6月15日に迫る住宅宿泊事業法(民泊新法)、連載の最終回となる第4回は、民泊新法施行後の民泊マーケットの展望とホテルへの影響について、5月25日・26日に新宿で開かれた日本最大規模の民泊の祭典「バケーションレンタルEXPO」の概要を切り口に考えていく。
バケーションレンタルEXPO2018
メトロエンジン社主催のバケーションレンタルEXPO2018が5月25日、26日の両日、新宿NSビルにて開催され、46社が出展し、出展ブース、個人相談ブースのほか、約40に上る民泊第一線の講師陣による講演が三つの会場で同時並行に開催され、両日に渡り多くの来場者が訪れ好評のうちに閉幕した。
EXPO内では、「民泊新法と観光庁の取り組み」と題したセミナーも開催され、観光庁観光産業課 民泊業務適正課指導室長の波々伯部信彦氏や同課民泊業務適正化指導官の田口壮一氏が連日にわたり登壇し、健全な民泊を推進するための観光庁の取り組みと新法施行にあたっての経緯や現状などを説明し、セミナー終了後も多くの人が質問に訪れた。
同EXPOはNHKニュースで26日夜にイベントの模様が報道されるなど民泊新法施行を前にメディアの関心も高いイベントとなった。(イベント詳細はオフィシャルサイトより。)
近隣トラブル解消へ、IoT企業の取り組み
民泊については、騒音や治安悪化などへの警戒から近隣住民とのトラブルも発生しており、自治体の条例による規制の動きも表面化している。
そうした中で出展するIoT企業は鍵受け渡し、スマートロック、チェックインの際の本人確認などについて最先端技術を活用したソリューション・商品の紹介説明を行った。
とりわけメトロエンジン社は出展ブースやセミナーにおいて、民泊運営の自動化支援ツール「民泊ダッシュボード」や民泊運営に特化された騒音センサー「Point」の紹介を行うなどで多くの来場者の関心を集めた。
訪日市場への関心高く、アジア海外企業の出展が増加
出展ブースには民泊最大手仲介サイトのAirbnbとエボラブルアジアの共同出展ブース「エアトリステイ」、昨年新規参入し注目を集める楽天ライフルステイ、中国最大手の途家(トゥージア)や、OTAホテル最大手で民泊も扱うブッキング・ドットコム、民泊・清掃代行を行うIKIDANEなどが集結した。
特に中国からは途家の他にも一家民宿、Uhome、VaShare、Candy House、buff、小猪(シャオチュー)など多くの企業が出展したのが特徴で、その他台湾の最大手OTAであるAsia Yoなど拡大する訪日市場へのアジアを中心とした海外企業の関心の高さをうかがわせるものとなり、会場内では多くの法人同士の商談も実施された。
ホテルと民泊の垣根が低くなる
多くの出展企業は民泊事業に限定せず、宿泊関連事業やマンション事業など幅広い事業展開を視野にしており、民泊業界の裾野の広がりとともに、ホテル業界との垣根が低くなりつつあることを実感させた。
これまで民泊には、特区民泊とイベント民泊と呼ばれるものがあり、
・特区民泊:国家戦略特別区域法に基づく旅館業法の特例制度を活用した民泊(例、東京都大田区、大阪市、北九州市、千葉市、新潟市など)
・イベント民泊:年数回程度(1 回当たり 2~3 日程度)のイベント開催時、宿泊施設の不足が見込まれることにより、開催地の自治体の要請等により自宅を提供するような公共性の高いものについて、「旅館業」に該当しないものとして取り扱い、自宅提供者において、旅館業法に基づく営業許可なく、宿泊サービスを提供することを可能とするもの(例、夏祭りやスポーツイベント、コンサートなど)。
これらの他に民泊を明確に規定する法律は存在してこず、今回の民泊新法が初めてこれを規定するものとなる。
民泊新法の最大の特徴は、年間180日以内の営業規制があることであり、これにより、その日数を上回る営業を希望する場合には旅館業法上の簡易宿所の許可を取得することとなる。ただし、旅館業法は、換気、採光、照明、防湿、清潔の衛生措置などがより厳格であるため、その取得を断念し、廃業する既存の業者も増加する模様だ。
民泊については、元々ゲストハウスや民宿などとの明確な区別は存在せず、新法施行以降は新法の適用を受ける業者を「狭義の民泊」、旅館業の簡易宿所の適用を受ける業者を含めて「広義の民泊」などとし、両者の間で業界の垣根が低くなりさらに曖昧になってくることが予測される。
違法民泊の退場と不動産展開も民泊の稼働率は減少へ
今回の新法の施行により既存の法令においてグレーゾーンないし違法に実施されている民泊は一掃されることとなり、実際観光庁への届出は低調で、新法施行後、Airbnbなどに掲載される民泊物件数は一時的には激減することが見込まれている。このことは、同EXPOにおける昨年の出展企業の顔ぶれと本年の顔ぶれにおいて民泊代行業者が減少したこととも関係していると言えるだろう。
また、同EXPOへの来場者の傾向として、個人よりも法人関係の参加者が多く見られ、その中でも不動産関係者の参加が目立ったが、このことは、既存の個人事業主から民泊の主体が不動産業者などの法人中心に変わりつつあることを示している。
180日の営業規制をかけられたとしても、賃貸マンションにおいて空室となっている場合に、その期間を利用して民泊として貸し出したり、賃貸マンションの運営をメインとして通常しながら、一部の部屋を民泊として貸し出すなどの組み合わせの柔軟性の担保が可能となったことがその背景としてある。
大規模な法人事業者の参入により、違法民泊の退出による一時的な減少を経て、再度民泊の供給量は増加に転じると予測する。
他方で、営業日数の上限規制のため、民泊の稼働率自体は低迷することが確実であることに変わりはない。
このように、(狭義の)民泊は一時的に物件数を大幅に減少させ、その後は不動産業者などの参入により再度増加に転じるものの、日数の営業規制により民泊の稼働率はいずれの物件も180日以下に確実に抑えられるため、ホテルへの民泊影響稼働率も限定的となる見通しである。
このほか、今後の民泊マーケットの動向を占う上でどのようなファクターが考えられるだろうか。一つは2020年東京五輪による特需があるが、その成否を測る上で、日本での関心はそれほど高くないものの、欧米豪などの富裕層に人気のあるラグビーワールドカップの2019年9月の横浜など日本各地での開催がその試金石になるだろう。
また、自治体が実施する動きを見せている民泊への追加的な規制や、新法の規制内容に関して厳格すぎるとの改正を求める声がすでに高まっており、こうした見直しの動向いかんによっても今後の民泊マーケットは大きく左右されることが予想される。こうした最新の動きについてはホテル業界としても注視していく必要があると言えるだろう。(連載終わり)
バケーションレンタルEXPO2018会場の様子
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