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かんぽの宿はなぜ亀の井ホテルになったのか|39棟の築年・市区町村単価・改装後ADR+27%【2026】

投稿日 : 2026.10.26

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かんぽの宿はなぜ亀の井ホテルになったのか|39棟の築年・市区町村単価・改装後ADR+27%【2026】

「かんぽの宿はなぜ亀の井ホテルになったのか」という問いには、2021年10月の日本郵政による事業譲渡の決定と、2022年7月1日のブランド統一という2つの日付で答えられる。ただ、検索する読者が知りたいのはそこで終わらない。転換から4年が過ぎ、旧公的宿の器が今どんな価格帯で売られ、改装が単価に反映されているのか、そして同じ型の公的宿ストックに同じ手法が通用するのかまでを、本稿は一次情報と当社の実データで確かめる。公式発表と報道で年表を固めたうえで、39施設の開業年代を全国の旅館・リゾートホテル母集団と比べ、同一市区町村・同カテゴリの標準的な施設に対する価格指数を18棟で算出し、2025年に改装を完了した棟とそれ以外の棟で推定成約ADRの前年比がどれだけ違うかを測った。最後に、全国に残る休暇村・国民宿舎のストックを民間ブランドへ載せ替える際、1室あたり改装費がどの単価リフトで成立するかを概算する。

本記事における指標の定義と母集団

  • 母集団:亀の井ホテル公式サイトに掲載されている施設一覧(2026年10月9日時点・39施設)と当社ホテルマスターを施設名・所在地で突合し、一致した39施設(合計2,952室)を対象とした。2026年に他ブランドへ転換した塩原・大和平群・観音寺は含まない。客室数は当社ホテルマスターの値で、運営会社の発表値と異なる場合がある。
  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。掲載価格に言及する箇所は2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。
  • 集計期間:2025年10月〜2026年9月の12ヶ月(確定月のみ)。前年比は同じ12ヶ月を前年同月と対比した。推定成約ADRを算出できたのは39施設中36施設。
  • 価格指数:各棟の推定成約ADR÷同一市区町村・同カテゴリ(旅館またはリゾートホテル)の推定成約ADR中央値×100。母集団が8施設以上ある市区町村に限って算出した(18棟)。
  • 開業年:当社ホテルマスターの開業年。建て替えを経た施設でも当初の開業年を採用している場合があり、建築年とは一致しない。ブランド転換日を開業年として持つ4施設と開業年不明の1施設は年代集計から除いた。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ/口コミ集計はホテルバンク編集部調べ
Key Takeaways
  • — 譲渡から統一まで9ヶ月。日本郵政が2021年10月1日に32施設の譲渡(約88億円)を決め、マイステイズ・ホテル・マネジメントが2022年4月5日に30施設の運営を始め、同年7月1日に別府の屋号で32施設を統一した。2026年10月時点の公式掲載は24都府県39施設・2,952室で、当社マスターと全件一致する。
  • — 開業年が判明する34棟の65%が1970年代以前の開業。全国の旅館(30室以上・N=1,677)の52%、リゾートホテル(同・N=1,487)の13%と比べて開業年代が一回り古い器であり、改装が価格戦略の前提になる。
  • — 同一市区町村・同カテゴリに対する価格指数の中央値は122(18棟・76〜184)。ブランド全体の推定成約ADR中央値は¥19,900(N=36)。
  • — 2025年に改装を完了した棟の推定成約ADRは前年比+26.9%(11棟・合算)。改装のなかった棟の+15.3%(23棟)、所在市区町村の市場中央値の+6.4%を上回り、改装分として1泊1室あたり約¥2,200の上乗せが読み取れる。
  • — 1室300万円の改装は、旅館平均の稼働率38.2%(2025年1〜12月の年間値・観光庁)でも1泊¥2,200弱の上乗せで10年回収。実測の上乗せ幅と同じ水準であり、休暇村35施設・公営国民宿舎39施設という残存ストックに同じ型が成立する条件が見える。

