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全国平均ADR¥32,340で過去最高更新(2026年5月)|物価高×人件費転嫁が生んだ『3年で+19%』の構造分解

投稿日 : 2026.04.29

指定なし

全国平均ADR¥32,340で過去最高更新

2026年5月、メトロエンジンリサーチが集計する全国平均ADR(販売中の公開価格平均)は¥32,340に達し、月次ベースで過去最高を更新した。2024年4月の¥27,203と比べると約2年で+18.9%、感覚的には『3年で+19%』と表現できる急速な単価上昇である。本稿では、この上昇を生み出した3つの構造要因——食料・サービスCPIに連動した価格転嫁、業態間でのADR分布シフト、そして都市部と地方の二極化——を、47都道府県別データと業態別寄与度の両面から分解する。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):OTA等で公開されている販売価格の平均値。実際の成約価格とは異なります。2名1室利用時の1室あたり料金(税込)・全プラン平均(素泊まり〜食事付きプランを含む)。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ

全国平均ADRの月次推移:2024年春から始まった『二段ロケット』

まず全国平均ADRの月次推移を確認する。2024年4月の¥27,203から始まり、夏のお盆繁忙期(2024年8月¥29,992)でいったん3万円に迫り、いったん秋に¥26,000台へ調整された後、2025年初夏から本格的な上昇トレンドに入った。2025年8月¥32,129で初めて月次¥32,000台を突破し、その後はほぼ単調に上振れし続け、2026年5月の¥32,340で月次最高値に到達している。グラフを見ると分かるとおり、上昇は連続した一本の上り坂ではなく、2024年後半と2025年後半の2回の段差を経て積み上がっている。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(N=20.0万-21.6万データポイント/月、宿泊施設約2.6万-2.9万件/月)

このグラフが示す重要な点は、上昇が一様ではないということである。2024年4月から2025年4月までの最初の1年は¥27,203から¥28,071へ実質的にほぼ横ばい(+3.2%)に留まったのに対し、2025年5月以降の1年では¥28,431から¥32,340へ+13.7%と急加速している。つまり3年で+19%という総量の大半は、直近1年に圧縮された動きの中で発生していることになる。

食料・サービスCPIとの並走:価格転嫁が完了した業界

では、なぜ2025年後半から急加速したのか。背景にあるのは食材費・人件費の継続上昇と、それを宿泊料金へ転嫁する経営判断の浸透である。総務省「消費者物価指数」の2026年3月分(2020年=100)を見ると、食料指数128.7(前年同月比+5.2%)宿泊料指数の前年同月比は+5.0%、外食+3.9%、教養娯楽サービス+2.5%と、宿泊料は外食・サービスを上回る勢いで上昇している。下図はメトロエンジンリサーチ集計の全国ADR前年同月比と、CPI食料・CPIサービス(公的統計)の前年同月比を並べたものである。

出典:ADRはメトロエンジンリサーチ集計/CPIは総務省統計局「2020年基準消費者物価指数 全国」(2026年3月分公表値)よりホテルバンク編集部作成

注目すべきは2025年9月以降である。CPI食料が+4.5%→+5.7%→+6.0%と加速していくのと同期するように、宿泊価格の前年同月比も+4.7%→+8.6%→+10.6%と上方へ振れている。一般にホテルの宿泊価格は需給で決まるため、CPIとの直接的な因果は単純化された議論ではあるが、少なくとも食材・人件費というコスト上昇環境のなかで、ホテル業界が価格転嫁を躊躇しなくなった状況は読み取れる。長く続いた『デフレ業界』からの本格的な離陸局面と言ってよい。

47都道府県別2年伸び率ランキング:上位10県は『観光ハブ+万博効果』

次に47都道府県別の動きを見る。下図は2024年5月→2026年5月の2年間でADRが何%上昇したかをランキング化したものだ。最も伸びたのは愛知県の+42.4%(¥22,264→¥31,706)、次いで神奈川県+41.2%(¥31,465→¥44,434)、千葉県+33.9%(¥29,832→¥39,944)と続く。上位10県のうち東京・神奈川・千葉・埼玉の首都圏4都県、大阪・奈良・滋賀の関西3府県、そして愛知・長野・宮城が並ぶ構図は、大型イベント(GW、万博余波)と新幹線・空港アクセスのよい観光ハブが価格を牽引する典型パターンを示している。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(47都道府県、各月N=18.9万-21.6万データポイント)

