TRUNK(HOTEL)が東京以外で初めて手がけるホテル「TRUNK(HOTEL) SAPPORO」は、2027年9月17日に札幌市中央区南2条西4丁目の「札幌ダイビル」上層階で開業する。客室は107室で、うちスイートが18室(スパスイートを含む)。18階にはブランド初のスパ「TRUNK(BATH HOUSE)」、10階には札幌初出店となる「鮨さいとう」とオールデイダイニング、ラウンジ&バー、チャペル、宴会場が入る。客室数に対して料飲・スパ・宴会の床が大きい、典型的な「客室外収益型」のライフスタイルホテルである。
本稿はこの1案件を起点に、大通エリアで「料飲とスパが客室単価と客室外収益の両方を押し上げる型」がどこまで成り立つかを検証する。結論を先に置くと、南2条西4丁目から半径1.5km圏で推定成約ADRを12か月通して算出できる137施設のうち、12か月平均が3万円を超えるのは2施設、5万円を超える施設はゼロである。107室クラスの中規模で上位価格帯を取りにいく器は、この商圏にまだ存在しない。一方で、料飲の言及が多い施設群は単価の中央値が15.6%高く、料飲とスパの両方が語られる13施設では26.0%高い。この差を前提に、107室の簡易GOP試算とオフィス賃料換算の比較まで進める。
既刊との線引き:札幌については、札幌『秋の開業』と客室供給2026-2029 ― 高単価帯で札幌全体の供給と高単価帯を、札幌パークホテル216室の2027年2月末閉館を扱った記事で中島公園1km圏を、札幌・中央区は7年で9,654室増でリブランド事例を扱ってきた。本稿はそれらと異なり、大通の単一案件を起点に、料飲・スパを抱える複合型ホテルの採算構造を扱う。TRUNKの札幌案件を主題にした記事は当社では本稿が初めてとなる。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価)=各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
- OCC(稼働率)=エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値、REIT月次公表値との整合性検証で概ね数pt 程度の精度を確認済)。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。
- ブッキングカーブ=チェックイン日に向けたOTA残室数の推移。LT(リードタイム)=チェックイン日までの日数。本稿ではLT45〜LT1のみを使用しています。
- 早期完売=宿泊日の前日(LT1)時点で残室が0室であること。宿泊日の45日以上前から完売していたものは具体的な日数を示さず「45日以上前から完売」と表記します。
- 掲載価格に言及する箇所は2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング
- — 2.4倍の季節振幅:札幌市中央区の推定成約ADRは2026年2月20,600円、4月8,600円。客室だけで稼ぐモデルは閑散月の落ち込みをそのまま受ける。
- — 上位価格帯の空白:半径1.5km圏137施設・27,046室のうち、推定成約ADRの12か月平均が3万円超は2施設757室。50〜250室の中規模で3万円を超える施設はない。
- — 料飲・スパと単価の相関:宿泊者口コミ143,163件の集計で、料飲・スパの両方が多く語られる13施設は単価中央値18,400円、その他122施設は14,600円。
- — 簡易GOP試算:推定ADR45,100円・通年OCC72%・客室売上比率50%の基本ケースで、総売上25.4億円・GOP6.9億円(GOP率27.3%)。
- — ホテル床とオフィス床:基本ケースのGOP6.9億円は、南1条以南の坪賃料9,785円で約5,900坪、大通公園周辺の14,702円で約3,900坪分のオフィス賃料に相当する(GOPは運営報酬・FF&E積立・固定資産税を差し引く前)。
TRUNK(HOTEL) SAPPOROの計画概要 — 107室に対して料飲・スパ・宴会の床が大きい
まず一次情報を整理する。株式会社TRUNKが2026年8月28日に公表したプレスリリースによると、TRUNK(HOTEL) SAPPOROは地上19階・地下2階の札幌ダイビルのうち10階から18階を使う。客室は13〜18階の107室で、スタンダード89室とスイート18室の構成である。想定客室料金は1室6万〜60万円と公表されている。