かんぽの宿はなぜ亀の井ホテルになったのか — 譲渡決定からブランド統一までの9ヶ月

出発点は日本郵政の経営判断である。同社は2021年10月1日、保有する「かんぽの宿」32施設の事業をマイステイズ・ホテル・マネジメントなど5社へ譲渡することを決め、契約を結んだ。譲渡価額は約88億円で、背景として挙げられたのは、新型コロナウイルスの感染拡大で2020年度に約113億円の経常損失を計上していたことだった。宿泊事業の回復を自力で待つのではなく、ホテル・旅館の運営実績がある事業者へ事業ごと引き渡すのが最善だと判断したかたちである。

受け皿となったマイステイズ・ホテル・マネジメント(フォートレス・インベストメント・グループの関係会社)は、2022年4月5日に30施設の運営を始めた。そして同年6月3日、7月1日付で「亀の井ホテル」へ改称すると発表する。屋号の由来は別府にある。運営会社の発表によれば、「別府観光の父」と呼ばれる油屋熊八が1924年(大正13年)に開いた亀の井ホテルで、同社は2015年からその運営を受託していた。「旅人をねんごろにせよ」を信条としたと伝えられる人物の宿の名を、全国の旧公的宿に冠したわけだ。統一時点の32施設は、旧かんぽの宿30施設に、2022年4月28日運営開始の奥日光湯元と別府を加えたもので、同社の最大ブランドになった。

つまり読者が「かんぽの宿」として記憶している建物と、いま「亀の井ホテル」として予約できる建物は、大半が同じ器である。変わったのは所有者と運営者、そしてブランドと価格の付け方だった。発表時の運営会社は、第1弾の10施設を2023年2月頃までに改装し、露天風呂付客室やキッズルーム、ペット対応客室を増やす方針を示している。

その後のブランドは、譲受した器にとどまらず増え続けた。年表に沿って追うと、2023年10月に4施設、同11月に草津湯畑、2024年4月に那智勝浦と筑波山が加わり、2024年12月25日の阿蘇 パークリゾートで40棟目に達した。2025年12月の草津リゾートで発表時点41棟となった一方、2026年には塩原・大和平群が愛犬同伴ブランドへ、観音寺が運営移管で他社ブランドへと離れ、同年5月に富士が加わった結果、2026年10月時点の公式掲載は39施設である。なお、2022年のリブランド発表当時の経緯はかんぽの宿はなぜ亀の井ホテルに?リブランドの経緯と現在が、2021年の譲渡発表は日本郵政「かんぽの宿」を全売却 29施設をマイステイズ・ホテルにが当時の情報として伝えている。

表1 かんぽの宿から亀の井ホテルへ — 譲渡決定から2026年までの年表
時期できごと
1924年油屋熊八が別府に亀の井ホテルを開業(運営会社の2022年6月発表による)
2015年マイステイズ・ホテル・マネジメントが「別府亀の井ホテル」の運営を受託
2021年10月1日日本郵政が「かんぽの宿」32施設の事業譲渡を決定・契約。譲渡価額は約88億円、2020年度の同事業は約113億円の経常損失
2022年4月5日マイステイズ・ホテル・マネジメントが旧かんぽの宿30施設の運営を開始。4月28日に奥日光湯元が加わる
2022年7月1日30施設と奥日光湯元・別府をあわせ32施設を「亀の井ホテル」へブランド統一。同社の最大ブランドに
2023年10月1日青森まかど・秋田湯瀬・田沢湖・日光湯西川の4施設をリブランド(36施設)
2023年11月15日草津湯畑がグランドオープン(37施設)
2024年4月1日/4月23日那智勝浦(4月1日)・筑波山(4月23日)をリブランド(39施設)
2024年12月25日ホテル阿蘇の司を「阿蘇 パークリゾート」(209室)へリブランド。40棟目
2025年3月26日熱海・青森まかど・長瀞寄居・鴨川・青梅・九十九里・焼津・大洗・赤穂・淡路島・有馬・阿蘇の12棟を同年3月〜冬に改装すると公表
2025年7月1日運営会社がアイコニア・ホスピタリティへ商号変更(同日時点でグループ180施設・24,846室)
2025年12月25日草津温泉ホテルリゾートを「草津リゾート」(103室)へリブランド。発表時点で41棟
2026年2月11日/4月11日塩原(2月11日)と大和平群(4月11日)が愛犬同伴ブランド「わんわんパラダイス」へ転換
2026年5月30日エバーグリーン富士を「富士」へリブランド
2026年6月30日観音寺が運営移管により「リブマックスリゾート観音寺」へ(亀の井ホテルの名称から外れる)
2026年10月9日公式サイト掲載は24都府県・39施設。当社ホテルマスターと39施設すべてが一致(合計2,952室)

