簡易旅館(旅館業法上の簡易宿所)のROIは、客室単価よりも客室稼働率でほぼ決まる。観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値では、簡易宿所の客室稼働率は全国29.6%(前年差+0.6pt)にとどまる一方、大阪府は73.6%(確定値。2月27日公表の速報値では75.2%)と全国の2.5倍に達した。本稿では、この2025年の稼働率格差を起点に、10室規模の個室型モデルで「ADR×稼働率×客室数→売上→GOP→表面/実質利回り」を段階的に試算する。全国平均前提では実質利回りがマイナス2.5%、大阪型の高稼働前提では9.9%となり、同じ建物でも立地次第で投資判断が正反対になる構造を数値で示す。
本記事における指標の定義
- 客室稼働率:観光庁「宿泊旅行統計調査」の公表値(利用客室数÷客室数)。施設タイプ「簡易宿所」の値を用いる。2025年年間値は確定値(2026年7月6日公表)を試算に用い、速報値(2026年2月27日公表)を併記する。
- 掲載価格:カプセルホテル・ゲストハウス・ドミトリー・ホステルとして分類される施設が、OTA等で公開する最安プランの販売価格(税込)。1名利用時と2名1室利用時をそれぞれ施設ごとの中央値にまとめ、さらに施設間の中央値をとったもの。実際の成約価格とは異なる。
- ADR(モデル上の想定客室単価):上記の掲載価格(2名1室)を税抜換算した、試算用の前提値。実績値ではない。
- GOP:売上から変動費(OTA等の送客手数料・清掃リネン・消耗品等)と運営固定費を差し引いた営業総利益。
- 表面利回り=年間売上÷総投資額。実質利回り=(GOP−固定資産税・保険・修繕積立)÷総投資額。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング、観光庁「宿泊旅行統計調査」
- — 2025年の簡易宿所の客室稼働率は全国29.6%。上位は大阪府73.6%・京都府52.0%・東京都48.6%(確定値)で、格差は最大8倍を超える
- — 10室・想定客室単価8,400円(税抜)のモデルでは、全国平均の稼働率29.6%(2025年1月〜12月の年間値・確定値)で実質利回りマイナス2.5%、大阪型73.6%(同)で9.9%
- — GOPが黒字に転じる損益分岐の稼働率は33.7%。実質利回り5%には56.1%、8%には66.7%が必要
- — 都道府県別に見ると、外国人延べ宿泊者の比率と簡易宿所の稼働率の相関係数は0.73。インバウンドの厚さが立地選定の最初のフィルターになる
- — 表面利回りは全国平均型でも15.1%と2桁だが、手数料・清掃・固定費を引いた実質利回りはマイナス。表面利回りだけで判断すると実態を見誤る
簡易宿所の稼働率は全国29.6% — 大阪府73.6%との差が利回りを分ける
観光庁「宿泊旅行統計調査」によると、2025年の客室稼働率は宿泊施設全体で61.6%(確定値)だった。施設タイプ別ではビジネスホテル75.3%、シティホテル74.1%に対し、簡易宿所は29.6%と最も低い。しかしながら、この全国平均は投資判断の基準としてそのまま使える数字ではない。簡易宿所には都市部のホステル・カプセルホテルから、地方の民宿・山小屋・貸別荘までが含まれ、稼働の前提がまったく異なる業態が一つの平均に混ざっているからである。
都道府県別に見ると、その差は歴然としている。2025年の簡易宿所の稼働率は大阪府が73.6%で全国1位、京都府52.0%、東京都48.6%、福岡県44.8%、愛知県38.2%と続く。一方で最下位の秋田県は8.9%であり、上位と下位の差は8倍を超える。つまり「簡易旅館は儲かるのか」という問いへの答えは、業態の平均ではなくどこに建てるかで大きく変わるといえる。
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年・年間値(確定値))」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成
| 都道府県 | 稼働率(確定値) | 稼働率(速報値) | 外国人延べ宿泊者比率 |
|---|---|---|---|
| 全国 | 29.6% | 29.6% | 27.2% |
| 大阪府 | 73.6% | 75.2% | 41.7% |
| 京都府 | 52.0% | 53.4% | 55.2% |
| 東京都 | 48.6% | 50.1% | 55.7% |
| 福岡県 | 44.8% | 45.6% | 33.0% |
| 愛知県 | 38.2% | 37.1% | 21.4% |
| 沖縄県 | 34.7% | 35.1% | 27.2% |