客室以外の床の厚さが、この案件の性格を決めている。10階にはレセプション、鮨さいとう、オールデイダイニング、ラウンジ&バー、チャペル、宴会場、プライベートスタジオが集まる。11〜12階は宴会場、18階は全長約40mの水路と10種類のバスコンテンツ・サウナ・外気浴スペースを備えるスパ「TRUNK(BATH HOUSE)」とジムである。つまり9フロアのうち、客室だけのフロアは13〜17階の5フロアにとどまる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | TRUNK(HOTEL) SAPPORO |
| 開業 | 2027年9月17日(金)予定 |
| 所在地 | 札幌市中央区南2条西4丁目 札幌ダイビル(大通駅・地下街直結) |
| 建物 | 地上19階・地下2階、延床面積約42,000㎡(約12,700坪)、2027年4月竣工予定。上層ホテル・中層オフィス・下層商業 |
| 客室 | 107室(スタンダード89室・スイート18室〈スパスイート含む〉)、13〜18階 |
| 想定客室料金 | 1室6万〜60万円(公表値) |
| 料飲 | 鮨さいとう(札幌初出店)、オールデイダイニング、ラウンジ&バー(10階) |
| スパ | TRUNK(BATH HOUSE)(18階):全長約40mの水路、10種類のバスコンテンツ、高温サウナ、水風呂、外気浴スペース |
| 宴会・婚礼 | チャペル(天井高6m)、宴会場3室(10〜12階) |
出典:株式会社TRUNK プレスリリース(2026年8月28日)、ダイビル株式会社「札幌ダイビル再開発プロジェクト」よりホテルバンク編集部作成
スイート比率17%という構成も採算に効く。仮にスタンダードを1室35,000円、スイートを95,000円(いずれも本稿のADRと同じ税抜相当)と置くと、107室の加重平均は45,100円になる。このときスイート18室が客室売上の35.4%を稼ぐ。客室数で2割に満たないスイートが売上の3分の1を担う構造は、当社のスイートの単価倍率を全国50軒で調べた分析とも整合する。なお公表の想定料金6万円は税込・食事条件などの前提が明示されていないため、本稿では下限を税抜相当35,000円に置いた保守的な前提で試算している。
札幌市中央区の単価 — 2月の山と4月の谷で2.4倍、客室だけのモデルは季節を直接受ける
次に、立地する札幌市中央区の単価水準を確認する。メトロエンジンリサーチによると、中央区の推定成約ADRは2025年9月〜2026年8月の12か月平均で14,400円(対象130〜139施設)、前年の同じ12か月(13,000円)から+11.1%上昇した。業態別ではビジネスホテルが13,800円(対象99〜105施設・前年比+9.5%)、シティホテルが19,400円(対象25〜26施設・前年比+10.2%)である。
特徴は季節の振れ幅にある。2026年2月(さっぽろ雪まつり)は20,600円で前年同月比+6.1%、7月は18,100円で+3.9%と夏にもう一つの山ができる。これに対し4月は8,600円まで下がり、2月との差は2.4倍に達する。シティホテルに絞ると2月29,400円に対し4月10,900円で、振れ幅は2.7倍に広がる。8月は16,400円と前年同月比-10.5%で、夏の山は年によって高さが変わる。
札幌市中央区 推定成約ADRの月次推移(年別重ね合わせ)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(対象130〜139施設/月)。2026年9〜12月は調査時点の掲載水準に基づく推定
業態別の推定成約ADR — 12か月平均と2月・4月
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(ビジネスホテル対象99〜105施設、シティホテル対象25〜26施設、2025年9月〜2026年8月)
この振れ幅は客室外収益の意味を変える。客室売上は旅行需要の季節性をそのまま受けるが、鮨店・レストラン・バー・スパ・宴会の売上は、周辺で働く人と住む人の需要でも支えられる。南2条西4丁目から1km圏には事業所11,709か所・就業者169,677人(うちオフィス系32.3%)が集まり、1.5km圏の居住人口は2025年の75,508人から2040年に75,621人と、国の推計で横ばいを保つ。閑散月の客室を補う地元需要の母数が、大通には厚く存在する。
出典:国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口・R6国政局推計)。居住人口であり滞在・通過人口ではない
