2026年の中国「労働節」は5月1日(金)から5月5日(火)の5連休である。1月の訪日中国人が前年比-60.7%、3月は-55.9%と中国市場の急減速が続くなか、中華圏インバウンド依存度の高い大阪・京都・北海道・東京の主要4エリアで実際にホテル価格と在庫消化はどう動いているのか。メトロエンジンリサーチのデータをもとに、労働節期間(5/1-5/5)の販売価格と販売プランの売切率を解析し、「-60%」が市場にどこまで波及しているか、あるいは韓国・台湾を中心とした他市場が穴を埋めているのかを検証する。
※本記事における指標の定義:ADR(平均客室単価)=調査対象施設が公開している販売価格の平均値であり、実際の成約価格とは異なります。売切率=調査時点で予約受付を終了していた販売プランの割合であり、施設全体の客室稼働率とは異なります。価格は2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。
「-60%」のマクロ前提:中国だけが落ち、韓台はむしろ加速
まず議論の前提となるインバウンドのマクロ状況を整理しよう。日本政府観光局(JNTO)の推計によると、2026年1月の訪日中国人客は前年同月比-60.7%、3月も-55.9%と、ほぼ半減水準が3カ月連続している。背景は、2025年11月の国会答弁を契機に中国政府が発出した日本への「渡航自粛公告」と、春節の暦ずれによる反動減の重なりとされる。
しかしながら、この「中国-60%」を訪日全体の縮小と読むのは早計である。同じ3月の韓国は前年同月比+15.0%、台湾は+24.9%と、いずれも単月過去最多を更新している。1〜3月の累計訪日客は前年同期比+1.4%の1,068万人で、2年連続で四半期1,000万人を突破した。つまり構造としては、中国のマイナスを韓国・台湾を中心とする他市場が完全に吸収している状態であり、「インバウンド全体が崩れている」のではなく「ポートフォリオが入れ替わっている」段階にある。
出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2026年3月推計値)」よりホテルバンク編集部作成
労働節期間の海外旅行先としての日本の人気にも変化が出ている。Dragon Trailが2026年4月に発表した労働節旅行調査では、日本は人気海外旅行先の5位を維持したものの、渡航計画率は前年の9.5%から4.4ポイント減少した。この需要構造のもとで、訪日中華圏依存度の高い大阪・京都・北海道・東京4エリアの販売価格と在庫消化が実際にどう動いているかを、ミクロのOTA公開価格データで検証していく。
労働節5日間ADR:大阪だけが前年同期比-10%、他3エリアは強含み
メトロエンジンリサーチのデータによると、労働節期間(2026年5月1日〜5日)のADR(販売中の公開価格の平均、1室2名利用・税込)と、前年同期(2025年5月1日〜5日)の比較は以下の通りである。調査対象は4エリア合計で約5,975施設、価格データ点数は約230万件にのぼる。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成 / N(2026)=5,975施設・約230万件、N(2025)=5,712施設
まず目を引くのは、東京・京都・北海道が前年同期比でしっかりプラスを維持している事実である。北海道の労働節期間平均ADRは¥41,800(前年同期比+11.3%)、京都府が¥54,000(+8.3%)、東京都が¥46,100(+6.5%)と、いずれも一桁後半から二桁前半の上昇率となっている。中国-60%という数字を素直に当てはめれば下落するはずの3エリアが、むしろ単価を押し上げている。これは前章で触れた韓国・台湾・東南アジア・国内需要の代替効果が、価格データに明確に表れていると解釈できる。
一方で、大阪府だけが期間平均¥35,900で前年同期比-10.0%と、4エリアで唯一の下落となった。大阪は2025年が日本国際博覧会(大阪・関西万博)開催期間中であり、労働節とGWの重なりで需要がピークを打ったのに対し、2026年は万博終了後の反動という強い構造要因がある。中華圏需要の蒸発は、この万博反動と重なって大阪のリプライシングを下方向に強く押している。
| エリア | 2025/5/1-5 平均ADR | 2026/5/1-5 平均ADR | 前年同期比 | 期間平均売切率 | 調査施設数 |
