トップ > ダイナミックプライシング > 直前2週間の値下げ、差が出るのは消化率70%未満 — 1,161施設・2,904件で検証

直前2週間の値下げ、差が出るのは消化率70%未満 — 1,161施設・2,904件で検証

投稿日 : 2026.08.21

東京都

大阪府

京都府

北海道

ダイナミックプライシング

直前2週間の値下げ、差が出るのは消化率70%未満 — 1,161施設・2,904件で検証

チェックインが近づいても残室が動かないとき、掲載価格を下げるかどうかは現場で最も頻度の高い判断のひとつである。本稿では、その判断の「後」に何が起きていたのかを、東京都・大阪府・京都府・北海道の1,161施設・2,904件(施設×チェックイン日)の在庫推移から記述統計として整理する。

結論を先に置くと、14日前時点の在庫消化率をそろえて比較した場合、値を下げた施設群と据え置いた施設群のあいだに消化の差が現れるのは消化率70%未満の帯に限られていた。そして値下げ群は、据え置き群より約3割高い価格水準から下げていた。

本記事における指標の定義

  • LT(リードタイム):チェックイン日までの日数。LT14=14日前、LT3=3日前、LT0=当日。
  • 在庫消化率(OTA公開在庫ベース・推定):(総客室数 − 残室数)÷ 総客室数。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。本稿では個別施設の値は掲載せず、群の中央値としてのみ提示します(1施設単位では在庫投入のタイミングや販売チャネル配分により誤差が大きいため)。
  • 残室消化率:LT14時点の残室数のうち、LT3までに販売された室数の割合。消化率の上積み余地(残室量)の違いを吸収するための補助指標。
  • 掲載価格:各施設がOTA上で公開する最安プランの1室あたり料金(税込)。同一施設・同一チェックイン日のLT14とLT3を比較しているため、変化率は照会条件に左右されません。群間の価格水準を比較する箇所は、照会条件を1名1室利用に統一した部分集合で算出しています。
  • 3群の定義:LT14→LT3の掲載価格変化が −5%超を下げ群、±5%以内を据え置き群、+5%超を上げ群。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ
Key Takeaways
  • — 58.0% の施設×日程が最終2週間に掲載価格を動かしていた(下げ群45.0%・据え置き群42.0%・上げ群13.0%/1,161施設・延べ2,904件)
  • — 14日前の在庫消化率をそろえると、下げ群と据え置き群に差が出るのは消化率70%未満の帯だけ(50%未満で12.1pt、50〜70%で4.5pt)
  • — 70%以上の帯では差が消え、LT3で90%以上へ到達した割合はむしろ据え置き群のほうが高い(70〜85%帯で22.5%対29.5%、85%以上帯で63.8%対74.9%)
  • — 下げ幅を5倍近く深くしても上積みは+8.8pt→+13.3ptにとどまり、下げ幅の深さは消化量をほぼ規定していない
  • — 下げ群はLT14時点で据え置き群より27.5〜31.5%高い水準にいて、LT3では±3%以内に合流していた=安くしたのではなく高い位置から降りていた

母集団の作り方 — 19,020件から2,904件へ

対象は東京都・大阪府・京都府・北海道の4エリア、業態はビジネスホテルと旅館の2系統、チェックイン日は2026年4月29日・5月2日(ゴールデンウィーク)、7月18日(3連休初日)、8月13日(お盆初日)の4日程である。いずれもすでに経過した確定断面であり、直前の値動きと最終的な在庫消化の両方が観測済みという点で、将来日程よりも読み違えが起きにくい。

絞り込みは3段階で行った。第1段階は対象エリア・業態の運営中施設すべて(延べ19,020件)。第2段階は当該チェックイン日について在庫推移が観測できたもの(7,647件)。第3段階が分析対象で、OTAへの公開枠が総客室数の30%以上ある施設に限定している(3,701件)。公開枠が総客室の3割に満たない施設では、観測できる残室が施設全体の動きを代表しないため、この基準は在庫シグナルを扱ううえでの前提条件となる。

母集団の3段階絞り込み — エリア×業態別(4チェックイン日の合計)
エリア 業態 第1段階:対象施設 第2段階:在庫推移あり 第3段階:公開枠30%以上
東京都ビジネスホテル3,2001,901960
東京都旅館77616066
大阪府ビジネスホテル3,2001,394703
大阪府旅館48811572
京都府ビジネスホテル3,0641,170594
京都府旅館1,892670402
北海道ビジネスホテル3,2001,284520
北海道旅館3,200953384
合計(延べ・施設×日程)19,0207,6473,701