立地 — 商業地域・容積率800%、隣接標準地の地価は2年で+13.6%
立地条件を国土交通省の不動産情報ライブラリで確認する。対象地の一帯は商業地域(容積率800%・建蔽率80%)で、約100m北の地価公示標準地(南1条西4丁目)は2026年1月1日時点で1㎡744万円、前年比+7.1%。2024年の655万円から2年で+13.6%上昇した。約180m東の標準地(南2条西3丁目)は286万円で前年比+10.0%、約380m北西の大通西6丁目は325万円で+10.2%である。地価の上昇は、上層階をオフィスとホテルのどちらに使うかという判断に直接かかわる(後段で比較する)。
| 地価公示 標準地 | 対象地から | 2024年 | 2025年 | 2026年 | 2026年前年比 |
|---|---|---|---|---|---|
| 南1条西4丁目(商業地・容積率800%) | 約100m | 655万円/㎡ | 695万円/㎡ | 744万円/㎡ | +7.1% |
| 南2条西3丁目(商業地・容積率800%) | 約180m | 230万円/㎡ | 260万円/㎡ | 286万円/㎡ | +10.0% |
| 大通西6丁目(商業地・容積率800%) | 約380m | 270万円/㎡ | 295万円/㎡ | 325万円/㎡ | +10.2% |
出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示・用途地域)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成
ポジショニング — 1.5km圏137施設で、中規模×3万円超の帯が空いている
ここからが本題のポジショニングである。南2条西4丁目から半径1.5km圏にある、ビジネス・シティ・リゾート・旅館・デラックスの各業態で、推定成約ADRを12か月のうち10か月以上算出できた施設は137施設・27,046室だった。この137施設の12か月平均ADRの中央値は14,800円で、最も高い施設でも38,600円である。
| 推定成約ADR(12か月平均) | 施設数 | 客室数 | 客室シェア | 1施設あたり客室(中央値) |
|---|---|---|---|---|
| 1万円未満 | 15 | 1,579 | 5.8% | 99室 |
| 1万〜1.5万円 | 56 | 9,312 | 34.4% | 160室 |
| 1.5万〜2万円 | 37 | 8,493 | 31.4% | 206室 |
| 2万〜3万円 | 27 | 6,905 | 25.5% | 218室 |
| 3万〜5万円 | 2 | 757 | 2.8% | 378室 |
| 5万円以上 | 0 | 0 | 0.0% | — |
| 計 | 137 | 27,046 | 100% | — |
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(南2条西4丁目から半径1.5km、N=137施設、2025年9月〜2026年8月)
客室の71.7%は2万円未満の帯に集まり、3万円を超えるのは2施設757室(2.8%)にすぎない。しかもその2施設はいずれも300室を超える大型施設である。50〜250室の中規模で12か月平均が3万円を超える施設は1.5km圏に存在せず、100室前後の施設で最も高い水準は2万円台後半にとどまる。107室・想定45,100円のTRUNK(HOTEL) SAPPOROは、下の散布図で既存施設のない右上ではなく「中央の上方」に位置する。
客室規模×推定成約ADR ポジショニングマップ(半径1.5km圏)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=137施設、2025年9月〜2026年8月の12か月平均)。★はTRUNK(HOTEL) SAPPOROの本稿試算上の想定位置(公表値ではない)
密集帯:1万〜2万円
93施設・17,805室(客室の65.8%)が集まる。ビジネスホテルが中心で、価格と立地の差で競う帯。
空白帯①:3万円超 × 50〜250室
該当施設はゼロ。料飲・スパで滞在価値を積み上げる中規模ホテルが入る余地がある。
空白帯②:5万円超
1.5km圏では規模を問わず該当なし。スイート比率の高い構成で客室単価の天井を上げる余地。
