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客室サウナ付きホテル市場分析|全国38施設の価格プレミアムを検証

投稿日 : 2026.04.29

旅行スタイル

客室サウナ付きホテル市場分析

「ととのう」がブームを超えて文化として定着するなか、客室にサウナを備えたホテルがニッチながら確かなマーケットを形成し始めている。本稿ではメトロエンジンリサーチが収集する公開価格データから、客室にサウナを内蔵する施設群を抽出し、2026年5月から6月の宿泊価格分布、同一施設内における非サウナ客室との価格差、そしてインバウンド富裕層需要との接続点を検証する。

※本記事における指標の定義:ADR(平均客室単価)=調査対象施設が公開している販売価格の平均値であり、実際の成約価格とは異なります。売切率=調査時点で予約受付を終了していた販売プランの割合であり、施設全体の客室稼働率とは異なります。価格は2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。

分析対象の抽出方法と母数

客室サウナ付きホテルという市場セグメントを統計的に分析する際の最大の課題は、この属性をフラグとして保持するデータベースが業界に存在しないことである。多くのOTA等の予約サイトでは「サウナ」というファシリティ表記が大浴場併設のサウナ(共用利用)と客室内のプライベートサウナを区別せずに併存させているため、単純にサウナ属性で抽出すると共用サウナ付きビジネスホテルが大半を占める結果となる。

そこで本分析では、メトロエンジンリサーチが収集している販売プラン情報のうち、室名(room_name)に対して以下のキーワード抽出ロジックを適用した。第一に「サウナ付」「プライベートサウナ」「客室サウナ」「サウナルーム」「サウナスイート」「ととのいスイート」「ミストサウナ」「遠赤外線サウナ」「室内サウナ」「個室サウナ」「専用サウナ」のいずれかを含むこと。第二に同時に「大浴」「浴場」「浴室」「浴殿」「共同」のいずれも含まないこと。後者の除外条件によって、共用大浴場のサウナ施設を客室属性として誤検出する事例を排除している。

このロジックの結果、2026年5月から6月をチェックイン日とする2名1室利用条件下で、客室内サウナを備えた38施設・59室タイプ・有効価格観測10,547件のデータセットが得られた。施設数は決して多くないが、メトロエンジンリサーチが把握する範囲ではこれが現時点で公開価格データに現れる「室内型サウナ客室」の主要なマーケット構成と考えられる。地理的分布は神奈川県(箱根エリア)と北海道がそれぞれ6施設で最多、静岡県(伊豆・熱海)と長野県がそれぞれ3施設と続き、温泉地・リゾートエリアへの集積傾向が確認できる。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(N=10,547、2026年5-6月チェックイン)

価格分布:ボリュームゾーンは¥50-80k、上位は20万円超

客室サウナ付き客室のADRを価格帯別に集計すると、¥50,000-80,000のレンジが最大のボリュームゾーンを形成し、これに¥30,000-50,000帯と¥80,000-120,000帯が続く。一般的なシティホテル・ビジネスホテルの2名1室ADRが2万円前後であることを踏まえると、客室サウナ付き客室は明確に中高価格帯のセグメントに位置していることがわかる。

注目すべきは¥120,000を超える上位価格帯に1,500件超の観測が存在する点で、この層には箱根の旅館「きたの風茶寮」や山形の「名月荘」、大阪「帝国ホテル大阪」のサウナスイートといった、いわゆる体験型ラグジュアリー施設が集中している。さらに最高価格帯の¥200,000以上には93件の観測が存在し、すべて山梨県富士吉田市の「富士山温泉 ホテル鐘山苑」のスイートカテゴリ(檜露天サウナ付)に由来する。最高価格は44万円に達し、客室サウナを単なる設備としてではなく富士山ビューと組み合わせた「儀式的体験」として商品化している事例といえる。

エリア別プレミアム率:山梨県+323%、大阪府+57%、北海道+52%

同一施設の非サウナ客室との価格差を「プレミアム率」として算出した結果、エリア間の格差が極めて大きいことが判明した。最大は山梨県の+323%(サウナ客室¥396,800、非サウナ¥93,800)で、これは前述のホテル鐘山苑が単独で押し上げているケースであるためエリア指標として外挿はできない。しかしながら、複数施設が存在するエリアで見ても、大阪府+57%、北海道+52%、神奈川県+20%と、東日本の都市・リゾートを中心にプレミアムが顕著である。

