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鳥羽の72室、オールインクルーシブ化で8月推定成約4.7万円 — 前年同月比+39.6%、築34年リゾートの再生

投稿日 : 2026.10.07

三重県

投資・開発

鳥羽の72室、オールインクルーシブ化で8月推定成約4.7万円 — 前年同月比+39.6%、築34年リゾートの再生

三重県鳥羽市の72室・全室オーシャンビューのリゾートホテルが、2026年8月1日に「鳥羽オーシャンリゾート」としてオールインクルーシブ型に生まれ変わった。メトロエンジンリサーチの推定では、再開業後初の確定月となった2026年8月の推定成約ADRは47,300円で、前年同月(33,900円)比+39.6%。鳥羽市全体の推定成約ADR(21,300円)の2.2倍にあたる。

ただし、この上昇率をそのまま「客室の値上がり」と読むことはできない。オールインクルーシブ化で夕食・朝食・飲料・ラウンジが宿泊単価に入ったためで、前年の最安プランは素泊まりだった。本稿では、食事条件をそろえた比較、市内の価格帯分布のなかでの位置、料飲原価を差し引いた「客室換算の単価」、改装投資の回収年数の感度を順に示し、1992年開業・築34年の大型リゾートの再生を数字で読み解く。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • 推定成約ADRと食事条件:起点となる最安プランは人数・食事条件を問わない日次の最安値です。このため食事の付き方が変わると、客室の価格が同じでも推定成約ADRは動きます。本施設は再開業の前後で業態区分(補正係数)が同じで、係数の違いによる変動は含みません。
  • 掲載価格:2名1室利用時の1室あたり料金(税込)。食事条件をそろえた比較(第3節)は、各宿泊日の最終観測時点の最安掲載価格の月内平均で行っています。
  • OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。
  • LT(リードタイム):チェックイン日までの日数。LT1=前日。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング
2026年8月 推定成約ADR
¥47,300
再開業後の確定月・31日観測
前年同月比
+39.6%
2025年8月 ¥33,900 → 2026年8月
2食付き同士の比較
+5〜27%
8月の最安掲載価格・主要予約サイト2サイト
鳥羽市の推定成約ADR比
2.2倍
市全体 ¥21,300(2026年8月・N=80施設)
鳥羽市 推定OCC
87.1%
2026年8月・対象64施設/客室1,874室

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

Key Takeaways
  • — +39.6% 推定成約ADRは2025年8月33,900円から2026年8月47,300円へ。比較は再開業前後の確定月どうし(8月)に限る。
  • — 上昇の大半は料飲の取り込み 前年8月の最安プランは31日すべてが素泊まり。2食付き同士で比べると上昇は+5.0%〜+26.9%にとどまる。
  • — 市内30室以上で最も高い水準 鳥羽市で推定値のある76施設中5番目、客室30室以上の26施設では1番目。前年8月は30室以上で4番目だった。
  • — 料飲原価を引いても+12〜27% 料飲が単価に占める割合30〜50%・原価率30〜40%の仮定で、客室換算の単価は37,900〜43,100円。
  • — 1室1,000万円で9.3年 改装投資額は非公表のため仮置き。客室換算単価の上昇7,000円・通年OCC70%(仮定)の基準ケースの単純回収年数。

再生のファクト — 1992年開業・72室を約3ヶ月の休館でオールインクルーシブ型へ

運営会社アイコニア・ホスピタリティの2026年4月の発表によると、対象は鳥羽市安楽島町に1992年に開業した地中海風の外観を持つリゾートホテルで、客室は72室、全室がオーシャンビューである。2026年5月7日から改装のため休館し、8月1日に「鳥羽オーシャンリゾート」としてリブランドオープンした。新しい営業スタイルは、飲食・ラウンジサービス・館内アクティビティを含むオールインクルーシブ型だ。

夕食は伊勢海老や黒毛和牛、天然真鯛など伊勢志摩の食材を使うコースとして案内されている。再開業後の予約サイトの掲載をみると、夕食コースは「季節」「特別」「極み」の3段階で構成され、コースの格が価格帯を分ける設計になっている。料飲を1泊の料金にまとめることで、館内での追加会計を前提としない滞在を商品として打ち出したかたちだ。改装投資額は公表されていないため、本稿の投資試算は前提を明示した仮置きとする。

表1 再生の概要
項目内容
所在地三重県鳥羽市安楽島町(近鉄・JR鳥羽駅から車で約10分)
開業・築年1992年開業(2026年時点で築34年)
客室72室・全室オーシャンビュー
休館(改装)2026年5月7日〜7月31日
リブランド2026年8月1日「鳥羽オーシャンリゾート」
運営株式会社アイコニア・ホスピタリティ
オールインクルーシブの範囲飲食・ラウンジサービス・館内アクティビティ
改装投資額非公表