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=137施設、円の大きさ=客室数、色=推定成約ADRの価格帯)
在庫の消化スピードでも同じ構図が見える。過去の確定日である2026年7月18日(土・海の日の三連休初日)について、中央区で総客室の30%以上をOTA等に掲載していた69施設(観測対象551施設のうちデータのある168施設から抽出)の残室推移を価格帯別に並べた。前日時点で完売していたのは1.5万円未満の帯で24施設中14施設、うち3施設は宿泊日の45日以上前から完売していた。1.5万円以上の帯では17施設中2施設である。
| 推定成約ADR(12か月平均) | 7/18 対象施設 | 7/18 前日完売 | 9/19 対象施設 | 9/19 前日完売 |
|---|---|---|---|---|
| 1.5万円未満 | 24(3,168室) | 14 | 22(3,126室) | 5 |
| 1.5万〜2万円 | 9(2,105室) | 1 | 12(2,699室) | 0 |
| 2万〜2.5万円 | 6(1,477室) | 0 | 7(1,070室) | 1 |
| 2.5万円以上 | 2(387室) | 1 | 3(471室) | 0 |
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング。OTA等の公開枠が総客室の30%以上の施設のみ集計(7/18:観測対象551施設中69施設、9/19:同70施設)。推定成約ADRを算出できないホステル・ゲストハウス等(7/18は28施設、9/19は26施設)は価格帯別の行から除く
推定成約ADR × 宿泊日7日前の推定稼働率(2026年7月18日宿泊)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(中央区、OTA等の公開枠30%以上かつ推定成約ADRを算出できる41施設・7,137室、主要予約サイト掲載ベース)
ここで読み違えてはならないのは、2.5万円以上の帯でOTA等の公開枠が総客室の30%以上の施設が2〜3施設しかない点である。上位価格帯の施設は、公式サイトや旅行会社・法人契約を中心に販売している可能性、チェックインが近づくにつれOTA等に在庫を小出しにしている可能性、OTA等への割当そのものを小さく契約している可能性がそれぞれ考えられ、OTA等の公開データだけではどれが当てはまるかを判別できない。したがって「上位帯は売れていない」とは読めない。言えるのは、上位帯は施設数そのものが薄く、OTA等で観測できる在庫も薄いということである。
エリア全体の予約の進み方も確認しておく。中央区全体(対象98〜107施設/客室14,430〜15,161室、主要予約サイト掲載ベース)の推定稼働率は、7月18日宿泊でLT45時点85.0%からLT1時点97.3%、8月15日(お盆)は66.1%から88.4%、9月19日(土・シルバーウィーク初日)は79.4%から91.6%へ進んだ。業態別では、7月18日のシティホテル(対象14施設/4,118室)がLT45時点で既に91.3%に達し、ビジネスホテル(60施設/9,155室)の82.4%を上回った。単価の高い業態ほど早く埋まる傾向が、ピーク日には明確に出ている。
札幌市中央区 推定稼働率のブッキングカーブ(LT45→LT1)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(中央区全施設。7/18:対象98施設/客室14,430、8/15:102施設/14,856、9/19:107施設/15,161、主要予約サイト掲載ベース)。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なる
料飲・スパは単価を押し上げるか — 口コミ143,163件で見る単価プレミアム
料飲やスパが客室単価そのものを押し上げているかを、宿泊者口コミから確かめる。1.5km圏の137施設のうち、直近24か月の口コミが50件以上ある135施設(計143,163件)について、朝食・夕食・飲料・昼食に関する好意的な言及と、大浴場・露天風呂・サウナ・スパなど入浴施設に関する好意的な言及が口コミ100件あたり何件あるかを数えた。それぞれ上位3分の1(45施設)を「評価群」とし、推定成約ADRの中央値をその他の施設と比べている。