出典:日本郵政株式会社の発表(ロイター配信記事による)、アイコニア・ホスピタリティ(旧マイステイズ・ホテル・マネジメント)の各報道発表、亀の井ホテル公式サイト(2026年10月9日閲覧)よりホテルバンク編集部作成

39施設はどこにあるか — 温泉地と海辺に残る旧公的宿の配置

地図に落とすと、39施設は東北から九州まで24都府県に散らばり、関東12・近畿9・中部7・九州5・東北4・中国四国2という分布になる。旧かんぽの宿が全国の保養地に配置されていた歴史がそのまま残り、駅前の業務需要ではなく温泉と海景を目的とした滞在型の立地が中心である。円の大きさは客室数で、最大は別府の322室、次いで阿蘇 パークリゾート209室、熱海159室と続き、中央値は55室にとどまる。青い円は2025年に改装完了を公表した12棟、灰色の円はそれ以外の施設を示す。

出典:メトロエンジンリサーチ(39施設・当社ホテルマスター)、ホテルバンク編集部より作成

既刊の亀の井ホテルとは|かんぽの宿から転換した39軒2,952室を全国集計が都道府県別・客室規模別・立地類型別の集計と都道府県単位の価格指数を整理しているので、本稿では分布の再掲にとどめ、以下では開業年代、市区町村単位の価格指数、改装の効果という3点に絞って掘り下げる。

開業年代 — 34棟の65%が1970年代以前、全国の旅館より一回り古い

旧公的宿ゆえの築年の古さは、しばしば印象で語られる。当社ホテルマスターの開業年で確かめると、年代が判明する34棟のうち1960年代が10棟、1970年代が10棟と、この20年間に6割が集中していた。1950年代以前の2棟を加えると、1970年代以前の開業が65%を占める。同じ基準で全国の旅館(30室以上・開業年判明分N=1,677)を集計すると1970年代以前は52%、リゾートホテル(同N=1,487)では13%にすぎない。亀の井ホテルの器は、全国の旅館母集団よりさらに一回り古く、リゾートホテルとは比べものにならないほど古い。

出典:メトロエンジンリサーチ(開業年は当社ホテルマスター、30室以上・開業年判明分。亀の井ホテルN=34、旅館N=1,677、リゾートホテルN=1,487)、ホテルバンク編集部より作成

この分布が意味するのは、ブランドの価格戦略が改装と不可分だという点である。建て替えを経た施設でも当初開業年を採用している場合があるため個々の建築年とは一致しないが、全体として1960〜70年代の簡易保険加入者向け保養施設の器を使い続けている構図に変わりはない。2025年3月に12棟の改装計画をまとめて公表したのは、この年代構成への直接の対応と読める。

同一市区町村・同カテゴリに対する価格指数 — 18棟の中央値は122

価格水準は立地する市場の相場に左右される。そこで各棟の推定成約ADRを、同じ市区町村・同じカテゴリ(旅館またはリゾートホテル)の推定成約ADR中央値で割った価格指数を算出した。母集団が小さい町では中央値が当該棟そのものに近づいてしまうため、同カテゴリの施設が8以上ある市区町村に限ると18棟が残る。その中央値は122、つまり亀の井ホテルは所在市区町村の標準的な同カテゴリ施設よりおよそ2割高い水準で売れている。

