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入湯税150円が動き出した — 会津若松350円・伊豆300円、温泉地に生まれる再整備の原資

投稿日 : 2026.08.13 更新日 : 2026.09.02

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入湯税150円が動き出した — 会津若松350円・伊豆300円、温泉地に生まれる再整備の原資

温泉地の観光財源が、静かに組み替えられている。地方税法が1人1日150円を標準と定める入湯税について、条例で標準を超える税率を設定する自治体が相次いでいる。福島県会津若松市は2025年10月1日から350円へ、静岡県東伊豆町は2025年3月1日から300円へ。北海道では2026年4月に道と市町村の宿泊税が始まり、これに合わせて入湯税を引き下げた町もある。本稿では各自治体の条例・税務課公表資料で税率と施行日を1件ずつ確認したうえで、決算額から入湯客数を逆算し、この負担増が実勢単価に占める比率を定量化する。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • 入湯税:地方税法に基づく法定目的税。標準税率は入湯客1人1日につき150円で、制限税率(上限)は定められていない。市町村は条例で標準を超える税率(超過税率)または下回る税率を設定できる。
  • 逆算入湯客数:市町村の入湯税決算額を当該年度の税率で除して求めた延べ入湯客数の推計値。宿泊客に加え日帰り入浴客を含み、免税対象(12歳未満など)は含まない。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ/総務省「令和5年度市町村決算カード」/観光庁「宿泊旅行統計調査」/各自治体公表資料
Key Takeaways
  • — 制限税率がない——入湯税は標準150円だが上限規定がなく、条例改正だけで税率を変えられる。総務大臣の同意を要する宿泊税とは手続きの重さが異なる。
  • — 確認できた7団体——会津若松市350円、東伊豆町・伊東市・釧路市300円、別府市は段階制50〜500円。洞爺湖町のみ宿泊税導入に合わせ300円→100円へ引下げ。
  • — 全国219億円・1,000団体——令和5年度の入湯税収から逆算した延べ入湯客数は1億4,609万人。上位20団体で全体の26.0%を占める。
  • — 単価に乗る比率は1.1〜1.6%——2名1室の負担増を推定成約ADRで割ると6市町中5市町がこの範囲。会津若松市のみ旅館業態で2.7%と倍程度になる。
  • — 原資の規模——会津若松市は引上分200円で年約1億2,000万円・10年で約12億円。別府市は令和6年度に2億1,142万円を基金へ積み立てた。

制限税率のない目的税 — 入湯税が動かしやすい理由

入湯税は1950年に現行の地方税法で定められた税である。当初は普通税として1人10円だったが、1957年に目的税へ改められ、1978年施行の改正で標準税率が現在の150円に引き上げられた。それから約半世紀、標準税率そのものは据え置かれている。

ここで重要なのは、箱根町が観光まちづくり財源検討会議の資料で明記しているとおり、入湯税には制限税率(標準を超えて税率を定める場合の上限)が定められていないという点である。市町村は議会の議決と条例改正だけで税率を設定でき、総務大臣の同意を要する法定外税とは手続きの重さが異なる。宿泊税が総務省との協議・同意を経て導入されるのに対し、入湯税の税率変更は自治体側で完結する。この手続きの軽さが、近年の動きの速さを説明している。

使途も法律で限定されている。充当先は「環境衛生施設の整備」「鉱泉源の保護管理施設の整備」「消防施設その他消防活動に必要な施設の整備」「観光の振興(観光施設の整備を含む)」の4分野である。一般財源に混ぜられない構造が、温泉地の再整備に紐づく原資という性格を与えている。

宿泊税との違いも整理しておきたい。入湯税は鉱泉浴場での入湯行為に課される法定目的税で、日帰り入浴客も対象になる。一方、宿泊税は各自治体が条例で創設する法定外目的税で、宿泊行為に課され、温泉の有無を問わない。両者は課税客体が異なるため併課が可能であり、温泉地の宿では二重に発生しうる。釧路市が宿泊税の検討資料で示した試算では、阿寒湖温泉地区の温泉付き宿に1人1泊2万円未満で泊まった場合、入湯税150円+超過課税150円+道宿泊税100円+市宿泊税200円で合計600円という積み上げになる。