4チェックイン日の合計。出典:メトロエンジン株式会社、ホテルバンク編集部作成

なお第1〜第3段階の件数は、1エリア・1業態・1日程あたり800施設を上限とする照会APIの出力であり、上限に達した区分(東京都・大阪府・北海道のビジネスホテル、北海道の旅館)では実際の該当数はこれを上回る。分析対象は運営中施設を全数列挙したうえで、LT14とLT3の両時点で残室数と掲載価格の双方が観測でき、総客室10室以上で、かつ観測残室が総客室数を超えない(消化率が計算可能な)ものに限って構成した。その結果、最終的な分析対象は1,161施設・延べ2,904件となった。内訳はビジネスホテル2,444件・旅館460件、エリア別では東京都1,254件・北海道718件・大阪府570件・京都府362件である。

最終2週間に値を動かした施設は58.0% — 3群の全体像

まず、LT14からLT3にかけて掲載価格がどう動いたかで3群に分ける。下げ群が1,306件(45.0%)、据え置き群が1,221件(42.0%)、上げ群が377件(13.0%)。つまり最終2週間で価格を動かしていた施設×日程は全体の58.0%にのぼる。下げ群の価格変化の中央値は−15.8%、上げ群は+13.3%だった。なお、特定日程に限らない通常運用での値動きの頻度そのものは、値動き回数で測るRM運用密度 — 1,057施設・90日で中央値6回、12.1%は0回で90日間の実測として整理している。

出典:メトロエンジン株式会社、ホテルバンク編集部作成

構成比はエリアと業態で大きく異なる。東京都では下げ群が52.6%を占める一方、北海道では33.7%にとどまり、代わりに据え置き群が53.3%と過半を占める。業態差はさらに明確で、ビジネスホテルの下げ群49.3%に対し、旅館は22.0%。旅館は据え置き群が65.2%と、最終2週間に価格を動かさない運用が主流である。

3群の構成比 — エリア・業態・チェックイン日程別
区分件数下げ群据え置き群上げ群
東京都1,25452.6%35.6%11.7%
大阪府57048.1%37.5%14.4%
京都府36235.9%48.9%15.2%
北海道71833.7%53.3%13.0%
ビジネスホテル2,44449.3%37.7%13.0%
旅館46022.0%65.2%12.8%
4/29(GW初日)93643.5%48.3%8.2%
5/2(GW土曜)55153.4%32.1%14.5%
7/18(3連休初日)62539.5%41.0%19.5%
8/13(お盆初日)79245.2%42.4%12.4%

出典:メトロエンジン株式会社、ホテルバンク編集部作成

未調整の比較では下げ群が上回る — ただし出発点が違う

次に、LT14からLT3にかけて在庫消化率がどれだけ上積みされたかを群別に見る。全体を単純に比較すると、下げ群の上積み中央値は+6.8pt、据え置き群は+4.8pt、上げ群は+10.0ptだった。数字だけを追えば「下げた群のほうが消化が進んだ」ように読める。

ただし3群は出発点がそろっていない。LT14時点の消化率中央値は下げ群67.4%・据え置き群69.6%・上げ群75.9%で、下げ群は最も残室を多く抱えた状態からスタートしている。残室が多ければ上積みできる余地も大きく、この比較には構造的な有利不利が入り込む。

3群の全体像 — 価格変化・LT14/LT3消化率・上積み(層別前)
群件数価格変化
中央値
LT14消化率
中央値
LT3消化率
中央値
上積み
中央値
残室消化率
中央値
LT3で90%
到達率
下げ群1,306-15.8%67.4%77.5%+6.8pt25.0%22.5%
据え置き群1,221+0.0%69.6%75.6%+4.8pt15.6%26.3%
上げ群377+13.3%75.9%90.7%+10.0pt53.3%54.1%

