出雲市で「(仮称)ホテルルートインGrand出雲新築工事」の名で計画が進むホテルについて、ルートインホテルズの公式サイトは客室数244室・開業時期「2027年以降」と掲載している(2026年7月10日最終更新)。メトロエンジンリサーチが把握する出雲市内の掲載施設は143施設・2,734室で、244室はその8.9%、ホテル業態の客室に限れば14.1%の増分に相当する。本稿では公表値で確定できる事実と、報道段階の情報を切り分けたうえで、出雲市の既存供給・推定成約ADR・稼働率、そしてルートインの山陰および西日本での開業計画を整理し、投資家と運営者が供給インパクトをどう見積もるべきかを読み解く。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
- OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値、REIT月次公表値との整合性検証で概ね数pt 程度の精度を確認済)。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。都道府県単位でのみ使用し、個別施設の稼働率は算出していません。
- 出雲市コホート:メトロエンジンリサーチが追跡するうち稼働が確認でき、所在地住所に「出雲市」を含む掲載施設(N=143施設・2,734室、2026年10月4日時点)。OTA未掲載の旅館・民宿・簡易宿所は含まれません。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ(価格・在庫・施設マスター)、ルートインホテルズ公式サイト、出雲市・島根県の観光統計、国土交通省「建築物動態統計調査」
- — 公表ベースで確定しているのは244室・開業「2027年以降」の2点(ルートインホテルズ公式サイト、2026年7月10日更新)。所在地(中野町)と開業月は公式ページに記載がない。
- — 244室は出雲市の掲載施設2,734室の+8.9%、ホテル業態1,727室の+14.1%、客室数90室以上の9施設1,297室の+18.8%に相当する(N=143施設、2026年10月4日時点)。
- — 半径8km圏の客室数は2017年に2,106室へ一段増えたのち2026年の2,245室までほぼ横ばい。100室超の供給は2017年以来となる。
- — 出雲市コホートの推定成約ADRは直近12ヶ月平均で約¥8,600(N=22施設の中央値)。島根県の推定稼働は2026年8月が86.2%、9月が85.2%(OTA掲載在庫ベース)。
- — ベッセル出雲大社町ホテル(仮称・107室、2028年春開業予定)と合わせると351室・ホテル業態比+20.3%。出雲市の延べ宿泊客数は2024年に約85.2万人泊で過去最高を更新している。
公表ベースで確定できること、報道段階にとどまること
まず事実の確度を切り分けておきたい。ルートインホテルズ公式サイトの「新規オープンホテル一覧」には、2027年以降の開業予定として「ホテルルートインGrand出雲」が244室で掲載されている。ページ上部には「上記予定は変更になる場合がございます」との注記が付き、所在地と開業月は記載されていない。一方、本稿の起点となった「(仮称)ホテルルートインGrand出雲新築工事」という名称と出雲市中野町という立地は、工事名称・現地情報ベースの呼称であり、公式ページには現時点で記載がない。したがって本稿では、客室数244室と「2027年以降」を公表ベースの確定情報、中野町を工事名称ベースの情報として扱う。
開業時期については、情報源によって表現が揺れてきた点にも触れておく必要がある。山陰中央新報は2025年4月8日付で、出雲大社への観光客増加を背景に「少なくとも3事業者が2028年ごろまでの開業を目指す」と出雲市内のホテル進出計画を報じ、市が年間約80万人泊の延べ宿泊客数を基盤に100万人泊を目指していると伝えた。これに対し公式サイトの現在の掲載は「2027年以降」であり、地元で語られてきた時期とは幅がある。ルートインの他案件でも、高知市の「ホテルルートインGrand高知」は当初2025年7月着工予定だったものが2026年4月1日着工・2028年3月31日完工予定へと見直されたと地元メディアが報じており、開業時期は公式発表の更新を待つのが妥当だろう。
