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彦根城の世界遺産2028年登録へ、城1.5km圏の宿は947室 — 用途地域・景観・浸水・地価で読む開発余地

投稿日 : 2026.10.05

滋賀県

投資・開発

彦根城の世界遺産2028年登録へ、城1.5km圏の宿は947室 — 用途地域・景観・浸水・地価で読む開発余地

彦根城は2026年9月3日、文化審議会で世界文化遺産の国内推薦候補に選ばれた。政府は9月末までに推薦書の暫定版をユネスコへ提出し、2027年の正式推薦とイコモス(国際記念物遺跡会議)の審査を経て、2028年夏の世界遺産委員会で登録が審議される見通しである。1992年の暫定一覧表記載から34年、滋賀県と彦根市は5回目となる推薦書案で国内候補の座を得た。本稿では、登録の約2年前というこの時点で、彦根城天守から半径1.5km圏の宿泊供給・価格帯・推定稼働率と、用途地域・景観計画の高さ基準・浸水想定・地価という用地条件を1枚の地図に重ね、城下町にホテルを建てる余地がどこにどれだけあるかを検証する。

本稿の位置づけ:HotelBankの既刊では、「飛鳥・藤原の宮都」世界遺産登録の宿泊受け皿のように登録後・登録直後の受け皿を、滋賀のホテル開発(2026年新規供給は既存比1.5%)で県単位の供給を、景観規制の外装コストや高さ規制から逆算する客室数で制度一般を扱ってきた。本稿は「登録の2年前」という時点で、彦根の城下町という1地点の用地条件を重ねる立地評価である。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値、REIT月次公表値との整合性検証で概ね数pt 程度の精度を確認済)。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。
  • 掲載価格:2名1室利用時の1室あたり料金(税込)・全プラン平均(素泊まり〜食事付きを含む)。本稿の「価格帯」は各施設の掲載価格の12ヶ月平均(2025年9月〜2026年8月)で区分しています。
  • 客室ストック:直近3ヶ月(2026年6月27日〜9月26日の宿泊日)に主要予約サイトで販売価格が観測された施設の客室数合計(主要予約サイト掲載ベース)。大人専用施設と1室単位の貸別荘は除外しています。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング
Key Takeaways
  • — 彦根城天守から半径1.5km圏の客室ストックは18施設・947室。うち84.4%(799室)が1.0〜1.5km帯の彦根駅周辺に集まり、城下町側の1km以内は7施設・148室にとどまる。
  • — 圏内の掲載価格帯は1.5万円未満が611室(64.5%)。2.5万〜5万円帯は4施設・24室しかなく、20〜60室規模の中上位帯はゼロという空白がある。
  • — 彦根市の推定成約ADRは直近12ヶ月平均で約8,500円(前年同期比+13.3%)。一方、用地は圏内100mメッシュの27.1%がホテル建築可の用途地域で、景観計画が高さを12〜30mに抑え、ホテル可メッシュの84.9%が想定最大規模で0.5m以上の浸水想定区域に入る。
  • — 城下町に25室を新築する簡易試算では、市平均の単価(約8,500円)でGOP利回り2.4%。利回り6%にはADR約2.1万円が要り、建物費を半分に抑える改修型なら約1.1万円まで下がる。
  • — 2026年の公示地価は本町1丁目89,900円/㎡(+0.2%)などほぼ横ばいで、登録期待はまだ織り込まれていない。新築は2026年度内の用地・設計判断、改修・分散型は2027年着手でも登録審議に間に合う。

登録までの工程 — 2026年9月の国内推薦から2028年夏の審議まで

まず、確定している事実と見通しを分けておきたい。彦根市が9月3日付で公表した資料によれば、今後の工程は次のとおりである。2026年9月30日までに推薦書の暫定版をユネスコに提出し、2027年に閣議了解・推薦書正式版の提出・イコモスの審査を受け、2028年の世界遺産委員会での決定をめざす。イコモスの現地調査と勧告を経るため、「2028年登録」は目標であって確定ではない。ただし、国内推薦の枠は1年に1か国1件であり、その枠を得たことは投資判断の前提条件が一段階進んだことを意味する。

