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長期滞在型ホテル市場の本格始動 — 三菱地所WAYPOINT・ヒルトン参入で変わる東京宿泊

投稿日 : 2026.04.29
長期滞在型ホテル市場の本格始動 — 三菱地所WAYPOINTとヒルトン参入で変わる東京宿泊

2026年4月1日、三菱地所ホテルズ&リゾーツが新ブランド「WAYPOINT」の1号物件を東京・築地に開業した。同社は2030年までに10軒の展開を計画しており、ヒルトンも米Placemakr社との提携で「Apartment Collection by Hilton」を2026年前半より予約開始する。日本のアパートメントホテル市場が、大手ブランドの本格参入によって新たな局面を迎えている。本稿ではOTA公開価格データをもとに、築地・銀座エリアの価格構造、東京エリアでアパートメント型カテゴリが伸びている事実、そしてビジネスモデルとしての優位性を整理する。

※本記事における指標の定義:ADR(平均客室単価)=調査対象施設が公開している販売価格の平均値であり、実際の成約価格とは異なります。売切率=調査時点で予約受付を終了していた販売プランの割合であり、施設全体の客室稼働率とは異なります。価格は2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。

三菱地所「WAYPOINT」とヒルトン「Apartment Collection」、相次ぐ大手参入

三菱地所と三菱地所ホテルズ&リゾーツは2026年2月、長期滞在ニーズに対応する新ブランド「WAYPOINT」を立ち上げ、アパートメントホテル事業に本格参入することを発表した。1号物件「WAYPOINT TSUKIJI TOKYO」は築地2丁目(東京メトロ日比谷線築地駅から徒歩約1分)に立地し、敷地面積約368㎡・9階建て・全52室の規模である。同社は2030年までに10軒の開業を目標としている。

客室は37.28㎡のデラックスバンクルーム(4名利用、1名11,000円〜)と68.28㎡のスイートバンクルーム(6名利用、1名12,833円〜)の2タイプ構成で、ミニキッチンや洗濯乾燥機を備えた長期滞在対応設計となっている。ブランドコンセプトは「The Urban Basecamp(都市の探索拠点)」とされ、グループ客や複数泊滞在客がメインターゲットである。

一方、米ヒルトン・ワールドワイド・ホールディングスは、アパートメント型宿泊施設運営大手の米Placemakr社と提携し、新ブランド「Apartment Collection by Hilton」を立ち上げた。同ブランドは家具付きスタジオから4ベッドルームまでの客室を提供し、2026年前半よりHilton予約チャネル経由で販売を開始する。最大3,000ユニット規模の取り込みが計画されており、Hilton Honorsとも連携する。

大手2社の相次ぐ参入の背景には、訪日インバウンドの行動変容がある。訪日客の滞在期間が延びるにつれ、買い物中心の短期滞在から、宿泊・飲食・体験消費を重視する長期滞在型へのシフトが進んでいる。観光庁等の調査によれば、滞在期間2週間以上の層では買い物代の比率が3割程度に低下し、宿泊費・飲食費・娯楽サービス費の比率が高まる傾向が報告されている。

築地・銀座エリアの価格水準は東京中心部で「中位帯」

WAYPOINT TSUKIJI TOKYOが立地する中央区の価格水準を、東京中心部の主要区と比較してみよう。メトロエンジンリサーチが集計した2026年5〜6月の販売価格データ(2名1室利用時)によれば、中央区の平均販売価格はおよそ¥31,000で、渋谷区(¥67,500)、千代田区(¥53,300)、港区(¥50,400)等の高単価エリアと比べて明確に低い。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年5〜6月、N=2,275軒)

この差は単純な「立地ヒエラルキー」だけでは説明しにくい。中央区にはホテルが約996軒(5月)登録されており、これは港区(210軒)の約4.7倍、渋谷区(71軒)の約14倍に相当する。供給過多の側面に加え、銀座・京橋・八丁堀・人形町・月島など多様な性格のエリアを内包しているため、平均値が引き下げられる構造になっている。

言い換えれば、築地は「東京中心部にありながら、宿泊単価がコンパクトに収まる」立地である。これはWAYPOINTのターゲット層、すなわち「複数名・複数泊で滞在する訪日客」にとって極めて魅力的な条件といえる。1名11,000円〜の価格設定は、4名利用時に1室¥44,000程度となり、中央区平均(¥31,000)と比較して約4割高い水準だが、4名で1室をシェアするという前提に立てば、1人当たりでは大手シティホテルのシングル利用と同等以下の負担となる。

