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ホテル建物の特別償却15〜25%、賃上げ5%が条件 — 経営強化税制E類型を試算

投稿日 : 2026.09.07

指定なし

投資・開発

ホテル建物の特別償却15〜25%、賃上げ5%が条件 — 経営強化税制E類型を試算

2025年4月1日施行の令和7年度税制改正で、中小企業経営強化税制に「経営規模拡大設備等(E類型)」が新設された。この改正で、これまで対象外だった建物本体が初めて優遇の対象に入っている。ホテル・旅館にとっては、投資額の大半を占める躯体そのものに税務上の手当てが付いたことになる。ただし、率の大きさに目を奪われると本質を見誤る。本稿では、制度の一次情報を条文・手引きレベルで確定させたうえで、100室クラスのビジネスホテル新築と40室クラスの旅館改修という2つのモデルで、初年度キャッシュ効果と回収年数の短縮幅を定量化する。

あわせて、本稿が扱う範囲を既刊記事と区別しておきたい。既刊「2026年 省力化投資補助金で読み解くホテル省人化Capex」「省力化補助金で読む宿泊業の省人化Capex」が扱ったのは補助金=キャッシュの給付であり、投資額そのものを直接減らす。本稿が扱う税制は課税所得の繰延(特別償却)と税額の直接控除(税額控除)で、効き方の質が異なる。特別償却は投資額を減らすのではなく、税金を払うタイミングを前倒しで軽くするだけであり、後年度に戻ってくる。また既刊「ホテルの固定資産税は1室あたり年16万〜24万円」が扱ったのは毎年発生する保有税、「ホテル取得の諸費用は価格の7.1%」が扱ったのは取得時のコストである。本稿は取得(新設・改修)に対する投資優遇を扱う。この4つは回収年数への効き方がまったく違う。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。本稿ではモデル試算の前提値として使用します。
  • GOP(営業粗利益):売上高から部門費・管理費を差し引いた利益で、減価償却費・支払利息・税金を控除する前の水準。
  • NOI:本稿ではGOPからFF&E(家具・什器・備品)積立を差し引いた額として定義します。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(ADR)/中小企業庁・国税庁・厚生労働省・国土交通省(制度・統計)
建物の特別償却率
15〜25%
給与増加2.5%/5.0%の二段
E類型の入口
10億円超
売上高90億円未満・個人事業主不可
投資利益率ハードル
年平均7%
100室新築の下限ADR 約¥10,100
下限ADRを超える都道府県
3/47
東京・京都・福岡(N=7,392施設)
宿泊業の賃金改定率
3.6%
全産業計4.4%/令和7年

結論を先に置く。ホテル・旅館は制度の対象業種に明確に含まれており、建物への特別償却15〜25%は制度上たしかに使える。しかし実務でボトルネックになるのは償却率でも賃上げ要件でもなく、「売上高10億円超」という入口「年平均投資利益率7%以上」というハードルである。建築費が坪195万円台まで上がった現在、100室規模の新築でこの7%を満たすには推定成約ADRでおよそ1万100円が必要になり、この水準を上回るのは47都道府県のうち3府県にとどまる。一方で、単館オーナーが現実的に使えるのはE類型ではなくA類型であり、そちらは建物附属設備を60万円から即時償却できる。規模によって取るべきルートが完全に分岐する制度だ、というのが本稿の見立てである。

Key Takeaways
  • 建物本体が初めて対象に。E類型の特別償却は給与増加2.5%以上で15%、5.0%以上で25%。2.5%未満なら建物の優遇はゼロになる。
  • 関門は償却率ではなく入口。売上高10億円超はビジネスホテルで概ね430室(東京なら220室)規模。個人事業主は利用できない。
  • 投資利益率7%の壁。建築費195.2万円/坪の下で100室新築が満たす下限ADRは約¥10,100。上回るのは東京・京都・福岡の3府県のみ。
  • 特別償却は繰延であって減免ではない。25%型の初年度効果1億7,810万円に対し、現在価値ベースの純効果は7,394万円(総投資の2.8%)。
  • 単館オーナーの本命はA類型。改修Capex 9,500万円で即時償却の税効果は総額3,271万円。税額控除は枠の11.0%しか使えない。

制度の骨格 — 宿泊業は指定事業に明記されている

まず対象業種を条文・手引きレベルで確定させる。中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き(税制・金融)令和8年4月1日版」は、中小企業経営強化税制の指定事業を列挙しており、そこに「宿泊業」が明記されている。したがって、ホテル・旅館が制度の対象業種に入るかどうかについて、憶測を挟む余地はない。

むしろ注意すべきは除外側である。同手引きは対象外として「電気業、水道業、鉄道業、航空運輸業、銀行業、娯楽業(映画業を除く)等」を挙げ、あわせて風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第2条第5項に規定する性風俗関連特殊営業を除いている。さらに「料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブその他これらに類する飲食店業は、生活衛生同業組合の組合員が営むもののみが指定事業となる」との限定がある。宿泊施設が館内にバーや大型の遊興施設を併設している場合、その部分に供される設備の取り扱いは事前に確認しておいたほうがよい。

