メトロエンジンリサーチが2026年開業として把握した宿泊施設は1,592施設・39,454室。1施設あたりの客室数は平均24.8室だが、中央値はわずか2室で、件数の49.9%は客室が1室しかない宿(1棟貸し)だった。フロントに人を常駐させない運営は、厚生労働省の「旅館業における衛生等管理要領」で要件が明文化され、2025年4月にはICTによる本人確認の類型が加わった。本稿では、その要件を一次資料で確認した上で、小規模・省人化型の新規供給を件数と客室数の両面から数え、チェックイン体験の口コミ評価と1室あたり人件費の試算から、これまで宿が成立しにくかった立地に生まれる伸びしろを整理する。
本記事における指標の定義
- 新規開業施設:メトロエンジンリサーチが把握する施設のうち、開業日が2026年1〜12月で、客室数が登録されている1,592施設(2026年9月22日時点)。OTA等への掲載が確認された施設を対象とし、全数ではない。
- 1棟貸し系業態:貸別荘・コテージ・町家。小規模・簡易宿所型業態:1棟貸し系に、ホステル・ゲストハウス・民宿・ペンション・グランピング・ロッジ・ドミトリー等を加えたもの。ホテル系業態:ビジネス・シティ・リゾート・デラックス・カプセルホテル等。
- チェックインへの好意的言及比率:宿泊者口コミのうちチェックイン・チェックアウト手続きに触れた記述について、好意的な記述と否定的な記述の合計に占める好意的な記述の割合(ホテルバンク編集部によるNLP解析)。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、N=1,592施設)/口コミ分析はホテルバンク編集部調べ
- — 1,592施設・39,454室:2026年開業(9月22日時点)の客室数の中央値は2室で、件数の49.9%が1室の宿。一方で客室数の84.6%はホテル系が供給する二層構造。
- — フロント不設置の3要件:おおむね10分の駆けつけ体制、ICTを含む本人確認と出入りの確認、鍵の受渡し。駆けつけ体制だけは毎晩の運営コストとして残る。
- — +27.5%:2026年2〜6月の小規模・簡易宿所型の開業は676施設で前年同期を上回った。ただし2025年4月の要領改正の直後には加速は見られない。
- — 74.1%対53.0%:自動チェックインを前面に出す7施設のチェックイン好意的言及比率は、残る93施設を20ポイント以上上回る。
- — 約5,500円→約1,700円:10室の宿の1稼働室泊あたりフロント・駆けつけ人件費は、拠点共有型で常駐型の約3分の1に下がる(試算)。
フロントを置かない宿の要件 — 厚生労働省の要領が定める3点
フロント(玄関帳場)を設けない運営は、段階的に制度化されてきた。2018年6月15日施行の改正旅館業法で、ホテル営業と旅館営業が「旅館・ホテル営業」に統合され、最低客室数(ホテル10室・旅館5室)が撤廃された。あわせて、厚生労働省令で定める基準を満たす設備(ICT設備を想定)を、玄関帳場に代替する設備として認める規定が設けられた。簡易宿所営業では、それ以前の2016年3月と2017年12月の要領改正で、玄関帳場は「設けることが望ましい」ものとされ、代替設備と緊急時の体制があれば設置を要しない扱いになっている。
その後、規制改革実施計画(2024年6月21日閣議決定)を受け、厚生労働省は2025年3月11日付の通知(健生発0311第1号)で「旅館業における衛生等管理要領」を改正し、2025年4月1日から適用した。通知は、旅館業の人員確保をめぐる状況とICTの進展を改正の背景に挙げている。さらに2026年1月20日適用の改正(健生発0120第48号)で生活環境への悪影響の防止に関する考え方が整理されたが、フロントを設けない場合の要件そのものは、現行の要領でも次の3点で構成されている。
| 要件 | 現行の衛生等管理要領の記載(要旨) | 運営上の性格 |
|---|---|---|
| ① 緊急時の体制 | 事故や宿泊者専用区域への無断侵入などの緊急時に、宿泊者の求めに応じて「通常おおむね10分程度で職員等が駆けつけることができる体制」を想定 | 人で満たす要件(夜間も継続) |
| ② 本人確認と出入りの確認 | 次のいずれか。(a) 営業者が設置したビデオカメラ等で常時鮮明な画像により実施。(b) ICTを活用した本人確認を行い、本人確認を受けた人に交付した鍵がなければ宿泊者専用区域に入れないようにした上で、出入りを顔が判別できる角度で録画し、必要時に確認する | 設備で満たす要件 |