出典:アイコニア・ホスピタリティ プレスリリース(2026年4月)、トラベル Watchよりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

再開業前後の推定成約ADR — 8月は33,900円から47,300円へ

推定成約ADRの月次推移を、観測日数が月の大半をカバーする確定月に絞って並べたのが図1である。改装前の2025年は1〜9月の月平均が26,000円で、夏休みの8月(33,900円)と正月の1月(31,000円)が山、梅雨の6〜7月と9月が谷という、海辺のリゾートらしい季節の形をしていた。

再開業後の2026年8月は47,300円で、前年同月の33,900円を+39.6%上回る。どちらも31日すべてを観測した確定月どうしの比較である。休館前の2〜4月も前年同月比+17.7〜+34.9%で推移しており、単価水準はリブランドの発表前後から切り上がり始めていた。なお、予約サイト2サイトの最安プランを合成した推計でも2025年8月33,900円→2026年8月47,200円(+39.2%)となり、上昇の方向と規模は変わらない。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR・税抜相当。観測日数26日以上の確定月のみ表示。2025年10〜12月と2026年6〜7月は観測なし、2026年1月は観測1日、5月は休館前後で観測6日のため除外)

2026年9月以降は、調査時点の掲載水準に基づく推定(forward)となる。9月41,300円、10月38,700円、11月40,600円、12月45,500円で、夏のピークを過ぎても4万円前後の水準が掲載されている。これらは今後の価格調整で変わりうるため、確定月(8月)とは並べて比べず、参考値として表2に分けて示す。

表2 再開業後の推定成約ADR(確定月と調査時点の推定を区分)
月区分推定成約ADR観測日数
2025年8月確定(改装前)¥33,91531日
2026年8月確定(再開業後)¥47,33831日
2026年9月当月(調査時点の掲載に基づく推定)¥41,32830日
2026年10月調査時点の掲載に基づく推定¥38,65631日
2026年11月調査時点の掲載に基づく推定¥40,62130日
2026年12月調査時点の掲載に基づく推定¥45,50631日

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(2026年9月28日取得。9月以降は調査時点の掲載水準に基づく推定で、今後変動します)

+39.6%の中身 — 2食付き同士で比べると上昇は+5〜27%

推定成約ADRの起点は、人数や食事条件を問わない日次の最安プランである。そこで2025年8月の最安プランの食事条件を確かめると、主要予約サイトの1サイトでは31日すべてで素泊まりプランが最安だった。一方、2026年8月の掲載プランはすべてオールインクルーシブで、最安プランにも夕食・朝食が含まれる。つまり+39.6%には「素泊まり起点から2食+飲料込み起点への切り替え」が含まれており、客室そのものの値上がりとは分けて読む必要がある。

食事条件をそろえるため、2025年8月の2食付きプランの最安値と、2026年8月のオールインクルーシブの最安値を、各宿泊日の最終観測時点の掲載価格(2名1室・税込)で比べた(図2)。1サイト目では2食付き42,700円→44,800円で+5.0%、2サイト目では34,900円→44,300円で+26.9%となった。サイトによって前年の2食付きの最安値に開きがあるため幅はあるが、いずれも+39.6%より小さい。飲料・ラウンジ・アクティビティまで含めた内容を、前年の2食付きプランから+5〜27%の価格差で提供している計算になる。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(掲載価格・2名1室・税込。各宿泊日の最終観測時点の最安掲載価格の月内平均、各月31日。サイトA・Bは主要予約サイト2サイト)

参考になるのが、同じ宿が素泊まりと2食付きの両方を販売している場合の価格差(ペアード比較)だ。三重県の2026年8月では、2食付きは素泊まりより平均+43.8%(+12,000円、N=48施設)、リゾートホテルに限ると+38.2%(+19,300円、N=9施設)高い。本施設の推定成約ADRの上昇率(+39.6%)は、ちょうど「素泊まりに2食を付けた分」の上乗せに近い大きさである。上昇の大部分は、料飲をパッケージに取り込んだ効果とみるのが自然だろう。三重県の食事プレミアムを朝食・夕食の2段階に分けて業態別にみた分析(2026年9月宿泊分・旅館を除く)は、三重県の食事プレミアム分析で詳しく扱っている。

