中国の観光支出が諸外国と比べて大幅に増加した理由は、①経済成長による中間層の拡大、②人民元高、③ビザ要件の緩和、④LCC路線の拡大――の4点に整理できる。本稿は2018年公開時の分析をそのまま残しつつ、冒頭に結論と2025年の実績(日本政府観光局〈JNTO〉・観光庁の公表値)、2026年1〜7月の最新動向を追記した(2026年8月更新)。
中国の観光支出が諸外国と比べて大幅に増加した理由【結論】
中国は国際観光支出(海外旅行での支出額)で世界最大の市場である。観光庁「令和7年版観光白書」(世界観光機関〈UN Tourism〉資料に基づく)によると、2023年の国際観光支出は中国が1,965億ドルで1位、米国が1,587億ドルで2位、ドイツが1,154億ドルで3位、日本は127億ドルで29位だった。新型コロナの影響が残る2022年には米国(1,153億ドル)が中国(1,148億ドル)を上回っていたが、2023年に中国が首位へ戻った形だ。
中国の観光支出が他国より大きく伸びた背景は、以下の4点に集約される。いずれも本文(2018年時点の分析)で詳しく解説している。
- 経済成長による中間層の拡大――海外旅行ができる所得層の絶対数が増えた。
- 人民元高――通貨の切り上げで、訪問先での購買力が高まった。
- 渡航・ビザ要件の緩和――日本向けでは2010年の個人観光ビザ解禁、2015年の要件緩和が転機になった。
- LCC(格安航空会社)の路線拡大――運賃低下で中間層も海外旅行に手が届くようになった。
加えて日本向けに限れば、化粧品・医薬品など「安全性を重視する日用品」への信頼が買物支出を押し上げてきた。この傾向は2025年の観光庁統計でも続いており、訪日中国人の旅行消費に占める買物代の割合は38.0%(7,619億円÷2兆58億円)と、全国籍・地域平均の27.0%(2兆5,541億円÷9兆4,549億円)を大きく上回る。
2025年の訪日中国人客数と消費額(JNTO・観光庁の公表値)
JNTO「訪日外客数」によると、2025年の訪日中国人客数は909万5,931人(前年比30.3%増)で、国・地域別の1位だった。訪日外客総数は4,268万3,301人(同15.8%増)で過去最高を更新し、中国はその21.3%を占める。2019年(959万4,394人)にはわずかに届かないものの、コロナ禍前の水準をほぼ回復した。
| 年 | 訪日中国人客数 | 前年比 | 訪日外客総数 |
|---|---|---|---|
| 2017年 | 735万5,818人 | +15.4% | 2,869万1,073人 |
| 2019年 | 959万4,394人 | +14.5% | 3,188万2,049人 |
| 2024年 | 698万1,342人 | +187.9% | 3,687万148人 |
| 2025年 | 909万5,931人 | +30.3% | 4,268万3,301人 |
| 2026年1〜7月累計 | 248万6,500人 | −56.3% | 2,452万7,200人(−1.7%) |
出典:日本政府観光局(JNTO)「国籍/月別 訪日外客数(2003年〜2026年)」(2026年8月19日公表版)。2025年は暫定値、2026年は推計値。
消費額では、観光庁「インバウンド消費動向調査」2025年暦年(確報、2026年3月31日公表)で、訪日外国人旅行消費額の総額は9兆4,549億円(前年比16.4%増)と過去最高となり、国籍・地域別では中国が2兆58億円(構成比21.2%、前年比16.2%増)で1位だった。
| 国・地域 | 2025年 旅行消費額 | 構成比 |
|---|---|---|
| 中国 | 2兆58億円 | 21.2% |
| 台湾 | 1兆2,033億円 | 12.7% |
| 米国 | 1兆1,186億円 | 11.8% |
| 韓国 | 9,906億円 | 10.5% |
| 香港 | 5,614億円 | 5.9% |
| 全国籍・地域 | 9兆4,549億円 | 100% |
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年暦年(確報)の概要」(2026年3月31日)。
1人当たりでみると、訪日中国人(一般客・全目的)の旅行支出は24万6,550円(前年比10.9%減)で、全国籍・地域平均の22万8,782円(同0.9%増)を上回る。費目別では買物代が9万1,457円と全国籍・地域平均(6万1,136円)の約1.5倍で、宿泊費7万3,466円、飲食費5万1,581円と続く。平均泊数は9.1泊(全国籍・地域平均9.5泊)。1人当たり支出は前年から減ったが、客数が3割増えたことで消費総額は2年連続で2兆円規模となった。
| 費目(1人当たり・全目的) | 中国 | 全国籍・地域 |
|---|---|---|
| 旅行支出 合計 | 24万6,550円 | 22万8,782円 |
| 宿泊費 | 7万3,466円 | 8万4,057円 |
| 飲食費 | 5万1,581円 | 5万221円 |