推薦の軸は、天守・櫓・堀・石垣に加え、大名の御殿跡や重臣屋敷跡が一体として良好に残り、江戸時代の大名による統治の仕組みを示す点にある。つまり評価対象は天守単体ではなく、城と城下の構造そのものである。これは宿泊事業にとっても含意がある。来訪者の関心が天守の登閣だけでなく城下町の回遊に広がれば、滞在時間が延び、宿泊に結びつく余地が生まれるからだ。

表1:彦根城の世界遺産登録までの工程と宿泊事業から見た意味
時期手続き・出来事宿泊事業から見た意味
1992年世界遺産暫定一覧表に記載—
2026年5月25日彦根城世界遺産登録推進協議会(滋賀県・彦根市)が5回目の推薦書案を文化庁に提出—
2026年9月3日文化審議会が国内推薦候補に選定用地探索・事業化検討の開始点
2026年9月30日まで推薦書暫定版をユネスコへ提出—
2027年閣議了解、推薦書正式版の提出、イコモス審査(現地調査を含む)新築なら着工判断の期限。景観協議・確認申請を含めると設計着手は2026年度内が目安
2028年夏世界遺産委員会で登録を審議(目標)登録前後の報道露出がピーク。改修型・分散型なら間に合う時間軸

出典:彦根市「『彦根城』が世界文化遺産の国内推薦に内定」(2026年9月3日)、滋賀県プレスリリース(2026年9月3日)よりホテルバンク編集部作成

彦根の観光は日帰り中心 — 宿泊客1人の消費は日帰り客の約5倍

では、宿を建てる根拠となる需要はどれほどあるのか。彦根市が2026年3月に公表した「観光に関する経済効果測定調査報告書」によると、2025年に彦根市を訪れた観光客(実人数)は235万人で、そのうち宿泊客は33万人、日帰り客は202万人と推計されている。彦根城の入場者は年間約65万人で、4月の約8.4万人が月間の最多だった。観光消費額は217億円、経済波及効果は391億円に達する。

注目したいのは消費単価の差である。宿泊客1人あたりの市内消費は29,543円(クーポン割引額を含む)で、日帰り客の5,924円のおよそ5.0倍にあたる。観光入込客数に占める宿泊客の割合は2025年が12.8%で、コロナ前4か年(2016〜2019年)の平均13.5%に近い水準にある。報告書は、京都市の宿泊客割合22.2%(2022年度)を参照しつつ、彦根市が宿泊客割合を22%程度まで高め、外国人宿泊客4万人の目標を達成した場合、観光消費額は345億円(2025年比+128億円)になると試算している。言い換えれば、彦根の宿泊需要の伸びしろは「来訪者を増やす」ことより「日帰り客を泊まり客に変える」ことに大きい。

出典:彦根市「彦根市観光に関する経済効果測定調査報告書 2025年」(2026年3月)よりホテルバンク編集部作成

外国人の比率はまだ小さい。同報告書では、彦根市の観光入込客に占める外国人の割合は2025年で3.0%、市内に宿泊する客の平均泊数は1.16泊である。世界遺産登録は、訪日客の旅程に「彦根で1泊」を組み込むきっかけになりうる。京都・大阪から新幹線と在来線で1時間前後という距離は日帰りを促す要因でもあるが、城下町の朝夕の時間帯に価値を感じる層を宿泊に取り込めれば、この距離はむしろ関西周遊の中継地として働く。

城1.5km圏の客室ストックは18施設・947室 — 8割超が彦根駅側に集まる

次に供給を見る。メトロエンジンリサーチで彦根城天守(北緯35.2765度・東経136.2518度)から半径1.5km圏を集計すると、施設マスター上は26施設・1,079室があり、このうち直近3ヶ月に販売価格が観測された施設は18施設・947室だった。本稿ではこの947室を客室ストックとして扱う。

距離帯で分けると構造がはっきりする。天守から0.5km以内は町家型の1施設・7室のみで、0.5〜1.0km帯が6施設・141室、1.0〜1.5km帯が11施設・799室である。1.0〜1.5km帯はJR彦根駅の東西にあたり、ビジネスホテル5施設・681室の大半がここに立つ。城下町側(1km以内)の148室は、HATAGO HIKONEをはじめとする町家改修型の宿、琵琶湖畔のリゾート、2024年開業の宿泊施設などで構成されている。2025年7月には町家を改修したHATAGO HIKONE(15室)と別邸(7室)が相次いで開業しており、城下町の既存建物を宿に転用する動きはすでに始まっている。