表1 中小企業経営強化税制の基本要件 — 根拠条文・中小企業者等の定義・指定事業・適用期限
項目内容(中小企業庁 手引き 令和8年4月1日版・国税庁 タックスアンサー No.5434)
根拠条文租税特別措置法 第42条の12の4(法人税)/第10条の5の3(所得税)
中小企業者等資本金または出資金の額が1億円以下の法人/資本もしくは出資を有しない法人のうち常時使用従業員1,000人以下/常時使用従業員1,000人以下の個人/協同組合等。中小企業等経営強化法第2条第6項の「特定事業者等」に該当するものに限る
適用除外となる法人①同一の大規模法人から2分の1以上の出資を受ける法人 ②2以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人 ③前3事業年度の所得金額の平均額等が15億円を超える法人
指定期間(適用期限)平成29年4月1日から令和9年(2027年)3月31日まで。中小企業庁は「適用期限:2026年度末(2027年3月31日)まで」と明示
指定事業製造業、建設業、卸売業、小売業、不動産業、情報通信業、宿泊業、洗濯・理容・美容・浴場業、その他の生活関連サービス業、教育・学習支援業、医療・福祉業ほか
対象外業種電気業、水道業、鉄道業、航空運輸業、銀行業、娯楽業(映画業を除く)等。性風俗関連特殊営業も対象外
類型A(生産性向上設備)/B(収益力強化設備)/D(経営資源集約化設備)/E(経営規模拡大設備等)。C類型(デジタル化設備)は2025年4月1日をもって廃止
出典: 中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き(税制・金融)令和8年度税制改正対応版(令和8年4月1日版)」、国税庁 タックスアンサー No.5434、中小企業庁「中小企業経営強化税制」ページ

類型ごとの措置内容は次のとおり整理できる。A・B・D類型は即時償却または取得価額の10%(資本金3,000万円超の法人は7%)の税額控除で、対象は機械装置・工具・器具備品・建物附属設備・ソフトウェアである。建物本体はここには入らない。建物が対象になるのはE類型だけであり、しかもE類型でも建物は即時償却ではなく、特別償却15%(25%)または取得価額の1%(2%)の税額控除という別枠の扱いになる。

表2 類型別(A/B/D/E)の対象設備・最低取得価額と措置内容 — 建物本体が入るのはE類型のみ
類型対象設備と最低取得価額措置内容
A類型
生産性向上設備
機械装置160万円以上/測定・検査工具40万円以上/器具備品40万円以上/建物附属設備60万円以上/ソフトウェア70万円以上。旧モデル比で年平均1%以上の生産性向上即時償却 または 取得価額の10%(資本金3,000万円超は7%)の税額控除
B類型
収益力強化設備
機械装置160万円以上/工具40万円以上/器具備品40万円以上/建物附属設備60万円以上/ソフトウェア70万円以上。年平均の投資利益率7%以上同上
D類型
経営資源集約化設備
同上。修正ROAまたは有形固定資産回転率の改善が見込まれるパッケージ投資同上
E類型
経営規模拡大設備等
上記に加え建物およびその附属設備。年平均の投資利益率7%以上かつ経済産業大臣(経済産業局)の確認を受けた投資計画に不可欠な設備即時償却または10%(7%)の税額控除。ただし建物およびその附属設備は特別償却15%(25%)または取得価額の1%(2%)の税額控除
出典: 中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き(税制・金融)令和8年4月1日版」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

税額控除には共通の上限がある。中小企業経営強化税制と中小企業投資促進税制の控除税額の合計で、その事業年度の法人税額(所得税額)の20%が上限であり、超過分は翌事業年度に繰り越せる。特別償却についても、限度額まで償却費を計上しなかった場合の償却不足額は翌事業年度に繰り越せる。この上限が、後述するとおり小規模事業者の選択を実質的に決めることになる。

E類型の入口は「売上高10億円超」— 客室数に換算するとどれくらいか

建物が対象に入ったE類型は、令和7年度税制改正で新設され、所得税法等改正法令案が2025年4月1日に施行された。ここからが実務上の分岐点になる。E類型の対象企業要件は手引きに次のとおり明記されている。

E類型(経営規模拡大設備等)の要件 — 手引きからの引用

対象企業:①売上高10億円超90億円未満の法人。②売上高100億円超を目指すにあたり、事業基盤、財務基盤および組織基盤が整っていること。※個人事業主は本制度を利用できない。※確認申請書の申請日と経営力向上計画の申請日が同一事業年度でなければ認定を受けられない。

投資計画の内容:①売上向上のための取組および設備投資時期を示したロードマップを策定すること。②売上高100億円超および年平均10%以上の売上高成長率を目指すこと。③給与等の支給額を増加させるものであること。※事前に「100億宣言」を行う必要がある。