| ③ 鍵の受渡し | 鍵の受渡しを適切に行うこと | 設備で満たす要件 |
出典:厚生労働省「旅館業における衛生等管理要領の一部改正について」(令和7年3月11日 健生発0311第1号/令和8年1月20日 健生発0120第48号)よりホテルバンク編集部作成
②(b)の「ICTを活用した本人確認」は、要領の宿泊者名簿の項で具体的に定義されている。一つは、宿泊しようとする人の顔と旅券を鮮明な画像で確認でき、その画像が施設の近傍から発信されていると確認できる方法(施設に備え付けたテレビ電話やタブレット端末など)である。もう一つが2025年4月に加わった類型で、氏名・住所・連絡先などの本人確認情報と、営業者が発行する二次元コードや暗証番号を事前に共有し、施設の自動チェックイン機器で照合する方法だ。この場合も照合の様子を顔が判別できる角度で録画することが求められ、さらに営業者は「自動チェックイン機器等の操作について問合わせができるような設備や体制」を確保する必要がある。
注意したいのは、これらの通知が地方自治法に基づく「技術的な助言」だという点である。玄関帳場の設置を条例で求めている自治体もあり、通知は各自治体に「実情に応じた弾力的な運用や条例の改正等」への配慮を求める形をとっている。実際に開業する際は、所在地の保健所・条例の確認が前提になる。要件のうち②③は一度の設備投資で満たせるが、①の駆けつけ体制は宿泊者がいる限り毎晩の運営コストとして残る。この構造が、後段の人件費試算の出発点になる。
2026年開業1,592施設 — 件数の主役と客室数の主役は別
2026年開業の1,592施設を業態別に並べると、貸別荘が768施設で全体の48.2%を占め、2位のビジネスホテル(200施設)の3.8倍に達する。ところが客室数で並べ直すと順位は大きく入れ替わる。貸別荘の客室数は1,264室(3.2%)で5位にとどまり、首位はビジネスホテルの20,276室(51.4%)、2位はリゾートホテルの7,517室(19.1%)、3位はシティホテルの5,139室(13.0%)となる。町家は件数8位(49施設)だが客室数では13位(94室)だ。
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、N=1,592施設)
| 業態 | 施設数 | 客室数 | 平均客室数 | 件数順位 | 客室数順位 |
|---|---|---|---|---|---|
| 貸別荘 | 768 | 1,264 | 1.6 | 1 | 5 |
| ビジネスホテル | 200 | 20,276 | 101.4 | 2 | 1 |
| ホステル | 119 | 2,291 | 19.3 | 3 | 4 |
| リゾートホテル | 95 | 7,517 | 79.1 | 4 | 2 |
| ゲストハウス | 87 | 361 | 4.1 | 5 | 8 |
| コテージ | 73 | 671 | 9.2 | 6 | 7 |
| 旅館 | 57 | 792 | 13.9 | 7 | 6 |
| 町家 | 49 | 94 | 1.9 | 8 | 13 |
| シティホテル | 47 | 5,139 | 109.3 | 9 | 3 |
| 民宿 | 24 | 119 | 5.0 | 10 | 11 |
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、N=1,592施設。件数上位10業態を掲載、順位は全23業態中)
業態をまとめて見ると構造はさらに明確になる。1棟貸し系(貸別荘・コテージ・町家)は890施設で件数の55.9%を占めるが、客室数では2,029室・5.1%にすぎない。ホステルやゲストハウス、民宿などを加えた小規模・簡易宿所型業態は1,172施設(73.6%)で、客室数は5,156室(13.1%)。対してホテル系業態は357施設(22.4%)ながら33,395室(84.6%)を供給している。客室数の規模帯で見ても、1室の宿が795施設(49.9%)で客室数の2.0%、100室以上の施設は131施設(8.2%)で客室数の65.1%を占める。10室以下の施設に広げると1,149施設(72.2%)となり、それでも客室数は2,628室(6.7%)にとどまる。