出典:メトロエンジン株式会社、ホテルバンク編集部作成

消化率をそろえると、差が出るのは70%未満の帯だけ

そこで、LT14時点の在庫消化率で4つの帯に層別し、帯の内側で3群を比較する。残室量という最大の交絡要因をそろえたうえで、群ごとの上積みを見る形である。

出典:メトロエンジン株式会社、ホテルバンク編集部作成

結果ははっきりと分かれた。消化率50%未満の帯では下げ群+19.2pt・据え置き群+7.1pt(差12.1pt)、50〜70%の帯では+10.3pt・+5.8pt(差4.5pt)と、下げ群の上積みが明確に大きい。ところが70〜85%の帯では下げ群+5.1pt・据え置き群+5.8ptとほぼ並び、85%以上の帯では下げ群0.0pt・据え置き群+1.3ptとなる。上位2帯では、価格を据え置いたまま同等の消化に到達している施設群が同数規模で存在している。

LT14消化率帯別の層内比較 — 3群の上積みと90%到達率
LT14消化率群件数価格変化上積み中央値四分位範囲残室消化率LT3で90%到達
50%未満下げ群307-15.9%+19.2pt+6.6 〜 +32.828.6%3.3%
据え置き群253+0.0%+7.1pt+0.5 〜 +19.010.3%2.8%
上げ群48+10.0%+35.7pt+10.6 〜 +51.658.8%22.9%
50〜70%下げ群399-15.6%+10.3pt+3.0 〜 +19.627.3%11.0%
据え置き群367+0.0%+5.8pt+0.0 〜 +16.114.3%8.2%
上げ群90+12.4%+18.0pt+3.9 〜 +27.946.9%28.9%
70〜85%下げ群346-15.3%+5.1pt-1.0 〜 +11.423.3%22.5%
据え置き群366+0.0%+5.8pt-0.6 〜 +12.525.0%29.5%
上げ群130+14.4%+11.6pt+6.5 〜 +16.555.6%54.6%
85%以上下げ群254-16.9%+0.0pt-3.6 〜 +3.80.0%63.8%
据え置き群235+0.0%+1.3pt-3.2 〜 +5.625.0%74.9%
上げ群109+17.2%+3.3pt+0.0 〜 +7.150.0%88.1%

四分位範囲は上積み(pt)の第1四分位〜第3四分位。出典:メトロエンジン株式会社、ホテルバンク編集部作成

上積み量の分布そのものを見ても同じ構造が出る。消化率50〜70%の帯では、下げ群の中位半分(第1四分位〜第3四分位)が+3.0〜+19.6pt、据え置き群が0.0〜+16.1ptで、下側の裾が持ち上がっている。一方で70〜85%の帯では両群の分布がほぼ重なる。

出典:メトロエンジン株式会社、ホテルバンク編集部作成

最終的に消化率90%以上まで到達した割合で見ると、上位帯ではむしろ据え置き群のほうが高い。70〜85%の帯で下げ群22.5%・据え置き群29.5%、85%以上の帯で下げ群63.8%・据え置き群74.9%である。値を動かさずに走り切った施設群が、結果として高い到達率を示している。

出典:メトロエンジン株式会社、ホテルバンク編集部作成

下げ幅を深くしても、消化は比例して増えない

下げ群のなかで、下げ幅の深さと消化の関係を見る。ここでは交絡を抑えるため、LT14消化率50〜70%の帯(N=856)に限定した。

出典:メトロエンジン株式会社、ホテルバンク編集部作成

下げ幅別の上積み — LT14消化率50〜70%帯(N=856)
LT14→LT3の値動き件数価格変化中央値上積み中央値残室消化率中央値
据え置き(±5%以内)367+0.0%+5.8pt14.3%
5〜10%の下げ106-7.8%+8.8pt23.4%
10〜20%の下げ152-14.3%+10.8pt28.9%
20〜30%の下げ82-23.9%+9.8pt24.3%
30%超の下げ59-38.5%+13.3pt31.0%

出典:メトロエンジン株式会社、ホテルバンク編集部作成

5〜10%の下げ(中央値−7.8%)で上積み+8.8pt、10〜20%の下げ(同−14.3%)で+10.8pt、30%超の下げ(同−38.5%)で+13.3pt。下げ幅を5倍近くまで深くしても、上積みは+8.8ptから+13.3ptへの伸びにとどまる。残室消化率も23.4%から31.0%への動きで、20〜30%の下げでは24.3%と非単調である。この帯では、下げ幅の深さが消化量をほぼ規定していない、というのが観測結果である。

言い換えると、深く下げた施設は「深く下げなければ動かない状況にあった」可能性と、「浅い下げでも同じ結果になった」可能性の両方を含んでいる。この分解は公開データだけでは切り分けられないが、少なくとも下げ幅を積み増すことの限界収益が急速に逓減していることは読み取れる。