経営規模拡大設備等:①導入予定の設備が売上高の増加に貢献すること。②経営力向上計画の認定を受けた日から2年以内に導入予定の設備の取得価格の合計額が1億円または前事業年度の売上高の5%相当額のいずれか高い金額以上であること。③生産性の向上に資する設備の導入に伴い建物およびその附属設備の新設または増設をするものであること。

出典: 中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き(税制・金融)令和8年4月1日版」P.8

3つ、見落とされやすい点がある。第一に、対象は建物の「新設または増設」であり、既存建物を第三者から取得するだけのケースは想定されていない。中古ホテルの取得+リノベーションという典型的なバリューアッド案件は、建物本体についてはE類型の射程外と読むべきである。第二に、個人事業主は利用できない。個人経営の旅館は法人成りしていなければ入口にすら立てない。第三に、投資計画には「年平均10%以上の売上高成長率」と「売上高100億円超」を目指すロードマップが求められる。売上高40億円の事業者が年10%成長で100億円に到達するには9.6年、売上高12億円からなら22.2年かかる。制度が想定しているのは、成長軌道にある複数施設運営者である。

では、「売上高10億円超」を客室数に置き換えるとどれくらいの規模になるのか。メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが集計した推定成約ADR(2025年9月〜2026年8月の実績月平均、47都道府県)をもとに逆算した。ビジネスホテルの推定成約ADRは47都道府県の中央値で約¥7,300(N=7,392施設)、旅館は約¥13,600(N=6,720施設)である。

表3 売上高10億円超・90億円未満を客室数に換算 — 業態別・推定成約ADR別の必要規模
業態・前提推定成約ADR売上高10億円に必要な客室数売上高90億円に相当する客室数
ビジネスホテル(47都道府県中央値)
OCC 78%(通年・モデル前提値)・客室外売上12%を想定
¥7,265約432室約3,885室
ビジネスホテル(東京都)¥14,417約218室約1,958室
ビジネスホテル(徳島県・最下位)¥5,663約554室約4,986室
旅館(47都道府県中央値)
OCC 60%(通年・モデル前提値)・客室外売上5%を想定
¥13,590約320室約2,880室
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR・2025年9月〜2026年8月の実績月平均、ビジネスホテル N=7,392施設/旅館 N=6,720施設、月次の対象施設数の中央値を47都道府県分合算)。客室数は本稿の前提(OCC・客室外売上比率)に基づく試算値であり、実際の売上高は施設の稼働・料飲構成により異なります。

つまりE類型が想定する事業者は、ビジネスホテルなら概ね430室規模(東京なら220室規模)から3,900室規模まで、旅館なら320室規模から2,900室規模までということになる。40室の旅館1館、100室のビジネスホテル1館という単館オーナーは、この入口の手前にいる。建物本体の特別償却15〜25%という見出しは魅力的だが、それを使えるのは複数施設を運営し、かつ成長ロードマップを描ける事業者に限られる、というのが実像である。

本当の関門は投資利益率7% — 建築費195万円/坪の下で成立する下限ADRは約1万100円

入口を通過したとして、次に立ちはだかるのが「年平均の投資利益率が7%以上となることが見込まれること」という要件である。手引きは投資利益率の算式を次のように定めている。

年平均の投資利益率 = 「営業利益+減価償却費」の増加額 ÷ 設備投資額

※減価償却費は会計上の減価償却費。増加額は設備の取得等をする年度の翌年度以降、取得設備の最長の減価償却期間までの平均額。設備投資額は取得等をする年度における取得価額の合計額。

出典: 中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き(税制・金融)令和8年4月1日版」P.6(B類型の算式。E類型も同じ投資利益率7%以上を要件とする)

ここに建築費の水準を代入すると、要件の重さが見えてくる。国土交通省「建築着工統計調査」に基づく2025年のホテル建築費は全構造平均で195.2万円/坪(S造240.5万円、RC造202.6万円)であり、近年の建築費上昇によって過去最高の水準にある。共用部を含む1室あたり延床を10.6坪(約35㎡)とすると、1室あたりの建物取得価額は約2,069万円になる。この1室あたり原単位がどこから来ているかは、ホテル1室の建築費は2,067万円 — 計画31件の客室原単位35.0㎡から逆算で計画物件ベースに分解している。

この建築費を所与として、100室の新築で投資利益率7%を満たすために必要な推定成約ADRを逆算すると、約¥10,100となる(OCC78%(通年・モデル前提値)・GOP率50%・FF&E積立3%の前提。詳細は後述の試算前提を参照)。47都道府県のビジネスホテル推定成約ADRのうち、この線を上回るのは東京都・京都府・福岡県の3府県のみである。大阪府はこの線とほぼ同水準にあり、実質的には横並びと見るべきだろう。