| 岡山県 | 33.8% | 33.4% | 11.6% |
| 三重県 | 33.2% | 34.3% | 4.1% |
| 宮城県 | 31.0% | 27.7% | 9.6% |
| 香川県 | 29.6% | 29.2% | 22.9% |
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年・年間値(速報値/確定値))」。外国人延べ宿泊者比率は全施設タイプ合計の延べ宿泊者数(確定値)から算出
なお、2月27日公表の速報値では大阪府75.2%・東京都50.1%・沖縄県35.1%だったが、7月6日公表の確定値ではそれぞれ73.6%・48.6%・34.7%に下方修正された。全国値は速報・確定とも29.6%で変わらない。本稿の試算は確定値を用い、速報値を用いた場合の感応度も後段で示す。速報値の改定幅そのものについては宿泊旅行統計調査の速報値はどれだけ改定されるかで整理している。
時系列で見ると、簡易宿所の全国稼働率は2019年の33.4%から2020年に15.5%まで落ち込み、2023年25.1%、2024年29.0%、2025年29.6%と回復してきた。ただし2019年比ではなお3.8pt低く、ホテル系(ビジネスホテルは2019年比マイナス0.5pt)に比べて戻りが鈍い。回復の中身は都市部に偏っており、この点も立地選定の重要性を裏づけている。
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」(2019〜2025年、2025年は確定値)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成
インバウンド比率と稼働率の相関0.73 — 立地選定の最初のフィルター
では、何が簡易宿所の稼働率を押し上げているのか。2025年の確定値で都道府県ごとの外国人延べ宿泊者比率(全施設タイプ合計)と簡易宿所の稼働率を並べると、相関係数は0.73と強い正の関係が確認できる。外国人比率が全国平均(27.2%)を上回る大阪府(41.7%)・京都府(55.2%)・東京都(55.7%)・福岡県(33.0%)は、いずれも簡易宿所の稼働率上位5位以内に入っている。
個室単価を抑えたベッド・カプセル型の客室は、長期旅行で1泊あたりの宿泊費を抑えたい訪日客、とくに個人旅行者の需要と相性がよい。一方で、外国人比率が低い地域の簡易宿所は、週末や繁忙期に需要が集中する国内レジャー客への依存度が高く、年間の稼働率が伸びにくい。ここから言えるのは、簡易宿所の投資では建物の条件よりも先に、インバウンド需要の厚い都市を選ぶことが利回りの前提条件になるということである。
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年・年間値(確定値))」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(N=47都道府県)
もっとも、東京都は外国人比率が55.7%と最も高い水準にありながら、簡易宿所の稼働率は48.6%と大阪府を25pt下回る。東京は施設の総数が多く、ビジネスホテルの供給も厚いため、低価格帯の需要が複数の業態に分散していると考えられる。インバウンド比率は必要条件であって十分条件ではなく、同じ価格帯で競合する客室の供給量もあわせて確認する必要がある。
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年・年間値(確定値))」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。円の大きさは簡易宿所の稼働率(上位10都道府県、都道府県庁所在地に表示)
低価格帯の掲載価格 — 大阪府は2名1室9,200円、東京都は13,200円
売上の前提となる単価は、メトロエンジンリサーチが集計した低価格帯施設(カプセルホテル・ゲストハウス・ドミトリー・ホステル)の掲載価格から置く。2025年9月〜2026年8月の各月第2水曜日・第2土曜日(計24日)を宿泊日とする最安プランの掲載価格(税込)を施設ごとに中央値にまとめ、6日以上の観測がある施設で集計した。
| 都道府県 | 1名利用 | N(施設) | 2名1室利用 | N(施設) |
|---|---|---|---|---|
| 大阪府 | ¥4,600 | 86 | ¥9,200 | 74 |
| 東京都 | ¥6,000 | 151 | ¥13,200 | 118 |
| 京都府 | ¥10,500 | 163 | ¥14,200 | 158 |