改定自治体一覧 — 条例・税務課ページで確認できた7団体

報道ベースで語られることの多いテーマだが、金額と施行日は自治体の公式資料で確認しないと精度が保てない。以下は各自治体の税務課ページ・条例・手引きで確認できた内容のみを整理したものである。

税率を改定した7団体 — 改定前後の税率・施行日・主な使途(自治体公表資料で確認できたもの)
自治体 改定前 改定後 施行日 主な使途
福島県会津若松市 150円 350円 2025年10月1日
2035年9月30日まで10年間
引上分200円を「温泉地域活性化基金」へ積立。東山温泉・芦ノ牧温泉の景観修景事業(廃業旅館の撤去補助等)
静岡県東伊豆町 150円 300円 2025年3月1日
2035年2月28日まで10年間
観光振興、施設整備、施設の維持管理。7日(6泊)以上の滞在は申請により1泊150円
静岡県伊東市 一律150円 宿泊300円
日帰り150円
2025年10月1日 同時に免除対象を6歳未満から小学生以下へ拡大
北海道釧路市 250円
2015年4月〜
300円 2025年4月1日 超過課税分150円を観光振興臨時基金へ積立。阿寒湖温泉地区の観光振興事業に充当(登録ホテル・旅館以外は150円)
北海道登別市 150円 宿泊300円
日帰り50円
2020年4月1日 一般客の宿泊のみ引上げ。修学旅行客70円・湯治客70円は据置
大分県別府市 一律150円 段階制 50〜500円 2019年4月1日
2029年3月31日まで
超過課税分を「観光みらい創造基金」へ積立。2024年度積立額2億1,142万円
北海道洞爺湖町 300円
2020年6月〜
100円へ引下げ 2026年4月1日 宿泊税導入(町200〜1,000円+道100〜500円)に合わせ入湯税を引下げ

出典:各自治体の税務課公表資料・条例・入湯税の手引きよりホテルバンク編集部作成

会津若松市の350円は、確認できた範囲では最も高い定額税率である。市の公表資料によれば、引上分200円は「会津若松市温泉地域活性化基金」に積み立てられ、「会津若松市温泉地域景観創造ビジョンアクションプラン」に基づく景観修景事業の支援に充てられる。従来の150円分は環境衛生施設・消防施設・観光施設の整備と観光振興に引き続き充当される。適用期間は2035年9月30日までの10年間と明示されており、期限を切った目的財源として設計されている点が特徴的だ。

別府市の段階制は、宿泊料金または飲食料金(消費税を除く)の帯に応じて税額が変わる仕組みで、1,500〜2,000円が50円、2,001〜4,500円が100円、4,501〜6,000円が150円、6,001〜50,000円が250円、50,001円以上が500円となる。7泊8日以上の長期滞在者はそれぞれ半額に軽減される。低価格帯では標準を下回り、高価格帯で標準を大きく上回る累進的な構造である。段階制と定額制で負担の出方がどう変わるかは、宿泊税を対象に那須町と盛岡市の10/1施行を比べた分析でも同じ論点を扱っている。

出典:各自治体の税務課公表資料・条例よりホテルバンク編集部作成(別府市は6,001〜50,000円帯の税額)

洞爺湖町の動きは方向が逆である。町は2025年9月に宿泊税条例を公布し、2026年2月13日付で総務省の同意を得たうえで、2026年4月から宿泊税(2万円未満200円/2万円以上5万円未満500円/5万円以上1,000円)を導入した。北海道も同時期に道宿泊税(100円/200円/500円)を開始しており、町が道の分も併せて徴収する。この導入に合わせ、町は入湯税を1泊300円から100円へ引き下げた。温泉地の観光財源が、入湯税単独から「入湯税+宿泊税」の組み合わせへと再設計されつつあることを示す実例である。