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、N=1,592施設)
つまり、「新規開業が増えている」という話題は、件数で語るか客室数で語るかで中身が変わる。件数の伸びを押し上げているのは1〜数室の宿であり、市場に投入される客室の大半は従来どおり中〜大規模のホテルが担っている。フロント不設置の要件が効いてくるのは主に前者で、1施設ごとに人を常駐させると採算が合いにくい規模帯にあたる。1棟貸しの増加が新規供給の立地をどう変えているかは、ホテル新規供給の駅距離、郊外化の正体は1棟貸しが開業年代別に分解している。
月次で見る開業 — 件数の山は1月、客室数の山は4月と7月
2026年1〜8月の開業を月別に分解すると、件数の山と客室数の山がずれている。件数が最も多いのは1月の246施設で、うち197施設が1棟貸し系だった。一方で客室数が最も多いのは4月の6,321室と7月の6,072室で、いずれもホテル系の開業(4月56施設・7月57施設)が客室を押し上げた月にあたる。なお1月の246施設のうち173施設は開業日が1日で登録されており、開業月のみが判明している施設が1月に集まりやすい点には留意が必要だ。
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、2026年1〜8月開業 N=1,479施設)※8月以降は今後の掲載で増加する可能性あり
都道府県別 — 件数1位は北海道、客室数1位は大阪府
都道府県別でも、件数と客室数の順位は入れ替わる。件数では北海道が158施設で首位、東京都(97施設)、沖縄県(91施設)、静岡県(89施設)、京都府(81施設)が続く。客室数では大阪府が3,096室で首位となるが、件数では13位(46施設)だ。大阪府は小規模・簡易宿所型の比率が32.6%と上位15都道府県で唯一5割を下回り、1施設あたり67.3室と大型のホテル開業が客室を積み上げている。
反対に、山梨県(件数8位・客室数29位)や鹿児島県(件数14位・客室数32位)、大分県(件数12位・客室数27位)では、小規模・簡易宿所型の比率が8割を超える。山梨県と鹿児島県はいずれも88%台で、1施設あたりの客室数は10室を下回る。観光資源はあっても大型ホテルの立地になりにくい地域で、1棟貸しや小規模宿の開業が件数を支えている構図が読み取れる。
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、N=1,592施設)
| 都道府県 | 施設数 | 件数順位 | 客室数 | 客室数順位 | 小規模系比率 | 平均客室数 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 北海道 | 158 | 1 | 2,794 | 4 | 84.2% | 17.7 |
| 東京都 | 97 | 2 | 2,799 | 3 | 64.9% | 28.9 |
| 沖縄県 | 91 | 3 | 2,919 | 2 | 74.7% | 32.1 |
| 静岡県 | 89 | 4 | 1,137 | 11 | 79.8% | 12.8 |
| 京都府 | 81 | 5 | 911 | 15 | 79.0% | 11.2 |
| 長野県 | 69 | 6 | 890 | 17 | 79.7% | 12.9 |
| 福岡県 | 63 | 7 | 1,570 | 6 | 79.4% | 24.9 |
| 山梨県 | 59 | 8 | 449 | 29 | 88.1% | 7.6 |
| 兵庫県 | 58 | 9 | 886 | 18 | 81.0% | 15.3 |
| 千葉県 | 56 | 10 | 1,635 | 5 | 78.6% | 29.2 |
| 熊本県 | 52 | 11 | 1,451 | 8 | 75.0% | 27.9 |
| 大分県 | 49 | 12 | 518 | 27 | 83.7% | 10.6 |
| 大阪府 | 46 | 13 | 3,096 | 1 | 32.6% | 67.3 |
| 鹿児島県 | 43 | 14 | 380 | 32 | 88.4% | 8.8 |
| 神奈川県 | 40 | 15 | 1,469 | 7 | 67.5% | 36.7 |