1.5km圏 客室ストック
947室
18施設(価格観測ベース)
城から1km以内
148室
7施設・圏内の15.6%
彦根市ADR(12ヶ月)
¥8,492
前年同期比+13.3%
彦根市 推定OCC(8月)
86.9%
15施設・635室
ホテル建築可の用途地域
27.1%
圏内100mメッシュ比
彦根城1.5km圏の宿泊施設と用途地域(100mメッシュ)

円:宿泊施設(大きさ=客室数)。メッシュ色:■ホテル建築可(商業・近隣商業・準工業・第2種住居・準住居) ■条件付き(第1種住居地域:用途床面積3,000㎡以下) ■建築不可(住居専用系・工業系)。無色は用途地域の指定がない区域(城山・堀・湖面などを含む)。破線は天守から半径1.5km。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=18施設)、国土交通省 不動産情報ライブラリ(用途地域)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=18施設・947室)

価格帯で見ると、2.5万〜5万円帯は24室だけ — 20〜60室の中上位帯に空白

客室ストックを掲載価格(2名1室・税込・全プラン平均)の12ヶ月平均で4つの帯に分けると、1.5万円未満が7施設・611室(64.5%)、1.5万〜2.5万円が3施設・208室(22.0%)、2.5万〜5万円が4施設・24室(2.5%)、5万円以上が4施設・104室(11.0%)となった。駅前のビジネスホテルが下の2帯を、琵琶湖畔のリゾートと料理旅館が5万円以上の帯を担っている。

空白は中間にある。2.5万〜5万円帯の24室はいずれも町家型・一棟貸し型の小規模施設で、1施設あたり最大でも15室にとどまる。20〜60室規模でこの帯に入る施設は圏内に1軒もない。世界遺産登録を機に来訪する層のうち、「城下町に泊まりたいが1泊5万円を超える宿までは求めない」層の受け皿が、規模の面で薄いということである。下図の散布図では、この領域を青い破線で示した。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=18施設、掲載価格は2025年9月〜2026年8月の平均。2026年8月開業の1施設は開業後の平均)

表2:彦根城1.5km圏の掲載価格帯別の客室ストック(N=18施設・947室)
掲載価格帯(12ヶ月平均)施設数客室数構成比主な業態
¥15,000未満761164.5%ビジネスホテル、旅館
¥15,000〜24,999320822.0%ビジネス、シティ、町家
¥25,000〜49,9994242.5%町家・一棟貸し(最大15室)
¥50,000以上410411.0%リゾート、料理旅館
合計18947100%

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=18施設・947室)

彦根市のADRは12ヶ月平均で約8,500円、前年同期比+13.3%

単価の水準はどうか。彦根市の推定成約ADR(エリア中央値)は、直近12ヶ月(2025年9月〜2026年8月)の平均で8,492円、前年同期(2024年9月〜2025年8月)の7,493円から+13.3%上昇した。同じ期間の滋賀県全体は8,409円(+9.4%)で、彦根市は県平均とほぼ同水準ながら伸び率で上回っている。月次でも2026年7月が前年同月比+14.0%、8月が+13.0%と、直近の伸びは2桁を保っている(各月の対象施設はN=20〜22)。

単月で目立つのは2025年10月の11,142円で、前年同月比+58.7%だった。この月は「わたSHIGA輝く国スポ」(2025年9月28日〜10月8日)の会期にあたり、開会式と陸上競技が彦根市の平和堂HATOスタジアムで行われた。大型イベントが来ると彦根の単価は短期間で大きく動く — この実績は、世界遺産登録という長期の注目がどの程度の単価上昇につながるかを考えるうえで一つの参照点になる。なお2026年9〜11月は調査時点の掲載水準に基づく推定で、10月が11,076円、11月が11,404円となっている(確定月とは推定の基準が異なるため、前年同月との単純比較は控える)。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(彦根市、推定成約ADR・エリア中央値、N=20〜22施設。2026年9〜11月は調査時点の掲載水準に基づく推定)