出典:各自治体公表資料よりホテルバンク編集部作成

税収から逆算する温泉地の実需要 — 全国1,000団体・219億円

入湯税は1人1日あたりの定額課税であるため、決算額を税率で割れば延べ入湯客数が推計できる。総務省が公表する令和5年度市町村決算カード(全1,741市区町村)から入湯税の収入済額を集計したところ、入湯税収がある団体は1,000団体、合計219億1,386万円だった。上位20団体で全体の26.0%、上位100団体で55.7%を占める。温泉地の観光財源としての入湯税は、少数の温泉地に強く集中している。

出典:総務省「令和5年度市町村決算カード」よりホテルバンク編集部集計(N=1,741市区町村、うち入湯税収がある団体1,000)

首位は神奈川県箱根町の6億2,494万円、2位が大分県別府市の5億3,531万円、3位が静岡県熱海市の4億4,009万円である。札幌市(4位)、神戸市(8位)、大阪市(9位)、京都市(12位)、仙台市(14位)といった大都市が上位に入るのは、市域内に温泉利用の宿泊施設を多数抱えるためで、温泉地としての集中度とは性格が異なる。

ここから逆算してみる。令和5年度時点で税率が一律150円だった自治体について、決算額を150円で割ると次のようになる。

入湯税収から逆算した延べ入湯客数と、県の延べ宿泊者数に対する比(令和5年度/2023年)
自治体 入湯税収(令和5年度) 逆算入湯客数 県の延べ宿泊者数
(2023年)に対する比
静岡県熱海市4億4,009万円293万人13.4%
静岡県伊東市3億1,919万円213万人9.7%
静岡県東伊豆町9,565万円64万人2.9%
静岡3市町計8億5,492万円570万人26.1%
福島県会津若松市9,040万円60万人6.2%
全国計219億1,386万円1億4,609万人23.7%

出典:総務省「令和5年度市町村決算カード」、観光庁「宿泊旅行統計調査」推移表(2023年年計)よりホテルバンク編集部作成

静岡県の3市町だけで逆算入湯客数は570万人となり、静岡県全体の延べ宿泊者数2,185万人(2023年)の26.1%に相当する規模になる。全国でも、逆算入湯客数1億4,609万人は全国延べ宿泊者数6億1,747万人の23.7%にあたる。

ただしこの逆算には性質上の留意点が2つある。第一に、入湯税は日帰り入浴客にも課される(登別市・箱根町のように日帰りを別税率とする自治体を除く)ため、逆算値には宿泊を伴わない需要が含まれる。宿泊者数と直接比較すると入湯客側が膨らむ。第二に、超過税率を採る自治体を150円で割ると過大推計になる。

第二の点は実データで検証できる。別府市は入湯税の手引きで、令和6年度の課税人員が233万3千人、収入額が5億5,341万円だったと公表している。ここから実効単価は1人あたり237円と算出される。もしこれを標準税率150円で割ると369万人となり、実際の課税人員を58.1%上回る。段階税率を採る自治体では、150円での逆算は使えない。逆に、別府市のように課税人員そのものを公表している自治体があることで、逆算という手法の妥当性と限界の両方が確認できる。

実勢単価に乗る比率 — 1泊あたり1.1〜1.6%、会津若松のみ例外

次に、この負担増が実際の宿泊単価に対してどの程度の大きさなのかを見る。メトロエンジンリサーチのデータから、対象6市町の推定成約ADRを2025年8月〜2026年7月の12ヶ月について取得した。エリア単位のADRは対象施設の中央値であり、標準的な施設の水準を示す。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(伊東市 N=120〜127施設、東伊豆町 N=46〜49、登別市 N=14〜15、洞爺湖町 N=13〜15、会津若松市 N=38〜40、釧路市 N=29〜31)