都道府県別 ビジネスホテル推定成約ADR と 投資利益率7%の下限ライン
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR・2025年9月〜2026年8月の実績月平均、N=7,392施設)。下限ライン約¥10,100(試算値¥10,132)は本稿のモデル前提(100室新築・建築費195.2万円/坪・1室あたり延床10.6坪・OCC78%(通年)・GOP率50%・FF&E積立3%)に基づく試算値であり、制度上の基準値ではありません。

この下限ラインは前提に強く依存する点を強調しておきたい。OCCを85%まで引き上げれば下限ADRは約¥9,300に下がり、大阪府が射程に入る。GOP率を55%まで高めれば約¥9,200となり、神奈川県(¥9,216)も加わる。逆にOCC70%(通年・モデル前提値)・GOP率45%という保守的な前提では約¥12,600まで跳ね上がり、東京都・京都府しか残らない。つまり、E類型を使えるかどうかは立地のADR水準と運営効率の掛け算で決まる。建築費が坪195万円台で高止まりしている以上、この関門は税率の議論より先に検討すべき論点である。

表4 運営前提別の感応度(1次元) — 投資利益率7%を満たす下限ADRと、それを超える都道府県数
運営前提投資利益率7%を満たす下限ADR下限を超える都道府県数
OCC 70%(通年・モデル前提値)・GOP率 45%(保守)約¥12,6002府県
OCC 78%(通年・モデル前提値)・GOP率 50%(本稿の基準前提)約¥10,1003府県
OCC 85%(通年・モデル前提値)・GOP率 50%約¥9,3004都府県
OCC 78%(通年・モデル前提値)・GOP率 55%約¥9,2005都府県
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(建築費195.2万円/坪・1室あたり延床10.6坪・100室・生産性向上設備1.0億円を前提)/国土交通省「建築着工統計調査」。都道府県数は推定成約ADR(N=7,392施設)との比較による。
推定成約ADR × OCC の2軸感応度 — 100室新築モデルの年平均投資利益率(E類型の要件は7%以上)
表4-2 2軸感応度グリッド — 濃い網掛けが投資利益率7%以上(E類型の要件充足域)。青枠は本稿の基準前提(ADR¥11,000・OCC78%/いずれも通年のモデル前提値)
推定成約ADR\OCC(通年・モデル前提値)70%74%78%82%86%
¥9,0005.6%5.9%6.2%6.5%6.9%
¥10,0006.2%6.6%6.9%7.3%7.6%
¥11,0006.8%7.2%7.6%8.0%8.4%
¥12,0007.4%7.9%8.3%8.7%9.1%
¥13,0008.1%8.5%9.0%9.4%9.9%
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。算式は本稿の「試算前提(全て開示)」に同じ — 年平均投資利益率=NOI÷設備投資額21.69億円、NOI=ADR×100室×365日×OCC×1.12(客室外売上12%)×(GOP率50%−FF&E積立3%)。GOP率50%・FF&E積立3%・客室外売上12%は固定し、ADRとOCCのみを動かしたもの。ADR・OCCはいずれも本稿のモデル前提値であり、特定施設の実績値ではありません。制度上の基準値は投資利益率7%のみで、ADR・OCCの基準はありません。
都道府県別 ビジネスホテル推定成約ADR マップ(円の大きさ=ADR水準/青=下限ライン超)
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR・2025年9月〜2026年8月の実績月平均、N=7,392施設)。マーカーは都道府県庁所在地付近に配置した代表点であり、施設の実所在地ではありません。

15%か25%かを分ける賃上げ要件 — 宿泊業の実勢3.6%をどう読むか

E類型で建物の特別償却率が15%になるか25%になるかは、賃上げで決まる。手引きの注記は次のとおりである。建物およびその附属設備を事業の用に供する事業年度の雇用者給与等支給額が前年度と比較して2.5%以上増加した場合(投資計画に記載した目標値以上である場合に限る)には特別償却15%または税額控除1%、前年度と比較して5%以上増加した場合(同)には特別償却25%または税額控除2%となる。裏を返せば、増加割合が2.5%に満たない事業年度には、建物およびその附属設備についての特別償却・税額控除は適用されない。段差の下に落ちれば、建物部分の優遇はゼロになる。

この2.5%と5.0%という段差を、宿泊業の賃上げ実勢と重ねてみる。厚生労働省「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査」によれば、1人平均賃金の改定率は全産業計で4.4%(改定額13,601円)だった。これに対し宿泊業・飲食サービス業は3.6%(10,177円)で、令和6年の3.7%からわずかに低下している。産業別に見ると5.0%を超えたのは鉱業・採石業(6.1%)、建設業(5.9%)、電気・ガス・熱供給・水道業(5.3%)、製造業(5.2%)の4産業のみで、宿泊業・飲食サービス業は15産業中10番目に位置する。

産業別 1人平均賃金の改定率(令和7年)と E類型の段差
出典: 厚生労働省「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」第2表よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。改定率は賃金の改定を実施した企業および実施しない企業を含む1人平均賃金の改定率。2.5%/5.0%の基準線は中小企業経営強化税制E類型の雇用者給与等支給額の増加割合の段差を参照として重ねたもので、両指標は定義が異なります(下記本文参照)。