中央区の販売価格は¥15,000〜25,000帯が最多ゾーン

WAYPOINTの料金設計が築地エリアの相場のどこに位置するかをさらに細かく見るため、2026年5月中旬の販売プランを価格帯別に分布化した。中央区では¥15,000〜25,000帯のプラン数が最多で、約29.7万件と全体の約3割を占める。一方、ヒルトン東京や帝国ホテル等が立地する千代田区・港区は¥40,000以上の価格帯のシェアが大きく、ハイクラス偏重の構造となっている。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年5月15〜21日、対象3区合計N=129万プラン)

WAYPOINT TSUKIJI TOKYOの公表価格(1名11,000円〜、4名利用時1室44,000円〜)は、中央区における¥40,000〜60,000の価格帯(プラン数シェア約14.8%)に分類される。中央区内では「やや高め」だが、千代田区・港区における同価格帯のシェア(それぞれ約16.0%、約20.6%)と比べると、競合密度がやや少ない領域に位置する。複数人グループ向けの広い客室タイプは中央区内で限定的に供給されており、需要に対する供給は薄い状況にある。

東京カテゴリ別ADR:アパートメント類型カテゴリが大きく伸長

つぎに、東京都内のホテルカテゴリ別販売単価を前年同月比で確認する。2026年5月の販売データを2025年5月と比較すると、興味深い構造変化が確認できる。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(東京都、2025年5月および2026年5月)

注目すべきはアパートメント型・長期滞在型に近接するカテゴリの動きである。「貸別荘」(簡易宿所登録の貸切型施設、戸建て・マンション一棟貸し含む)は前年同月比+12.6%、「ホステル」(WAYPOINTの分類カテゴリ)は同+19.2%と、いずれも二桁の上昇を見せた。一方で従来型の「シティホテル」は同−9.8%とむしろ下落しており、市場の重心がアパートメント類型に移動しつつある実態が読み取れる。

これは単純な需給ミスマッチでは説明しきれない。シティホテルカテゴリは過去2年で価格を急上昇させてきた経緯があり、2026年に入ってからの調整局面に入っている可能性が高い。一方、貸別荘・ホステル・大人専用カテゴリの伸長は、訪日客が「宿泊単価よりも、滞在体験の総コスト」(複数泊・複数人での1人あたり負担)を重視し始めている兆候と見ることもできる。

東京都内ADRの月次推移:シティホテル中心の単価ピークから踊り場へ

東京都全体のADR推移を月次で確認しても、価格上昇局面の節目が見える。2025年は¥29,000〜¥36,000のレンジで推移していたが、2026年1月には¥41,000台、4月に¥42,000台のピークを記録した。直近5月は¥37,700、6月は¥34,800と、ピーク後の調整局面に入っている。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(東京都、月次平均)

シティホテルや高単価セグメントが価格調整局面に入った今、WAYPOINTのような「客室単価ではなく1人あたり負担」を訴求する形態の競争力が相対的に高まっている。1室で4〜6名を収容できる客室設計は、家族連れや小グループの訪日客にとって、4ヶ所のシングルルームを予約する代替手段として強い競争力を持つ。

2026年4月の東京新規開業ホテルにおけるWAYPOINTの位置付け

メトロエンジンリサーチが把握する範囲で、2026年に東京都内で開業した(または開業予定の)30室以上のホテルは7軒である。このうち2026年4月の開業は、WAYPOINT TSUKIJI TOKYO含めて3軒に集中している。

施設名 客室数 開業日 カテゴリ
東急ステイ渋谷恵比寿772026/03/17ビジネスホテル
ホテルメトロポリタン大井町トラックス2852026/03/28シティホテル
ホテルオリエンタルエクスプレス銀座ウエスト2202026/04/01ビジネスホテル
WAYPOINT TSUKIJI TOKYO522026/04/01ホステル
TABI上野352026/04/10ビジネスホテル
虎ノ門ホリックホテル492026/04/24ビジネスホテル
ホテル木下赤坂742026/12/31ビジネスホテル

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(30室以上、メトロエンジンリサーチが把握する範囲)

新規開業7軒のうち、5軒がビジネスホテルカテゴリ、1軒がシティホテル、そしてWAYPOINTのみがホステル(アパートメント型)として登録されている。同一日に開業した銀座のオリエンタルエクスプレス(220室)が大規模ビジネスホテルの典型例である一方、WAYPOINT(52室)は明確に異なるセグメント設計を選択している。同じ日に同じ中央区エリアに参入しながら、ターゲットも収益モデルも分離している点は、市場が「カテゴリ間競合よりもセグメント分化」のフェーズに入っていることを示している。