| 項目 | 内容 | 確度・出典 |
|---|---|---|
| 施設名 | ホテルルートインGrand出雲 | 公表ベース(ルートインホテルズ公式サイト、2026年7月10日更新) |
| 客室数 | 244室 | 公表ベース(同上) |
| 開業時期 | 2027年以降 | 公表ベース(同上。「予定は変更になる場合がある」と注記) |
| 所在地 | 出雲市中野町とされる | 工事名称・現地情報ベース(公式ページに記載なし) |
| 事業主体 | ルートインジャパン株式会社 | 公表ベース(公式サイトのブランド掲載) |
| 市内の進出計画の全体像 | 少なくとも3事業者が2028年ごろまでの開業を目指す | 報道ベース(山陰中央新報 2025年4月8日) |
出典:ルートインホテルズ公式サイト、山陰中央新報、ホテルバンク編集部作成
出雲市の既存供給 — 143施設・2,734室に対して244室は+8.9%
供給インパクトを測る分母には、メトロエンジンリサーチが追跡するうち稼働が確認でき、所在地住所に「出雲市」を含む掲載施設を用いた。該当は143施設・2,734室で、内訳はホテル業態(ビジネス・シティ)が23施設・1,727室、旅館が33施設・501室、民宿・ゲストハウス・貸別荘などその他が87施設・506室である。施設数では小規模な宿が大半を占めるものの、客室数ではホテル業態が63%を握る構造だ。
この分母に対して244室がもつ意味は、どの母集団で割るかによって見え方が変わる。市内全体2,734室に対しては+8.9%、ホテル業態1,727室に対しては+14.1%、そして出雲市駅周辺に集積する90室以上の大型ホテル9施設・1,297室に対しては+18.8%となる。244室という規模は、現在市内で最大の出雲グリーンホテルモーリス(198室)を上回り、開業すれば市内で最も客室数の多いホテルになる見込みである。つまり同じ価格帯で正面から競うビジネスホテル群にとっては2割弱の供給増、市内の宿泊キャパシティ全体から見れば1割弱の増分、というのが実態に近い。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(出雲市内90室以上のホテル業態9施設+計画中1施設)
| 施設名(90室以上のホテル業態) | 客室数 | 開業年 |
|---|---|---|
| 出雲グリーンホテルモーリス | 198 | 2001年 |
| 天然温泉 八雲の湯 ドーミーイン出雲 | 185 | 2017年 |
| ホテル・アルファ-ワン出雲 | 162 | 1989年 |
| グリーンリッチホテル出雲 | 153 | 2014年 |
| ツインリーブスホテル出雲 | 150 | 2001年 |
| 東横INN出雲市駅前 | 136 | 2005年 |
| スーパーホテル 出雲駅前 | 121 | 2010年 |
| 出雲ロイヤルホテル | 99 | 1981年 |
| センチュリオンホテル&スパクラシック出雲 | 93 | 2021年 |
| (仮称)ホテルルートインGrand出雲 | 244 | 2027年以降(予定) |
出典:メトロエンジンリサーチ(施設マスター・OTA掲載確認ベース、N=9施設)、ルートインホテルズ公式サイト
出雲市駅周辺の大型ホテルは、2001年の出雲グリーンホテルモーリスとツインリーブスホテル出雲、2005年の東横INN出雲市駅前、2010年のスーパーホテル出雲駅前、2014年のグリーンリッチホテル出雲、2017年のドーミーイン出雲、2021年のセンチュリオンホテル&スパクラシック出雲と、おおむね3〜4年に1軒のペースで積み上がってきた。全国チェーンが駅前に集積することで、出張客にも参拝客にも「駅前に泊まれば困らない」という選択肢の厚みが形成されており、東横INN出雲市駅前(136室)のように20年にわたって駅前の宿泊需要を受け止めてきた施設の存在が、出雲市駅前をビジネス・観光双方の宿泊拠点として定着させた土台といえる。
半径8km圏の客室数は2017年に段差 — 以降は横ばい