稼働の面でも需要は厚い。OTA掲載在庫ベースの推定OCCは、彦根市が2026年6月74.6%、7月81.0%、8月86.9%で、滋賀県全体(79.7%・83.2%・90.8%)をやや下回りつつ同じ季節の山を描いた。推定OCCはOTA上の在庫消化に基づく推定値であり、対象は彦根市が6〜7月17施設・客室815室、8月15施設・客室635室、滋賀県が8月101施設・客室5,614室(いずれも主要予約サイト掲載ベース)である。

表3:彦根市と滋賀県の推定OCC(2026年6〜8月・OTA掲載在庫ベース)
宿泊月彦根市 推定OCC対象(彦根市)滋賀県 推定OCC対象(滋賀県)
2026年6月74.6%17施設・815室79.7%113施設・6,577室
2026年7月81.0%17施設・815室83.2%115施設・6,647室
2026年8月86.9%15施設・635室90.8%101施設・5,614室

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(稼働率はOTA掲載在庫ベースの推定。6月の彦根市は観測21日分)

用地条件 — ホテルを建てられる用途地域は圏内の27.1%、高さは12〜30m

需要と価格帯の空白が確認できたところで、建てられる土地がどこにあるかを見る。国土交通省 不動産情報ライブラリの用途地域データを、天守から半径1.5km圏に100m間隔で置いた709点のメッシュに重ねた。ホテル・旅館を建築できる用途地域(商業・近隣商業・準工業・第2種住居・準住居)は192点(27.1%)、用途の床面積3,000㎡以下なら建築できる第1種住居地域が181点(25.5%)、住居専用系・工業系で建築できない区域が174点(24.5%)、用途地域の指定がない区域(城山・堀・湖面などを含む)が162点(22.8%)だった。

建築可の区域は、彦根駅の東西から城の南側の本町・河原町方面へ帯状に延びる。天守の周囲は第1種中高層住居専用地域で、ホテル・旅館は建てられない。現存する圏内18施設の立地も、商業地域10施設、近隣商業地域4施設、準工業地域2施設、第1種住居地域2施設と、この帯の上に並んでいる。容積率は商業地域の駅前で400〜600%、城下町側の近隣商業地域で200〜300%である。城の南、芹川沿いの河原町・芹町地区(約5.0ha)は2016年7月25日に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された商家町で、ここでは外観の変更に保存地区の基準が加わる。町家を宿に改修する計画では、景観計画とあわせて最初に確認しておきたい条件である。

容積率以上に効くのが高さである。彦根市景観計画(2025年4月に第1回改定)は城下町景観形成地域を6地区に分け、建築物の高さの上限を定めている。天守を望む眺望を守るため、内町・外町地区では商業系でも15m以下、指定道路の道路境界から10m以内は10m以下に抑えられる。一方、駅前お城通り地区は20m、駅西周辺地区は30mまで認められる。1階ロビーを含めて階高3m強で見積もると、15mはおよそ4〜5階建て、30mは9〜10階建てに相当する。

表4:彦根市景観計画 城下町景観形成地域の高さ上限と想定される宿泊事業の形
城下町景観形成地域の地区建築物の高さの上限階数の目安想定される宿泊事業の形
内町地区・外町地区住居系12m、商業系・工業系15m(一部隣接地20m)。指定道路の境界から10m以内は10m3〜5階町家改修・分散型、20〜40室の低層型
駅前お城通り地区20m6階前後城への軸線上の中規模ホテル
駅西周辺地区30m9〜10階100室超の宿泊主体型
旧城下町周辺地区・芹川周辺地区住居系12m、商業系または工業系15m3〜5階低層型、河川沿いは外壁後退2m

出典:彦根市景観計画「城下町景観形成地域」よりホテルバンク編集部作成。階数は階高3m強で換算した目安。上限を超える計画は景観影響調査と景観審議会の意見聴取を要する(公共・公益上やむを得ないもの等に限る)

もう一つの条件が浸水である。国土数値情報の洪水浸水想定区域(想定最大規模)を同じメッシュに重ねると、圏内709点のうち484点(68.3%)が浸水深0.5m以上の区域に入り、対象河川の多くは城下町を東西に横切る芹川である。ホテル建築可の区域に限ると192点中163点(84.9%)が該当し、現存18施設もすべて想定区域内(13施設が0.5〜3m、5施設が0.5m未満)に立つ。これは立地の良し悪しというより設計の前提条件であり、受変電設備や非常用発電機を上階に置く、1階をロビー・飲食など客室以外の用途にする、といった計画で吸収するのが一般的である。