一方で、長野県、長崎県、山口県といった温泉宿が中心のエリアではプレミアムが0%付近またはマイナスに沈む。山形県は-25%、福島県は-37%と、サウナ客室のほうが非サウナ客室より平均価格が低くなっている。これは一見矛盾するようだが、これらの施設では和室の温泉付きスイート(特別室)が最高価格帯を構成しており、サウナ付き客室は中位カテゴリの客室タイプにあたる構造になっているためと考えられる。つまり、サウナ自体に価格決定権があるのは「サウナを主役の体験として位置づけている施設」であり、温泉旅館では温泉露天風呂のほうが依然としてプレミアム源泉となっている。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(同一施設内のサウナ客室vs非サウナ客室、2026年5-6月)

エリア別ADR比較

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

サウナ客室と非サウナ客室の絶対水準を都道府県別に並べると、神奈川県(箱根)の客室サウナADR¥169,200は東京都心のラグジュアリーホテル並みであり、温泉地のリゾート旅館に客室サウナを組み合わせる戦略が高単価帯を支えていることが見える。逆に北海道は¥46,200と中価格帯にとどまるが、それでも非サウナの¥30,300に対して+52%のプレミアムを確保しており、同一施設内における客室タイプの差別化として機能している。

価格帯別TOP20施設ランキング

客室サウナ付きホテル全38施設のうち、観測数が十分(5観測以上)な19施設を平均ADR順に並べたものが下表である。上位5位までを富士山温泉ホテル鐘山苑、きたの風茶寮、名月荘、帝国ホテル大阪、海のはなが占めており、いずれも温泉や眺望、料理といった「体験文脈」と組み合わせた高付加価値型のサウナ提供である点が共通する。価格帯の中位以下にはビジネス・カジュアル価格帯のサウナ完備プランも存在し、客室サウナ自体が高級セグメントだけのものではないことも確認できる。

順位 施設名 エリア サウナADR 非サウナADR プレミアム率 N
1 富士山温泉 ホテル鐘山苑 山梨県 富士吉田市 ¥396,800 ¥95,600 +315% 93
2 きたの風茶寮 神奈川県 箱根町 ¥181,600 ¥147,300 +23% 622
3 名月荘 山形県 上山市 ¥109,700 ¥131,400 -16% 268
4 帝国ホテル大阪 大阪府 北区 ¥105,100 ¥67,000 +57% 850
5 時間を旅する宿 海のはな 静岡県 熱海市 ¥93,200 ¥89,900 +4% 242
6 藤三旅館別邸 鉛温泉心の刻 十三月 岩手県 花巻市 ¥87,800 ¥83,800 +5% 948
7 たがわ 龍泉閣 石川県 能美市 ¥78,700 ¥52,100 +51% 505
8 萩一輪 山口県 萩市 ¥66,900 ¥67,000 -0% 1,462
9 美ヶ原温泉 ホテル翔峰 長野県 松本市 ¥65,500 ¥65,900 -1% 585
10 雲仙福田屋 長崎県 雲仙市 ¥60,900 ¥63,400 -4% 740
11 伊古奈荘 静岡県 伊豆の国市 ¥56,700 ¥49,500 +15% 1,026
12 赤湯温泉旅館 大和屋 山形県 南陽市 ¥50,700 ¥44,900 +13% 528
13 ジャスマックプラザホテル 北海道 中央区 ¥49,000 ¥30,900 +58% 914
14 長野県 白馬村 ¥45,900 ¥46,600 -1% 246
15 ヒーリングイン ホワイトペンション 福島県 猪苗代町 ¥41,400 ¥41,100 +1% 575
16 箱根旅の宿海本 神奈川県 箱根町 ¥36,900 ¥17,400 +112% 58
17 南道後温泉ホテルていれぎ館 愛媛県 砥部町 ¥28,300 ¥22,400 +26% 772
18 ホテルエリアワン帯広 北海道 帯広市 ¥15,600 ¥14,900 +4% 84
19 グレースイン前橋 群馬県 前橋市 ¥13,800 ¥10,500 +31% 29

