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大阪万博のホテルADRへの影響|REIT・OTA等データで検証

投稿日 : 2026.04.22

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大阪万博がホテルADRに与えた影響の分析チャート

2025年4月13日から10月13日まで開催された大阪・関西万博(EXPO 2025)は、来場者数約2,820万人を記録した。それに伴い、関西圏のホテル市場は宿泊需要の急増を経験した。しかしながら、閉幕から半年が経過した2026年4月現在、関西ではADR(平均客室単価)の前年比下落が目立ち始めている。

では、この下落は「市場の悪化」を意味するのだろうか。それとも、万博という特殊要因がつくり出した「異常な高水準からの正常化」に過ぎないのだろうか。本稿では、上場ホテルREIT7社の月次運営データと、関西圏約2,600ホテルのOTA等公開価格データを用いて、この疑問に答える。加えて、2026年後半に向けてホテル事業者・投資家がYoY(前年比)をどのように読み解くべきかについても考察したい。

分析に使用したデータ

本分析では、性質の異なる2種類のデータを組み合わせることで、多角的な検証を行った。

データソース 内容 対象規模 特徴
ホテルREIT
月次運営データ
いちごホテルリート、インヴィンシブル、日本ホテル&レジデンシャル、ジャパン・ホテル・リート、星野リゾート・リート、森トラストリート、霞ヶ関ホテルリートの7社が毎月公開する個別物件のADR・稼働率・RevPAR 関西圏19物件
東京圏15〜18物件
実際の宿泊実績に基づく。市場の実態を正確に反映
OTA等
公開価格データ
販売価格および在庫状況(2名1室・室料ベース、メトロエンジン株式会社調べ) 関西圏 N=2,473〜2,684
東京圏 N=1,232〜1,312
REIT対象外を含む広範なデータ。市場全体の傾向を捕捉

1. 関西圏ADR:2025年だけが突出した異常値を記録

まず、関西圏REIT物件の月次ADRを年別に重ねたグラフを見てみよう。2025年(万博年)の4〜10月が、2024年および2026年から大きく乖離していることが一目瞭然である。

出典:各社REIT月次運営データよりメトロエンジン作成(N=関西19物件・東京15〜18物件)

具体的に見ると、万博開催期間中の2025年はほぼ全月で2024年を+20〜43%上回っている。なかでも5月は+42.6%、9月は+37.7%と、特に大きな伸びを示した。一方で、2026年1〜2月のADRは2024年とほぼ同水準に回帰しており、万博による押し上げが一時的なものであったことが明確に読み取れる。

こうした極端なADR上昇は、万博会場への来場者が関西圏全体に宿泊需要を波及させたことに加え、大会期間中の高い注目度がビジネス・MICE需要を喚起した結果と考えられる。

2. 東京圏ADR:年ごとの差は限定的

次に、対照群として東京圏の推移を確認する。以下のグラフから分かる通り、東京圏では年ごとのADRの差は関西に比べてはるかに小さい。

出典:各社REIT月次運営データよりメトロエンジン作成

東京圏は2024年から2025年にかけて緩やかな成長を見せてはいるものの、各年とも安定した季節パターンを描いている。とりわけ、2025年4〜10月に関西で見られたような急激な跳ね上がりは確認できない。このことから、2025年の関西の異常な上昇は全国的なトレンドではなく、万博固有の効果であると結論づけられる。

3. 万博「超過成長」の定量化:関西は東京を+22ポイント上回る

それでは、万博による押し上げ効果はどの程度だったのか。ここでは、東京圏のADR成長率を「万博がなかった場合のベースライン」と仮定し、関西圏の成長率との差分を「万博超過効果」として算出した。

出典:各社REIT月次運営データよりメトロエンジン作成

その結果、万博期間中の7ヶ月間で、関西圏は東京圏を平均+21.7ポイント上回るADR成長を記録していた。月別では、5月が+31ポイント、9月が+30ポイントと特に大きい。前者はGW(ゴールデンウィーク)との重複、後者は秋の行楽シーズンとの相乗効果が寄与したと推測される。