| 福岡県 | ¥6,400 | 48 | ¥14,500 | 40 |
| 沖縄県 | ¥6,100 | 143 | ¥8,500 | 140 |
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(カプセルホテル・ゲストハウス・ドミトリー・ホステルに分類される施設)
大阪府の2名1室は約9,200円と、東京都(約13,200円)・京都府(約14,200円)・福岡県(約14,500円)より3〜4割低い。大阪府は稼働率が全国で最も高い一方、単価は抑えめで、「低単価×高稼働」で売上を積み上げる市場だと読める。これに対して東京都や京都府は、単価は高いが稼働率は5割前後にとどまる「高単価×中稼働」型である。以下のモデルでは、稼働率の違いだけを取り出すため、両シナリオとも大阪府の2名1室掲載価格を税抜換算した8,400円を想定客室単価として置く。
ドミトリーと個室の単価差 — 1床4,600円×4床で個室の約2倍
簡易宿所のもう一つの収益レバーが、ドミトリー(相部屋)と個室の構成比である。同じ期間の大阪府で業態別に見ると、1名利用の最安プランはカプセルホテルが5,000円(N=13施設)、ドミトリーが5,000円(N=7施設)、2名1室ではゲストハウスが8,300円(N=33施設)、ホステルが9,800円(N=28施設)だった。東京都ではカプセルホテル1名4,500円(N=48施設)、ドミトリー1名4,100円(N=12施設)、ゲストハウス2名1室13,200円(N=33施設)、ホステル2名1室15,200円(N=51施設)となる。
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(最安プラン掲載価格・税込・施設中央値、2025年9月〜2026年8月の24宿泊日)
仮に1室を4床のドミトリーにした場合、大阪府の1名利用の中央値4,550円(税抜約4,100円)で全床が埋まれば1室あたり約16,500円となり、同じ部屋を個室として売った場合(8,400円)の約2倍になる。裏を返せば、床の稼働率が5割でも個室の満室と同水準の売上を確保できる計算である。ただし、ドミトリーは清掃・リネン交換が床単位で発生し、共用部の管理やフロント対応の手間も増える。加えて、旅館業法の簡易宿所では宿泊者1人あたりの床面積(3.3㎡)の基準があり、床数を増やせる範囲には上限がある。ドミトリー比率を高めるほど売上の天井は上がるが、運営コストも比例して重くなる点を試算に織り込む必要がある。
利回り試算モデル — ADR×稼働率×客室数から実質利回りまで5段階
ここからは、10室の個室型簡易宿所を想定し、売上から利回りまでを段階的に計算する。前提は次のとおりで、いずれも本稿の仮定であり、特定の物件や事業者の実績ではない。
| 項目 | 前提値 |
|---|---|
| 客室数 | 10室(個室型) |
| ADR(想定客室単価) | 8,400円(大阪府の2名1室掲載価格9,232円を税抜換算) |
| OTA等の送客手数料・決済費 | 売上の12% |
| 消耗品・アメニティ等 | 売上の3% |
| 清掃・リネン | 販売客室1室あたり2,500円 |
| 運営固定費 | 年570万円(運営委託・フロント人件費300万円、水道光熱・通信180万円、システム・保険・備品等90万円) |
| 固定資産税・保険・修繕積立 | 年80万円 |
| 総投資額 | 6,000万円(建物取得・用途変更・消防設備・内装を含む) |
計算式は5段階である。①販売客室数=客室数×365日×稼働率、②売上=販売客室数×ADR、③GOP=売上×(1−変動費率15%)−販売客室数×清掃単価−運営固定費、④NOI=GOP−固定資産税・保険・修繕積立、⑤表面利回り=売上÷総投資額、実質利回り=NOI÷総投資額。清掃費を販売客室数に連動させているのは、簡易宿所では清掃が最大の変動費になりやすいためで、泊数と清掃原価の関係はホテルの平均泊数で清掃原価は1室年18.7万円動くで詳しく扱っている。
| 項目 | A. 全国平均型 | B. 大阪型 |
|---|---|---|
| 客室稼働率(2025年) | 29.6%(全国) | 73.6%(大阪府) |
| ① 販売客室数 | 1,080室 | 2,686室 |
| ② 売上 | 908万円 | 2,257万円 |
| OTA等手数料・消耗品(15%) | 136万円 | 338万円 |
| 清掃・リネン | 270万円 | 672万円 |
| 運営固定費 | 570万円 | 570万円 |
| ③ GOP | マイナス69万円 | 676万円 |
| GOP率 | マイナス7.6% | 30.0% |