出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(用途地域・洪水浸水想定区域[想定最大規模])よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(天守から半径1.5km・100m間隔709点)

地価は横ばい — 登録期待は2026年の公示地価にまだ表れていない

用地コストの水準はどうか。2026年の地価公示(1月1日時点)で圏内の商業地を見ると、彦根駅前の大東町が125,000円/㎡(前年比0.0%)、駅東口の駅東町が124,000円/㎡(+3.3%)、「観光名所に近い商業地域」とされる本町1丁目が89,900円/㎡(+0.2%)、中央町の伝馬町が63,000円/㎡(-0.8%)だった。駅東町は周辺の利用状況が「ホテル、共同住宅、店舗等が混在する商業地域」と記載された地点で、圏内の商業地で唯一3%を超えて上昇している。

城下町側の本町1丁目は2022年の90,000円/㎡から4年間ほぼ横ばいで、伝馬町は2020年の68,600円/㎡から7年連続で下がった。2026年7月1日時点の地価調査でも、駅に近い佐和町が101,000円/㎡で4年連続の横ばいである。いずれも国内推薦が決まった9月3日より前の評価時点であり、世界遺産への期待はまだ地価に織り込まれていないとみてよい。登録前に用地を確保する事業者にとっては、取得コストが動く前の期間が残っていることになる。

出典:国土交通省「地価公示」(不動産情報ライブラリ)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。駅東町は2023年、本町1丁目は2022年から標準地

表5:彦根城1.5km圏の商業地の地価(2026年地価公示・地価調査)
地点(標準地・基準地番号)天守からの距離用途地域・容積率2026年価格前年比
本町1丁目(公示 彦根5-4)約0.6km近隣商業・200%89,900円/㎡+0.2%
佐和町(地価調査 彦根5-4)約0.7km商業・500%101,000円/㎡0.0%
中央町 伝馬町(公示 彦根5-6)約0.8km近隣商業・200%63,000円/㎡-0.8%
大東町・彦根駅前(公示 彦根5-3)約1.1km商業・600%125,000円/㎡0.0%
駅東町(公示 彦根5-10)約1.3km商業・600%124,000円/㎡+3.3%

出典:国土交通省「地価公示」(2026年1月1日時点)、滋賀県「地価調査」(2026年7月1日時点)。不動産情報ライブラリよりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

城下町に25室を新築する簡易試算 — 利回り6%に必要なADRは約2.1万円

ここまでの条件を一つの計画に落とすとどうなるか。本町1丁目の公示地価(89,900円/㎡)で近隣商業地域の敷地500㎡を取得し、容積率200%を使い切る延床1,000㎡・4階建て(15m以下)のホテルを建てる想定で試算した。客室部分を延床の65%、1室26㎡とすると25室になる。土地代は約4,500万円、建物は2025年のS造ホテルの坪単価240.5万円(建築着工統計)で約7.3億円、2年間の建設費上昇(年+5%)を織り込むと約8.0億円である。稼働率は彦根市の2026年6〜8月の推定OCC(74.6〜86.9%)を踏まえて75%、GOP率はインヴィンシブル投資法人のMHM運営91物件の実績38.9%(2024年12月期)より保守的な35%とした。

表6:城下町25室新築の簡易試算 — ADR前提別のGOP利回り
ADRの前提年間客室売上GOP(35%)利回り(2025年単価)利回り(上昇織込み)建物費50%の感度
¥8,500(彦根市12ヶ月平均)5,820万円2,040万円2.6%2.4%4.6%
¥13,900(圏内上位4分の1)9,510万円3,330万円4.3%3.9%7.5%
¥20,000(中上位帯に置く仮定)1億3,690万円4,790万円6.2%5.7%10.7%

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。ADRは推定成約ADR(税抜相当)。「圏内上位4分の1」は1.5km圏で12ヶ月分の推定成約ADRが算出できる11施設の第3四分位。利回り=GOP÷(土地+建物)。FF&E・開業費・公租公課・金利は含まない簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です