伊豆の2市町は12月〜1月と8月に山を作る典型的な二山型で、東伊豆町は2026年1月に24,800円と年間最高値をつけた。北海道側は登別市が1月に23,200円、釧路市が夏の8月に12,000円と、需要期が対照的である。会津若松市は8月と5月に山があり、年間を通じて1万円前後で推移する。

入湯税は1人あたりの課税なので、2名1室での宿泊なら1室あたりの負担増はその2倍になる。ADRは1室あたりの単価なので、比較の分子も1室ベースに揃える必要がある。

1泊あたりの負担増と推定成約ADR(2025年8月〜2026年7月の12ヶ月平均)に占める比率
自治体 1人1泊の増減 2名1室の増減 推定成約ADR
(12ヶ月平均・全施設)
ADRに占める比率
会津若松市+200円+400円¥10,1004.0%
登別市+150円+300円¥18,9001.6%
伊東市+150円+300円¥20,7001.4%
東伊豆町+150円+300円¥20,9001.4%
洞爺湖町
入湯税−200円+宿泊税300円
+100円+200円¥13,9001.4%
釧路市+50円+100円¥8,8001.1%

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(ADRは2025年8月〜2026年7月の12ヶ月平均。洞爺湖町は2万円未満帯の宿泊税300円で算出)

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

6市町のうち5市町で、負担増がADRに占める比率は1.1〜1.6%に収まる。宿泊料金の1〜2%程度という水準は、季節変動やプラン設計の幅に比べれば小さい。伊東市・東伊豆町はいずれも1.4%で、伊豆エリアの300円化はほぼ同じ相対水準に着地している。定率課税でこの計算を行うとどうなるかは、沖縄の宿泊税2%を市町村別に1人1泊で試算した記事が参考になる。

感度分析:1人1泊の上乗せ額 × 推定成約ADR → 2名1室の負担増がADRに占める比率(%)
1人1泊の上乗せ額 ¥8,800
釧路市
¥10,100
会津若松市
全施設
¥13,900
洞爺湖町
¥15,000
会津若松市
旅館業態
¥18,900
登別市
¥20,900
東伊豆町
+50円
釧路市
1.1% 1.0% 0.7% 0.7% 0.5% 0.5%
+100円
洞爺湖町
2.3% 2.0% 1.4% 1.3% 1.1% 1.0%
+150円
伊東市・東伊豆町・登別市
3.4% 3.0% 2.2% 2.0% 1.6% 1.4%
+200円
会津若松市
4.5% 4.0% 2.9% 2.7% 2.1% 1.9%
+350円
別府市 最上位帯
8.0% 6.9% 5.0% 4.7% 3.7% 3.3%

出典:本記事にて算出(上乗せ額は本文で確認した改定幅の実測レンジ+50〜+350円、ADRは本文6市町の推定成約ADR。セル=上乗せ額×2人÷ADR)

この格子は、比率が税率とADRのどちらで決まっているかを示している。1泊¥18,900〜¥20,900の高単価帯(登別市・東伊豆町)では+200円まで乗せても比率は2.1%以内に収まる一方、¥8,800の釧路市では+200円で4.5%に届く。伊豆や登別が300円化を選び、釧路市が250円→300円の+50円にとどめたことは、この格子の上での位置と整合している。会津若松市の+200円が旅館業態ADR¥15,000で2.7%となるのは、格子の中間帯に位置するためである。

会津若松市の4.0%だけが突出して見えるが、これには構成上の理由がある。会津若松市のADRには東山温泉・芦ノ牧温泉だけでなく、市街地のビジネスホテルも含まれる。入湯税の課税対象となる旅館業態に絞って集計すると推定成約ADRは¥15,000(N=26〜28施設)となり、比率は2.7%に下がる。それでも他エリアの倍程度であり、350円という水準が単価帯に対して相対的に重いことは事実である。会津若松市が10年の期限を切り、引上分を基金に区分経理して使途を景観修景に限定しているのは、この相対的な大きさに見合う成果を可視化する設計と読める。