時系列で見ると、出雲市中心部(半径8km圏)の客室数は2012年の1,295室から2016年の1,476室まで緩やかに増えたのち、2017年に2,106室へと一段高くなった。この年にはドーミーイン出雲(185室)に加え、出雲大社門前のお宿 月夜のうさぎ(100室)といにしえの宿 佳雲(60室)が開業している。2017年以降は2026年の2,245室まで、施設数は42から59へ増えたものの客室数はほぼ横ばいで推移してきた。増えたのは古民家宿やゲストハウスといった小規模施設であり、100室超の供給は2017年を最後に途絶えている。244室の投入は、2017年以来の段差になる。
出典:メトロエンジンリサーチ(OTA掲載確認ベース、半径8km圏・各年末時点で開業済かつ閉館前の施設、N=59施設)
実測ADR — 出雲市コホートの推定成約ADRは直近12ヶ月平均で約¥8,600
価格水準を確認する。出雲市コホートのうち推定成約ADRを算出できる検証済カテゴリ(ビジネス・シティ・リゾート・旅館)22施設の中央値は、2025年10月から2026年9月までの12ヶ月平均で約¥8,600であった。2025年7月以降の月別では2025年8月の¥10,200と11月の¥10,200が山、2026年6月の¥7,600が谷となっており、お盆と神在月(旧暦10月、2025年は11月下旬〜12月上旬)に需要が集中する出雲らしい季節性が表れている。前年同月比では2026年7月が−12.2%(¥7,700)、8月が−1.3%(¥10,100)、9月が+8.2%(¥9,000)と月によってばらつきがあり、通年で一方向に動いているわけではない。
比較対象として島根県全体のビジネスホテル(N=54〜57施設)の推定成約ADRを並べると、2026年7月¥7,400(前年同月比+1.5%)、8月¥7,900(+2.2%)、9月¥7,500(+4.2%)と、県全体のビジネスホテルは前年を小幅に上回る推移だった。出雲市コホートが旅館を含むため水準は県ビジネス平均を上回るが、駅前大型ホテル9施設だけを取り出した直近12ヶ月平均は約¥6,600〜¥15,500に分布し、その中央値は約¥8,500(N=9)である。温泉大浴場を備えた施設が上位に、素泊まり中心の施設が下位に位置する構図で、Grand出雲が大浴場付きの大型タイプとして参入する場合、この分布の中位から上位のレンジを取りにいく価格ポジションが想定しやすい。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(出雲市コホート・検証済カテゴリN=21〜22施設の中央値。2026年10月以降は調査時点の掲載水準に基づく推定)
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(島根県ビジネスホテル N=50〜57施設の中央値。2026年10月以降は調査時点の掲載水準に基づく推定)
先行きの掲載水準にも目を向けると、2026年10月・11月の出雲市コホートは¥12,700・¥14,200、県ビジネスホテルは¥11,600・¥12,000と、神在月を含む秋の掲載価格は直近の実績月を大きく上回る水準で出ている。これは調査時点でOTAに掲載されている価格に基づく推定であり、チェックイン日が近づくにつれて変動する点に留意が必要だが、出雲の価格が秋に跳ねる構造は昨年も同じであった(詳細は島根県ホテル市場の4層ADR構造を参照)。244室が加わったときに吸収余地が最も大きいのはこの秋のピーク帯であり、逆に年明けから梅雨期までの単価が¥8,000前後に落ちる期間をどう埋めるかが、新規・既存を問わず市内ホテルの共通テーマになる。
稼働率は県全体で85%前後 — 需要は過去最高水準で推移
需給の現状を稼働面から確認すると、島根県全体の稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)は2026年8月が86.2%(対象135施設・5,333室)、9月が85.2%(対象146施設・6,287室)であった。ビジネスホテルに限ると8月85.2%(25施設・2,890室)、9月85.1%(30施設・3,427室)と、県全体とほぼ同水準で推移している。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり施設全体の実稼働率とは異なるが、夏から初秋にかけて県内の販売在庫は8割半ばまで消化されており、販売可能な客室に余裕があるとは言いにくい状況だった。