ここで極めて重要な区別がある。制度が求めるのは「雇用者給与等支給額」の前年度比増加割合であって、「1人平均賃金の改定率」ではない。前者は総額であり、人員が増えれば1人当たりの賃上げ率が低くても総額は伸びる。この差が、宿泊業にとっては決定的に効く。

本稿のモデル事業者(売上高40億円・従業員260名・平均年収380万円と想定)で計算してみる。雇用者給与等支給額は9.88億円。2.5%増は+2,470万円、5.0%増は+4,940万円である。宿泊業平均の3.6%の賃金改定を人員一定で実施した場合、増加額は+3,557万円で増加率3.6%、2.5%の段差はクリアするが5.0%には届かない。しかし5.0%に到達するために必要な追加人員は、わずか3.5名にすぎない。100室規模の新館を1棟開業すれば通常20〜25名の採用が発生し、その場合の雇用者給与等支給額の増加率は11.6〜13.6%に達する。

1人平均賃金の改定率

宿泊業・飲食サービス業は3.6%(令和7年、全産業計4.4%)。人員一定なら5.0%の段差には届かない水準。

雇用者給与等支給額(総額)

制度が見るのはこちら。従業員260名のモデルでは、賃金改定3.6%に+3.5名の増員を足せば5.0%に到達する。

読み替え

25%の段差は「賃上げ余力のある企業だけの基準」ではなく、増員を伴う開発案件を狙った設計と読むのが実態に近い。

そもそもE類型は「年平均10%以上の売上高成長率」と「売上高100億円超」を目指す投資計画を前提にしている。成長には人員増が伴うのが通常であり、25%の段差は新設・増設に伴う採用を織り込めば十分に射程内と考えてよい。むしろ注意すべきは、増加割合が「投資計画に記載した目標値以上である場合に限る」という条件が付いている点である。確認申請の段階で控えめな目標値しか書かなければ実績が上振れしても救われるが、逆に強気の目標を書いて未達となれば段差から落ちる。目標値の置き方そのものが税務上の論点になる。

加えて、外部環境も総額を押し上げる方向に働いている。中央最低賃金審議会は2026年7月28日、令和8年度の地域別最低賃金改定の目安について全国加重平均で55円(4.9%)の引き上げを答申した。目安どおりに改定されれば全国加重平均は1,121円から1,176円になる。パート・アルバイト比率の高い宿泊業では、最低賃金改定が雇用者給与等支給額の総額を直接押し上げる。1人平均の改定率3.6%という数字だけを見て「5%の段差は無理だ」と判断するのは早計である。最低賃金改定が都道府県ごとにどの程度の単価転嫁を求めるかは、最低賃金2026「全国1,500円」への道 — 都道府県別ADR転嫁余地マップで整理している。

試算 — 100室ビジネスホテル新築(E類型)と40室旅館改修(A類型)

■ 試算前提(全て開示)

表5 試算前提の全開示 — モデルA(100室ビジネスホテル新築)/モデルB(40室旅館改修)
項目モデルA:100室ビジネスホテル新築モデルB:40室旅館 改修
事業者複数施設運営・売上高40億円・従業員260名・資本金5,000万円(E類型の対象要件を満たす)単館・売上高2.0億円・資本金3,000万円以下(E類型は対象外)
建築費/取得価額195.2万円/坪 × 1室あたり延床10.6坪 = 2,069万円/室 × 100室 = 20.69億円(建物およびその附属設備)+生産性向上設備1.0億円+土地5.0億円=総投資26.69億円建物附属設備(全館空調更新5,500万円・給湯設備2,000万円)7,500万円+器具備品1,200万円+ソフトウェア800万円=9,500万円
ADR(推定成約)¥11,000(47都道府県のビジネスホテル観測レンジ¥5,663〜¥14,417の範囲内)¥22,000(47都道府県の旅館観測レンジ内、温泉地の中位〜上位水準)
OCC(通年・モデル前提値)78%60%
売上構成客室売上3.13億円+客室外売上12% = 総売上3.51億円客室売上1.93億円+売店等4% = 総売上2.00億円
GOP率50%(宿泊特化型の業界目安50〜60%の下限)→ GOP 1.75億円15%(旅館の業界目安5〜15%の上限)→ GOP 3,006万円
FF&E積立総売上の3%(1,052万円)→ NOI 1.65億円試算対象外(改修Capex単体の税務効果を評価)
減価償却建物RC造39年定額(5,308万円/年)+設備15年(667万円/年)=5,972万円/年既存分1,200万円/年
借入条件LTV70%(18.68億円)・金利年2.0%・期間25年元利均等 → 年間返済9,503万円、DSCR 1.73、自己資金8.01億円支払利息400万円/年
法人税実効税率令和8年4月1日以後開始事業年度の中小法人(外形標準課税対象外):課税所得年800万円超の部分 34.43%、年400万円超800万円以下 23.73%、年400万円以下 21.94%。モデルAの税効果は34.43%、モデルBの法人税額は軽減税率15%(年800万円以下)+23.2%(超過分)で算定。防衛特別法人税は基準法人税額から年500万円を控除した額に4%を課すため、モデルB(法人税額261万円)では発生しない。
割引率現在価値換算は年3.0%、期間39年(年金現価係数22.808)