出典:メトロエンジンリサーチ(2025年10月〜2026年9月の確定月、月次指数の中央値。市区町村側は同カテゴリ8施設以上)、ホテルバンク編集部より作成

指数が高いのは筑波山(184)、草津湯畑(166)、日光湯西川(156)、伊豆高原(153)で、関東平野を一望する山腹、湯畑至近、オールインクルーシブ型といった商品の希少性が市区町村相場を押し上げている。一方で田沢湖(76)、紀伊田辺(86)、奈良(94)、秋田湯瀬(95)は市場の標準を下回り、ブランドが幅広い在庫を手の届きやすい価格帯の受け皿として使っていることがわかる。熱海と熱海 別館は同じ熱海市(旅館71施設)の中で115と99に分かれ、本館と別館で役割を分けている。

表2 同一市区町村・同カテゴリに対する価格指数(18棟・2025年10月〜2026年9月)
施設市区町村同カテゴリ施設数市区町村ADR中央値当該棟ADR価格指数市区町村 前年比当該棟 前年比
筑波山つくば市8¥13,757¥24,662184-5.0%+14.8%
草津湯畑草津町81¥16,832¥28,566166+6.9%+10.3%
日光湯西川日光市100¥17,861¥27,534156+3.0%+25.8%
伊豆高原伊東市67¥23,514¥37,308153-0.5%+6.8%
青梅青梅市12¥15,187¥19,956137+2.6%+8.8%
福井福井市16¥11,441¥15,356133+5.9%+10.2%
赤穂赤穂市9¥21,330¥29,256129+7.5%+39.7%
淡路島淡路市9¥19,615¥26,561129+8.9%+32.2%
那智勝浦那智勝浦町9¥16,631¥21,314129+20.2%+18.3%
熱海熱海市71¥25,722¥28,947115+11.4%+29.2%
鳥羽鳥羽市71¥20,569¥22,240115+1.3%+30.2%
鴨川鴨川市26¥21,787¥21,23099+4.6%+14.9%
熱海 別館熱海市71¥25,722¥24,54399+11.4%+46.2%
草津リゾート草津町8¥22,725¥20,85798+8.5%—
秋田湯瀬鹿角市12¥11,593¥10,72895+2.2%+16.6%
奈良奈良市27¥21,880¥20,46094+1.3%+4.2%
紀伊田辺田辺市16¥17,757¥15,14986+8.7%+5.3%
田沢湖仙北市18¥13,272¥10,27576+18.0%+7.9%

出典:メトロエンジンリサーチ(推定成約ADRは2025年10月〜2026年9月の確定月中央値、前年比は同期間の合算を前年同月と対比)、ホテルバンク編集部より作成

表の右2列を見ると、前年比を比べられる17棟のうち14棟で当該棟の前年比が所在市区町村の前年比を上回る(リブランド直後の草津リゾートは前年が別ブランドの実績のため除く)。市区町村の中央値が+6.4%(18組の中央値)だったのに対し、ブランド側は2桁の伸びが並ぶ。相場の上昇に乗っただけではなく、ブランド側の値付けと商品改定が単価を動かしていると読める。その中身を次節で改装の有無に分けて確かめる。

改装を完了した棟の単価 — 前年比+26.9%、改装のない棟との差は1泊約¥2,200

運営会社は2025年3月26日、熱海・青森まかど・長瀞寄居・鴨川・青梅・九十九里・焼津・大洗・赤穂・淡路島・有馬・阿蘇の12棟を同年3月から冬にかけて改装すると公表した。内容はロビー・一部客室・レストランの刷新が中心で、熱海と鴨川には露天風呂付客室、九十九里にはサウナ付ヴィラ棟、焼津は客室を40室から53室へ増室するといった商品追加を伴う。公式サイトのピックアップ欄でも九十九里・焼津(7月1日)、大洗(7月18日)、赤穂(7月19日)、淡路島・有馬(8月1日)、阿蘇(10月24日)がリニューアルとして掲げられている。