需要側の公的統計もこれを裏づける。出雲市の「令和6年度 出雲市観光動態調査」によれば、2024年(令和6年)の市内延べ宿泊客数は約85.2万人泊で前年比+1.4%、令和元年比では+7.2%と過去最高を更新した。島根県の2025年観光動態調査結果速報では、県全体の宿泊客延べ数は360万人泊で前年から2万人泊の減少となった一方、出雲地域は278万1千人泊で前年比+2.0%と増加を保ち、外国人宿泊客延べ数は11万2,689人泊と前年から2万5,529人泊増えている。県全体がやや減るなかで出雲地域が伸びているという構図は、出雲市内への新規供給が需要の伸びている場所に向かっていることを意味する。
244室を需要側の単位に置き直してみる。年間の販売可能室夜数は244室×365日=89,060室夜で、仮に通年稼働80%・1室平均1.3人で埋まると約9.3万人泊に相当する。2024年実績の約85.2万人泊に対して約11%、市が掲げる100万人泊目標までの差分(約15万人泊)に対しては6割強を1施設で引き受ける規模だ。これはあくまで仮定計算だが、新規供給が目標達成の受け皿として機能するか、既存施設との間で需要を分け合う形になるかは、開業後の需要増分が年率1〜2%の現行ペースにとどまるのか、インバウンドを含めて加速するのかに左右されるといえる。
この仮定計算は稼働の置き方で幅が出るため、通年稼働を70%・80%・90%の3通りに置いた場合を並べておく。いずれも1室平均1.3人という仮定は共通で、事業者の計画値ではない。
| 通年稼働の仮定 | 年間販売室夜 | 延べ宿泊換算 | 2024年実績(約85.2万人泊)比 | 100万人泊までの差分(約14.8万人泊)比 |
|---|---|---|---|---|
| 70% | 62,342室夜 | 約8.1万人泊 | 9.5% | 55% |
| 80%(本文の仮定) | 71,248室夜 | 約9.3万人泊 | 10.9% | 63% |
| 90% | 80,154室夜 | 約10.4万人泊 | 12.2% | 70% |
出典:出雲市「令和6年度 出雲市観光動態調査」の2024年延べ宿泊客数をもとにホテルバンク編集部試算(仮定計算)
ルートインの山陰・西日本での開業計画 — 公表値の並列整理
Grand出雲を単独の案件として見るより、ルートインホテルズが公式に掲載している開業計画と並べて眺めた方が、同社の山陰・西日本における動きが読み取りやすい。島根県内では益田(2019年5月開業)、浜田駅前、松江の3軒に加え、2025年7月25日に「ホテルルートイン東松江-東出雲インター-」(189室)が開業し、県内4軒目となった。東松江は計画段階では「ホテルルートイン松江第2」の仮称で告知されていた施設で、山陰自動車道の東出雲ICに近い国道9号沿いという立地である。なお公式サイトおよび開業時の告知を照合すると、松江第2は東松江として既に開業済みであり、別途の松江市内新規計画は現時点で公表されていない。
| 施設名 | 所在地 | 客室数 | 開業・完工時期(公表ベース) | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| ホテルルートイン東松江-東出雲インター- | 島根県松江市東出雲町 | 189 | 2025年7月25日 開業 | 計画時仮称「松江第2」。RC造8階・延床4,985㎡ |
| ホテルルートインGrand出雲 | 島根県出雲市(工事名称ベースで中野町) | 244 | 2027年以降 | 公式サイト掲載。所在地・開業月は未記載 |
| ホテルルートインGrand高知 | 高知県高知市はりまや町 | 232 | 2027年以降 | 地元報道では2026年4月1日着工・2028年3月31日完工予定(当初2025年7月着工予定から変更) |
| ホテルルートインGrand大津 | 滋賀県大津市 | 333 | 2027年以降 | 公式サイト掲載。併設飲食店(名称未定)も掲載 |