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、N=1,592施設。件数上位15都道府県、順位は47都道府県中。小規模系比率=小規模・簡易宿所型業態の件数比率)
要領改正の前後で開業ペースは変わったか — 現時点の傾向
ICT本人確認の類型が加わった2025年4月を境に、小規模・簡易宿所型業態の開業が加速したかを月次で確認した。結論から言えば、2025年中には目立った加速は見られず、変化が見え始めたのは2026年に入ってからである。2025年4〜12月の小規模・簡易宿所型の開業は926施設で、2024年の同じ期間(1,225施設)を下回った。これに対し2026年2〜6月は676施設と、前年同期(530施設)比で+27.5%となっている。開業日の登録が1月に集中する影響を避けるため1月を除いて比較したが、それでも伸びは大きい。
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、小規模・簡易宿所型業態の月別開業件数)※2026年は8月まで。直近月は今後の掲載で増加する可能性あり
2026年を1〜6月と7〜8月に分けると、小規模・簡易宿所型の開業は月平均149施設から113施設に減り、件数全体に占める比率も78.1%から68.1%に下がった。一方でホテル系の開業は月平均35施設から44.5施設に増えている。ただし、7〜8月の比率低下を「省人化型の失速」と読むのは早い。四半期別の比率を重ねると、2025年も1〜3月の78.4%から7〜9月は70.2%へ下がっており、夏場にホテル系の開業が増えて比率が下がる季節性がある。
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース)※2026年第3四半期は7〜8月のみ
加えて、開業情報はOTA等への掲載確認を起点にしているため、直近月ほど件数が少なく出る。過去の開業では、開業後91日以上たってから掲載が確認される施設が3〜4割あった。2026年7〜8月の小規模・簡易宿所型は226施設で、前年同期の240施設に対し−5.8%だが、この差は今後の掲載確認で縮む可能性が高い。現時点の傾向としては「2026年前半に小規模・簡易宿所型の開業が前年を大きく上回り、夏場は例年並みの季節パターンに沿っている」と整理するのが妥当だろう。要領改正の効果を数量として切り出すには、もう数四半期の観測が必要である。
口コミで評価されるチェックイン — 事前案内と「困ったときの窓口」
フロントを置かない宿で宿泊者体験の要になるのがチェックインである。ホテルバンク編集部が集計した宿泊者口コミ(2024年9月〜2026年9月の24ヶ月)から、チェックイン・チェックアウト手続きに関する記述が多い上位100施設を抽出した。対象施設の口コミは424,201件、うちチェックインに触れた記述は47,719件である。好意的な記述と否定的な記述の合計に占める好意的な記述の比率は、100施設の合算で54.3%、施設ごとの中央値は57.1%だった。チェックインは待ち時間や手続きの手間が評価に直結しやすく、評価が分かれやすい体験だといえる。
出典:ホテルバンク編集部調べ(NLP解析。チェックインへの言及が多い上位100施設、口コミN=424,201件、うちチェックイン言及N=47,719件、2024年9月〜2026年9月)
その中で、ロボット受付や自動チェックイン機を前面に出すブランドの7施設は、好意的言及比率が合算で74.1%に達し、残る93施設の合算(53.0%)を20ポイント以上上回った。口コミ全体に占めるチェックイン言及の比率(中央値)も23.0%と、93施設の10.8%の2倍を超える。自動化されたチェックインそのものが宿泊体験の話題になり、しかも好意的に語られている。省人化は「人手を減らす代償」ではなく、うまく設計すれば評価を高める要素になりうることを示すデータである。省人化テクノロジーと接客評価の関係については、省人化テクノロジーは接客評価を下げるのか — 口コミ大規模分析でも詳しく検証している。
好意的言及比率が高い20施設について、チェックインを評価する記述400件を要素別に分類すると、最も多いのは「スムーズ」「待ち時間もなく」といったスピードに関する記述(18.0%、19施設で出現)で、駅・空港からの近さや送迎など到着までの動線(13.5%、16施設)が続いた。自動チェックイン機・セルフ手続きへの評価(6.0%、12施設)、事前案内・事前手続き(2.8%、6施設)、到着前後の荷物預かり(2.2%、5施設)も挙がる。