一方、下位は福島県-12.2%(¥32,925→¥28,922)、宮崎県+3.1%、佐賀県+3.3%、茨城県+3.6%、山口県+4.3%。福島県は2024年5月時点で復興需要や工事関係者宿泊で高めの単価が形成されていた反動が大きく、過去比較が難しい特殊事情がある。それを除けば、地方圏でも下位は『+3〜4%』とプラス圏に踏みとどまっており、47都道府県中46県でADRが上昇していることは特筆に値する。

順位 都道府県 2024年5月ADR 2026年5月ADR 2年伸び率
1愛知県¥22,264¥31,706+42.4%
2神奈川県¥31,465¥44,434+41.2%
3千葉県¥29,832¥39,944+33.9%
4大阪府¥20,894¥27,891+33.5%
5岡山県¥26,221¥34,494+31.6%
6宮城県¥23,834¥31,295+31.3%
7奈良県¥31,456¥41,084+30.6%
8長野県¥28,255¥36,236+28.2%
9東京都¥30,205¥37,673+24.7%
10滋賀県¥31,541¥39,237+24.4%
… 中略 …
43山口県¥28,313¥29,531+4.3%
44茨城県¥24,497¥25,383+3.6%
45佐賀県¥26,309¥27,178+3.3%
46宮崎県¥19,661¥20,280+3.1%
47福島県¥32,925¥28,922-12.2%

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

業態別寄与度分解:旅館とリゾートが全国平均を押し上げる

業態別に見ると上昇のメカニズムがさらにくっきりする。2026年5月時点の業態別ADRと2024年5月との比較は以下のとおりである。旅館は¥30,944→¥33,086(+6.9%)、リゾートホテルは¥42,942→¥46,167(+7.5%)と中高単価業態が安定して上昇する一方、ビジネスホテルは¥14,771→¥15,441(+4.5%)と緩やかな伸びに留まる。シティホテルは集計対象施設の入れ替わり等の構成変化で見かけ上は¥26,886→¥25,175(-6.4%)となっているが、観光庁OCCではシティホテル稼働73.0%(2025年12月)と高水準を維持しており、需要そのものが弱いわけではない点に留意が必要だ。

業態 2024年5月ADR 2026年5月ADR 伸び率 対象施設数
リゾートホテル¥42,942¥46,167+7.5%1,507
旅館¥30,944¥33,086+6.9%5,914
ビジネスホテル¥14,771¥15,441+4.5%6,989
シティホテル¥26,886¥25,175-6.4%※1,088

※シティホテルの数値は集計対象施設の入れ替わり等に伴う構成変化を含む。観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年12月分ではシティホテル客室稼働率は73.0%と高水準にあり、需要面の鈍化を示すものではない点に留意。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

全国平均ADRを押し上げているのは、第一に施設数の多い旅館(5,914件)の単価+¥2,142と、第二に高単価業態のリゾートホテル(1,507件)の単価+¥3,225である。ビジネスホテルは6,989件と数こそ最大だが単価上昇は+¥670にとどまり、加重平均への寄与は限定的だ。つまり全国平均ADRの『3年で+19%』は、ビジネスホテルが下から底上げしたのではなく、旅館とリゾートという中高単価業態が業界全体を引き上げたと解釈すべきである。

観光庁OCCとの乖離:稼働は微増、単価は二桁伸長

ここで重要な疑問が浮かぶ。これだけ単価が上がったのは、需要が強烈に伸びたからなのか。観光庁「宿泊旅行統計調査」(2025年12月第2次速報)を見ると、2025年12月の全体客室稼働率は59.7%(前年同月差+1.0pt)にとどまる。施設タイプ別ではリゾートホテル53.7%(+0.7pt)、ビジネスホテル73.6%(+0.5pt)、シティホテル73.0%(-0.8pt)、旅館35.3%(+1.4pt)と、いずれもプラスマイナス1pt前後の微変動である。延べ宿泊者数は2025年12月5,359万人泊(前年同月比-4.2%)と、むしろ前年割れであった。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」(2025年12月第2次速報)よりホテルバンク編集部作成

つまり稼働率は微増ないし横ばいなのに、ADRだけが二桁で伸びているのである。この乖離こそが今回のADR上昇の本質を示す。需要超過によるレベニューマネジメント上の値上げではなく、人件費・食材費の上昇分を価格に乗せた『コストプッシュ型の値上げ』が相対的に大きな比重を占めている可能性が高い。需給ベースで決まる動的価格と、コスト構造で決まる底値の上昇——この二つが重なったからこそ、稼働を犠牲にせず単価を上げられた。