| 固定資産税・保険・修繕積立 | 80万円 | 80万円 |
| ④ NOI | マイナス149万円 | 596万円 |
| ⑤ 表面利回り(売上÷投資額) | 15.1% | 37.6% |
| ⑤ 実質利回り(NOI÷投資額) | マイナス2.5% | 9.9% |
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年・年間値(確定値))」、メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算
全国平均型(稼働率:全国29.6%)では、年間売上は約908万円で表面利回りは15.1%と一見魅力的に映る。しかし、手数料・清掃・固定費を差し引くとGOPはマイナス69万円、実質利回りはマイナス2.5%となり、運営固定費を吸収できない。表面利回りが2桁でも実質利回りがマイナスになりうる点が、簡易宿所の投資で最も見落とされやすいポイントだろう。
一方、大阪型(稼働率:大阪府73.6%)では売上が約2,257万円に増え、GOPは約676万円(GOP率30.0%)、実質利回りは9.9%に達する。固定費570万円は稼働率にかかわらず同額であるため、稼働率が上がるほど1室あたりの固定費負担が薄まり、利益が加速度的に増える。速報値の75.2%を用いた場合、実質利回りは10.4%となり、確定値との差は0.5pt程度にとどまる。
参考として東京都型も試算しておく。稼働率48.6%(2025年1月〜12月の年間値・確定値)に、東京都の2名1室掲載価格約13,200円を税抜換算した12,000円を置き、地価水準を踏まえて総投資額を9,000万円とすると、実質利回りは8.0%となる。単価の高さが稼働率の差を補う構図であり、「高単価×中稼働」型の市場でも立地と取得価格の組み合わせ次第で投資対象になりうることを示している。
損益分岐の稼働率は33.7% — 実質利回り8%には66.7%が必要
前提のうち最も変動しやすい稼働率と単価を動かした感応度を確認する。想定客室単価8,400円の場合、GOPがプラスに転じる損益分岐の稼働率は33.7%、NOIがプラスになる水準は38.4%である。実質利回り5%を確保するのに必要な稼働率は56.1%、8%では66.7%となる。2025年の実績に当てはめると、実質8%を超えうる稼働率を記録したのは大阪府(73.6%)だけであり、京都府(52.0%)・東京都(48.6%)は単価の上乗せか投資額の抑制がなければ5%を下回る計算になる。
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(10室・総投資額6,000万円)
| 単価\稼働率 | 29.6% | 40% | 48.6% | 60% | 73.6% |
|---|---|---|---|---|---|
| 7,000円 | マイナス4.6% | マイナス2.4% | マイナス0.6% | 1.8% | 4.6% |
| 8,400円 | マイナス2.5% | 0.5% | 2.9% | 6.1% | 9.9% |
| 10,000円 | 0.0% | 3.8% | 6.9% | 11.1% | 16.0% |
| 12,000円 | 3.0% | 7.9% | 11.9% | 17.3% | 23.6% |
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。稼働率の29.6%=全国、48.6%=東京都、73.6%=大阪府(いずれも2025年確定値)
表から読み取れるのは、稼働率が48.6%の水準では、単価を1,000円上げる効果(実質利回り+2.5pt)と稼働率を約9pt上げる効果がほぼ同じ大きさだということである。単価7,000円まで下げると、稼働率が73.6%でも実質利回りは4.6%にとどまる。安さで稼働率を取りにいく戦略は、清掃費が販売客室数に比例して増える簡易宿所では利益に結びつきにくい。むしろ、個室の設えやドミトリーとの組み合わせで単価を確保しつつ稼働率を積み上げる設計が、利回りの伸びしろを最も大きくする。
投資判断の4つの分岐 — 立地・インバウンド・運営コスト・客室構成
| 分岐 | 確認すること | 利回りへの効き方 |
|---|---|---|
| 立地 | 2025年の簡易宿所の稼働率が5割を超える都市(大阪府73.6%・京都府52.0%)か、それに準じる都市(東京都48.6%・福岡県44.8%)か | 稼働率10ptで実質利回りは約2.8pt動く(単価8,400円の場合) |
| インバウンド比率 | 外国人延べ宿泊者比率が全国平均27.2%を上回るか | 都道府県別の相関係数0.73。需要の季節変動も平準化しやすい |