|---|---|---|---|---|---|
| 東京都 | ¥43,300 | ¥46,100 | +6.5% | 33.5% | 1,865 |
| 大阪府 | ¥39,900 | ¥35,900 | -10.0% | 32.5% | 868 |
| 京都府 | ¥49,800 | ¥54,000 | +8.3% | 26.4% | 1,600 |
| 北海道 | ¥37,600 | ¥41,800 | +11.3% | 31.9% | 1,642 |
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
日別ADRで見る「労働節需要」の到来日
労働節5日間のADRを日別に分解すると、エリアごとの需要パターンの違いが鮮明になる。労働節初日の5/1(金)と2日目の5/2(土)が労働節到着便のピークと想定されるが、ここに国内GW後半の出発需要も重なる。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
北海道は5/2(土)が¥47,000で前年同期比+36.4%、5/1(金)も¥37,800で+21.4%と、労働節立ち上がりの2日間で突出した強さを示している。北海道は冬季ピーク(ニセコ等)を含めて中華圏依存度が高いと指摘される一方、5月のグリーンシーズン入り時期は欧米FITやアジア他市場が増えるため、価格レジリエンスが効いている可能性がある。京都も5/2(土)が¥59,600で+33.5%と最も伸び、5/3(祝)¥60,700・5/4(祝)¥56,100と祝日中盤のピークを高値で迎えている。
東京も同じパターンを示す。5/2(土)が¥53,300で+32.6%と急伸し、5/3(憲法記念日)¥51,800・5/4(みどりの日)¥46,900と高水準が継続する。一方で、5/4(月・祝)と5/5(火・祝)は前年比わずかにマイナスとなっている。これは「労働節出発便ピーク」と「日本のGW後半帰路」が重なる中盤後半の日程で、国内需要側のリプライシングがやや弱まったことが示唆される。
大阪はすべての日で前年同期比マイナスとなった。とくに5/3(日)¥40,900(-17.5%)、5/4(月・祝)¥40,600(-15.6%)と、GW中盤の高ピークが前年から大きく剥げ落ちている。これは2025年同時期が万博来場ピークとフルキャパに近い販売状態であった反動と考えられる。一方で5/2(土)だけは¥39,400で+14.6%と他都市同様プラスに転じており、労働節初動と国内需要の重なりは限定的に効いていることが読み取れる。
売切率から見る実需:在庫消化は4エリアとも30%超で底堅い
ADR(販売価格)はあくまで施設側のリプライシング判断を映すため、実需の手応えを見るには販売プランの売切率(受付終了プランの割合)が補助指標となる。労働節期間の売切率を日別にみると、4エリアとも単純な「中国客の蒸発で在庫が余っている」という単純な構図ではないことが見えてくる。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成 / 4/25時点の調査結果
北海道は5/3(日)の売切率が42.0%と4エリア最高水準に達している。GW中盤の北海道は国内発の家族旅行と早期出発の労働節組が重なる時期で、ADR+2.1%とプラスを維持しながら4割超の売切率を生んでいる事実は、価格上昇圧力が需要側にしっかり吸収されていることを示している。東京も5/2(土)が40.0%、5/3(日)が36.5%と高水準を確保した。
注目すべきは大阪である。ADRが前年同期比-10%と4エリアで唯一マイナスにもかかわらず、売切率は5/4(月・祝)で39.0%、5/3(日)で33.4%と、東京・北海道と並ぶ消化水準を確保している。つまり大阪は「価格を下げて埋めている」状態であり、中華圏需要の穴を、価格を一段下げることで国内・他海外市場に開放してカバーしているとみられる。万博反動の供給余剰と中国激減の二重の要因に対して、市場側が値下げで需要を呼び戻す典型的なリプライシング行動が観察される。
京都の売切率は労働節中央の5/3(日)で31.3%と、4エリアでは相対的に低い。これはエリア全体の販売プラン総数が他都市より多く、また京都は労働節期間のADR水準がもっとも高い¥54,000であることから、価格水準が高止まりするなかで「売れ残り」の絶対数が一定発生している可能性がある。とはいえADR+8.3%を維持できているため、富裕層FIT中心のリプライシング戦略が機能していると評価できる。