| 交通費 | 1万9,382円 | 2万2,933円 |
| 娯楽等サービス費 | 1万538円 | 1万295円 |
| 買物代 | 9万1,457円 | 6万1,136円 |
| 平均泊数 | 9.1泊 | 9.5泊 |
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年暦年(確報)の概要」図表5(一般客、全目的)。
2026年1〜7月の最新動向――中国は前年割れ、総数は横ばい
直近の動きは2025年までの流れと様相が異なる。JNTOの2026年7月推計値によると、2026年1〜7月累計の訪日中国人客数は248万6,500人(前年同期比56.3%減)で、月別でも1月から7月まで毎月45〜61%の前年割れが続いている。転機は2025年11月で、同月の訪日中国人客数は56万2,184人(前年同月比2.9%増)と伸びが鈍り、12月には33万435人(同45.3%減)へ落ち込んだ。2025年11月中旬に中国政府が自国民に日本への渡航を控えるよう呼びかけたことが各社で報じられており、その後の月次統計に影響が表れている。
一方、訪日外客総数は2026年1〜7月累計で2,452万7,200人(前年同期比1.7%減)と、中国の大幅減を他市場が補う形でほぼ横ばいを保っている。台湾は同473万6,000人(同21.8%増)と伸び、7月単月では76万3,800人と初めて70万人を超えた。中国市場の今後については月次統計の推移を確認する必要があり、本稿では需要の先行きを断定しない。ただ、2018年の本文末尾で指摘した「中国以外の市場に対しても有効な観光施策を立案しておくことの重要性」は、2026年の数字で改めて裏付けられたといえる。
以下は2018年公開時点の分析(沿革として保存)
ここから先は2018年1月公開時の本文をそのまま掲載している。当時は2017年11月までの速報値(約680万人)をもとに執筆したが、JNTOの確定値では2017年の訪日中国人客数は735万5,818人(前年比15.4%増)だった。ビザ緩和・経済成長・LCC・日本製品への信頼という4つの要因は、2025年の統計で確認できる「客数1位・消費額1位・買物比率の高さ」にそのままつながっている。
この中国人の根強い日本人気は一体どこにあるのだろうか。考えられる4つの理由で、考察してみよう。
中国人観光客数は2017年も14%と高い伸びを示す
一昔前の日本は、あまり観光客が訪れない国として知られており、お隣の国・韓国と比べても外国人観光客数の面で大きく水を開けられてきた。しかし、2016年にはじめて訪日外国人が2,000万人を超え、2017年も実数が発表されている11月までで2,600万人を超える外国人が日本を訪れるなど、「観光立国」への道を着実に歩み始めている。
2016年の外国人訪問数ランキングでは全世界で16位にランクインし、これからの日本の産業のひとつとして観光、インバウンド需要は無視できない規模に育ってきている。
また、日本を訪れる外国人観光客の中でも、中国人観光客の存在感が際立っている。中国人に対するビザ要件が緩和された2015年以降、国別訪日国のトップを維持し、2017年も11月までで約680万人の中国人が日本を訪れている。

前年からの伸び率は14.2%を記録している。元々の母数が多いことを勘案すると、中国人観光客の日本旅行人気は高いレベルで安定していると言えるだろう。それでは、日本を訪れる中国人が安定して増えているのにはどういった理由があるのだろうか。以下で、詳しく見ていこう。
訪日人口の爆発的な拡大のカギはビザ要件の大幅な緩和
中国人観光客の増加を考える上で、まずはじめに考えられる要因にビザ要件の緩和がある。というのも、日本政府は中国人に対して非常に厳しいビザ要件を求めてきた過去がある。
たとえば、2010年以前は個人旅行へのビザ発給は認められず、ビザが発給されるのは団体旅行に対してのみだった。また、厳しい収入制限も課せられてきた。外務省は収入制限の詳細については明らかにしていないが、一定以上の所得がない中国人にはビザを発給してこなかった。
この厳しいビザ取得要件が2010年と2015年に相次いで緩和された。その結果、2009年に約100万人だった中国人観光客は2010年には140万人に増えた。その後も順調に伸び続け、2014年に240万人に、さらに2015年にはおよそ倍の約500万人まで増えることとなった。
経済成長による日本旅行客の絶対数の増加
中国は2000年代に入ってから、中国政府が推し進める改革開放政策により急速な経済発展を遂げてきた。2010年代に入ってもその勢いは衰えず、2011年には日本が40年以上に渡って守り続けてきた名目GDP世界2位の座を中国に奪われている。この経済成長によって、日本旅行をすることができるだけの金銭的余裕がある層が分厚くなったというわけだ。