なお、東京圏のADR成長率は+8.9%であり、これはインバウンド回復や国内旅行需要の増加といった全国共通のマクロ要因によるものと考えられる。それを差し引いてもなお関西が20ポイント以上上回っているという事実は、万博の宿泊需要創出力がいかに大きかったかを如実に物語っている。

4. 稼働率への影響:価格を上げても客室が埋まる異例の環境

万博の効果はADRだけにとどまらない。稼働率の推移を年別に比較すると、さらに興味深い発見がある。

出典:各社REIT月次運営データよりメトロエンジン作成

2025年の関西は、万博期間中に平均稼働率87.9%を記録した。これは2024年同期間の80.8%を7.1ポイント上回る水準である。一般的に、ホテルがADRを引き上げると稼働率は低下する傾向にある。しかしながら、万博期間中は「価格を引き上げても客室が埋まる」という、ホテル事業者にとって理想的な需給環境が成立していた。この点は、万博が単なる価格上昇ではなく、実質的な需要増をもたらしたことの証左といえるだろう。

5. RevPAR:ADRと稼働率の相乗効果で最大+62%

ホテルの収益力を最も的確に表すRevPAR(ADR × 稼働率)で見ると、万博の効果はさらに際立つ。

出典:各社REIT月次運営データよりメトロエンジン作成

ADRの上昇と稼働率の改善が掛け合わさった結果、2025年5月のRevPARは前年比+56%、9月には+62%という驚異的な伸びを示した。すなわち、万博はホテル事業者の売上を1.5〜1.6倍に押し上げたことになる。このインパクトの大きさを理解しておくことは、後述する2026年の「反動」を正しく評価するうえで不可欠である。

6. 万博閉幕後:わずか2ヶ月で効果が消失

万博は2025年10月13日に閉幕した。その後の関西ホテル市場はどのような推移をたどったのだろうか。以下のグラフと表は、閉幕前後のADR前年比の推移を示している。

出典:各社REIT月次運営データよりメトロエンジン作成

時期 関西 ADR YoY 状況
2025年10月(万博最終月) +28.5% 特需が持続
2025年11月 +6.0% 急速に減速
2025年12月 -0.2% 効果がほぼ消失
2026年1月 -3.6% マイナスに転換
2026年2月 -10.3% 下落が加速

出典:各社REIT月次運営データよりメトロエンジン作成

このように、閉幕後わずか2ヶ月で万博によるADR押し上げ効果は完全に消失した。12月にはYoYがほぼフラットとなり、2026年に入るとマイナスに転じている。ただし重要なのは、前述の年別比較で示した通り、2024年同月と比べるとADRは依然としてプラス圏にあるという点である。「万博前より悪化した」という解釈は、データが示す実態とは異なる。

7. OTA等価格データが裏付ける2026年4〜7月の構図

ここまでの分析はREIT月次データ(2026年2月まで)に基づいていた。それでは、2026年4月以降の最新状況はどうなっているのか。ここからは、関西圏約2,600ホテルのOTA等販売価格データを用いて検証する。

出典:OTA等公開データよりメトロエンジン作成(N=関西2,473〜2,684・東京1,232〜1,312ホテル)

関西 ’25 関西 ’26 関西 YoY 東京 YoY 差分
4月 ¥46,509 ¥38,361 -17.5% +4.1% -21.7pt
5月 ¥41,405 ¥44,591 +7.7% +13.7% -6.0pt
6月 ¥39,461 ¥34,579 -12.4% +0.0% -12.4pt
7月 ¥41,754 ¥36,527 -12.5% +2.9% -15.4pt

出典:OTA等公開データよりメトロエンジン作成(N=関西2,473〜2,684・東京1,232〜1,312ホテル)

OTA等のデータでも構図は明確だ。2026年4月の関西圏は前年比-17.5%なのに対し、東京圏は+4.1%と堅調を維持している。両者の差は-21.7ポイントであり、これは先ほどのREIT分析で算出した万博超過効果(+21.7pt)とほぼ完全に一致する。つまり、2025年に万博で上乗せされた分が、そのまま2026年のYoY下落として表れているという構図が、REITとOTAの両方のデータで裏付けられたことになる。