下げ群は「安くした」のではなく、高い水準から市場に戻していた

ここまでで最も示唆的なのは、下げ群と据え置き群の価格水準そのものを比較したときに現れる。照会条件を1名1室利用にそろえたビジネスホテルの部分集合で、両群の掲載価格の中央値を並べる。

出典:メトロエンジン株式会社、ホテルバンク編集部作成

下げ群と据え置き群の掲載価格水準 — LT14とLT3の比較(ビジネスホテル・1名1室利用)
LT14消化率下げ群 LT14下げ群 LT3据え置き群 LT14据え置き群 LT3LT14の価格差LT3の価格差
50%未満¥10,625¥8,070¥8,150¥8,050+30.4%+0.2%
50〜70%¥12,300¥9,500¥9,355¥9,325+31.5%+1.9%
70〜85%¥14,000¥11,050¥10,980¥10,920+27.5%+1.2%
85%以上¥20,655¥17,517¥18,000¥18,000+14.7%-2.7%

ビジネスホテル・1名1室利用ベース。下げ群N=279/351/313/218、据え置き群N=189/266/275/157(帯順)。出典:メトロエンジン株式会社、ホテルバンク編集部作成

LT14時点では、下げ群は据え置き群より27.5〜31.5%高い水準にいた(消化率85%以上の帯のみ+14.7%)。たとえば消化率50〜70%の帯では、下げ群¥12,300に対して据え置き群¥9,355である。そしてLT3時点では、その差が+0.2〜+1.9%まで縮む。85%以上の帯では−2.7%と、据え置き群をわずかに下回る。

読み取れること:下げ群の「値下げ」は、据え置き群より安い水準へ踏み込む動きではなく、高めに設定していた価格を周辺の水準へ収束させる動きだった。4つの帯すべてで、LT3時点の到達価格は据え置き群とほぼ同じ位置にある。市場水準そのものは下がっておらず、下げ群だけが上から降りてきて合流した形である。

この見え方は、下げ幅の深さが消化量を規定していなかった前節の結果とも整合する。下げ幅が深い施設は、それだけ高い位置から出発していたためであり、下げ幅の絶対値は「どこまで下げたか」ではなく「どこから下げ始めたか」を強く反映している。

エリアで違う「据え置きのまま走れる度合い」

層内比較をエリア別に分解すると、同じ消化率50〜70%の帯(ビジネスホテル)でも様相が変わる。

エリア別の層内比較 — ビジネスホテル・LT14消化率50〜70%帯
エリア下げ群 N下げ群 上積み下げ群 価格据え置き群 N据え置き群 上積み据え置き群 価格
東京都199+11.4pt¥13,300→¥10,700133+10.7pt¥10,650→¥10,500
大阪府95+10.0pt¥10,786→¥8,50060+2.6pt¥7,660→¥7,780
京都府24+3.3pt¥17,125→¥13,60132+6.3pt¥8,100→¥8,100
北海道49+11.1pt¥10,000→¥8,10052+1.2pt¥7,400→¥7,357

ビジネスホテル・LT14消化率50〜70%帯。京都府は下げ群N=24と小さく参考値。出典:メトロエンジン株式会社、ホテルバンク編集部作成

東京都では下げ群+11.4pt・据え置き群+10.7ptとほぼ同水準で、条件をそろえると両群の差はごくわずかである。需要の厚みがある市場では、価格を動かさなくても最終2週間で在庫が動いていることを示す。一方で大阪府(+10.0pt対+2.6pt)と北海道(+11.1pt対+1.2pt)では差が大きい。ただし後者2エリアは据え置き群の価格水準が¥7,400〜¥7,700と低く、そもそも下限に近い位置から動かせない施設が据え置き群に多く含まれている可能性がある点は割り引いて読む必要がある。その東京都で在庫がいつ動いているのかをさらに細かく分けた結果は、東京のビジネスホテル434施設、8月14日の在庫消化を分解するが先行型と直前追い上げ型に切り分けて示している。

業態で見ると、旅館は下げ群が101件(22.0%)と少なく、上積み中央値は+2.6pt、据え置き群(300件)は+5.2ptだった。旅館は食事込みの商品設計が中心で、直前に単価だけを動かす余地が構造的に小さい。最終2週間の値動きに頼らない販売設計が、そもそも業態の標準になっている。