| 比較 | 評価群 | 評価群の単価中央値 | その他 | その他の単価中央値 | 差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 料飲の評価群(100件あたり10.9件以上) | 45施設 | ¥16,372 | 90施設 | ¥14,163 | +15.6% |
| うちビジネスホテル | 32施設 | ¥14,994 | 71施設 | ¥13,906 | +7.8% |
| うちシティホテル | 12施設 | ¥22,470 | 17施設 | ¥19,408 | +15.8% |
| 入浴・スパの評価群(100件あたり27.3件以上) | 45施設 | ¥15,894 | 90施設 | ¥14,163 | +12.2% |
| うちビジネスホテル | 33施設 | ¥15,539 | 70施設 | ¥13,798 | +12.6% |
| うちシティホテル | 10施設 | ¥20,065 | 19施設 | ¥19,408 | +3.4% |
| 料飲と入浴・スパの両方で評価群 | 13施設 | ¥18,359 | 122施設 | ¥14,567 | +26.0% |
出典:ホテルバンク編集部調べ(NLP解析)、メトロエンジンリサーチ&コンサルティング。直近24か月の宿泊者口コミ143,163件・135施設、推定成約ADRは2025年9月〜2026年8月の12か月平均
口コミ評価群別の推定成約ADR中央値
出典:ホテルバンク編集部調べ(NLP解析)、メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=135施設・口コミ143,163件)
料飲と入浴・スパの両方が多く語られる13施設は、客室数の中央値が177室と中規模で、単価の中央値はその他より26.0%高い。業態別に分けても差は残り、料飲の評価はシティホテルで+15.8%、入浴・スパの評価はビジネスホテルで+12.6%と、それぞれ効きやすい業態が異なる。これは相関であって、料飲やスパを加えれば単価がこれだけ上がるという因果を示すものではない。立地・築年・ブランドの差も含まれている。それでも、客室外の体験が語られる施設ほど単価が高いという関係は、TRUNK型の設計思想と同じ方向を向いている。
107室の簡易GOP試算 — 客室売上比率50%で総売上25.4億円、GOP6.9億円
以上を前提に、107室の簡易GOP試算を置く。GOP(営業総利益)は、総売上から客室・料飲・スパの部門費用と管理・販促などの非配賦費用を差し引いた利益で、運営報酬・賃料・固定資産税などを差し引く前の段階を指す。客室売上は107室×365日×OCC×ADRで求め、客室売上が総売上に占める比率(客室売上比率)を3通り置いて、料飲・スパ売上を逆算した。部門利益率は客室72%・料飲25%・スパ35%、管理・販促・水道光熱などの非配賦費用は基本ケースの総売上の22%(約5.6億円)とした。いずれもフルサービス型の一般的な目安として本稿が置いた仮定値であり、TRUNKの計画値ではない。
| 項目 | A. 客室主導 | B. 均衡(基本) | C. 料飲主導 |
|---|---|---|---|
| 売上構成(客室/料飲/スパ) | 60/33/7 | 50/42/8 | 42/48/10 |
| 客室売上(ADR45,100円・通年OCC72%) | 12.7億円 | 12.7億円 | 12.7億円 |
| 料飲売上 | 7.0億円 | 10.7億円 | 14.5億円 |
| スパ売上 | 1.5億円 | 2.0億円 | 3.0億円 |
| 総売上 | 21.1億円 | 25.4億円 | 30.2億円 |
| GOP | 6.7億円 | 6.9億円 | 7.2億円 |
| GOP率 | 31.9% | 27.3% | 23.7% |
| 1室あたりGOP(年) | 630万円 | 647万円 | 670万円 |
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。部門利益率・非配賦費用率は本稿の仮定値(A・Cも非配賦費用は各ケース総売上の22%)
売上構成別の売上とGOP(客室売上12.7億円で固定)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算
客室外の売上比率を上げると、GOP率は31.9%から23.7%へ下がるが、GOPの額は6.7億円から7.2億円へ増える。料飲は利益率が低い一方で売上の絶対額を積み上げるため、客室数が限られる中規模ホテルでは「率を下げて額を取る」構造になる。GOP率の水準は、インヴィンシブル投資法人が開示する運営ホテル91物件の実績38.9%(2024年12月期、宿泊主体の物件が中心)より低い。