アパートメントホテルのビジネスモデル:人件費構造の違いが利益率に直結

アパートメントホテルの収益優位性を生み出している最大の要素は、人件費構造の違いである。客室内にミニキッチン・洗濯乾燥機等の生活インフラを備えることで、ハウスキーピングの清掃頻度や、飲食提供(朝食ビュッフェ等)の運営要員を大幅に削減できる。

一般的なシティホテルでは、レストラン・バーラウンジ・ベルデスク・コンシェルジュ・ハウスキーピング・宴会施設運営など、客室収益以外の付帯部門に多数のスタッフ配置が必要となる。これに対しアパートメントホテルでは、フロント機能を最小限に抑え、清掃も連泊客向けには中3日程度の頻度に減らすことが一般的である。複数泊・複数人での利用が前提となるため、1室・1日あたりの労働投入量がシティホテルの3〜4割程度に圧縮できるとも言われている。

加えて、ミニキッチン・洗濯機を備えることは、付帯部門売上を諦める代わりに、客室1室あたりの「占有時間」を最大化する戦略でもある。連泊客は外食頻度を下げ、館内で朝食・夕食を取る選択肢を持つため、結果として施設外への滞在時間が短縮される傾向にある。これにより客室単価×滞在日数の総売上ベースで、シティホテルとは異なる収益構造を構築できる。

もちろん、アパートメントホテルにはデメリットもある。短期滞在客の取り込み難度が高く、稼働率が回転型ホテルほど上がりにくい。そのため、平均滞在日数(ALOS)を一定水準以上に維持することが収益モデル成立の絶対条件となる。WAYPOINTがインバウンドのファミリー・グループ客に絞った訴求を行っているのは、この前提を満たすためのターゲティング戦略である。

投資視点:既存ホテルからのリブランド可能性、海外資本の動き

三菱地所が2030年までに10軒の展開を計画している点を考えると、新築ではなく既存施設のコンバージョン(リブランド)が主流になる可能性が高い。WAYPOINT TSUKIJI TOKYO自体が既存施設をリノベーションする形で開業しており、投資効率の高い手法である。日本国内には、稼働率や収益性が伸び悩む小〜中規模シティホテル・サービスアパートメント・社員寮等の在庫が一定数あり、アパートメントホテルへのコンバージョン候補となり得る。

海外資本の動きも見逃せない。ヒルトンがPlacemakrとの提携で本格参入する一方、米ブラックストーンは2024年に西武ホールディングスから東京ガーデンテラス紀尾井町を約4,000億円で取得するなど、日本不動産への大型投資を継続している。同社は今後も日本国内に2兆円規模の投資を計画しており、ホテルアセットも対象とされている。アパートメントホテルというカテゴリは、海外運営ノウハウの輸入余地が大きく、海外PEファンドにとっては「マルチファミリー資産との運営シナジー」を見込みやすい領域でもある。

参考までに、東京都内に多くの物件を保有する日本ホテル&レジデンシャル投資法人(3472)は、2026年2月時点で平均稼働率86.8%、平均ADR¥25,001を確保している。同REITはレジデンシャル系(賃貸住宅・サービスアパートメント)と従来型ホテルの双方を保有しており、アパートメントホテル領域は両者の中間的なセグメントに位置する。「居住的需要」と「短期宿泊需要」を同一施設で取り込めるハイブリッド型のビジネスモデルとして、機関投資家からの注目度は今後さらに高まる可能性が高い。

まとめ:アパートメントホテルは「価格競争」ではなく「需要構造」の競争へ

三菱地所WAYPOINTとヒルトンApartment Collectionの本格参入は、長期滞在型ホテル市場が「ニッチ」から「メインセグメント」に移行する転換点になる可能性がある。本記事で整理した東京都内のOTA価格データからは、シティホテルカテゴリが価格調整局面に入る一方で、アパートメント型に近接する貸別荘・ホステルカテゴリが二桁上昇を続けているという、市場重心のシフトが確認できる。

WAYPOINT TSUKIJI TOKYOが立地する中央区は、東京中心部にありながら宿泊単価が¥31,000程度と中位帯に収まり、複数名・複数泊での1人あたり負担を抑えやすい立地である。同物件の1名11,000円〜という価格設定は、4名利用時に中央区平均と同等程度の1人あたり負担を実現でき、ファミリー・グループ訪日客にとって明確な選択肢となる。

今後の論点は、(1)三菱地所が10軒展開をどのエリアに広げるか、(2)ヒルトンApartment Collectionの日本市場投入時期と立地戦略、(3)海外PEファンドによる既存ホテルのコンバージョン投資が顕在化するか、の3点である。本サイトでは引き続き販売価格データの動向を追い、市場の構造変化を定量的に追跡していく。

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