因果として読めない理由 — 逆向きの選択が必ず入る

ここまでの数字は、いずれも「値下げしたから埋まった」ことを意味しない。値下げは無作為に割り当てられた処置ではなく、売れ行きが想定より鈍い施設ほど下げるという逆向きの選択が必ず入るためである。

実際、その痕跡はデータに明確に残っている。上げ群のLT14消化率中央値は75.9%と3群で最も高く、上積みも+10.0ptで最大だった。これは値上げが消化を促したのではなく、すでに売れている施設が値上げを選んだ結果と読むのが自然である。同じ論理は下げ群にも逆向きに働く。

本稿ではこの交絡を減らすためにLT14消化率で層別したが、これで除去できるのは「残室量の違い」だけである。同じ消化率でも、需要が伸びている途中なのか鈍化している途中なのかという速度の違いは揃えられていない。値下げを選ぶ施設は後者に偏りやすいため、層内比較でもなお下げ群に不利な方向のバイアスが残る。

したがって本稿の読み方は次の2点に限定される。第1に、消化率70%以上の帯では、価格を据え置いたまま同等以上の消化に到達している施設群が同規模で存在するという記述的事実。第2に、下げ群の到達価格は据え置き群とほぼ同じ位置にあるという価格水準の事実。どちらも施策の効果量ではなく、市場の分布の話である。

なお、照会条件を1名1室利用に限定した部分集合、および2名1室利用に限定した部分集合のいずれでも、帯別の順序関係(50%未満・50〜70%では下げ群が上回り、70〜85%・85%以上では並ぶ)は再現している。

値決め以外に残っている打ち手 — 付帯・連泊・客層

最後に、消化率70%以上の帯で価格以外の変数が効いている可能性を、別のデータから当たってみる。

まず食事付帯である。同一ホテル内で素泊まりプランと朝食付きプランの両方を販売している施設だけを取り出したペアード比較(2026年8月・2名1室利用)では、朝食を付けた場合の上乗せ幅は東京都のビジネスホテルで+13.3%(約¥2,700、N=361施設)、京都府では+22.0%(約¥3,800、N=68施設)だった。

食事付帯のペアード比較 — 素泊まりと朝食付きの価格差(2026年8月・2名1室利用)
エリア区分素泊まり朝食付き上乗せ額上乗せ率ペア成立施設数
東京都ビジネスホテル¥20,566¥23,302¥2,736+13.3%361
大阪府ビジネスホテル¥15,890¥17,626¥1,736+10.9%164
京都府ビジネスホテル¥17,255¥21,051¥3,796+22.0%68
北海道ビジネスホテル¥21,075¥23,056¥1,981+9.4%196

2026年8月・2名1室利用。同一施設内で両プランを販売している施設のみのペアード比較。出典:メトロエンジン株式会社、ホテルバンク編集部作成

下げ群のビジネスホテルにおける値下げ幅の中央値は−15.7%だった。同じ二桁のレンジで、単価を下げる方向にも上げる方向にも動かせる幅があることになる。素泊まり在庫がそのまま残っている状況で朝食付きの選択肢を厚くすることは、単価を維持したまま在庫を動かす経路として検討に値する。エリアによって上乗せ率は9.4%から22.0%まで開いており、自館の商圏でどの程度の付帯価値が受け入れられているかは個別に確認する余地がある(朝食と2食付きで踏み幅がどう変わるかを業態別に分解した例は大分県の食事プレミアムを業態別に解剖するを参照)。

連泊訴求も同様に、価格そのものを触らずに滞在日数を伸ばす経路である。旅館業態で据え置き群が65.2%を占めていたことは、値決め以外の変数で在庫を動かす設計がすでに標準になっている業態が存在することを示している。ビジネスホテルにも同じ余地が残っている。

客層の入れ替えという打ち手もある。消化率70%以上の帯で据え置き群の90%到達率が下げ群を上回っていたことは、その帯にいる施設が価格以外の要素で選ばれていることの傍証になる。自館がどの客層から支持されているかを把握したうえで、直前2週間に届く層を意図的に変えることは、単価を維持しながら消化を進める方向のアップサイドである。

宿向け:このテーマに効くプラン名のヒント

ビジネスホテル × 連泊 で公開されているプラン名(N=634)に多い訴求要素 ——

朝食付 48%連泊割 45%素泊まり 37%レイトアウト 13%ビュッフェ 13%割引 11%

実際の名前の例(匿名化):

