熱海市の旅館、分布状況
メトロエンジンリサーチによると、熱海市の旅館の分布状況は以下の通り。
出典:メトロエンジンリサーチ
出典:メトロエンジンリサーチ
メトロエンジンリサーチによると、熱海市の旅館は熱海駅から来宮駅にかけての市街地周辺に高密度で集積している。特に熱海サンビーチや親水公園周辺には海を望む立地を活かした旅館が多く、観光客にとって視覚的・体験的な魅力を提供しているのが特徴だ。
地図からも確認できるように、熱海駅至近の利便性の高いエリアと、海岸線に面した滞在型エリアが2大ポイントとなっている。一方で、来宮駅周辺や梅園・小嵐町方面にも一定数の旅館が点在しており、こちらは閑静な環境や自然景観を重視した旅館が中心だ。こうした分布は、「アクセス重視型」と「滞在環境重視型」という2つの宿泊ニーズに対応していることを示している。
また、伊豆山や伊豆多賀方面など市の北部・南部に進むと、分布は点在的になり、大規模旅館や老舗旅館が海沿いに立地する構造が見られる。これらのエリアは観光拠点としての利便性よりも、泉質や眺望といった旅館独自の価値を打ち出しており、静かな環境を求める宿泊需要を取り込んでいる。
このように熱海市の旅館は、駅前・市街地エリアに集中する利便性重視型と、海岸線や自然環境を活かした分散型という二層構造を形成している点が大きな特徴といえる。
熱海市の旅館、施設数の推移
ゆるやかな減少トレンド|老舗の閉館と新陳代謝が進む市場構造
熱海市における旅館・施設数の推移には以下の傾向が見られた。
出典:メトロエンジンリサーチ
熱海市における旅館の供給は、2019年以降、緩やかな減少トレンドを示している。
2019年時点で約98施設だった旅館は、コロナ禍を経て2021年には96施設前後まで減少し、2025年には93施設程度となっている。
この背景には、老舗旅館の経営難や建物老朽化に伴う閉館が一定数ある一方、新規開業やリブランドの補填が限定的だったことがある。さらに後継者不足や人材確保の難しさも減少要因として影響していると推察される。
一方で、残存する旅館はリノベーションや高付加価値化で競争力を強化し、露天風呂付き客室やプライベートダイニングなど、少人数・高単価志向の体験を前面に出す動きが目立ってきているようだ。
考察
熱海市の旅館市場は、単純な数の減少ではなく、構造転換の過程にあるといえる。供給が減ったことで競合過多の状況が緩和され、各旅館は「差別化された体験価値」を軸に市場での立ち位置を再構築し始めている。
そのため今後は、インバウンド需要の回復や国内旅行の多様化を背景に、小規模でも個性的な体験を提供できる旅館が市場の主役となる可能性が高い。熱海市の旅館業界は、数の競争から体験の競争へと移行しており、“量から質”への進化が市場の新たな成長を導く鍵になるのではないだろうか。
熱海市の旅館、部屋数の推移
緩やかな減少と直近の小幅減|閉館・休館を主因とする供給縮小
熱海市における旅館・部屋数の推移には以下の傾向が見られた。
出典:メトロエンジンリサーチ
熱海市の旅館における客室数は、2019年以降、緩やかな減少基調で推移している。2019年時点で約2,800室だった供給は、2020〜2021年にかけて2,700室前後まで縮小。2022年は一時的に持ち直したものの(約2,720〜2,730室)、2023年は横ばいから微減に転じ、直近(2025年)は約2,660室と前回を下回った。
減少の主因は、老舗旅館の閉館・休館によるものが中心と推察される。施設数の推移と歩調が合っており、1施設あたりの平均室数は概ね横ばいで推移しているからだ。個別には改装に伴う客室統合や露天風呂付客室化など、量から質へ寄せる改修事例も見られている。
考察
客室数の縮小は、供給の整理と質の見直しが同時に進む新陳代謝の過程といえる。需要側では、目的(静養・観光・療養・ワーケーション等)/同行者構成/滞在日数といった軸で細分化が進み、ニーズは多様化している。
明確なコンセプトに基づく一貫した体験が選ばれる傾向が強まり、各旅館のポジショニング(強み・価格帯・提供体験)の明確化により、ここでも“量から質”への進化が推察される。
熱海市の旅館、稼働率の推移
コロナ禍から段階的に回復|全国平均と概ね同水準で40%前後の安定推移
熱海市の旅館の稼働率の推移を全国平均と比較して分析すると、以下のような傾向が見られた。
出典:メトロエンジンリサーチ
熱海市を含む静岡県の旅館稼働は、2020年のコロナ禍で急落した後、段階的に回復。2022年以降は全国平均と概ね同水準で推移し、40%前後を中心に季節要因で上下する構図が続いている。繁忙期には45〜50%台に乗る月も見られる一方、閑散期は30%台まで下がるなど、変動幅は比較的はっきりしているようだ。直近(2024〜2025年)もこのレンジは維持され、局面によっては全国平均をやや上回る月が散見されている。
全国平均との比較では、回復基調はおおむね同程度。長期トレンドとしては、急回復後の横ばい〜緩やかな持ち直しに留まり、40%前後での推移が続いている。
考察
稼働の戻りは確認できるが、季節・週末依存の波が相対的に大きく、長期的には安定帯の形成にとどまっている。需要の細分化が進む中で、各旅館では、明確なポジショニング(強み・価格帯・提供体験)を打ち出せているかが稼働率を左右していると推察される。ここでも“量から質”への移行が進んでいるといえるのではないだろうか。
熱海市の旅館市場の今後の展望
首都圏至近の温泉リゾートを再定義|“量から質”で選ばれる滞在へ
足元の数値は、施設・客室数ともに緩やかな縮小、稼働は40%前後の安定帯にとどまっている。一方で、視点を変えれば、熱海市は、新幹線停車駅×海×温泉という強い組み合わせを持つ希少な都市近接リゾートだ。近距離ゆえに短期の再訪と連泊の両方を取り込みやすいのが大きな利点だ。
需要側では、目的・同行者・滞在日数の軸で細分化が進み、静養・ウェルネス、家族旅行、記念日、小規模ラグジュアリー、ワーケーションなどニーズが多様化している。都市近接の好立地と温泉というコア体験は、国内の底堅い需要に加え、インバウンドの回復局面でも受け止めやすいだろう。
供給側は「量」ではなく価値の磨き上げのフェーズに入っているようだ。客室・食事・入浴体験の一貫性を強め、各館のポジショニング(強み・価格帯・提供体験)を明確化することで、価格だけに依存しない選択肢を提供する意図が伺える。駅〜海岸線の賑わいと、来宮〜梅園・伊豆山方面の静けさという二層の魅力を可視化することで、滞在の幅は自然と広がっていくだろう。
熱海市の次の成長フェーズは“量から質”への転換の深まりにあるようだ。派手な拡大ではなく、既存資産の再生と体験価値の向上による静かな成長余地が大きいことから、新しい滞在価値を一貫して提示できる旅館が増えていくことが期待されている。
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