2026年5月の訪日外客数は、韓国と台湾が牽引する一方で中国が大幅に減少するという、市場構成の転換を鮮明にした。こうしたインバウンド需要の質を「どの国が日本のどんな体験を評価しているか」という視点で読み解くと、日本の温浴文化——大浴場・露天風呂・サウナ——が特定の国・地域から強く支持されている構図が浮かび上がる。本稿では、宿泊者口コミを言語別に集計し、温浴体験がどの市場から評価され、その需要を地方の温泉地がどう受け止めているかを地理データとともに読み解く。
本記事における指標・データの定義
- 温浴体験の言及率:宿泊者口コミを言語別(英語・繁体字・簡体字・韓国語・日本語)に集計し、口コミ全体に占める各温浴タグ(大浴場・共用露天風呂・サウナ)への言及の割合。★評価スコアではなく、その体験に「触れた口コミの多さ」を示す。
- 大浴場=共用の大きな室内浴場、露天=共用の屋外風呂(客室専用露天は含まない)、サウナ=サウナ・水風呂・外気浴。
- 供給の厚み:メトロエンジンリサーチが把握する範囲で、各温泉地の中心座標から半径6km圏内に立地する宿泊施設数・客室数。
- データ出典:口コミ集計=ホテルバンク編集部調べ(NLP解析、直近24ヶ月)/訪日外客数=日本政府観光局(JNTO)/供給データ=メトロエンジンリサーチ。
- — 韓国+15.2%・台湾+14.6%が2026年5月訪日を牽引し、中国▲60.4%の反動を19市場が補う市場転換が鮮明に。
- — 口コミ言語別集計では、大分で韓国語9.29%・台湾8.58%が共用露天に言及し、日本語9.64%にほぼ並ぶ。岐阜では韓国語10.96%が日本語を上回る。
- — 都市部では温浴タグが言及率上位30位圏外。大浴場・露天は「地方の温泉地でこそ効く差別化資産」という非対称性が明確。
- — 別府(333施設・約9,000室)・由布院(339施設)を筆頭に、草津・下呂・登別が需要を受け止める供給の厚みを備える(半径6km圏)。
- — 韓国語の「丁寧な接客」言及率は大分で35.5%。温浴体験と多言語対応の受け入れ品質が地方温泉地の評価を下支えする。
2026年5月、市場は「韓国・台湾牽引」へ——中国減は新市場への転換機会
日本政府観光局(JNTO)によると、2026年5月の訪日外客数は3,559,900人となり、前年同月比3.6%減と2ヶ月連続で前年を下回った。しかしながら、その内訳を見ると単純な減速ではない。韓国が951,300人(前年比+15.2%)、台湾が616,800人(同+14.6%)と力強く伸び、韓国・台湾・米国・マレーシアなど19市場が5月として過去最高を記録している。
全体を押し下げたのは中国で、313,000人(前年比▲60.4%)と大きく落ち込んだ。渡航自粛の呼びかけや航空便の減便が背景にあるとされる。ただし、これは日本の受け入れ側にとって「特定市場への依存を薄め、支持の厚い市場へと軸足を移す転換機会」と読み替えることができる。実際、伸長している韓国・台湾は、後述する温浴文化への評価が際立って高い市場であり、地方温泉地にとっては受け皿を厚くする追い風となる。こうした中国減の裏で地方の需要が底堅く推移する構図は、JNTO4月データで読む「中国減でも上昇する地方ADR」の分析とも軌を一にしている。
出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2026年5月推計値)」よりホテルバンク編集部作成
口コミが示す「温浴文化を評価する国」——韓国・台湾が日本人並みに露天へ言及
宿泊者口コミを言語別にNLP解析し、温浴タグ(大浴場・共用露天風呂)への言及率を集計すると、明快な傾向が見えてくる。温泉地を抱える大分県・岐阜県では、韓国語・繁体字(台湾)の口コミが、日本人(日本語)とほぼ同水準か、それを上回る頻度で露天風呂に言及しているのだ。
大分県(別府・由布院など)では、韓国語の口コミの9.29%、繁体字の8.58%が共用露天風呂に触れており、日本語の9.64%にほぼ並ぶ。岐阜県(下呂など)に至っては、韓国語の露天言及率が10.96%と、日本語の9.41%を上回る。北海道(登別など)でも韓国語は大浴場4.92%・露天3.41%と、他言語より一段高い。つまり、日本の温浴文化を「わざわざ口コミに書きたくなるほど評価している」のは、都市観光ではなく温泉地に足を運ぶ韓国・台湾の旅行者だといえる。こうした露天風呂への評価がどのように高まってきたかは、猛暑下で伸びる『露天風呂』言及の口コミトレンド分析が時系列で掘り下げている。
出典:ホテルバンク編集部調べ(NLP解析、直近24ヶ月・言語別口コミ)
一方で、東京・京都・大阪といった都市部では、これらの温浴タグは言及率上位30位に入らない。都市の宿では立地や接客が語られ、温浴体験そのものは前景化しにくい。裏を返せば、大浴場・露天という体験は「地方の温泉地でこそ真価を発揮する差別化要素」であり、その需要を評価している市場が明確に存在するということだ。
| エリア | 言語 | 大浴場 | 露天 | 分析口コミ数(N) |
|---|---|---|---|---|
| 大分(別府・由布院) | 韓国語 | — | 9.29% | 3,606 |
| 大分(別府・由布院) | 繁体字(台湾) | — | 8.58% | 2,388 |
| 大分(別府・由布院) | 日本語(参考) | 3.14% | 9.64% | 40,628 |
| 岐阜(下呂) | 韓国語 | 3.73% | 10.96% | 885 |
| 岐阜(下呂) | 繁体字(台湾) | — | 7.96% | 1,771 |