廃屋撤去という原資 — 客室ストックと周辺宿へのアップサイド

ここまでの数字を、原資の規模に置き換えてみる。会津若松市の令和5年度入湯税収9,040万円を150円で割った逆算入湯客数は60万人。ここに引上分200円を乗じると、年間で約1億2,000万円、10年間で約12億円の積立原資が生まれる計算になる(本記事の試算。入湯客数が横ばいで推移した場合)。東伊豆町も同様に、逆算64万人に150円を乗じて年間約9,600万円の増収規模となる。

別府市の場合は実績値がある。市が公表する令和6年度の入湯税充当明細では、総額5億5,341万円のうち超過課税分として2億1,142万円が「別府市観光みらい創造基金」に積み立てられた。全体の38.2%が基金へ、観光施設費に9,437万円(17.1%)、温泉施設費に1億532万円(19.0%)、消防施設費に6,560万円(11.9%)という配分である。超過課税を始めて6年目にして、年間2億円規模の観光原資が制度として定着している。

この原資が向かう先が、周辺宿の資産価値に効いてくる。温泉街の廃業旅館は、所有者不明や解体費用の負担者が定まらないことで長期に放置されやすく、隣接する営業中の宿にとっては景観と回遊性の両面で影響が及ぶ。会津若松市が「温泉地域景観創造ビジョンアクションプラン」に基づく景観修景事業への支援を明示し、その財源を10年間の期限付き基金として確保したことは、個々の宿が単独では負担しきれない街区スケールの整備に公的原資が付いたことを意味する。廃業がどの地域でどう発生しているかについては、ゼロゼロ融資と旅館倒産89件の地理マップが分布を整理している。

客室ストックの観点でも示唆がある。廃業施設が撤去されれば、その区画は新規開発や既存宿の増改築の用地になりうる。伊豆や会津のように昭和期の大型旅館が集積し、建替え需要を抱えるエリアでは、更地化が進むこと自体が客室ストックの新陳代謝を後押しする条件になる。景観整備・散策路整備・受入環境整備は、直接には集客施策だが、間接的には周辺宿の平均単価を押し上げる素地をつくる。

負担側から見ても、1泊あたり1〜2%という水準は、原資が形になったときに回収できる幅の範囲に収まる。伊東市が同時に免除対象を6歳未満から小学生以下へ拡大したように、ファミリー層への配慮を組み合わせる設計も広がっている。東伊豆町の7日以上滞在に対する軽減、別府市の長期滞在者半額、登別市の修学旅行客70円据置なども、需要セグメントごとに負担を調整する仕組みである。

洞爺湖町のように、宿泊税の導入に合わせて入湯税を引き下げる調整も出てきた。北海道では2026年4月から道の宿泊税が全域に適用されるため、温泉地では入湯税との重複が生じる。町が入湯税を300円から100円へ引き下げたことで、2万円未満の宿泊における合計負担は、従来の入湯税300円から、入湯税100円+町宿泊税200円+道宿泊税100円の計400円となる。増分は1人100円にとどまり、かつ財源の内訳は町の観光振興施策に重点が移る。制度の重ね方によって、負担の総量を抑えながら使途を組み替えることが可能であることを示している。

洞爺湖町の「入湯税引下げ+宿泊税導入」を宿泊料金帯3区分で見た1人1泊の合計負担(本文記載の税率の加算)
宿泊料金帯 改定前
入湯税のみ
改定後
入湯税+町+道
増減 帯の下限額に
占める比率
低単価帯
2万円未満
300円400円
100+200+100
+100円—
中単価帯
2万円以上5万円未満
300円800円
100+500+200
+500円4.0%
高単価帯
5万円以上
300円1,600円
100+1,000+500
+1,300円3.2%

出典:洞爺湖町「入湯税について」「宿泊税について」、北海道「北海道宿泊税」より本記事にて算出(比率は各帯の下限額に対する1人1泊の合計額。低単価帯は下限額が定まらないため算出せず)