表3 食事条件別の最安掲載価格(8月・月内平均)
比較2025年8月2026年8月変化率
サイトA:素泊まり最安 → オールインクルーシブ最安¥29,057¥44,788+54.1%
サイトA:2食付き最安 → オールインクルーシブ最安¥42,670¥44,788+5.0%
サイトB:2食付き最安 → オールインクルーシブ最安¥34,901¥44,280+26.9%
(参考)三重県・2食付きの素泊まり比プレミアム—+¥12,024+43.8%(N=48)

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(掲載価格・2名1室・税込。三重県のプレミアムは同一施設で両プランを販売する施設のペアード比較・2026年8月)

需要の受け止め — 8月は31日中22日で前日までに残室0/72室

単価を上げた再開業初月に、需要がどう付いたかも確認しておきたい。OTA上の残室推移をみると、2026年8月の31日のうち22日で、宿泊日の前日(LT1)までに残室が0/72室に達した。お盆の8月13日(木)〜16日(日)は4日ともLT3〜5で残室0/72室となり、たとえば13日は30日前(LT30)時点で残室11/72室まで埋まっていた。開業初日の8月1日(土)も前日に残室0/72室を観測している。8月の平均では、LT30時点の残室は30/72室、LT14時点で18/72室で、直前の2週間に予約が積み上がる形だった。

エリアの需給も追い風だった。鳥羽市の2026年8月の推定OCCは87.1%(対象64施設/客室1,874室、主要予約サイト掲載ベース)、旅館に限ると85.0%(対象50施設/客室1,293室)である。日別では8月8日(土)〜14日(金)に95%前後が続き、月末に向けて80%台前半へ落ち着く(図3)。県内の8月の予約の積み上がりをビジネスホテル・旅館・リゾートの業態別に比べた分析(2026年8月8日時点)は、三重県の8月はピーク日が業態で違うも参考になる。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(鳥羽市・推定OCC、対象64施設/客室1,874室、主要予約サイト掲載ベース。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります)

鳥羽市の価格帯分布のなかでの位置 — 市全体の2.2倍、30室以上で最も高い水準

鳥羽市全体の推定成約ADRは、2025年9月〜2026年8月の12ヶ月平均で20,800円(N=74〜81施設)、2026年8月は21,300円(N=80施設)だった。前年同月の24,300円からは−12.6%で、市全体の単価が押し上げられたわけではない。そのなかで本施設の8月は市全体の2.2倍に位置し、前年8月の1.4倍から倍率を大きく広げた。

2サイト合成の推計で市内の施設を並べると(図4)、2026年8月に推定成約ADRを算出できた76施設のうち、4万円以上は7施設にとどまる。本施設(47,200円)は76施設中5番目で、上位4施設はいずれも客室10室以下の小規模な宿だ。客室30室以上の26施設に限ると1番目となる。前年8月は同じ30室以上のなかで4番目(73施設中15番目)であり、1年で規模の大きい宿としては市内で最も高い価格帯に移った。小規模な高単価宿が中心だった4万円台に、72室の客室数で入った点が今回の再生の特徴といえる。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(鳥羽市、推定成約ADRを算出できた施設。2025年8月N=73施設、2026年8月N=76施設。観測20日以上の施設。2サイト合成の推計)

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(鳥羽市76施設・2026年8月の推定成約ADR。円の大きさは客室数)

立地と土地 — 非線引都市計画区域、周辺地価の下落幅は縮小

施設は鳥羽湾に面した安楽島町の高台側に立つ。国土交通省 不動産情報ライブラリで周辺をみると、一帯は非線引都市計画区域で、施設の位置では用途地域の指定は確認できなかった。近傍の地価公示地点(安楽島町字浦西、住宅地)は2026年1月1日時点で10,500円/㎡、前年比−0.9%。下落率は2021年の−3.4%から縮小が続いている。都道府県地価調査の高丘町の地点(第一種低層住居専用地域)も2026年7月1日時点で28,200円/㎡、−0.7%だった。

土地の値上がりに依存しにくい立地であるぶん、価値を生むのは運営と商品設計である。今回の再生はまさにその部分、つまり建物と客室はそのままに料飲・体験を束ねて販売単価を組み替えた事例として読める。災害リスクについては、三重県の津波浸水想定で、施設の位置は浸水想定区域に含まれていない(同じ地図範囲の沿岸部には1〜2m帯の想定区域が分布する)。

表4 施設周辺の地価の推移(円/㎡)
地点2021年2023年2025年2026年2026年前年比
安楽島町字浦西(地価公示・住宅地)11,30010,80010,60010,500−0.9%
高丘町(地価調査・住宅地)29,60028,80028,40028,200−0.7%

出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示・都道府県地価調査、用途地域、津波浸水想定)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