加えて、人民元高も大きな要因のひとつだ。人民元は現在のところ、ドルや円などの通貨と違い固定相場制を取っているが、中国の経済成長に合わせて幾度となく切り上げられている。2017年の人民元の為替相場は1円=17人民元程度で推移していたが、2010年から2012年あたりは1円=12人民元程度だった。この人民元高により、富裕層以外の中間層でも容易に日本に滞在して買い物を楽しむことができるようになったのだ。
ローコストキャリア(LCC)の就航路線の拡大
さらに、ローコストキャリア(LCC)の就航路線の拡大も大きな要因として見逃せない。今や日本で中国人といえば、いわゆる「爆買い」のイメージもあり、富裕層が多いという印象を持つ人も多いのではないだろうか。
しかし、中国人の富裕層人口は300万人前後と言われており、13億人を超える全人口のほとんどが中間層以下の所得の人である。こうした人々にとって格安で日本旅行が出来るLCCの存在は大きなものがある。
従来は高い航空運賃で日本旅行を断念していた層が、LCCの登場によって気軽に日本に行けるようになったわけだ。
日本の製品に対する信頼感の高さ
日本製品の安全性に対する中国人の信頼感の高さも、中国人観光客が増加し続ける理由のひとつである。中国人旅行客の大きな特徴のひとつに、他の国からの観光客と比較すると、化粧品や香水、医薬品など身体に直接触れるものの製品の購入率が高いことが挙げられる。

観光庁が発表している「訪日外国人の消費動向」によると、中国人観光客は化粧品・香水は79.1%の購入率、医薬品・健康グッズ・トイレタリーについては72.4%と高い購入率を示している。

これがアメリカ人観光客だと化粧品・香水は11.1%、医薬品・健康グッズ・トイレタリーは17.5%と中国人観光客の消費動向とは大きく異なっている。こうした日用品を購入する中国人観光客は、製品の品質の高さや安全性を求めてリピーターとして購入するために日本を訪れているということが考えられる。
ここまで、中国人観光客が安定して増えている理由を大きく分けて4つ紹介してきた。2018年以降も、中国人観光客はさらに増えていくものと考えられている。
その一方で、中国政府は自国の観光客を政治の道具として使ってきた過去がある。中国政府に不都合なことが周辺国で起こると、観光客に当該国への渡航禁止や渡航自粛を促すケースが目立つ。最近では、韓国がその標的になっている。
現在のところ、訪日中国人観光客数は順調に増えているが、いつ何が起こるか分からないのが世界情勢である。中国人観光客へのサービスを拡充する一方、中国以外から訪れる観光客に対しても有効な観光施策を立案していくことも重要ではないだろうか。
よくある質問(FAQ)
Q. 中国の観光支出が諸外国と比べて大幅に増加した理由は?
A. 経済成長による中間層の拡大、人民元高、渡航・ビザ要件の緩和、LCC路線の拡大の4点が主因です。観光庁「令和7年版観光白書」によると、2023年の国際観光支出は中国が1,965億ドルで世界1位、2位の米国(1,587億ドル)を上回っています。
Q. 2025年に日本を訪れた中国人は何人ですか?
A. JNTO「訪日外客数」によると、2025年の訪日中国人客数は909万5,931人(前年比30.3%増)で国・地域別1位です。訪日外客総数4,268万3,301人の21.3%を占めます。
Q. 訪日中国人の日本での消費額はいくらですか?
A. 観光庁「インバウンド消費動向調査」2025年暦年(確報)で、中国の旅行消費額は2兆58億円(構成比21.2%)と国籍・地域別1位です。1人当たりは24万6,550円で、うち買物代が9万1,457円と全国籍・地域平均(6万1,136円)の約1.5倍です。
Q. 2026年も訪日中国人は増えていますか?
A. JNTOの推計値では、2026年1〜7月累計の訪日中国人客数は248万6,500人で前年同期比56.3%減です。2025年11月中旬に中国政府が日本への渡航自粛を呼びかけたと報じられた後、12月以降は毎月前年割れが続いています。訪日外客総数は同2,452万7,200人(1.7%減)とほぼ横ばいです。
集計方法と出典
- 訪日客数:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客統計」国籍/月別 訪日外客数(2003年〜2026年)、2026年8月19日公表版。2025年は暫定値、2026年は推計値。
- 消費額・1人当たり旅行支出・平均泊数:観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年暦年(確報)の概要」(2026年3月31日)。1人当たり支出は一般客(クルーズ客を除く)・全目的。
- 国際観光支出ランキング:観光庁「令和7年版観光白書」第I部図表I-5(UN Tourism資料に基づく2023年値、2025年1月時点の暫定値)および令和6年版同図表(2022年値)。
- 買物代の構成比(38.0%・27.0%)は上記確報の費目別消費額から編集部が算出。便数・座席供給など供給側の指標は本稿では需要の増減の根拠に用いていない。
- 2018年公開時の本文中の数値・出典は当時のまま残している。