出典:ホテルバンク編集部調べ(NLP解析。好意的言及比率の上位20施設のチェックイン評価記述N=400件、2024年9月〜2026年9月。1件の記述が複数要素に該当する場合あり)
具体的な声を拾うと、「事前チェックインのおかげで…スムーズ」「メールで事前案内も届き」「無人チェックインだけど、事前に荷物を預けられる」といった、到着前の案内と準備を評価する記述が目立つ。機械の操作でつまずいた場面でも、「困りごとは電話をかけると…すぐ対応」と、問い合わせ窓口があることで評価が保たれている例がある。これは要領が自動チェックイン機器の利用時に求める「操作について問合わせができるような設備や体制」と一致する。
多言語表示に明示的に触れた記述は400件中1件と少なかった。ただし、評価記述の48.0%は日本語以外の言語で書かれている。訪日客が自国語で手続きのスムーズさを評価しているという事実は、多言語対応が「当たり前の前提」として機能していることの表れと読める。評価の高い施設に共通する要素を整理すると、①到着前の事前案内・事前手続き、②駅や駐車場から入口・端末までの迷わない動線、③待たずに終わる手続き、④つまずいたときにすぐつながる窓口、⑤言語を問わない案内、の5点になる。
1室あたり人件費の試算 — 小さな宿ほど効く「拠点共有」
フロント業務と緊急時の駆けつけに必要な人件費を、1稼働室泊あたりで試算した。前提は次のとおりである。時給は、2026年度の地域別最低賃金の全国加重平均1,177円(厚生労働省が2026年9月3日に公表)の約1.1倍にあたる1,300円とし、22〜5時の7時間は25%の深夜割増、法定福利費等を15%上乗せした。24時間365日を1ポストで埋めると、年間の人件費は約1,405万円になる。稼働率は通年70%と置いた。
| 運営モデル | 1施設あたりの年間コスト構成(試算前提) | 年間コスト |
|---|---|---|
| A. 常駐型 | 施設ごとに24時間1ポストを常駐 | 約1,405万円 |
| B. 拠点共有型 | 遠隔の問い合わせ対応1ポストを10施設で共有+駆けつけ拠点1ポストを5施設で共有+代替設備(1施設37万円を5年償却、月額6,000円) | 約436万円 |
| C. 広域共有型 | 遠隔対応を50施設、駆けつけ拠点を20施設で共有+代替設備 | 約113万円 |
出典:厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金の答申状況」をもとにホテルバンク編集部試算。代替設備の単価は本誌既報の前提を使用。清掃・リネン等の費用は含まない
この前提で1稼働室泊あたりに割り戻すと、規模による差がはっきり出る。100室のホテルでは常駐型でも1稼働室泊あたり約550円で、フロントの固定費は客室数に薄く分散される。これが10室の宿では約5,500円、2室の宿では約27,500円に跳ね上がる。小規模な宿が1施設ごとに人を置く運営では成立しにくかった理由は、この固定費の重さにある。
出典:ホテルバンク編集部試算(時給1,300円・深夜25%割増・法定福利費等15%・通年稼働率70%。縦軸は対数目盛)
拠点共有型に切り替えると、10室の宿で1稼働室泊あたり約1,700円と常駐型の約3分の1(31%)に下がり、広域共有型なら約440円になる。2室の宿でも拠点共有型で約8,500円、広域共有型で約2,200円と、客単価の中に収まる水準が見えてくる。駆けつけの10分圏に複数の施設が集まるほど1施設あたりの負担が下がるため、同じ地域で運営施設を増やすことそのものが採算を改善する。山梨県や鹿児島県、大分県のように小規模・簡易宿所型の開業比率が8割を超える地域は、まさにこの仕組みが効きやすい地域である。駆けつけ圏内にどれだけの施設が集まれば設備投資を回収できるかは、フロントを置かない宿の設備投資、回収は数か月〜回収不能で8エリアを試算している。
見方を変えれば、1施設ごとに夜間の人員を確保できなかったことが理由で宿が立たなかった立地、たとえば駅から離れた温泉地の空き家や、観光資源はあっても大型ホテルが成立しない小さな集落に、宿を開く道が開けたことになる。駆けつけ体制という「人で満たす要件」は残るものの、それを複数の施設で分け合える設計にすれば、人員配置の制約はかなり緩む。ただし前提の置き方で結果は大きく動くため、実際の計画では所在地の条例、駆けつけ圏内の施設密度、季節ごとの稼働率を個別に確認することが欠かせない。
