングである。

本稿の数値前提に関する注記:Cap Rate数値は東京がCBRE「Japan Cap Rate Survey March 2026」(2026年3月)、京都・大阪・福岡は日本不動産研究所「第53回 不動産投資家調査」(2025年10月)の宿泊特化型ホテル(マネジメント契約型)期待利回りを併用。両調査は対象物件タイプ・調査時点に差があるため、長期トレンドはCBRE中心、地域比較は日本不動産研究所中心とした。海外Cap RateはAsia Pacific Cap Rate Survey等の参考値で、税制・通貨・債務コスト差により直接比較は困難。試算で使用した取得価格・運営コスト比率・OCC前提は、簡易フィージビリティスタディの想定であり、実投資判断には詳細デューデリジェンスが必要となる。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

CBRE「Japan Cap Rate Survey March 2026」(調査時点2026年3月、東京都心5区・京都・大阪・福岡の宿泊特化型/マネジメント契約型ホテルの期待NOI利回り)、日本不動産研究所「第53回 不動産投資家調査」(2025年10月時点、四半期ベース)、メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(2026年6月時点、N=東京都1,853施設/大阪府838施設/京都府1,558施設/福岡県731施設のOTA公開価格集計)、財務省「国債金利情報」、ジャパン・ホテル・リート投資法人 分配金開示。

■ 試算前提

取得価格は1室あたり¥80,000,000(東京都心5区アッパーミドル想定の中位ケース)を中心に¥70/80/100Mで感度分析。稼働率は感度分析前提値85%固定(都心アッパーミドルの実勢中位値、季節性は均す)。年間営業日数365日。運営コスト比率は売上対比25%/30%/35%(マネジメント契約型における運営委託費・水光熱・修繕・FF&E積立を含む)で3パターン感度。Cap Rateは期待利回り(調査値)であり実取引利回りではない点に留意。

■ 限界・留意点

(1) CBRE/日本不動産研究所のCap Rateはアンケート集計の期待値であり、実取引利回りとは構造的に5-30bps乖離する可能性。(2) OTA公開価格ADRは成約価格より平均+25〜30%高い傾向(売れ残った高価格帯プランの残存による上振れ)、本稿のNOI逆算では成約ベースに補正していない名目値を使用。(3) 海外Cap Rateは取引利回りまたは現地集計値を出典原文のまま参照しており、日本のアンケートベース期待値と直接比較する場合は20-50bps前後の方法論差異に注意。(4) 金利・JREIT分配金利回り・ノンリコース融資コストの圧縮制約は2026年6月時点の市場環境を前提とし、政策金利・長期金利の変動で改訂される。

■ 市場データ

■ 期待利回り・投資家調査

■ 金利・JREIT

■ ブランド・運営会社

■ 海外市場・業界レポート

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