より大きいのは客室単価の感度である。非配賦費用を約5.6億円で固定し、売上構成を基本ケースのまま、ADRとOCCを動かした。
| GOP(GOP率) | 通年OCC 65% | 通年OCC 72% | 通年OCC 80% |
|---|---|---|---|
| ADR 35,000円 | 3.2億円(17.9%) | 4.1億円(21.0%) | 5.2億円(23.8%) |
| ADR 45,100円(基本) | 5.7億円(24.9%) | 6.9億円(27.3%) | 8.3億円(29.5%) |
| ADR 55,000円 | 8.2億円(29.3%) | 9.7億円(31.3%) | 11.4億円(33.1%) |
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(売上構成=客室50/料飲42/スパ8、非配賦費用=約5.6億円で固定)
ADRが1万円動くとGOPは2.5〜3.1億円動き(基本ケースの通年OCC72%では2.8億円)、OCCの7〜8pt差(基本ケースのADR45,100円で1.2〜1.4億円)の約2倍の影響がある。先の口コミ分析で、料飲と入浴・スパの両方が語られる施設群の単価は26.0%高かった。料飲・スパの役割は客室外の売上を積むことだけでなく、客室単価そのものを1段上の帯に押し上げることにあり、採算への寄与はむしろ後者のほうが大きい。
上層階をホテルにするか、オフィスにするか — GOP6.9億円はオフィス賃料3,900〜5,900坪分
最後に、複合ビルのオーナーの視点で床の使い方を比べる。三鬼商事によると、2026年8月時点の札幌ビジネス地区の平均賃料は1坪11,371円(空室率4.76%)で、地区別では駅前通・大通公園周辺が14,702円、対象地を含む南1条以南が9,785円である。
| 比較 | 南1条以南の賃料(9,785円/坪) | 大通公園周辺の賃料(14,702円/坪) |
|---|---|---|
| 基本ケースGOP 6.9億円に相当するオフィス面積 | 約5,900坪 | 約3,900坪 |
| ADR35,000円・通年OCC72%のGOP 4.1億円に相当する面積 | 約3,500坪 | 約2,300坪 |
| ADR55,000円・通年OCC72%のGOP 9.7億円に相当する面積 | 約8,200坪 | 約5,500坪 |
出典:三鬼商事「札幌の賃貸オフィスの賃料相場・空室率」(2026年8月)、メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。GOP÷(坪賃料×12か月)で算出
札幌ダイビルの延床は約12,700坪で、ホテルは地上19階のうち10〜18階の9フロアを使う。ダイビルが2023年10月に公表した計画概要では、ホテル部分の延床は約16,000㎡(約4,800坪)とされている。基本ケースのGOPは、大通公園周辺の賃料水準でこの面積の約8割、南1条以南の賃料水準ならこの面積を上回る。
ただし、この比較には注意点が二つある。第一に、GOPは運営者に支払う報酬、FF&E(家具・備品)の積立、固定資産税・保険を差し引く前の数字で、オーナーの手取りはこれより小さい。第二に、ホテル床は水回り・厨房・スパの設備投資がオフィスより大きい。それでも、単価が1段上の帯に乗ればホテル床の稼ぐ力はオフィス賃料を大きく上回りうる。上層階の眺望・静けさ・地下街直結という条件を、オフィスは賃料の差としてしか取り込めないが、ホテルは客室単価と料飲・スパの価格として取り込める。地価の上昇が続く大通で上層階をホテル化する論拠は、この「立地価値の取り込み方の違い」にある。なお、既存のオフィス床をホテルに転用する場合の用途変更手続きと改修費を織り込んだ比較は、オフィスからホテルへの用途変更、成立は5都市中2都市で都市別に試算している。
将来日程のADRに関する注意:本記事の2026年9〜12月の推定成約ADRは調査時点(2026年9月27日)でOTAに公開されている販売価格に基づく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。現時点の価格が直前の値下げ・値上げで変わる可能性がある点にご留意ください。簡易GOP試算は仮定値に基づく概算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。