この12棟のうち推定成約ADRを算出できる11棟について、2025年10月〜2026年9月の月次ADRを前年同月と合算で比べると前年比+26.9%(棟別の中央値+28.2%)だった。同じ期間に改装の公表がなかった23棟は+15.3%(同+14.8%)で、両者の差は約12ポイントになる。改装棟の前年水準(合算平均¥19,000)に当てはめると、改装分の上乗せは1泊1室あたり約¥2,200(税抜相当)という計算である。2025年12月と2026年5月にリブランドした草津リゾート・富士は、前年が別ブランドの実績になるため前年比の集計から外した。

出典:メトロエンジンリサーチ(推定成約ADR、2025年10月〜2026年9月の合算を前年同月と対比。青=2025年改装公表棟N=11、灰=それ以外N=23)、ホテルバンク編集部より作成

棟別に見ると、改装棟では有馬(+48.5%)を筆頭に、赤穂・淡路島・阿蘇・熱海が3〜4割の伸びで並ぶ。有馬は源泉かけ流しの金泉露天風呂付客室を新設し、熱海は露天風呂付客室7室を加えた施設で、商品の上位化が単価に直結した例といえる。改装のない棟でも熱海 別館や富田林、鳥羽のように3割超の伸びを示す施設はあり、本館の改装が別館の相場を引き上げる波及や、オールインクルーシブ化による商品設計の変更が効いている。逆に奥日光湯元と喜連川は前年並みからやや下で、いずれも高単価の宿が厚い温泉地で手の届きやすい価格帯を担っている棟である。

ブランド全体では、確定月の施設別中央値が2026年9月に¥21,100と前年同月比+28.4%、8月は¥26,600で同+13.0%だった。月ごとの折れ線を年別に重ねると、2026年は年間を通じて2025年の線の上を走っている。

出典:メトロエンジンリサーチ(確定月の推定成約ADR、各月の施設別中央値。対象32〜36施設/各月)、ホテルバンク編集部より作成

なお、掲載価格(全プラン平均・2名1室・税込)で見た39施設の中央値は¥43,600で、推定成約ADRとは水準が異なる。掲載価格は食事付きの上位プランも含む全プランの平均であり、最安プラン水準に補正係数を掛けた税抜相当の推定成約ADRとは定義が違うためである。運営会社が2022年のリブランド時に示した想定平均価格は1人1泊11,000〜20,000円(運営会社発表・1名あたり)で、2名1室の税抜相当で¥19,900という現在の推定成約ADR中央値は、おおむねその想定の範囲で推移していると見てよい。

口コミが示す評価軸 — 風呂・温泉を最も高く評価された棟が19、食事が13、立地が7

ホテルバンク編集部が集計対象とする39施設・137,196件の宿泊者口コミ(2026年9月までに投稿された全件)から、評価軸別のスコア(5点満点)の施設中央値を求めると、従業員4.17、夕食4.14、朝食4.13が上位で、風呂・温泉4.07、食事4.07、立地4.06が続く。施設・アメニティは3.74と相対的に控えめで、ここが前節の改装で伸ばそうとしている領域にあたる。

棟ごとに「風呂・温泉」「食事」「立地」の3軸のうちどれが最も高いかを数えると、風呂・温泉が19棟、食事が13棟、立地が7棟だった。半数の棟で温泉が評価の軸になっており、旧かんぽの宿が温泉地に配置されていた資産がそのまま評価に表れている。軸別の上位5棟は次のとおりである。

表3 評価軸別の口コミスコア上位棟(39施設・5点満点)
評価軸風呂・温泉食事立地
1位伊豆高原(4.58)伊豆高原(4.43)伊豆高原(4.44)
2位奥日光湯元(4.51)草津湯畑(4.37)赤穂(4.37)
3位紀伊田辺(4.43)有馬(4.30)彦根(4.29)
4位赤穂(4.40)福井(4.26)奥日光湯元(4.28)
5位長瀞寄居(4.35)喜連川(4.25)阿蘇(4.24)

出典:ホテルバンク編集部調べ(39施設・137,196件の宿泊者口コミ、各軸の言及が100件以上の施設から抽出、5点満点)