| グランヴィリオリゾート富良野 | 北海道富良野市下御料 | 200 | 2027年以降(建築計画では2027年12月31日完工予定) | 建築物動態統計:10階・延床13,000㎡ |
出典:ルートインホテルズ公式サイト「新規オープンホテル一覧」(2026年7月10日更新)、国土交通省「建築物動態統計調査」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成、地元報道
公式サイトが2026年に開業済みとして掲載する施設も並べると、旭-千葉九十九里-(4月29日)、Grand佐久-佐久平駅南-(6月22日)、松山北(7月17日)、神戸三田-新三田駅前-(9月14日)、愛知東郷(9月16日)と、年5軒のペースで開業が続いている。国土交通省「建築物動態統計調査」でルートインジャパンが施工主体となる案件を抽出すると、京都府久御山町(224室・2025年3月完工予定)、茨城県下妻市(197室・2025年9月完工予定)、兵庫県丹波篠山市(105室・2025年12月完工予定)、富良野(200室・2027年12月完工予定)が確認でき、200室前後の「Grand」タイプと100〜190室の標準タイプを地方都市に並行して投入する展開が読み取れる。Grand出雲の244室は、これらと比べても大きい方の規模に属する。なお建築計画ベースの件数は調査時点での確認申請に基づくものであり、今後の申請追加で増える見込みの下限値として参照されたい。全国の2027年開業予定案件は2027年開業予定ホテル34件・5,028室の一覧で整理している。
市内の他の計画と立地の商圏 — 需給は市場全体で見る
出雲市内でGrand出雲以外に公表されている計画としては、ベッセルホテル開発が2026年5月に発表した「ベッセル出雲大社町ホテル(仮称)」がある。出雲市大社町杵築東に107室、天然温泉大浴場とベッセルホテルズ初の夕食ビュッフェを備え、2028年1月竣工・2028年春開業を予定する。駅前のGrand出雲と門前町のベッセルを合わせると351室で、既存2,734室に対して+12.8%、ホテル業態1,727室に対しては+20.3%の増分となる。山陰中央新報が伝えた「少なくとも3事業者」のうち2件がここで姿を見せている計算だ。
隣接する松江市でも、2025年7月の東松江(189室)に続き2026年8月6日にダイワロイネットホテル松江駅前(208室)が開業しており、出雲・松江を合わせた山陰中央部では2025〜2028年にかけて700室超の大型供給が連続する。この規模の供給が加わるとき、価格形成は個別チェーンの話ではなく市場全体の需給として動く。既存の駅前ホテル群はそれぞれ無料朝食、温泉大浴場、サウナ付き客室、低価格帯といった異なる強みで客層を分け合ってきた。新規供給が増える局面では、その分化がいっそう進むか、あるいは価格帯が重なる層で調整が起きるかが焦点になるが、いずれにしても出雲地域の宿泊需要が伸び続けているという前提が各施設の収益機会を支えることになる。新規開業が既存市場の単価にどう作用したかは、新規開業はADRを下げない — 2026年夏4市場の検証で実測値を確認できる。
出典:メトロエンジンリサーチ(出雲市コホートのうち20室以上の掲載施設 N=28)。Grand出雲の位置は中野町の町域中心を便宜的に表示
立地面では、工事名称ベースで伝えられる中野町は出雲市駅から北東へ約2km、国道9号と一畑電車北松江線に近い市街地で、駅前ホテル群とは徒歩圏でつながらない距離にある。総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査(2021年)」で中野町周辺の半径1.5km圏を見ると、事業所数860・従業者数6,987人・オフィス系従業者比率17.3%で、出雲市駅から半径1km圏(事業所1,016・従業者11,639人・オフィス系比率11.9%)と比べて従業者の絶対数は少ないものの、オフィス系の比率は高い。これは出雲市駅前が商業・サービス主体の商圏であるのに対し、中野町周辺は事務所系の就業地を含む商圏であることを示しており、車利用の出張客を取り込む幹線道路型のビジネスホテルという、ルートインが得意としてきた立地類型に近いと読める。駅前集積型の既存ホテル群と商圏の重なりが部分的である点は、供給インパクトを割り引いて見る材料になる。
