2025年5月25日、株式会社さとゆめとJR東日本の共同出資による「沿線まるごと株式会社」は、レストラン・サウナに続き、宿泊棟「Satologue(サトログ)」をオープンした。奥多摩の自然や歴史、人々の営みにじっくりと触れられる“滞在型観光”が可能になり、地域とともに暮らすように旅する体験が広がりを見せている。
地域の人びとを「ホテルのキャスト」とし、無人駅や空き家、里山の道をまるごと活かす——。プロジェクトを支えるのは、地域を愛する住民と、この地に惹かれた旅人たち。Satologueは、そんな人々の想いが織りなす“里の物語”の舞台として、今、新たな一歩を踏み出す。
本記事では、「沿線まるごとホテル」プロジェクトや「Satologue」について、沿線まるごと株式会社に取材を行った。
▷ 公式HP:https://satologue.com/
―――「沿線まるごとホテル」構想がスタートしてから5年とのことですが、プロジェクト立ち上げ当初に特に重視された地域課題や、目指していた社会的な意義について改めてお聞かせください。

「沿線まるごとホテル」は、株式会社さとゆめとJR東日本が共同で進めるプロジェクトで、JR青梅線の青梅駅から奥多摩駅までのエリア、いわゆる東京アドベンチャーラインを舞台にしています。東京都にありながら、日本の原風景ともいえる自然と人が共生する地域です。
このエリアでは、他の地方と同様に過疎高齢化や人口減少が進み、空き家の増加や店舗の閉店、耕作放棄地の拡大など、数多くの地域課題が顕在化しています。鉄道利用者の減少も著しく、地域インフラの維持が困難になりつつありました。

そこで私たちは、こうした「地域課題」をむしろ付加価値と捉え、逆転の発想で地域の資源を活かす方向へ転換しました。「無人駅がホテルのフロントに」「空き家がホテルの客室に」「電車がホテルのエレベーターに」「田舎道がホテルの廊下に」、そして「地域住民がホテルのキャストに」と、地域全体を“ひとつのホテル”として捉えたのがこのプロジェクトの出発点です。
新たに大規模開発・大規模イベントを起こし、1万人が一回だけ地域に来て終わりではなく、同じ1万人でも100人が100回来る沿線地域を目指すことで、青梅線以外にも広がる日本の過疎高齢化地域にも展開可能な事業モデルだと思っております。
――― 地域住民の方々が「ホテルのキャスト」として参画する体制はとてもユニークですが、実際の運営を通じて、住民の方々やゲストからはどのような反応や効果がありましたか?
▼「Satologue」を共に創っている方々

沿線まるごとホテル「Satologue」には、地域の住民・事業者・自治体と多くの地元民が様々な形で関わっていただき、多くの方からご支援を頂いております。20代から70代まで老若男女の地元民が、無人駅でのチェックイン、集落散歩、送迎、畑・庭づくり、清掃、食材提供、語り部等々 様々な役で参画いただき、ありのままの姿でお客さまに接してもらいます。
地域住民(キャスト)の方々からは
「自分が子供の時から見ていた当たり前の景色や、奥多摩で過ごした思い出は特に価値があると思っていなかったが、キャストをやってからはとても価値があるものだという考えに変わった。」
「外から訪れた人が自分の体験談を楽しく聞いてくれたり、嬉しそうに質問してくれたりする反応をしてくれて奥多摩に住んでいることを誇りに思えた。」
「うちの畑でとれたこの新鮮野菜、是非料理に使って」
「若い人達が新たに来てくれたり、働いてくれたりしていて、色々聞いてくれて自分達も若返っている」
という好意的なご意見がほとんどで、古民家(空き家)の大家さんからも「子供の頃に住んでいて今は空き家になった思い出の場所を、人の交流が生まれる場所に変えてくれて本当に嬉しい」という言葉もいただいております。
キャスト同士でも「昔仕事で一緒だった人とまた会えた」「恩師が一緒だった人とまた働けた」という新たに仲間再構築が生まれております。この沿線まるごとホテルを通じて時代とともに失われつつある地域コミュニティを取り戻すきっかけにもなっているように感じております。
ゲストの皆さまからの評価も
「料理やサウナ、おもてなしのサービスはもちろん堪能させてもらったが、一番は地元民の人達と触れ合い“オラがまち”の魅力を伝えてくれること」
「おじいちゃんおばあちゃんのふるさとにかえってきて、違う時間が流れていることを五感で感じることができたこと」
といった、ありがたいお言葉をいただいています。
―――「Satologue」のグランドオープンによって、今後はどのような宿泊体験を提供していきたいとお考えですか?また、それを通じて地域にどんな変化をもたらしたいと考えていますか?