まとめ
2026年開業の1,592施設は、件数の過半を1棟貸し系が占める一方、客室数の84.6%はホテル系が供給するという二層構造になっている。フロント不設置の要件(10分程度の駆けつけ体制、ICTを含む本人確認と出入りの確認、鍵の適切な受渡し)が主に効くのは前者であり、2026年2〜6月には小規模・簡易宿所型の開業が前年同期比+27.5%と伸びた。ただし2025年4月の要領改正の直後には加速が見られず、7〜8月は季節性と掲載確認の遅れを含むため、現時点では傾向としての把握にとどめたい。
口コミからは、自動化されたチェックインがうまく設計されると好意的に語られることが確認できた。事前案内、迷わない動線、待たない手続き、すぐつながる窓口、言語を問わない案内がそろえば、省人化はそのまま宿泊体験の強みになる。人件費の面でも、駆けつけと問い合わせ対応を複数施設で共有すれば、10室の宿の1稼働室泊あたり負担は約3分の1に下がる。人の確保が難しかった立地に宿を増やせる余地は、制度と技術の両面から広がっている。
よくある質問
Q. フロントを置かずに宿を営業できるのはどんな条件のときですか?
A. 厚生労働省の「旅館業における衛生等管理要領」は、①緊急時に通常おおむね10分程度で職員等が駆けつけられる体制、②ビデオカメラ等による常時の確認、またはICTを活用した本人確認と出入りの録画、③鍵の適切な受渡し、の3点をすべて満たす場合に、フロントを設けないことができるとしています。条例で設置を求める自治体もあるため、所在地の保健所への確認が前提です。
Q. 2026年に開業した宿泊施設は何施設ですか?
A. メトロエンジンリサーチが2026年9月22日時点で把握する範囲では、客室数が登録されている施設で1,592施設・39,454室です。客室数の中央値は2室で、件数の49.9%は1室の宿でした。
Q. 省人化で1室あたりの人件費はどれくらい変わりますか?
A. 本稿の試算(時給1,300円、通年稼働率70%など)では、10室の宿でフロントと駆けつけにかかる人件費は、施設ごとに24時間常駐させると1稼働室泊あたり約5,500円、遠隔対応と駆けつけ拠点を複数施設で共有すると約1,700円になります。
集計方法と注意事項:新規開業データは2026年9月22日の調査時点のもので、メトロエンジンリサーチの施設マスター(国内・客室数登録あり)に登録された開業日にもとづく。OTA等への掲載は開業の前後にずれて確認されるため、直近の月ほど件数が少なく出る傾向があり、2026年8月以降の件数は今後の掲載確認で増加する可能性がある。開業月のみが判明している施設は月初日で登録されている。業態はメトロエンジンリサーチの施設分類による。口コミの分析は、宿泊者口コミをNLPで解析した結果の集計であり、個別の口コミの引用は部分引用にとどめている。人件費は一定の前提を置いた試算であり、実際の費用は地域・運営体制によって異なる。
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参考資料・出典一覧
- 厚生労働省「旅館業における衛生等管理要領の一部改正について」(令和7年3月11日 健生発0311第1号、令和7年4月1日適用)
- 厚生労働省「旅館業における衛生等管理要領の一部改正について」(令和8年1月20日 健生発0120第48号)
- 厚生労働省 健康・生活衛生局 生活衛生課「旅館業法の簡易宿所営業に係る玄関帳場等の規制について」(規制改革推進会議 地域産業活性化WG 資料1-2、2024年4月19日)
- 東京都福祉保健局「旅館業法及び同法政省令等の改正について(主な内容)」(2018年3月28日)
- 厚生労働省「旅館業法改正の経緯について」
- 厚生労働省「全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました」(2026年9月3日)
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 2026年新規開業施設(OTA掲載確認ベース、N=1,592施設)、業態別・月別・都道府県別集計
- ホテルバンク編集部調べ — 宿泊者口コミのNLP解析(チェックイン関連、2024年9月〜2026年9月)