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(価格は2名1室利用時の1室あたり料金、税込、四捨五入100円単位)

5月と6月で見る需要シグナル:在庫余剰と高単価維持

2026年5月と6月のデータを月次で比較すると、客室サウナ付き客室のADRは5月¥75,000、6月¥74,000とほぼ横ばいで推移する。同一施設内の非サウナ客室では5月¥61,500、6月¥62,200と6月にわずかに上昇しており、サウナ客室は5月の連休直後の閑散期を意識せずに価格を維持している様子がうかがえる。

より興味深いのは売切率の差である。同一施設内の非サウナ客室の売切率が5月16.8%、6月13.6%と一定の水準で在庫消化が進んでいるのに対し、客室サウナ付き客室の売切率は5月・6月いずれも0%に近い水準にとどまる。これは需要不足の兆候ではなく、客室サウナ付き部屋のキャパシティが極めて少なく(多くの施設で1-3室規模)、そのうえ提供施設自体の数が38施設と限られているために、需要が価格上昇で吸収されているか、あるいは販売チャネルが直販やコンシェルジュ経由にシフトしている可能性が高い。実際、TOP上位の旅館では一度に予約可能な室数が極端に少なく設定されているケースが目立つ。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

インバウンド富裕層需要との接続点

これらの価格水準を国際比較の文脈に置くと、客室サウナ付きホテルが向き合っているのは国内サウナ愛好家マーケットだけではないことが見えてくる。日本政府観光局(JNTO)が定義する「高付加価値旅行者」(訪日1回あたり100万円以上消費する旅行者)は、訪日外国人全体の約1%にあたる32万人と推計されている。マリオット・インターナショナルが2025年に発表した富裕層旅行者調査では、旅行先選定の重要要因として「ウェルネス体験」を挙げる比率が前年の80%から90%へと上昇した。このセグメントが日本に求めているのは、座禅、温泉、ヨガ、そしてサウナといった「心身を整える滞在」である。

客室にサウナを設置する戦略の優位性は、共用サウナでは難しい「プライバシー」「写真撮影可能」「自分のペースで利用可能」という条件が同時に成立する点にある。日本独自の体験としてSNSで拡散しやすい構造を持ち、結果として平均30万円超のラグジュアリースイートに対しても市場が成立する。これは単に設備としてのサウナの追加コストでは説明がつかない価格水準であり、体験パッケージとしての完成度が価格を決定している。

一方、すべての客室サウナ付き施設がインバウンド富裕層に接続しているわけではない。価格帯下位のビジネス価格帯施設はむしろ国内出張需要や近距離レジャー需要が中心であり、サウナは差別化要素の1つであっても主役ではない。記事冒頭で示した価格分布の二極化は、客室サウナという同じ設備でも、それを「コア体験」として商品化するか「アメニティ強化」として位置づけるかで、ターゲット層と価格設計が大きく異なることを示唆している。

まとめ:希少性と体験価値の交差点

客室サウナ付きホテルは現時点で全国38施設・59室タイプという小さなマーケットだが、平均プレミアム率+20.4%、上位施設では+50%から+300%超に達する強い価格決定力を持つことが確認できた。プレミアムの源泉は設備そのものではなく、「温泉」「眺望」「料理」「プライバシー」といった既存の体験文脈にサウナを統合する構成力にある。施設数が限定的で複製も容易ではないことから、当面この希少性が価格水準を支える構造は持続すると考えられる。

ただし、客室サウナ単体ではなく体験パッケージ全体での競争に移行している以上、新規参入施設には高い完成度が求められる。安易な追加設備としての客室サウナはむしろ価格決定力を持たず(前掲の山形県・福島県の例)、温泉露天や和室特別室といった既存のプレミアム源泉の影に隠れる結果になる。インバウンド富裕層市場が「ウェルネス体験」へのシフトを強める2026年以降、客室サウナを軸にした商品設計は、客室タイプの単純追加ではなく事業コンセプトそのものの再定義として位置づける必要があるだろう。

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