我々のミッションはホテル業を極めていくことではなく、地域経済力を高めていき持続可能な地域を創っていくことです。
酒蔵、リバーアクティビティ、トレッキング、食といった点在していた地域資源を、鉄道という「線」でつなぎ、Satologueという「面」のブランドに統合することで、回遊性の高い滞在体験を提供していきたいと考えています。

これまで宿泊施設が少なく日帰り観光が8割を占め観光消費額が低かった奥多摩エリアで、在るものを活かす新たな滞在型観光モデルを構築することで地域全体での経済量を上げていく変化をもたらしていきたいです。
沿線まるごとホテルは5/25に開業した一棟だけではなく、東京アドベンチャーラインの各駅・各集落に拠点を分散して増やしていく予定です。「今日は鳩ノ巣駅のホテルに泊まったから次は白丸駅にあるホテルに泊まってみよう。」といった集落ごとの物語を変えながら、何度も同じ地域に訪れたいと思っていただける仕組みです。

また東京アドベンチャーラインでお越しの方限定で里の一人となる旅の切符「沿線まるごとパスポート」をお渡ししております。こちらでは地域の対象店舗から特別なサービスを受けることができます。なかには、普段お店では出していない限定メニューが楽しめるといったものまであります。
このパスポートをきっかけに「Satologueチェックアウト後にあの気になるお店でランチを食べてみよう」「あのアクティビティに参加しよう」といった新たな地域の再発見につながればと思っております。Satologueを起点に地域の事業者同士が連携できれば、より良い地域づくりに発展していくのではと考えています。
▼パスポート掲載店舗・事業者 一部ご紹介(順不同)



――― 堀部安嗣氏による「Satologue」の客室設計では、“自然に開放されつつ、包まれる安心感”がテーマとされていますが、それを建築面で具現化するうえで、特にこだわった点を教えてください。

「在るものを活かし、身近な愛すべきものを愛でる。」「古代からあり続ける多摩川源流地域の水・木をそのまま引き継ぐ。」というコンセプトに基づいています。
たとえば、柔らかいボールト天井の客室は繭のように包まれる安心感を表現し、テラスは奥多摩の自然とつながる開放感を演出しています。バスルームからは庭や川辺の緑を眺めながら、心と身体をリセットできる空間になっています。

また、客室だけではなく、施設全体で奥多摩地域のありのままを表現しています。養魚場の生け簀をビオトープや菜園に、倉庫を薪サウナにリノベーションするなど、人工物も自然の一部として活用することで、その土地に根付いた暮らしや営みを空間として語り継いでいます。
――― 今回の宿泊棟開業を通じて、プロジェクトが次のステージへ進む印象を受けますが、今後の展開や他地域への波及など、新たに構想されているプランがあれば教えてください。

有名な観光地だけではなく、名もなき里・集落にも魅力ある光・情緒が沢山あります。「沿線まるごとホテルプロジェクト」の名の通り、沿線地域をまるごと体験してもらい、五感で感じてもらい、里の一人となる物語をお客さま自身で綴ってもらいます。
まずはJR青梅線(東京アドベンチャーライン)の里の物語を綴るSatologueを地域の皆さまと共に構築していきます。そして、青梅線の他の無人駅にも拠点を展開し、ホテルのフロントや客室を増やしていく計画です。
ありがたいことに、同様の課題を抱える多くの地域(自治体)からも「沿線まるごとホテル」の依頼をいただいており、私たちは2040年までに全国30地域(沿線)での事業展開という高い目標を掲げています。これまで培ってきたノウハウを日本の30地域ほどで展開し、地域の小さな光や情緒を照らし続けることができれば日本の地方創生の在り方が変わってくると考えております。
■開業記念特別プラン
奥多摩の自然・文化・歴史を五感で体験する「Satologue」の宿泊棟を、いち早くお得に利用できる「開業記念特別プラン」
・宿泊期間:2025年5月25日(日)~2025年8月31日(日)
・料金:ツイン 1名様 49,500円(税込)~ ※1室2名利用時/夕朝食・サウナ付き
・予約方法:右記URLにて受付 https://satologue.com/
※料金は日にちによって変動。
※定員に達し次第、本プランは終了。
■施設概要

施設名称:「Satologue」
所在地:東京都西多摩郡奥多摩町棚澤 1
交通手段:JR 青梅線「古里」駅 徒歩15分 / JR 青梅線「鳩ノ巣」駅 徒歩20分
※JR青梅線「鳩ノ巣」駅から送迎あり (送迎車14:35頃出発)
駐車場:あり
※台数に限りあり
施設構成:客室(ツインルーム4室)、ラウンジ、レストラン、サウナ(全禁煙)
問い合わせ先:電話 0428-85-9310 MAIL admin@ satologue.com
HP:https://satologue.com/