単価帯で切ると、洞爺湖町の再設計は低単価帯で+100円、中単価帯で+500円、高単価帯で+1,300円と、上位帯ほど負担が乗る形になっている。帯の下限額に対する比率で見れば中単価帯4.0%・高単価帯3.2%と上位帯ほど逓減し、別府市が2019年に採った段階制と同じ累進の設計思想がここでも働いている。定額の入湯税単独では実現できなかった単価帯別の配分が、宿泊税との組み合わせで可能になっている。

まとめ

入湯税の標準税率150円は1978年から半世紀近く据え置かれてきたが、制限税率が存在しないという制度上の余地を使って、温泉地が独自に水準を設定する動きが2019年の別府市を起点に広がっている。2025年には会津若松市が350円、東伊豆町・伊東市・釧路市が300円へと踏み出した。

総務省の決算データから逆算すると、入湯税収がある1,000団体の合計は219億円、延べ入湯客数は1億4,609万人規模にのぼる。この需要規模に150円〜200円を上乗せすれば、単独の温泉地でも年間1億円前後の原資が生まれる。別府市の実績が示すとおり、6年で年間2億円規模の基金が定着した例もある。

そして、その負担が宿泊単価に占める比率は1泊あたり1.1〜1.6%(会津若松市は旅館業態で2.7%)に収まっている。廃屋撤去・景観整備・受入環境整備という使途が形になれば、周辺宿の資産価値と客室ストックの新陳代謝に返ってくる構図である。温泉地にとっては、これまで一般財源の枠内でしか手が付かなかった街区スケールの再整備に、期限と使途を明示した原資が生まれたということになる。

⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事のADRのうち2026年8月以降の月は、調査時点でOTAに公開されている販売価格に基づく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。本文および表で用いた12ヶ月平均は2025年8月〜2026年7月の確定月のみで算出しています。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

税率・施行日・使途は各自治体の条例・税務課公表資料・入湯税の手引きで1件ずつ確認した。入湯税収は総務省「令和5年度市町村決算カード」(全1,741市区町村)の収入済額を集計。延べ宿泊者数は観光庁「宿泊旅行統計調査」推移表の2023年年計。宿泊単価はメトロエンジンリサーチの市区町村別 推定成約ADR(2025年8月〜2026年7月、伊東市 N=120〜127施設、東伊豆町 N=46〜49、登別市 N=14〜15、洞爺湖町 N=13〜15、会津若松市 N=38〜40・旅館業態 N=26〜28、釧路市 N=29〜31)。

■ 試算前提

逆算入湯客数=入湯税決算額÷当該年度の税率(一律150円の団体のみ)。会津若松市・東伊豆町の積立原資=逆算入湯客数×引上分(入湯客数が横ばいで推移した場合)。ADRに占める比率=1人1泊の増減×2人÷推定成約ADRの12ヶ月平均(1室2名利用を前提、ADRは1室あたり単価)。感度分析の格子は上乗せ額を本文で確認した改定幅の実測レンジ+50〜+350円、ADRを本文6市町の実測値に取り、同じ式で算出したもので、新たな予測は含まない。洞爺湖町の単価帯別合計は本文記載の入湯税100円+町宿泊税200/500/1,000円+道宿泊税100/200/500円の加算。

■ 限界・留意点

逆算入湯客数には日帰り入浴客が含まれるため、延べ宿泊者数と直接比較すると入湯客側が膨らむ。超過税率・段階税率を採る団体を150円で割ると過大推計になり、別府市の実績(令和6年度 課税人員233万3千人・実効単価237円)では150円逆算が実測を58.1%上回る。免税対象(12歳未満など)は逆算値に含まれない。推定成約ADRは公開販売価格に基づく推定値で、実際の成約価格・会計数値とは異なる(REIT開示実績91施設・直近3ヶ月との照合で誤差中央値約7%)。2026年8月以降の月は将来日付のため12ヶ月平均から除外している。

■ 自治体公式(税率・施行日の裏取り)

■ 政府統計

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ — 市区町村別の推定成約ADR(2025年8月〜2026年11月、業態別内訳を含む)

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