データの切り替わりに関する注意:本記事ではOTA公開価格データ(販売価格ベース)とREIT月次運営データ(成約価格ベース)を併用しています。両者には構造的な水準差があるため、絶対値の直接比較ではなくYoY(前年比)の変化率に注目してお読みください。

REIT月次データに見る業界平均:JHRはRevPAR+9%、星野は+10.5%

上場ホテルREITの月次運営データもこの構図を裏付けている。ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)の2026年3月実績は、ポートフォリオ全体でADR ¥20,827(前年同月比+5.0%)、稼働率85.1%(+3.1pt)、RevPAR ¥17,720(+9.0%)。星野リゾート・リート投資法人(3287)の2026年2月実績はADR ¥20,771(+8.6%)、稼働率76.5%(+1.9pt)、RevPAR ¥15,884(+10.5%)。インヴィンシブル投資法人(8963)の2026年3月実績もADR ¥14,529(+6.0%)、稼働率87.6%(+2.8pt)、RevPAR ¥12,721(+9.0%)と、いずれも稼働の小幅プラス×ADR一桁後半上昇という同じ構造で揃っている。

REIT 直近月 OCC ADR RevPAR YoY
ジャパン・ホテル・リート(8985)2026年3月85.1%(+3.1pt)¥20,827(+5.0%)+9.0%
インヴィンシブル投資法人(8963)2026年3月87.6%(+2.8pt)¥14,529(+6.0%)+9.0%
星野リゾート・リート(3287)2026年2月76.5%(+1.9pt)¥20,771(+8.6%)+10.5%
日本ホテル&レジデンシャル(3472)2026年2月86.8%(+2.9pt)¥25,001(-12.1%)-11.9%
いちごホテルリート(3463)2026年2月86.7%(-1.6pt)¥10,650(-7.5%)-9.0%

出典:各社REIT月次運営データ(2026年2月~3月公表分)よりホテルバンク編集部作成

主要REITの間でも一部で前年割れが見られるが、これは個別物件の改装・休業や大都市の繁忙期反動など各社固有事情によるところが大きく、業界全体としては『稼働は底堅く、ADRが業界平均より上の伸びで推移する』という流れが整っていると見てよい。

2026年後半の見通し:単価ピークアウトの兆しと『次の段差』

では『3年で+19%』はこの先も続くのか。直近12ヶ月の前年同月比の動きを見ると、2025年9月の+8.6%から2025年11月+12.6%にかけて伸び率がピークに達し、2026年に入ってから若干ペースが鈍化している兆しがある(2026年5月+13.7%は依然高水準だが、3桁データ点での揺らぎ範囲内)。CPI食料も2025年12月の+7.2%をピークに2026年3月+5.2%まで減速しており、コストプッシュ要因はやや弱まりつつある。

2025年大阪・関西万博の反動、2026年GWの祝日配列(5月6日が水曜の谷間)、円高反転による訪日需要の鈍化リスクといったマイナス要因も控えるなか、業界平均ADRが¥32,000台で安定するか、それともさらに¥33,000台へ抜けていくかは、2026年夏のお盆繁忙期と秋の紅葉シーズンの動向で見えてくるはずである。施設運営者にとっては『これまでの値上げが定着するか、需要側が拒否し始めるか』を試される局面に入っていると言えるだろう。

まとめ

2026年5月、全国平均ADRは¥32,340で月次過去最高を更新した。直近2年で+18.9%という上昇は、(1)食料・サービスCPIに連動するコストプッシュ型の値上げ、(2)旅館・リゾートホテルの中高単価業態が全国平均を引き上げた業態構造のシフト、(3)首都圏・関西圏・名古屋圏の観光ハブが上位を占める地域格差——という3つの構造要因に分解できる。観光庁OCCが微増にとどまるなかでADRが二桁で伸びている事実は、需要超過ではなくコスト転嫁が値上げの主役になっていることを示唆する。施設運営者にとっては、需要拘束されない『値づけの余白』をどう活かすかが2026年下期の最大のテーマとなるだろう。

将来日程のADRに関する注意:本記事のADRは調査時点でOTAに公開されている販売価格の平均であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。現時点で高く設定されている価格が直前値下げで下落する可能性がある点にご留意ください。

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