料飲原価を差し引いた「客室換算の単価」 — 前提次第で37,900〜43,100円

オールインクルーシブの単価には、客室の対価と料飲・ラウンジの対価が混ざっている。投資判断で比べたいのは、料飲に要る原価を差し引いた後に客室に残る単価だ。そこで2026年8月の推定成約ADR(47,338円)を起点に、「単価に占める料飲の割合」と「料飲の原価率(食材・飲料)」を仮定し、客室換算の単価=ADR×(1−料飲割合×原価率)を試算した(表5)。

料飲割合30〜50%、原価率30〜40%の範囲では、客室換算の単価は37,900〜43,100円となり、前年8月の推定成約ADR(33,900円、素泊まり起点)を+11.7〜+27.0%上回る。料飲原価を差し引いても、単価は前年水準を上回る計算になる。

表5 客室換算の単価(2026年8月・円、括弧内は前年8月の推定成約ADR33,915円比)
料飲が単価に占める割合\原価率30%35%40%
30%43,078(+27.0%)42,368(+24.9%)41,657(+22.8%)
40%41,657(+22.8%)40,711(+20.0%)39,764(+17.2%)
50%40,237(+18.6%)39,054(+15.2%)37,870(+11.7%)

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADRをもとにした試算。料飲割合・原価率は仮定値)

読み方には3つの留保がある。第1に、料飲の人件費・ラウンジ運営費・アクティビティ費は含めていない。原価率はあくまで食材・飲料の変動費で、GOPへの寄与はさらに小さくなる。第2に、改装前も2食付きプランの予約からは料飲の粗利が得られていた。比較の起点(33,900円)は素泊まり起点の推計であるため、実際の増分は表5の上昇率より小さくなりうる。第3に、8月は年間のピーク月であり、同じ上昇幅が通年で続くとは限らない。次節の回収年数の試算では、これらを織り込んで上昇額を低め・中位・高めの3段階に分けた。

改装Capexの回収年数 — 1室1,000万円・基準ケースで9.3年

改装投資額は非公表のため、1室あたり500万円・1,000万円・1,500万円(72室で3.6億円・7.2億円・10.8億円)の3水準を仮置きした。年間の増分GOPは「年間販売室数×客室換算単価の上昇額×増分のGOP転換率」で求める。上昇額は、8月の試算幅(料飲原価控除後で前年比+4,000〜9,200円)を目安に4,000円・7,000円・10,000円の3段階とし、増分のうち人件費や運営費を差し引いてGOPに残る割合を60%と置いた。稼働率は通年のOCCを70%(仮定)とし、60%・80%の感度も併記する。

表6 改装Capexの単純回収年数(年)— 通年OCC70%(仮定)
客室換算単価の上昇額\投資額(1室あたり)500万円(3.6億円)1,000万円(7.2億円)1,500万円(10.8億円)年間増分GOP
4,000円(低め)8.216.324.54,420万円
7,000円(中位)4.79.314.07,730万円
10,000円(高め)3.36.59.81億1,040万円

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(試算。72室×365日×通年OCC70%=年間18,396室、増分のGOP転換率60%。投資額・OCC・転換率はいずれも仮定値)

表7 稼働率の感度(上昇額7,000円・中位ケース、年)
通年OCC(仮定)年間販売室数500万円/室1,000万円/室1,500万円/室
60%15,768室5.410.916.3
70%18,396室4.79.314.0
80%21,024室4.18.212.2

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(試算。OCCは通年の仮定値)

基準ケース(1室1,000万円・上昇額7,000円・通年OCC70%)の単純回収年数は9.3年となる。逆算すると、10年で回収するのに要る客室換算単価の上昇額は、1室500万円で約3,300円、1,000万円で約6,500円、1,500万円で約9,800円だ。8月の試算幅(+4,000〜9,200円)と照らすと、1室500万〜1,000万円規模の改装なら、ピーク期の上昇幅を通年でおおむね保てれば10年以内の回収が視野に入る。1,500万円規模では、閑散期の単価をどこまで引き上げられるかが回収の鍵になる。

工事費の水準にも目を配りたい。国土交通省 建築着工統計によると、ホテルの建築費は2024年に全構造平均で坪195万円と、2022年の138万円から2年で+41%上昇した。新築の採算が合いにくい環境は、既存建物を生かす再生型の投資にとって相対的な優位になる一方、改装費そのものも上がりやすい。見積もりの時点と工期を感度に入れておくことが実務上の備えになる。