※GOP率の根拠:インヴィンシブル投資法人が開示するMHM運営91物件のGOP率実績は38.9%(2024年12月期)。業態別の業界目安は宿泊特化型ビジネスホテル50〜60%、旅館5〜15%(リロホテルソリューションズ)。本試算では各業態の目安レンジ内で設定した。

モデルA:100室ビジネスホテル新築 — 初年度キャッシュ効果と回収年数の短縮幅

この前提でのベースケースは、NOI 1.65億円、減価償却5,972万円、課税所得1.05億円、税負担3,620万円、税引後キャッシュフロー1.29億円となる。総投資26.69億円に対する税引後の単純回収年数は20.7年である。投資利益率は「営業利益+減価償却費の増加額(≒NOI 1.65億円)÷設備投資額21.69億円」で7.6%となり、E類型の7%要件を満たす。ただし余裕は0.6ポイントしかない。

表6 モデルA:特別償却・税額控除の4ルート比較 — 初年度キャッシュ効果と回収年数の短縮幅
ルート償却額/控除額初年度キャッシュ効果税引後回収年数短縮幅現在価値ベースの純効果
ベースケース(優遇なし)20.7年
特別償却15%(給与増加2.5%以上5%未満)3.10億円1億690万円19.9年▲0.83年4,437万円
特別償却25%(給与増加5%以上)5.17億円1億7,810万円19.4年▲1.38年7,394万円
税額控除1%(同2.5%以上5%未満)2,069万円2,069万円20.6年▲0.16年2,069万円(恒久)
税額控除2%(同5%以上)4,138万円4,138万円20.4年▲0.32年4,138万円(恒久)
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(上記「試算前提」に基づく)。特別償却の現在価値ベースの純効果は、初年度の税効果から、後年度に減少する減価償却費の税効果(割引率3.0%・39年)を控除した額。
モデルA:初年度キャッシュ効果と現在価値ベースの純効果
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(建物およびその附属設備20.69億円・法人税実効税率34.43%・割引率3.0%・39年)

ここで読み違えてはならないのが、特別償却は課税所得の繰延であって減免ではないという点である。初年度に1億7,810万円のキャッシュが手元に残っても、翌年度以降は減価償却費がその分だけ減り、税負担は戻ってくる。39年をならして現在価値に引き直した純効果は、25%型で7,394万円、15%型で4,437万円である。回収年数の短縮1.38年という数字も、あくまで初年度効果を投資額から控除した単純ベースの見え方であり、2年目以降の税負担増を織り込めば効果は薄まる。

とはいえ、現在価値ベースでも特別償却は税額控除を上回る。25%型と2%型の比較で1.79倍、15%型と1%型の比較で2.14倍である。課税所得が十分にある事業者にとっては、特別償却を選ぶのが合理的という結論になる。加えて、特別償却には「特別償却準備金」方式という選択肢がある。損金経理せず剰余金の処分により積立金として積み立てる方法でも損金算入が認められており、これを使えば会計上の当期純利益を圧縮せずに税務上の損金を取れる。金融機関の与信評価が会計上の利益をベースにしている場合、この選択は借入余力の維持という観点で意味を持つ。

モデルB:40室旅館 — E類型は使えないが、A類型の即時償却が効く

売上高2.0億円の単館旅館は、E類型の「売上高10億円超」という入口に届かない。しかしA類型であれば、建物附属設備を60万円以上から即時償却できる。ホテル・旅館の改修投資の中身を見れば、実はこちらのほうが実務的な本命である。全館空調の更新、給湯・ボイラー設備、電気設備、エレベーター — いずれも建物附属設備に該当し、耐用年数14年以内・60万円以上という要件を満たす。

改修Capex 9,500万円のモデルで、即時償却と税額控除10%を比較する。この旅館の課税所得は1,406万円、法人税額は261万円と想定した。

表7 モデルB:即時償却と税額控除10%の比較 — 法人税額20%上限が枠の実現率を決める
ルート枠の総額初年度に実現する効果2年間で実現する累計制約
即時償却(A類型)3,271万円
9,500万円×34.43%
484万円課税所得の発生に応じて順次実現課税所得1,406万円を超える8,094万円は繰越欠損金となる。中小法人は繰越期間10年・控除限度は所得金額の100%のため、後年度の黒字で全額を回収できる
税額控除10%(A類型)950万円52万円104万円(枠の11.0%)法人税額の20%(年52万円)が上限。繰越は翌事業年度の1年のみで、残りは失効する
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(上記「試算前提」に基づく)/国税庁 タックスアンサー No.5434(税額控除は法人税額の20%が上限、超過分は翌事業年度に繰越)
モデルB:税額控除は枠の11%しか使えない(40室旅館・改修Capex 9,500万円)
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(課税所得1,406万円・法人税額261万円・実効税率34.43%を前提)