| 岐阜(下呂) | 日本語(参考) | 3.54% | 9.41% | 38,104 |
| 北海道(登別) | 韓国語 | 4.92% | 3.41% | 9,641 |
| 北海道(登別) | 日本語(参考) | 3.37% | 4.75% | 170,345 |
出典:ホテルバンク編集部調べ(NLP解析、直近24ヶ月)※「—」は言及率上位30位圏外
サウナ——「ととのう」文化は都市・地方の双方に広がる成長余地
大浴場・露天が温泉地の主役だとすれば、サウナは業態を横断して広がりつつある新しい温浴カテゴリだ。宿泊者口コミでサウナ・水風呂・外気浴(ととのう含む)への言及率が高い施設を全国で見ると、都市部のカプセル・ホテル業態から地方のリゾートまで多彩に分布している。専用施設ではサウナへの言及が口コミの過半を占める例もあり、「サウナ目的で宿を選ぶ」という需要層が確立しつつあることがうかがえる。
この「ととのう」文化は、言葉の壁を越えて体験できる点で、多言語対応の負荷が相対的に低い温浴商品でもある。露天風呂とサウナを組み合わせた外気浴の導線は、地方の温泉宿が既存の湯を活かしつつインバウンド訴求を強化できる、伸びしろの大きい領域だといえる。サウナを備える宿がどの業態・エリアに希少に分布しているかは、客室サウナ搭載宿の希少度・全国マップ2026で詳しく可視化している。
需要を受け止める地方の厚み——別府・由布院・草津・下呂・登別
温浴文化への評価が韓国・台湾を中心に厚いことは分かった。では、その需要を地方はどれだけの供給で受け止められるのか。主要温泉地の中心から半径6km圏の供給を集計すると、受け皿としての層の厚さが地域ごとに際立つ。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(円サイズ=施設数、半径6km圏)
大分の別府(半径6km圏で333施設・約9,000室)と由布院(339施設・約2,550室)は、施設数で群を抜く。共用露天への言及が韓国・台湾で日本人並みに高い大分は、需要と供給がかみ合う代表格だ。群馬・草津(222施設・約3,860室)、栃木・鬼怒川(80施設・約3,700室)は関東圏からのアクセスに加え、まとまった客室数を備える。岐阜・下呂(73施設・約2,340室)、北海道・登別(40施設・約2,230室)は施設数こそ絞られるが、温泉街としての集積が明確だ。熊本・黒川(130施設)、兵庫・城崎(179施設)のように、小規模宿が数多く集まる「面としての受け皿」を持つエリアもある。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(半径6km圏)
訪日需要が都市に集中しがちな中で、温浴文化を強く評価する韓国・台湾の伸長は、こうした温泉地への分散を後押しする構造的な追い風となる。都市部で言及率上位に入らない大浴場・露天が、地方では明確な集客資産となる——この非対称性こそ、地方分散の受け皿を厚くする起点だといえる。
多言語対応の実感——「丁寧な接客」がインバウンド評価を支える
温浴という非言語的な体験に加えて、地方温泉地のインバウンド評価を支えているのが接客だ。同じ言語別口コミで接客タグを見ると、韓国語・繁体字の口コミでは「丁寧な接客」への言及が非常に高い。大分では韓国語の35.5%、繁体字の25.0%が丁寧な接客に触れており、日本人以上に接客の質を評価している。岐阜でも繁体字の口コミでは「英語対応」が言及に上がるなど、多言語対応の実感が評価に結びついている様子がうかがえる。
出典:ホテルバンク編集部調べ(NLP解析、直近24ヶ月・言語別口コミ)
温浴という体験価値と、丁寧な接客・多言語対応という受け入れ品質。この二つが揃う地方温泉地は、韓国・台湾を中心とした需要をさらに取り込む余地が大きい。中国市場の一時的な落ち込みを、支持の厚い市場と地方への分散という前向きな転換として捉えるなら、大浴場・露天・サウナという日本固有の温浴資産を磨くことは、地方分散の受け皿を厚くする最も確度の高い成長戦略のひとつだといえる。
まとめ
2026年5月のJNTO統計は、韓国(+15.2%)・台湾(+14.6%)の牽引と中国(▲60.4%)の減少という市場転換を示した。宿泊者口コミの言語別集計を重ねると、日本の温浴文化を最も強く評価しているのは、まさにこの伸長市場である韓国・台湾であり、大分・岐阜・北海道といった温泉地では共用露天への言及が日本人並みに高いことが確認できた。別府・由布院・草津・下呂・登別に代表される温泉地は、こうした需要を受け止めるだけの供給の厚みを備え、丁寧な接客・多言語対応がその評価を下支えしている。中国減という数字を新市場への転換機会と読み替え、温浴という差別化資産と地方の受け皿を結び付けることが、これからの地方分散と成長余地の鍵を握るといえるだろう。
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参考資料・出典一覧
- 日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2026年5月推計値)」(2026年6月17日)
- トラベルボイス「訪日外国人数、2026年5月は前年比3.6%減、19市場で過去最多」(2026年6月17日)
- やまとごころ.jp「2026年5月訪日客数3.6%減の356万人、中国前年割れ続くも19市場が好調」
- ホテルバンク編集部調べ(宿泊者口コミのNLP解析、直近24ヶ月・言語別集計)— 大浴場・露天・サウナ・接客タグの言及率
- メトロエンジンリサーチ — 温泉地別の供給(施設数・客室数、半径6km圏)