表6は単価だけを動かした1次元の試算である。稼働の前提も同時に動かすと、利回りの幅は次のようになる(総投資は建設費上昇を織り込んだ約8.5億円で固定)。

表7:ADR×稼働率(前提)の2軸感度 — GOP利回り(25室新築・総投資約8.5億円)
ADR\稼働率(前提)65%70%75%80%85%
¥8,500(市平均)2.1%2.2%2.4%2.6%2.7%
¥11,2002.7%3.0%3.2%3.4%3.6%
¥13,900(上位4分の1)3.4%3.7%3.9%4.2%4.5%
¥17,5004.3%4.6%4.9%5.3%5.6%
¥21,200(6%到達ADR)5.2%5.6%6.0%6.4%6.8%

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。表6と同じ前提(25室・GOP率35%・土地約4,500万円+建物約8.0億円)で稼働率の前提だけを変えた。網掛けは利回り6%以上。FF&E・開業費・公租公課・金利は含まない簡易試算

結果は明快である。市の平均的な単価(約8,500円)で新築すると、総投資に対するGOP利回りは2%台にとどまる。建設費上昇を織り込んだ総投資で利回り6%を得るには、ADRが約21,200円必要になる計算だ。逆に、既存建物の改修などで建物費を半分に抑えられれば、必要ADRは約11,200円まで下がり、圏内上位4分の1の水準(約13,900円)で7.5%が見込める。つまり彦根の城下町では、「新築で単価を取りにいく」か「改修で投資額を抑える」かのどちらかを選ぶことが事業成立の条件になる。2025年に町家改修型の宿が相次いで開業したのは、後者の合理性を示す実例といえる。表7のとおり、新築では稼働率(前提)を85%まで上げても市平均の単価では利回り3%に届かず、稼働より単価の置き方が成否を分ける。

投資タイミング — 新築は2026年度内の判断、改修・分散型は2027年が勝負

工程表に戻ると、2028年夏の登録審議に開業を合わせるなら、新築の場合は2027年前半の着工が目安になる。景観計画の届出や、上限を超える計画での景観審議会の意見聴取、確認申請を含めると、用地確保と設計着手は2026年度内に判断する必要がある。一方、町家や既存ビルの改修であれば工期は短く、2027年に着手しても登録前後に間に合う。

立地の選び方も二つに分かれる。30mまで建てられる駅西周辺地区や20mの駅前お城通り地区は、容積率400〜600%を生かした規模型の計画が成り立つ区域で、城への動線上にあるという強みがある。城下町の内町・外町地区は15m以下に抑えられるが、価格帯の空白(2.5万〜5万円帯・20〜60室)にもっとも近く、世界遺産の構成要素である城下の町割りそのものに泊まれるという独自性がある。滋賀県内の地銀や地域の事業者にとっては、複数の町家をまとめて1つの宿として運営する分散型の計画が、投資額と景観協議の両面で入りやすい選択肢になるだろう。

最後に、登録そのものがゴールではない点にも触れておきたい。滋賀県知事も国内推薦決定に際し、登録は通過点であり保全と地域の取り組みはこれからだという趣旨のコメントを出している。宿泊事業にとっても、登録年の一時的な来訪増より、日帰り客を宿泊客に変える仕組み — 朝夕の城下町での体験、琵琶湖や近江の周遊と組み合わせた連泊の提案 — を登録前の2年間でどこまで整えられるかが、長期の稼働と単価を左右する。

⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事の2026年9〜11月のADRは、調査時点(2026年9月下旬)でOTAに公開されている販売価格に基づく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。現時点で高く設定されている価格が直前に見直される可能性がある点にご留意ください。

よくある質問

Q. 彦根城の世界遺産登録はいつ決まりますか?

A. 2026年9月3日に文化審議会が国内推薦候補に選び、9月30日までに推薦書暫定版がユネスコに提出されます。2027年の正式推薦とイコモスの審査を経て、2028年夏の世界遺産委員会で登録が審議される見通しです。登録は審査の結果次第で、2028年は目標年です。