結論は明快である。法人税額が小さい単館規模では、税額控除は「法人税額の20%・繰越1年」という上限に阻まれ、950万円の控除枠のうち実際に使えるのは104万円(11.0%)にとどまる。一方の即時償却は、その年の課税所得を超える損金であっても繰越欠損金として10年間繰り越せ、中小法人は控除限度が所得金額の100%であるため、後年度の黒字で全額を回収できる。総額ベースで3,271万円と、税額控除の約31倍の効果になる。なお、改修と新築のどちらに投資額を振り向けるべきかという上位の判断については、建設費高騰時代の新セオリー:改装投資が新築を凌駕する境界線が投資単価とADRリフトの両面から検証している。

特別償却と税額控除、どちらを選ぶか — 規模別の分岐

選択適用の判断軸を規模別に整理する。判断材料は「法人税額の大きさ」「他の税額控除枠の使用状況」「会計上の利益を圧縮してよいか」の3つである。

表8 規模・状況別の推奨ルート — 特別償却/特別償却準備金/税額控除の選択基準
事業者の状況推奨ルート理由
単館・法人税額が数百万円規模即時償却/特別償却税額控除は法人税額の20%上限に阻まれ、繰越も1年しかないため枠の大半が失効する。即時償却なら繰越欠損金として10年、所得の100%まで控除できる
開業初年度・赤字または低所得即時償却/特別償却同上。税額控除は吸収できる法人税額がなければ機能しない
賃上げ促進税制など他の控除で既に20%上限に近い特別償却税額控除の上限は中小企業経営強化税制と中小企業投資促進税制の合計で判定される。既存の控除枠を圧迫する
課税所得が厚く、金融機関の与信で会計上の利益を維持したい特別償却準備金方式剰余金の処分により積み立てる方法でも損金算入が認められる。会計上の当期純利益を圧縮せずに税務上の損金を取れる
課税所得が厚く、単年度の資金繰りより恒久的な税負担軽減を優先税額控除特別償却は繰延だが税額控除は恒久。ただし本稿のモデルAでは現在価値ベースでも特別償却が1.79〜2.14倍有利であり、この選択が合理的になる場面は限定的
出典: 中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き(税制・金融)令和8年4月1日版」、国税庁 タックスアンサー No.5434、国税庁 質疑応答事例「税効果会計を適用している法人が租税特別措置法上の諸準備金等を剰余金の処分により積み立てた場合における損金算入額」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

手続きの時間軸 — 着工前に確認申請を出さないと建物は対象外になる

E類型で最も事故が起きやすいのは手続きの順序である。中小企業庁は2025年5月9日付の告知で明確に注意喚起している。「拡充枠では新たに建物が対象となる予定ですが、投資計画の確認申請前に着工を開始した建物は対象外となります」。ここでいう着工とは、建築基準法の規定による確認済証を受けた日と定義されている。さらに「拡充枠については、経営力向上計画申請前60日以内に取得した設備を対象とする例外措置は適用されません」とも明記されている。A・B・D類型で使える救済措置がE類型にはない。

表9 E類型の手続き時間軸(10ステップ) — 着工前の確認申請と供用後20日以内の報告
順序手続き要点・期間
「100億宣言」の実施E類型を利用するためには事前に実施が必要
確認申請書(様式1)を作成し、公認会計士または税理士の事前確認を受ける事前確認書(様式2)が発行される
本社所在地を管轄する経済産業局へ確認申請書を提出・説明説明を受けてから概ね1ヶ月以内に確認書(様式3)が発行される。説明はオンラインでも可
経営力向上計画を主務大臣に申請標準処理期間30日。確認書の日付は計画申請日以前である必要がある。確認申請書の申請日と計画申請日は同一事業年度でなければならない
建物着工(建築基準法の確認済証取得)②の確認申請より前に着工した建物は対象外
建物およびその附属設備の取得経営力向上計画の認定後である必要がある
事業供用指定期間(令和9年3月31日)内に取得・供用すること
供用事業年度の給与増加割合に関する報告書(様式7)を経済産業局へ提出供用事業年度終了後20日以内。税務申告までに提出すればよい
税務申告確認書・確認申請書・計画申請書・認定書・給与増加割合報告書の写しを添付
投資計画実施状況報告書(様式6)の提出投資計画終了時まで毎年。初回は翌事業年度終了後4ヶ月以内
出典: 中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き(税制・金融)令和8年4月1日版」P.8-11、中小企業庁「令和7年度税制改正の拡充枠の留意事項について」(2025年5月9日)、中小企業庁「経済産業大臣による確認書について(E類型)」