築30年超の大型リゾートへの示唆 — 単価の「中身」を組み替える再生

本事例から、築30年を超える大型リゾートのオーナーや再生ファンド、運営受託会社、融資を検討する地域金融機関が押さえておきたい論点は3つある。

1. 単価の上昇は「条件」とセットで評価する

+39.6%のうち大半は料飲の取り込み。食事条件をそろえると+5〜27%で、料飲原価を引いた客室換算では+12〜27%。投資・融資の審査では、見出しの上昇率ではなく条件をそろえた単価で事業計画を組むと、評価のぶれが小さくなる。

2. 大箱で「小規模高単価の価格帯」に入る

鳥羽市で4万円以上の7施設のうち、30室以上は本施設のみ。全室オーシャンビューのような既存建物の強みに料飲・体験を束ねることで、72室の規模のまま小規模宿が中心の価格帯に入った。客室の供給量が大きいぶん、単価の引き上げは売上全体に効く。

3. 回収を決めるのは閑散期の単価

ピークの8月は需要が付きやすい。回収年数の感度では、上昇額4,000円と10,000円で1室1,000万円の回収は16.3年と6.5年に分かれる。オールインクルーシブの「館内で完結する滞在」を、平日・オフ期の集客にどうつなげるかが収益の伸びしろになる。

付け加えれば、オールインクルーシブ化は料飲の原価と人員配置を宿側が一括で抱える運営形態でもある。飲料の提供範囲やラウンジの運営時間、アクティビティの内容は、原価率とGOP転換率を直接左右する設計変数だ。飲み放題型・ラウンジ型といった内包の類型ごとの単価の乗り方は、オールインクルーシブ化が広げる収益機会2026で全国の事例から整理している。表5・表6の前提を自社の条件に置き換えて試算すれば、同じ手法が自施設で成り立つかどうかの見通しを立てやすい。再開業から2ヶ月の時点であり、秋以降の確定月が積み上がった段階で改めて検証したい。

⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事の2026年9月以降の推定成約ADRは、調査時点(2026年9月28日)でOTAに掲載されている販売価格に基づく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。前年同月比は確定月どうし(8月)に限って算出しています。

集計方法

  • 推定成約ADRは、日次の最安プラン価格(人数・食事条件を問わない)の月内平均に業態別の補正係数を掛けた推計(税抜相当)。本施設の業態区分は再開業の前後で同じです。見出し・前年同月比は主要予約サイト1サイトの推計、市内の分布(図4・地図)は2サイト合成の推計です。
  • 食事条件をそろえた比較(表3・図2)は、各宿泊日の最終観測時点の最安掲載価格(2名1室・税込)の月内平均で、推定成約ADRとは算出の基準が異なります。
  • 鳥羽市の推定OCCは、対象64施設/客室1,874室(主要予約サイト掲載ベース)。残室推移はLT45以内の観測点のみを使用しています。
  • 投資試算の投資額・料飲割合・原価率・GOP転換率・通年OCCはいずれも仮定値で、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

メトロエンジンリサーチ&コンサルティングの推定成約ADR(本施設は2025年8月・2026年8月とも31日観測の確定月、鳥羽市は2026年8月N=80施設)、主要予約サイト2サイトの掲載価格(2名1室・税込)、鳥羽市の推定OCC(2026年8月・対象64施設/客室1,874室)、LT45以内の残室推移。立地・地価は国土交通省 不動産情報ライブラリ、工事費は国土交通省 建築着工統計、再生の概要は運営会社のプレスリリース(2026年4月)による。

■ 試算前提

客室換算の単価=推定成約ADR×(1−料飲割合×原価率)。料飲割合30〜50%・原価率30〜40%(食材・飲料の変動費のみ)。改装投資額は非公表のため1室500万円・1,000万円・1,500万円を仮置き。年間増分GOP=72室×365日×通年OCC×客室換算単価の上昇額(4,000円・7,000円・10,000円)×GOP転換率60%。通年OCCは70%を基準に60%・80%の感度を併記。回収年数は割引・金利・税・減価償却を考慮しない単純回収年数。

■ 限界・留意点

推定成約ADRは最安プランに補正係数を掛けた推計で、実際の成約価格・会計数値とは異なる。再開業後の確定月は2026年8月の1ヶ月のみで、8月は年間のピーク月にあたる。前年の起点は素泊まりプランのため、料飲の粗利を含む実際の増分は試算より小さくなりうる。料飲の人件費・ラウンジ運営費は原価率に含めていない。9月以降の値は調査時点(2026年9月28日)の掲載に基づく推定で今後変動する。実際の投資判断には個別のフィージビリティ・スタディが必要。

■ 市場データ

■ 政府統計・公的データ

■ ニュース・プレスリリース

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