Q. 彦根城の周辺にホテルは何室ありますか?

A. 天守から半径1.5km圏で、直近3ヶ月に販売価格が観測された施設は18施設・947室です(施設マスター上は26施設・1,079室)。このうち799室は彦根駅周辺の1.0〜1.5km帯にあり、城から1km以内は7施設・148室です。

Q. 彦根城の近くにホテルは建てられますか?

A. 天守の周囲は第1種中高層住居専用地域でホテル・旅館は建てられませんが、圏内の27.1%(100mメッシュ比)は商業・近隣商業などホテル建築可の用途地域です。ただし彦根市景観計画により、城下町の内町・外町地区では高さ15m以下(住居系12m以下)、駅前お城通り地区は20m、駅西周辺地区は30mが上限です。

Q. 彦根市のホテル単価はどのくらいですか?

A. 推定成約ADR(エリア中央値)は2025年9月〜2026年8月の平均で8,492円、前年同期比+13.3%です。国スポが開かれた2025年10月は11,142円まで上がりました。

まとめ

彦根城は2028年の世界遺産登録をめざす段階に入った。城から1.5km圏の客室ストックは947室あるが、その8割超は駅前のビジネスホテルで、城下町側は148室、2.5万〜5万円帯は24室しかない。需要側では、宿泊客1人の消費が日帰り客の約5倍という構造と、ADR+13.3%、推定OCC86.9%(2026年8月・15施設)という足元の強さが確認できた。用地側では、ホテル建築可の用途地域が圏内の27.1%、景観計画の高さ上限が12〜30m、建築可区域の84.9%が浸水想定区域という条件が重なる。地価はまだ横ばいで、登録期待は織り込まれていない。新築なら中上位帯の単価(約2.1万円)を取りにいく設計、改修・分散型なら投資額を抑えて上位4分の1の単価で回す設計 — どちらかに振り切ることが、城下町に宿を建てる条件である。

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集計方法

客室ストックは、彦根城天守(北緯35.2765度・東経136.2518度)から半径1.5km以内の宿泊施設のうち、2026年6月27日〜9月26日の宿泊日に主要予約サイトで2名1室の販売価格が観測された18施設の客室数合計(主要予約サイト掲載ベース)。価格帯は各施設の掲載価格の12ヶ月平均で区分した。ADRは彦根市・滋賀県のエリア中央値(推定成約ADR)で、12ヶ月平均は月次値の単純平均。用途地域と浸水想定は、天守を中心に100m間隔で置いた709点が各区域に含まれるかを判定した(100mメッシュ比)。浸水想定は洪水浸水想定区域(想定最大規模)で、複数河川の想定が重なる地点は最大の浸水深区分を採用した。試算は本文記載の前提による簡易試算である。

参考資料・出典一覧

■ データソース

宿泊供給・掲載価格・推定成約ADR・推定稼働率はメトロエンジンリサーチ&コンサルティングが主要予約サイトの公開価格・在庫から集計した値(彦根城1.5km圏 N=18施設・947室、彦根市 N=17〜22施設、滋賀県 N=101〜163施設)。用途地域・洪水浸水想定区域・地価は国土交通省 不動産情報ライブラリ、景観計画の高さ基準は彦根市景観計画、需要側の数値は彦根市「観光に関する経済効果測定調査報告書 2025年」による。

■ 試算前提

25室新築の試算は、本町1丁目の公示地価(89,900円/㎡)で敷地500㎡、容積率200%の延床1,000㎡、客室比率65%・1室26㎡、建物単価はS造ホテルの2025年坪単価240.5万円に年+5%の上昇を2年分、稼働率(前提)75%、GOP率35%。利回りはGOP÷(土地+建物)で、2軸感度(表7)は稼働率(前提)65〜85%・ADR 8,500〜21,200円の範囲で算出した。

■ 限界・留意点

推定成約ADR・推定稼働率はOTA公開情報に基づく推定値で、各施設の実績とは異なる。2026年9〜11月のADRは調査時点の掲載水準に基づく推定で、確定値ではない。用途地域・浸水想定は100m間隔の点判定で、個別敷地の条件(接道・既存不適格・保存地区の基準等)は反映していない。試算はFF&E・開業費・公租公課・金利を含まない簡易試算であり、投資判断には個別のフィージビリティ・スタディが必要である。世界遺産登録は2028年の目標であり確定ではない。

■ 市場データ

■ 政府統計・公的データ

■ REIT・業界資料

■ ニュース・プレスリリース

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