伊豆高原は3軸すべてで首位に立ち、価格指数153という水準と整合する。奥日光湯元は風呂・温泉4.51で2位、立地4.28で4位に入りながら推定成約ADRは¥18,100とブランド中央値(¥19,900)を下回っており、入浴体験の評価が高い棟が手の届きやすい価格帯に置かれている例として、ブランド内での役割分担を象徴している。

投資示唆 — 公的宿ストックを民間ブランドに載せ替える1室あたりの成立条件

かんぽの宿の転換は、公的セクターが持っていた宿泊施設を民間ブランドへ載せ替えた最大級の実例である。同じ型のストックは今も残っている。休暇村協会が運営する休暇村は全国35施設、国民宿舎協会の調査で茨城県が引用する公営国民宿舎は2025年度に39施設で、2021年度の52施設から減り続けている。当社の集計では、名称に「国民宿舎」を含む施設のうち直近12ヶ月にOTA等で販売が観測できたのは50軒・1,353室だった(民営を含む掲載ベース)。自治体や公的団体が指定管理や譲渡の相手を探す局面は、今後も続くとみてよい。

では、こうした器を民間ブランドに載せ替えるとき、改装費はどの単価リフトで成立するのか。本稿の実測値を使って1室あたりで概算する。前提は、改装費を1室300万円(内装・水回り中心)、600万円(共用部の按分を含む)、1,000万円(露天風呂付客室への転用)の3段階とし、税・減価償却・金利と工事中の売上減を考慮しない単純回収で10年とする。必要な上乗せ額は「改装費÷(365日×客室稼働率×10年)」で求まる。稼働率は観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年(確定値)の旅館38.2%とリゾートホテル56.9%、それに70%の3水準を置いた。

表4 1室あたり改装費×客室稼働率別 10年回収に必要な1泊1室あたり上乗せ額(税抜相当)
1室あたり改装費客室稼働率38.2%(2025年1〜12月・旅館)同56.9%(リゾートホテル・2025年)同70%
300万円(内装・水回り中心)¥2,152¥1,444¥1,174
600万円(客室+共用部の按分)¥4,303¥2,889¥2,348
1,000万円(露天風呂付客室への転用)¥7,172¥4,815¥3,914

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(10年単純回収に必要な1泊1室あたり上乗せ額・税抜相当。客室稼働率は観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値(確定値)の施設タイプ別値)

前節で得た改装分の上乗せは1泊1室あたり約¥2,200だった。表に照らすと、旅館平均の稼働率38.2%(2025年1〜12月の年間値・観光庁)でも1室300万円の改装は¥2,200で回収でき、実測の上乗せ幅(約¥2,200)とほぼ同じ水準にある。リゾートホテル並みの56.9%なら600万円の改装でも¥2,900で足り、やはり実測値の範囲に収まる。一方で1,000万円の露天風呂付客室への転用は、稼働率38.2%(同上)で¥7,200、56.9%で¥4,800の上乗せを要し、内装改装の実測リフトでは届かない。露天風呂付客室は同一施設の一般客室に対して掲載価格で約1万円(+23.4%)の上乗せが観測されており、露天風呂付客室の上乗せは1泊約1万円(+23%)— 792軒の同一施設比較と改装回収5.7〜11.1年が示すように、客室の商品そのものを変える投資は別の上乗せ水準で判断する必要がある。

成立条件を整理すると三つになる。第一に、改装費を1室300〜600万円に収める内装中心の改装であれば、旅館平均の稼働率でも実測の単価リフトで10年回収の範囲に入る。第二に、温泉地と海辺という旧公的宿の立地は、口コミで風呂・温泉が最大の評価軸になっている棟が半数を占めることが示すとおり、改装後の単価を支える資産として機能する。第三に、1,000万円級の商品転用は、露天風呂付客室のような明確な上乗せが見込める立地に限って組み込むのが現実的である。改装費が上昇するなかで、同じ立地に同じ規模で新設できない器を再稼働させる手法は、供給側の選択肢として重みを増している。大型旅館の再生という文脈では鬼怒川・川治温泉3,574室、6割は100室超の大型14軒 — 再生の担い手と単価の伸びしろが別の温泉地で同じ問いを扱っている。