| 運営コスト構造 | 清掃を外部委託するか内製するか、フロントを無人化できるか | 固定費を100万円削減すると損益分岐の稼働率は約5.9pt下がる |
| 客室構成 | ドミトリーと個室の比率、1室あたりの床数 | 4床ドミトリーは満床時に個室の約2倍の売上。床単位の清掃費と面積基準が上限 |
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」、メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算
とくに運営コスト構造は、立地を決めた後に事業者がコントロールできる最大の変数である。本モデルでは運営固定費570万円のうち300万円を人件費・運営委託費としたが、セルフチェックインや清掃の外部委託で固定費を100万円圧縮できれば、GOPの損益分岐となる稼働率は33.7%から約27.8%へ下がる。全国平均の29.6%でもGOPがプラスに転じる水準であり、地方立地の小規模施設では、家族経営や副業型の運営が成立している理由もここにあると考えられる。運営形態ごとの収益構造の違いはホテルのリーシングとは|賃貸借・運営委託・FCの違いも参照されたい。
簡易宿所営業と住宅宿泊事業の制度差 — 365日営業と年180日上限
簡易宿所の投資を検討する際、比較対象に挙がるのが住宅宿泊事業法に基づく住宅宿泊事業である。両者は「宿泊料を受けて人を泊める」点は同じだが、営業日数の上限と建物に求められる条件が大きく異なり、利回りの上限を直接左右する。
| 項目 | 簡易宿所営業 | 住宅宿泊事業 |
|---|---|---|
| 根拠法 | 旅館業法(簡易宿所営業) | 住宅宿泊事業法 |
| 手続き | 都道府県知事等の許可 | 都道府県知事等への届出 |
| 定義 | 宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業 | 旅館業の営業者以外の者が宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる事業で、提供日数が年180日を超えないもの |
| 営業日数 | 上限なし(365日) | 年間180日が上限 |
| 客室の面積基準 | 客室延床面積33㎡以上(宿泊者10人未満の場合は1人3.3㎡×人数以上) | 居室は宿泊者1人あたり3.3㎡以上 |
| 建物の用途 | ホテル・旅館の用途(住居専用地域では原則不可) | 住宅のまま(自治体条例で区域・期間の制限あり) |
| 利回りへの影響 | 稼働率の上限は制度上100%。ただし用途変更・消防設備の初期投資が大きい | 年180日上限のため、営業できる日数は365日の約49%まで |
出典:厚生労働省「旅館業法について」、観光庁 住宅宿泊事業法 制度ポータルサイトよりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成
住宅宿泊事業は年間180日が上限であるため、営業できる日数は365日の約49%にとどまる。本稿の10室モデルに当てはめると、損益分岐の33.7%は超えられても、実質利回り5%に必要な56.1%には制度上届かない計算になる。大阪型のような高稼働市場で利回りを取りにいくなら、許可制で365日営業できる簡易宿所営業のほうが収益の上限は高い。その代わり、ホテル・旅館の用途への用途変更(200㎡を超える場合は建築確認が必要)や自動火災報知設備などの消防設備の整備が求められ、初期投資と許可までの期間は長くなる。どちらの制度を選ぶかは、見込める稼働率と初期投資の回収期間の兼ね合いで決まるといえる。
まとめ
簡易旅館(簡易宿所)のROIを決める最大の要因は、2025年の実績で全国29.6%から大阪府73.6%まで開く客室稼働率である。10室・想定客室単価8,400円・総投資額6,000万円のモデルでは、全国平均の稼働率で実質利回りはマイナス2.5%、大阪型で9.9%となり、GOPの損益分岐は33.7%、実質8%には66.7%が必要だった。表面利回りは全国平均型でも15%を超えるため、表面利回りだけで判断すると実態を見誤りやすい。
投資判断の順序としては、まずインバウンド需要の厚い都市を選び(外国人比率との相関0.73)、次に同価格帯の競合供給を確認し、最後に清掃・フロントの運営コストとドミトリー比率で単価と稼働率の組み合わせを最適化する流れが合理的である。高稼働の都市ほど固定費の吸収が進み、利回りの伸びしろは大きくなる。前提値を自らの物件条件に置き換え、感応度表で稼働率と単価の両面から検証することを勧めたい。
よくある質問(FAQ)