投資家・運営者への示唆
投資家にとっての論点は、出雲市が「需要が伸びている地方都市に、2017年以来の大型供給が重なる」局面に入るという一点に集約される。244室(ベッセルを含めれば351室)という増分は、市内ホテル客室の14〜20%に相当し、需要が年率1〜2%の現行ペースで伸び続けた場合、吸収には数年単位の時間を要する規模である。一方で出雲地域は県全体が微減するなかでも宿泊客を伸ばし、県全体の外国人宿泊客も前年比+29%と加速しており、2028年以降の需要曲線が現行ペースを上回る余地もある。既存施設の取得や運営受託を検討する立場であれば、2027〜2028年の供給投入時期をまたいだ稼働・単価のシナリオを複数置き、神在月を含む秋のピーク帯の取り込みと、冬〜梅雨期の底上げを分けて評価することが現実的だろう。
運営者にとっては、供給増の局面はむしろ自施設の強みを価格に反映させる機会として捉えたい。出雲市コホートの推定成約ADRは直近12ヶ月平均で約¥8,600、駅前大型9施設の分布は約¥6,600〜¥15,500と幅があり、温泉大浴場や食事、客室の広さといった付加価値が単価差として既に表れている。新規施設が大浴場付きの大型タイプとして参入するなら、同じ要素で競うよりも、駅前立地の徒歩利便性、参拝客向けの早朝・夕方の動線、連泊やインバウンド向けのプラン設計など、立地と客層に根ざした差別化を先回りで打ち出す方が収益機会は大きい。供給が増える前の2026年秋〜2027年は、既存施設が自らの価格ポジションを固め、固定客を積み上げる期間として活用できる時間である。
まとめ
(仮称)ホテルルートインGrand出雲について現時点で公表ベースで確定しているのは、244室という規模と「2027年以降」という開業時期のみであり、所在地や開業月は公式には未記載である。この244室は出雲市の掲載施設2,734室の8.9%、ホテル業態1,727室の14.1%、駅前大型9施設1,297室の18.8%に相当し、2017年以来途絶えていた100室超の供給を再開させる案件になる。需要側は出雲市の延べ宿泊客数が過去最高を更新し、島根県全体が微減するなかで出雲地域が伸びている状況にあり、県内の稼働率(推定)は85%前後で推移している。ルートインは東松江(2025年7月)に続いてGrand出雲、Grand高知、Grand大津、富良野と200室以上の計画を公表しており、Grand出雲はその一連の展開の中で捉えるべき案件である。開業時期は公式発表の更新を追いながら、市場全体の需給として供給インパクトを見積もるのが、投資家・運営者双方にとって妥当な姿勢といえる。
⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事で2026年10月以降として示したADRは調査時点でOTAに公開されている販売価格に基づく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。現時点で高く設定されている価格が直前の調整で下落する可能性がある点にご留意ください。また開業予定・客室数・完工時期はいずれも公表時点の計画であり、事業者の発表により変更される場合があります。
よくある質問
Q. ホテルルートインGrand出雲の客室数と開業時期は?
A. ルートインホテルズ公式サイトの「新規オープンホテル一覧」(2026年7月10日更新)では、客室数244室・開業時期「2027年以降」と掲載されています。開業月は記載がなく、予定は変更になる場合があると注記されています。
Q. 建設地はどこですか?
A. 工事名称・現地情報ベースでは出雲市中野町とされていますが、公式ページには現時点で所在地の記載がありません。本稿では中野町を工事名称ベースの情報として扱っています。
Q. 244室は出雲市の客室供給に対してどの程度の規模ですか?
A. メトロエンジンリサーチが把握する出雲市内の掲載施設143施設・2,734室に対して+8.9%、ホテル業態23施設・1,727室に対して+14.1%、客室数90室以上のホテル業態9施設・1,297室に対して+18.8%です(2026年10月4日時点。OTA未掲載の施設は含みません)。