もうひとつ、見落としやすい副作用がある。手引きは「経営力向上計画申請書にE類型の設備等が記載されている企業は、中小企業投資促進税制および中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例を受けることができません」と定めている。少額減価償却資産の特例(令和8年度改正で単価上限が30万円未満から40万円未満へ引き上げ、合計300万円まで即時償却)は、多くの宿泊事業者が毎年使っている制度である。E類型を選ぶことでこれを1年間手放すことになる点は、建物の特別償却額と天秤にかけて判断する必要がある。

適用期限にも注意したい。中小企業庁は「適用期限:2026年度末(2027年3月31日)まで」と明示している。建物の新設・増設は確認申請から供用まで通常1年半から2年を要する。すでに設計段階に入っていない案件が、この期限内に供用まで到達するのは容易ではない。延長の有無は今後の税制改正で判断されることになるが、現時点で確定しているのは2027年3月31日という期日である。

まとめ — 規模で分岐する制度として読む

建物が中小企業経営強化税制の対象に入ったことは、宿泊業にとって前向きな変化である。ただし本稿の検証が示したのは、この制度が規模によって完全に分岐するという構造だった。

複数施設運営者(売上高10〜90億円)

E類型で建物本体に特別償却15〜25%。100室新築モデルで初年度キャッシュ効果1億690万〜1億7,810万円、税引後回収年数の短縮は0.83〜1.38年。ただし投資利益率7%のハードルが先に立つ。

単館オーナー(売上高10億円未満)

E類型の入口には届かないが、A類型で建物附属設備を60万円から即時償却できる。改修Capex 9,500万円で総額3,271万円の税効果。税額控除より約31倍有利。

共通の注意点

着工前の確認申請、認定後の取得、供用事業年度終了後20日以内の報告。順序を誤ると建物は対象外になる。適用期限は2027年3月31日。

回収年数の短縮余地という観点では、特別償却の効果は初年度に集中し、現在価値ベースでは25%型で7,394万円、15%型で4,437万円にとどまる。総投資26.69億円に対して2.8%と1.7%である。制度を使う価値はあるが、これ単独で案件の成否が変わるわけではない。むしろ本稿が示したかったのは、建築費が坪195万円台まで上がった環境では、投資利益率7%という制度上のハードルそのものが、立地選定とADR設計の精度を問うているということである。税制は、収益力の高い案件をさらに後押しする設計になっている。優遇の可否を検討する順序としては、まず立地のADR水準と運営効率で7%を満たせるかを確認し、そのうえで償却か控除かを選ぶ、という流れが実務に即している。

税務判断に関する注記:本稿は公表されている制度資料・統計に基づく一般的な解説および試算であり、個別の税務判断を提供するものではありません。中小企業者等の該当性、指定事業への該当性、投資利益率の算定方法、雇用者給与等支給額の集計範囲、特別償却と税額控除の選択、繰越欠損金の取扱いは、事業者の資本構成・事業年度・会計処理により結論が変わります。適用にあたっては必ず顧問税理士・公認会計士および所轄の経済産業局に事前確認してください。制度内容は今後の税制改正により変更される可能性があります。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

制度・税務は中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き(税制・金融)令和8年4月1日版」および国税庁 タックスアンサー No.5434 の一次情報に拠る。賃金は厚生労働省「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」第2表、建築費は国土交通省「建築着工統計調査」。推定成約ADRはメトロエンジンリサーチ&コンサルティングの集計(2025年9月〜2026年8月の実績月平均、ビジネスホテル N=7,392施設/旅館 N=6,720施設、47都道府県)。

■ 試算前提

モデルA(100室ビジネスホテル新築)=建築費195.2万円/坪・1室あたり延床10.6坪・推定成約ADR¥11,000・OCC78%(通年)・客室外売上12%・GOP率50%・FF&E積立3%・設備投資額21.69億円・法人税実効税率34.43%・割引率3.0%/39年。モデルB(40室旅館改修)=改修Capex 9,500万円・課税所得1,406万円・法人税額261万円。年平均投資利益率=NOI÷設備投資額。全項目は本文「試算前提(全て開示)」の表に開示している。

■ 限界・留意点

ADRはOTA公開価格に業態別補正を適用した推定成約単価であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる(上場ホテルREITの物件別開示との照合で誤差中央値は約7%)。OCC・GOP率・客室外売上比率はモデル試算の前提値であって実測値ではない。下限ADR約¥10,100および2軸感応度グリッドの数値は本稿の前提に基づく試算値であり、制度上の基準値は投資利益率7%のみである。税務上の結論は事業者の資本構成・事業年度・会計処理により変わるため、適用にあたっては顧問税理士・公認会計士および所轄の経済産業局への事前確認が必要となる。

■ 制度・税務(一次情報)

■ 統計・賃金

■ 市場データ・業界指標

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