Q. 簡易旅館(簡易宿所)の利回りの目安は?
A. 本稿の10室モデル(想定客室単価8,400円・総投資額6,000万円)では、2025年の全国平均稼働率(29.6%)では実質利回りマイナス2.5%、大阪府の73.6%では9.9%となった。実質5%に必要な稼働率は56.1%、8%では66.7%で、立地による差が極めて大きい。
Q. 簡易宿所の稼働率が全国29.6%と低いのはなぜ?
A. 簡易宿所には都市部のホステル・カプセルホテルだけでなく、地方の民宿・山小屋・貸別荘なども含まれ、繁忙期に需要が集中する業態が平均を押し下げているためと考えられる。都道府県別では大阪府73.6%に対し秋田県8.9%と、8倍以上の差がある。
Q. 簡易宿所と住宅宿泊事業の違いは?
A. 簡易宿所営業は旅館業法に基づく許可制で、営業日数の上限はない。住宅宿泊事業は住宅宿泊事業法に基づく届出制で、年間の提供日数は180日が上限となる。そのため住宅宿泊事業で営業できる日数は、365日の約49%が上限となる。
Q. ドミトリーと個室はどちらが利回りに有利?
A. 大阪府の掲載価格で試算すると、4床のドミトリーは満床時に同じ部屋を個室で売る場合の約2倍の売上になる。ただし清掃・リネンが床単位で発生し、宿泊者1人3.3㎡の面積基準もあるため、運営コストと床数の上限を踏まえて比率を決める必要がある。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
客室稼働率・延べ宿泊者数は観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値(確定値:2026年7月6日公表、速報値:2026年2月27日公表)。掲載価格はメトロエンジンリサーチが把握する範囲で、カプセルホテル・ゲストハウス・ドミトリー・ホステルに分類される施設(大阪府281・東京都381・京都府695・福岡県84・沖縄県340施設)のうち、観測日数6日以上の施設(表中のN)を集計した。対象宿泊日は2025年9月〜2026年8月の各月第2水曜日・第2土曜日の計24日。
■ 試算前提
客室数・単価・費用・投資額は本稿の仮定であり、特定の物件・事業者の実績ではない。想定客室単価は掲載価格(税込)を1.1で割り税抜換算した。清掃費は販売客室数に比例、手数料・消耗品は売上に比例、運営固定費と固定資産税等は稼働率にかかわらず一定とした。借入・減価償却・法人税は考慮していない。
■ 限界・留意点
掲載価格は最安プランの公開価格であり、実際の成約価格とは異なる。観光庁の簡易宿所の稼働率は都道府県内のあらゆる簡易宿所の平均で、都市中心部の低価格帯施設だけの稼働率ではない。外国人延べ宿泊者比率は全施設タイプ合計の値であり、簡易宿所に限った比率ではない。相関は因果関係を示すものではない。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 低価格帯施設の最安プラン掲載価格(大阪府N=74〜86・東京都N=118〜151・京都府N=158〜163・福岡県N=40〜48・沖縄県N=140〜143施設)
■ 政府統計・公的資料