REIT月次データで補強:3月時点の運営は強含み
個別ホテルの実績稼働率はOTA公開データでは把握できないため、上場ホテルREITが開示する月次運営実績で実勢の方向感を補強する。労働節期間に最も近い直近月(2026年3月)の月次運営状況をみると、宿泊主体型を多く保有する2法人はいずれも前年同月比でプラスを維持している。
出典:各社REIT月次運営データよりホテルバンク編集部作成(2026年3月実績)
ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)の2026年3月ポートフォリオ全体実績は、稼働率85.1%(前年同月比+3.1ポイント)、ADR¥20,800(+5.0%)、RevPAR¥17,700(+9.0%)。インヴィンシブル投資法人(8963)は稼働率87.6%(+2.8ポイント)、ADR¥14,500(+6.0%)、RevPAR¥12,700(+9.0%)と、いずれも稼働・単価ともに堅調である。
これら2 REITは大阪・京都・東京・北海道に主要物件を保有し、訪日中華圏の宿泊需要影響を本来は受けやすいポートフォリオ構成だが、3月時点ではむしろ稼働率と単価の両方を伸ばしている。中国-60%の単月インパクトをポートフォリオ全体としては吸収しており、2025年から続く稼働の高水準と単価のリプライシングがREITレベルでも継続していることが確認できる。労働節期間に向けた個別物件の運営状況は4月分の月次開示で順次明らかになるが、3月時点の方向感は本記事のOTA公開価格分析と整合的である。
※REITポートフォリオは全国分散しており、大阪・京都・東京・北海道のみの実績ではない点に留意。本数値はあくまで「ホテル業界全体の単月のリプライシング方向感」を示す参考指標として参照する。日本のホテル系上場REITには他にも、いちごホテルリート投資法人(3463)、日本ホテル&レジデンシャル投資法人(3472)、霞ヶ関ホテルリート投資法人(401A)、星野リゾート・リート投資法人(3287)、森トラストリート投資法人(8961)が存在する。
結論:「-60%」は本物だが、価格に出ているのは大阪だけ
労働節期間(2026年5月1日〜5日)のOTA公開価格データから読み取れる結論を整理する。
第一に、訪日中国人「-60%」というマクロ数値は本物である。JNTOの3月推計値で-55.9%、1月-60.7%と、半減水準が3カ月連続している。労働節旅行調査でも日本選好率は前年比4.4ポイント低下している。この事実そのものは否定できない。
第二に、しかしながら、中華圏依存度の高い4エリアの労働節期間ADRは、大阪のみ-10.0%、東京・京都・北海道はむしろ+6.5〜+11.3%とプラスを維持している。3エリアの上昇は、韓国(3月+15%)・台湾(3月+24.9%)など他アジア市場と国内・欧米需要の合算で、中国分のキャパを十分に吸収できていることを示している。労働節初動の5/2(土)にいたっては、東京・京都・北海道の3エリアで前年比+30%超のADR上昇が確認された。
第三に、大阪の-10%は中国減の単独効果ではなく、「2025年大阪・関西万博の反動」と「中華圏依存の構造」が二重で重なった結果である。売切率は5/3-5/4で33-39%とむしろ底堅く、価格を下げることで国内・他アジア需要を取り込んでいる「値下げで埋める」状態にある。
つまり「労働節の中国客-60%は本物か」への答えは「人数ベースでは本物、しかし宿泊単価への波及は地域差が極めて大きい」となる。中華圏依存が高くても、韓台・東南アジア・国内のリプレイス需要が機能しているエリアは前年超の単価を維持できており、市場の反動が直接的に出ているのは万博反動と重なった大阪に限定的である。今後の労働節期間中の現地データと、5月以降の月次REIT開示で、この「中国減の他市場吸収シナリオ」が継続するかが焦点となる。
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参考リンク・出典:
・JNTO「訪日外客数(2026年3月推計値)」
・JNTO 訪日外客統計
・観光庁 観光統計・白書
・訪日ラボ「中国の労働節連休、日本が人気海外旅行先5位に」(2026年4月)