8. OTA等在庫消化率から見る需要の回復度合い

価格だけでなく、在庫の消化状況からも需要の実態を確認しておこう。以下は、OTA等における在庫消化率(売切プラン比率)を関西・東京で比較したものである。

出典:OTA等公開データよりメトロエンジン作成(N=関西2,473〜2,684・東京1,232〜1,312ホテル)

2026年4月時点で、東京圏の在庫消化率は86.3%と高い水準にある。これに対して、関西圏は66.8%にとどまっており、17ポイントほどの差が開いている。5月以降もこの傾向は続き、関西は東京を7〜17ポイント下回る状態が見込まれる。

ただし、この数字を「関西の需要が弱い」と短絡的に解釈すべきではない。というのも、万博期間中の関西は90%を超える異常な高稼働が続いていたためだ。現在の60〜70%台は、むしろ平年並みの水準に戻りつつある過程と捉えるのが妥当であろう。

9. 2026年後半への示唆:「万博ロス」をどう読み解くか

以上の分析を踏まえると、2026年4月以降の関西圏ホテルが前年比で厳しい数字を示すことは、ほぼ確実である。なぜなら、比較対象となる2025年4〜10月が万博特需で異常に膨らんでいるためだ。

しかしながら、本稿の分析が一貫して示しているように、この下落の主因は万博特需の反動であって、ホテルの実力低下や市場の構造的な悪化を意味するものではない。関西圏のホテル事業者・投資家が2026年の業績を正しく評価するためには、以下の3つの視点が重要となる。

業績評価の3つの視点

視点 考え方 判断基準
2年前比
(2024年同月比)
万博の影響を完全に排除した「実力ベース」の成長率を把握できる 2024年比で+5〜10%程度であれば、インバウンド回復を背景とした健全な成長軌道
東京圏との
相対比較
全国共通のマクロトレンド(為替・インバウンド・国内旅行需要)の影響を除外し、関西固有の回復度を測定 関西のYoY下落が東京を20pt以上下回る場合、その差分は万博反動と解釈するのが合理的
稼働率の底力 ADRは万博反動で機械的に低下するが、稼働率の推移こそが需要の「実力」を映す指標 稼働率80%台後半を維持できていれば、RevPARベースの収益力は健全

月別「万博ハンデ」早見表

最後に、2026年の各月におけるYoYの「見かけ上の下振れ」がどの程度になるかを、早見表として整理した。ホテル事業者や投資家が月次実績を評価する際の参考としていただきたい。

2025年の万博超過効果 2026年YoYへの推定影響
4月 +15pt YoYが約-15pt過大に見える
5月 +31pt YoYが約-31pt過大に見える
6月 +27pt YoYが約-27pt過大に見える
7月 +24pt YoYが約-24pt過大に見える
8月 +20pt YoYが約-20pt過大に見える
9月 +30pt YoYが約-30pt過大に見える
10月 +10pt YoYが約-10pt過大に見える

出典:各社REIT月次運営データよりメトロエンジン作成

大阪・関西万博は、関西圏のホテル市場に一時的ながら極めて大きな恩恵をもたらした。そのインパクトが大きかった分だけ、閉幕後の「反動」もまた大きい。2026年は、この「万博ロス」との向き合い方が、関西ホテル市場の正しい評価を左右する一年となるだろう。数字の表面だけを見て悲観するのではなく、本稿で示した複数の視点から実態を読み解くことが、事業判断においても投資判断においても重要である。

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また、観光庁が公表する宿泊旅行統計調査でも、関西圏の外国人延べ宿泊者数が2025年に過去最高を更新したことが報告されており、万博期間中のインバウンド需要の押し上げが公的統計からも裏付けられている。

データソース
・ホテルREIT月次運営データ:いちごホテルリート投資法人(3463)、インヴィンシブル投資法人(8963)、日本ホテル&レジデンシャル投資法人(3472)、ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)、星野リゾート・リート投資法人(3287)、森トラストリート投資法人(8961)、霞ヶ関ホテルリート投資法人(401A)の7社。関西圏19物件・東京圏15〜18物件の個別物件データを集計
・OTA等公開価格データ:関西圏N=2,473〜2,684ホテル・東京圏N=1,232〜1,312ホテル(メトロエンジン株式会社調べ)
分析:メトロエンジン株式会社 データアナリティクス部

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