  • 【30日前早期割引】2連泊以上でお得◆エコステイ◆朝食ビュッフェ無料◆◆小学生までのお子様添い寝無料
  • カップルプラン【セミダブルルーム】 〜24時間ロングステイ〜 ◆朝食バイキング付◆
  • 【21日前早期割引】2連泊以上でお得◆地球にやさしいエコステイ◆朝食ビュッフェが無料

※公開プラン名の集計にもとづく傾向で、命名が販売を生む因果を示すものではありません。

本文の実測値を室数と金額に置き換える — 100室規模での単位換算

ここまでの上積みは消化率のポイント差で示してきた。消化率の定義(販売済み室数÷総客室数)から、上積み1ptは総客室100室あたり1室にそのまま対応する。エリア別の層内比較表(ビジネスホテル・LT14消化率50〜70%帯)は、同じ部分集合について上積みとLT3掲載価格の両方を持っているため、両者を掛け合わせれば「直前2週間に上積みされた分の販売額」を100室規模の施設に置き換えて並べられる。以下はいずれも本文に出た実測中央値の単位換算であり、将来の予測ではない。

単価維持経路と値下げ経路の単位換算 — 100室規模・LT14消化率50〜70%帯(ビジネスホテル)
ケース本文の実測区分据え置き群:上積み/LT3掲載価格100室あたり上積み販売額下げ群:上積み/LT3掲載価格100室あたり上積み販売額差(据え置き−下げ)
悲観北海道(下げ群N=49/据え置き群N=52)+1.2pt / ¥7,357¥8,828+11.1pt / ¥8,100¥89,910−¥81,082
中位(下)大阪府(下げ群N=95/据え置き群N=60)+2.6pt / ¥7,780¥20,228+10.0pt / ¥8,500¥85,000−¥64,772
中位(上)京都府(下げ群N=24/据え置き群N=32)+6.3pt / ¥8,100¥51,030+3.3pt / ¥13,601¥44,883+¥6,147
楽観東京都(下げ群N=199/据え置き群N=133)+10.7pt / ¥10,500¥112,350+11.4pt / ¥10,700¥121,980−¥9,630

据え置き群の上積みが最も小さかった北海道でも、100室あたり¥8,828に相当する在庫が単価を動かさずに動いていた。京都府では据え置き群(¥51,030)が下げ群(¥44,883)を上回り、東京都でも両経路の差は¥9,630(下げ群比7.9%)に収まる。差が大きく開くのは北海道(¥81,082)と大阪府(¥64,772)で、この2エリアは据え置き群のLT3掲載価格が¥7,357・¥7,780と低く、本文で触れたとおり下限に近い位置から動かせない施設が多く含まれている可能性がある点は割り引いて読む必要がある。また京都府の下げ群はN=24と小さく、参考値として扱う。

2軸早見表 — 上積み(pt)×LT3掲載価格で見る100室あたり上積み販売額
上積み \ LT3掲載価格¥7,500¥9,000¥10,500¥12,000¥13,500
+1.0pt(1.0室)¥7,500¥9,000¥10,500¥12,000¥13,500
+3.0pt(3.0室)¥22,500¥27,000¥31,500¥36,000¥40,500
+6.0pt(6.0室)¥45,000¥54,000¥63,000¥72,000¥81,000
+9.0pt(9.0室)¥67,500¥81,000¥94,500¥108,000¥121,500
+11.0pt(11.0室)¥82,500¥99,000¥115,500¥132,000¥148,500

行は本文で観測された上積みの範囲(+1.2〜+11.4pt)、列はLT3掲載価格の範囲(¥7,357〜¥13,601)の内側に取っている。各セルは行と列の積で、たとえば+6.0ptを¥10,500で販売できれば100室あたり¥63,000、+11.0ptを¥7,500で販売した場合の¥82,500と大きくは変わらない。単価を¥1,500下げて上積みを2pt積み増した場合(+11.0pt×¥9,000=¥99,000)と、単価を維持して上積みを抑えた場合(+9.0pt×¥10,500=¥94,500)の差は4.8%にとどまる。本節は掲載値の単位換算であって、施策の効果を示すものではない。

まとめ

1,161施設・延べ2,904件の確定断面から見えたことを整理する。

第1に、最終2週間で価格を動かしていたのは全体の58.0%で、下げ群が45.0%、上げ群が13.0%だった。東京都は下げ群52.6%、北海道は33.7%、旅館は22.0%と、エリアと業態で運用のかたちが大きく異なる。