39施設一覧 — 開業年・推定成約ADR・前年比・2025〜26年の動き

以下が本稿の母集団である39施設の一覧である。開業年は当社ホテルマスターの値で、ブランド転換日を開業年として持つ施設と開業年不明の施設は「—」とした。前年比はリブランド2棟と推定成約ADRを算出できない3棟を除く。

表5 亀の井ホテル39施設一覧 — 開業年・推定成約ADR・前年比・2025〜26年の動き
地域都府県施設客室数開業年推定成約ADR前年比2025〜26年の動き
東北岩手一関551970——
東北秋田田沢湖1211983¥10,275+7.9%
東北秋田秋田湯瀬1141967¥10,728+16.6%
東北青森青森まかど732014¥14,071+20.2%改装 2025-03
関東千葉鴨川1031965¥21,230+14.9%改装 2025-04
関東千葉九十九里811999¥19,366+19.0%改装 2025-07
関東埼玉長瀞寄居511970¥19,789+28.2%改装 2025-04
関東東京青梅561972¥19,956+8.8%改装 2025-04
関東栃木奥日光湯元78—¥18,100-1.0%
関東栃木日光湯西川54—¥27,534+25.8%
関東栃木喜連川531986¥12,802-4.0%
関東群馬草津リゾート103—¥20,857—リブランド
関東群馬草津湯畑80—¥28,566+10.3%
関東茨城筑波山591979¥24,662+14.8%
関東茨城潮来581971¥14,738+10.2%
関東茨城大洗521969——改装 2025-07
中部山梨富士801994¥16,321—リブランド
中部愛知知多美浜452008¥15,916+27.3%
中部福井福井331969¥15,356+10.2%
中部静岡熱海1591955¥28,947+29.2%改装 2025-03
中部静岡伊豆高原551988¥37,308+6.8%
中部静岡焼津531968¥22,329+19.6%改装 2025-07
中部静岡熱海 別館451979¥24,543+46.2%
近畿三重鳥羽621968¥22,240+30.2%
近畿兵庫有馬681963¥34,163+48.5%改装 2025-08
近畿兵庫淡路島531971¥26,561+32.2%改装 2025-08
近畿兵庫赤穂491974¥29,256+39.7%改装 2025-07
近畿和歌山那智勝浦1021965¥21,314+18.3%
近畿和歌山紀伊田辺521973¥15,149+5.3%
近畿大阪富田林431985¥19,372+31.9%
近畿奈良奈良421966¥20,460+4.2%
近畿滋賀彦根411970¥24,858+23.4%
中国・四国山口せとうち光401993¥14,118+18.3%
中国・四国高知高知521997——
九州大分別府3221911¥13,884+2.6%
九州熊本阿蘇 パークリゾート2091966¥19,399+23.0%
九州熊本阿蘇662001¥27,512+30.9%改装 2025-10
九州福岡玄界灘501997¥17,078+22.5%
九州福岡柳川40—¥15,875+2.2%

出典:メトロエンジンリサーチ(推定成約ADRは2025年10月〜2026年9月の確定月中央値、N=36施設。施設一覧は亀の井ホテル公式サイト2026年10月9日時点と当社ホテルマスターの突合)、改装・リブランドの時期はアイコニア・ホスピタリティの報道発表および公式サイトによる

まとめ

かんぽの宿が亀の井ホテルになった理由は、2020年度に約113億円の経常損失を抱えた日本郵政が2021年10月に32施設の譲渡を決め、受け皿となった運営会社が2015年から運営していた別府の老舗の屋号で2022年7月1日にブランドを統一したことにある。その後も新規開業とリブランドで棟数を積み上げ、2026年10月時点の公式掲載は24都府県39施設・2,952室である。