Q. 出雲市のホテルの価格水準はどのくらいですか?
A. 出雲市コホートのうち検証済カテゴリ22施設の推定成約ADR(中央値)は、2025年10月から2026年9月までの12ヶ月平均で約¥8,600です。お盆の8月と神在月を含む11月が高く、6月が低い季節性があります。
Q. 出雲市内でほかに公表されているホテル計画はありますか?
A. ベッセルホテル開発が「ベッセル出雲大社町ホテル(仮称)」(107室、2028年春開業予定)を公表しています。Grand出雲と合わせると351室で、既存2,734室に対して+12.8%の増分になります。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
メトロエンジンリサーチの施設・価格・在庫データ(出雲市コホート N=143施設・2,734室、2026年10月4日時点/推定成約ADRは出雲市コホート N=21〜22施設・島根県ビジネスホテル N=50〜57施設の中央値/稼働率は島根県の2026年8月 N=135施設・9月 N=146施設、OTA掲載在庫ベースの推定)、ルートインホテルズ公式サイト、出雲市・島根県の観光統計、国土交通省「建築物動態統計調査」、総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査(2021年)」。
■ 試算前提
供給増分は244室を各母集団の客室数で割った単純比で、開業までの既存施設の閉館・改装・増室は織り込んでいない。需要換算は244室×365日=89,060室夜に通年稼働70〜90%・1室平均1.3人を置いた仮定計算であり、事業者の計画値ではない。地図上のGrand出雲の位置は中野町の町域中心を便宜的に示したもの。
■ 限界・留意点
出雲市コホートはOTA掲載が確認できる施設に限られ、未掲載の旅館・民宿・簡易宿所は含まない。推定成約ADRと稼働率は推定値で、各施設の実際の成約価格・実稼働率とは異なる。2026年10月以降のADRは調査時点の掲載水準に基づく推定で、今後変動する。客室数・開業時期は公表時点の計画であり、建築計画ベースの件数は確認申請に基づく下限値である。
■ 参考資料
- ルートインホテルズ「新規オープンホテル一覧(直近のオープン情報)」(最終更新 2026年7月10日)
- ルートインホテルズ「島根県のホテル一覧」
- 山陰中央新報「出雲市でホテル進出計画続々 宿泊客数100万人計画に期待 競争過熱に懸念の声も」(2025年4月8日)
- トラベルWatch「『ホテルルートイン東松江』開業。東出雲ICから3分、大浴場は松江しんじ湖温泉使用」(2025年7月)
- ルートインジャパン プレスリリース「【島根県】ホテルルートイン東松江 7月25日(金)開業!」(PR TIMES)
- 運輸・施設情報「【松江】『ホテルルートイン東松江』2025年7月25日オープン予定」(仮称「松江第2」からの名称変更を記載)
- 号外NET高知市「『ホテルルートインGrand高知』の建設がついに開始!工事完了は2028年3月を予定」(2026年5月3日)
- トラベルWatch「『ベッセル出雲大社町ホテル(仮称)』2028年春開業。天然温泉とサウナ、初の夕食ビュッフェ付き」(2026年5月20日)
- 出雲市観光交流部観光課「令和6年度 出雲市観光動態調査業務 報告書」(令和7年3月)
- 観光経済新聞「島根県 2025年観光動態調査結果速報を公開 宿泊客延べ数は前年比2万人泊減」(2026年3月)
- 国土交通省「建築物動態統計調査」(計画中ホテル案件:施工主体ルートインジャパン株式会社の抽出)
- 総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査(2021年)」(半径圏の事業所数・従業者数、境界は国勢調査2020小地域)
- メトロエンジンリサーチ — 出雲市コホート(住所に出雲市を含む掲載施設 N=143施設・2,734室、2026年10月4日時点)、推定成約ADR(出雲市コホート N=21〜22施設、島根県ビジネスホテル N=50〜57施設)、稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定、島根県 2026年8月 N=135施設/9月 N=146施設)、半径8km圏の客室数時系列(N=59施設)