まとめ — 中規模×上位価格帯の空白を、料飲・スパで取りにいく
札幌市中央区の推定成約ADRは12か月平均14,400円で前年から+11.1%伸びたが、2月と4月の差は2.4倍と季節の振れが大きい。南2条西4丁目から1.5km圏の137施設・27,046室のうち、12か月平均が3万円を超えるのは大型の2施設だけで、50〜250室の中規模で3万円を超える施設はない。107室・スイート比率17%のTRUNK(HOTEL) SAPPOROは、この空いた帯に入る計画である。
口コミ143,163件の集計では、料飲と入浴・スパの両方が語られる13施設の単価中央値がその他より26.0%高かった。簡易試算では、客室売上比率を下げるほどGOP率は下がるがGOP額は増え、ADRの1万円差はOCCの7〜8pt差の約2倍の効果を持つ。1km圏16.9万人の就業者と1.5km圏7.5万人の居住者は、閑散月の料飲・スパを支える母数になる。ライフスタイル型ホテルを検討するデベロッパーや複合ビルのオーナーにとって、大通は「客室単価の天井を料飲・スパで押し上げる」型を試せる、数少ない商圏の一つといえる。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
中央区の推定成約ADRは2024年9月〜2026年12月の月次値(2026年9月以降は調査時点の掲載水準に基づく推定)。1.5km圏のポジショニングは南2条西4丁目(北緯43.057735度・東経141.351959度)から半径1.5kmのビジネス・シティ・リゾート・旅館・デラックス業態のうち、2025年9月〜2026年8月の12か月中10か月以上で推定成約ADRを算出できた137施設・27,046室。在庫データは2026年7月18日・8月15日・9月19日宿泊の確定値で、施設別の集計はOTA等の公開枠が総客室の30%以上の施設に限る。口コミは直近24か月の宿泊者口コミをNLPで解析し、好意的な言及件数を口コミ件数で割った値で施設を3分割した。
■ 試算前提
簡易GOP試算の客室売上は107室×365日×通年OCC×ADRで算出。基本ケースはADR45,100円(スタンダード35,000円・スイート95,000円の加重平均、税抜相当)・通年OCC72%・客室売上比率50%。部門利益率は客室72%・料飲25%・スパ35%、非配賦費用は各ケース総売上の22%(基本ケース約5.6億円、ADR×OCC感度表ではこの額で固定)。いずれもフルサービス型の一般的な目安として本稿が置いた仮定値で、TRUNKの計画値ではない。オフィス換算はGOP÷(坪賃料×12か月)。
■ 限界・留意点
推定成約ADRと推定稼働率はOTA等で公開される価格・在庫からの推定値で、各施設の実績・会計数値とは異なる。上位価格帯の施設はOTA等の公開枠が小さい施設が多く、在庫消化の価格帯比較は施設数が少ない。口コミと単価の関係は相関であり因果を示さない(立地・築年・ブランドの差を含む)。GOPは運営報酬・FF&E積立・固定資産税・保険を差し引く前の数字で、オーナーの手取りや投資利回りではない。オフィス比較のホテル床面積は、ダイビルが2023年10月に公表した計画概要のホテル部分延床約16,000㎡(約4,800坪)を用いた。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(中央区:対象130〜139施設/月、1.5km圏:N=137施設)、ブッキングカーブと推定稼働率(中央区:対象98〜107施設・主要予約サイト掲載ベース)、施設別在庫推移(OTA等の公開枠30%以上:69〜70施設)
- ホテルバンク編集部調べ(NLP解析) — 宿泊者口コミ143,163件・135施設(直近24か月)
■ 政府統計・公的データ
- 国土交通省 不動産情報ライブラリ — 地価公示(2024〜2026年)・用途地域
- 総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査(2021)」(境界=国勢調査2020 小地域)
- 国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口・R6国政局推計)
■ REIT・業界データ
- インヴィンシブル投資法人「ホテルポートフォリオ」(運営91物件のGOP実績38.9%、2024年12月期)
- リロホテルソリューションズ「GOPとは」
- 三鬼商事「札幌の賃貸オフィスの賃料相場・空室率」(2026年8月)
■ ニュース・プレスリリース