現在の姿を実データで見ると、開業年が判明する34棟の65%が1970年代以前に開業した古い器でありながら、同一市区町村・同カテゴリの標準的な施設に対して指数122の価格帯を保ち、2025年に改装を完了した棟は推定成約ADRが前年比+26.9%と、改装のない棟や所在市区町村の相場を明確に上回った。改装分として読み取れる上乗せは1泊1室あたり約¥2,200で、1室300〜600万円の内装改装が旅館平均の稼働率でも10年で回収できる水準にあたる。休暇村35施設・公営国民宿舎39施設に代表される公的宿ストックを民間ブランドに載せ替える際の成立条件は、この実測値から逆算できる。

よくある質問

Q. かんぽの宿と亀の井ホテルは同じ建物ですか。

A. 2022年7月1日にブランド統一された32施設のうち30施設は、日本郵政から譲渡された旧かんぽの宿の建物をそのまま引き継いでいます。その後に加わった施設には、旧かんぽの宿以外のホテルをリブランドしたものや、既存ホテルを改装して開業した草津湯畑が含まれます。

Q. 亀の井ホテルは現在何施設ありますか。

A. 公式サイトの掲載は2026年10月9日時点で24都府県・39施設です。2024年12月に40棟目、2025年12月の発表時点で41棟に達した後、2026年に3施設が他ブランドへ転換し、1施設が加わっています。

Q. 亀の井ホテルの宿泊単価はどのくらいですか。

A. 当社の推定成約ADR(2名1室・税抜相当)の中央値は2025年10月〜2026年9月で¥19,900です(N=36施設)。施設により約1万円から約3.7万円まで幅があり、所在市区町村の同カテゴリ中央値に対する価格指数は中央値122でした。

Q. 改装した棟は単価がどれだけ上がりましたか。

A. 2025年に改装を完了した11棟の推定成約ADRは、2025年10月〜2026年9月の合算で前年比+26.9%でした。改装のなかった23棟は+15.3%で、改装分として読み取れる上乗せは1泊1室あたり約¥2,200です(推定値・2名1室・税抜相当)。

Q. 公的宿を民間ブランドに載せ替える改装は、1室いくらまでなら回収できますか。

A. 10年単純回収で見ると、1室300万円の内装改装は旅館平均の客室稼働率でも1泊1室あたり¥2,200弱の上乗せで回収でき、亀の井ホテルの改装棟で実測された上乗せ幅とほぼ同じ水準です。1,000万円規模の露天風呂付客室への転用は¥4,800〜¥7,200の上乗せを要し、内装改装の実測リフトだけでは届きません。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

亀の井ホテル公式サイトの施設一覧(2026年10月9日時点・39施設)を当社ホテルマスターと施設名・所在地で突合した39施設(2,952室)が母集団。単価はメトロエンジンリサーチの推定成約ADR(2024年9月〜2026年9月の確定月)、比較母集団は同一市区町村・同カテゴリ(旅館またはリゾートホテル)の施設、口コミは39施設・137,196件の評価軸別スコア(ホテルバンク編集部調べ)。沿革は運営会社の報道発表と日本郵政の開示による。

■ 試算前提

推定成約ADRは各施設の最安プラン水準(2名1室・税込)に業態別の補正係数を適用した税抜相当の推定値。前年比は2025年10月〜2026年9月の合算を前年同月と対比し、改装棟は2025年に改装完了を公表した棟(ADR算出可能な11棟)とした。改装回収は1室あたり改装費÷(10年×365日×客室稼働率)の単純回収で、金利・税・改装期間中の休業損失は含まない。客室稼働率は観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値の施設タイプ別値(旅館38.2%・リゾートホテル56.9%)と70%の3水準。

■ 限界・留意点

推定成約ADRは実際の成約価格・会計数値とは異なる(上場ホテルREIT開示との照合で誤差中央値約7%)。価格指数は同一市区町村の同カテゴリ母集団が8施設以上ある18棟に限る。改装棟の前年比には改装以外の要因(需要回復・料金政策の変更)も含まれ、上乗せ幅は因果効果の推定ではない。開業年は当社ホテルマスターの値で建築年と一致しない場合がある。

■ 運営会社・ブランドの一次情報

■ 日本郵政の譲渡・公的宿ストック

■ 政府統計・市場データ

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