第2に、LT14時点の消化率をそろえると、下げ群と据え置き群の差が現れるのは消化率70%未満の帯に限られる。50%未満で12.1pt、50〜70%で4.5ptの差がある一方、70〜85%では−0.7pt、85%以上では−1.3ptと、上位帯では差が消える。最終的に90%以上へ到達した割合はむしろ据え置き群のほうが高い。

第3に、下げ幅の深さは消化量をほぼ規定していない。5〜10%の下げで+8.8pt、30%超の下げで+13.3ptと、下げ幅を5倍近くにしても上積みは1.5倍程度にとどまる。

第4に、下げ群はLT14時点で据え置き群より27.5〜31.5%高い水準にいた。LT3時点の到達価格はどの帯でも据え置き群と±3%以内(−2.7%〜+1.9%)に収まる。下げ群の動きは、市場水準より安くする動きではなく、高い位置から周辺水準へ合流する動きだった。

これらはすべて記述統計であり、施策の効果を測ったものではない。売れ行きが鈍い施設ほど下げるという逆向きの選択が入る以上、群間の差をそのまま値下げの効果として読むことはできない。それでも、消化率70%を超えた帯には、価格を据え置いたまま同等以上の結果に到達している施設群が同規模で存在するという事実は、直前2週間の判断を考えるうえでの参照点になる。朝食付帯の上乗せ幅がエリアによって+9.4〜+22.0%あることを踏まえると、単価を維持したまま在庫を動かす経路にはまだ検討の余地が残っている。

データの制約について:在庫推移データの収集開始は2026年3月10日で、本稿が扱う4チェックイン日はいずれも経過済みの確定断面です。在庫消化率はOTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。OTAへの公開枠が総客室数の30%未満の施設は分析対象外としています。公開枠が小さい施設には、公式サイト直販やコールセンター・旅行会社・法人契約を中心としたチャネル運用、チェックインが近づくにつれ在庫を小出しに追加する在庫コントロール、契約上の割当設定など複数の可能性が考えられ、OTAの公開データだけでは判別できないためです。

あわせて読みたい

参考資料・出典一覧

■ データソース

メトロエンジンリサーチの個別施設の残室推移および掲載価格推移(対象=東京都・大阪府・京都府・北海道、ビジネスホテルと旅館、チェックイン日2026年4月29日・5月2日・7月18日・8月13日)。母集団は3段階(延べ19,020件→在庫推移あり7,647件→公開枠30%以上3,701件)で開示し、LT14とLT3の双方で残室数と掲載価格が観測できた1,161施設・延べ2,904件を分析対象とした。食事付帯の比較は同一施設内で素泊まりと朝食付きの双方を販売する施設のみのペアード比較(2026年8月・2名1室利用)。

■ 試算前提

在庫消化率=(総客室数−残室数)÷総客室数(OTA公開在庫ベースの推定値)。3群はLT14→LT3の掲載価格変化が−5%超を下げ群、±5%以内を据え置き群、+5%超を上げ群として分類。層内比較はLT14時点の消化率で4帯(50%未満/50〜70%/70〜85%/85%以上)に層別している。「100室規模での単位換算」節の室数・金額は、エリア別層内比較表(ビジネスホテル・LT14消化率50〜70%帯)の実測中央値をそのまま100室に当てはめた算術であり、2軸早見表の両軸も本文で観測された範囲の内側に取っている。将来の消化や増収を予測したものではない。

■ 限界・留意点

在庫推移データの収集開始は2026年3月10日で、本稿の4チェックイン日はいずれも経過済みの確定断面である。消化率はOTA上で販売される在庫に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なる。公開枠が総客室数の30%未満の施設は対象外としている。値下げは無作為に割り当てられた処置ではなく、売れ行きが鈍い施設ほど下げるという逆向きの選択が入るため、群間の差を値下げの効果として読むことはできない。京都府の下げ群(N=24)など件数の小さい区分は参考値として扱う。母集団の第1〜第3段階の件数は1エリア・1業態・1日程あたり800施設を上限とする照会出力であり、上限に達した区分では実際の該当数はこれを上回る。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ — 個別施設の残室推移(1,161施設・延べ2,904件、チェックイン日2026年4月29日・5月2日・7月18日・8月13日)、掲載価格推移、食事タイプ別ペアード価格比較(2026年8月)、公開プラン名の訴求要素集計(N=634)

■ 政府統計・公的データ

関連記事