静岡県富士市・吉原商店街にある宿泊施設「Arcade Hotel(アーケードホテル)」が、2024年の開業から間もなく1周年を迎える。
かつての遊休ビルをリノベーションして誕生したこのホテルは、地域の店舗と連携し、商店街全体を“ひとつの宿”として捉える「まちやど」スタイルで注目を集めてきた。運営する富士山まちづくり株式会社は、宿泊を通じて地域との接点を創出し、吉原商店街の再生と魅力発信に取り組んでいる。
今回、1周年を記念して、平日2泊以上の滞在で“富士山のある日常”を味わえる「富士山と過ごす日常プラン」を7月限定で販売。観光以上、移住未満の“まちで暮らすように泊まる”体験が、さらに身近になる。
本記事では、1周年記念プランの企画の経緯やこの開業から1年間について、Arcade Hotelに取材を行った。
公式サイト:https://arcadehotel.jp/
――― 今回の1周年記念「富士山と過ごす日常プラン」は、どのような滞在体験を提供したいと考え企画されたのでしょうか?

Arcade Hotelのある富士市では、街のあらゆる場所から富士山を望むことができます。
ビルの隙間から、信号待ちの向こうから、ふとした瞬間に現れる富士山は、時間帯や天候によってその表情を変え、朝・昼・夜と異なる魅力を見せてくれます。
しかし、私たち地元の人間にとっては、こうした日常の風景があまりに当たり前になっており、その「贅沢さ」に気づかずにいました。

このプランでは、富士山がある日常の豊かさを、宿泊を通じて体験していただきたいと考えています。
宿泊者限定で開放している屋上テラスから、ゆったりと富士山を眺めながら過ごす時間は、まさに非日常のような日常です。
一期一会の富士山。
滞在中に、あなただけの「ベスト富士山」に出会っていただけたら嬉しいです。
――― 商店街全体を「ひとつの宿」と見立てる“まちやど”という仕組みは、1年間の運用でどのような手応えを感じていますか?

「商店街全体をひとつの宿と見立てる“まちやど”の仕組み」は、1年間の運用を通じて、私たち自身もその手応えを強く感じています。実際にこの1年で、吉原の街にはまだまだ知られていない魅力やポテンシャルが数多くあることに改めて気づかされました。
また、 Arcade Hotelを起点に、感度の高い面白い人たちが集まりはじめていることも日々実感しています。
一方で、街との連携や関係性の構築については、まだまだ改善の余地があると感じています。こうした関係性は一朝一夕に築けるものではないからこそ、まずは私たち自身が、吉原商店街の皆さまに愛され、信頼される存在になることが大切だと考えています。
――― 宿泊者と地域店舗との間で生まれた印象的な交流事例や、地元から寄せられた反応があれば教えてください。

宿泊者と地域店舗との間で生まれた印象的な交流事例として、特に心に残っているエピソードを2つご紹介します。
まずは、20代のカップルのお客様です。お酒好きということで、好みを伺った上で地元の日本酒が楽しめる居酒屋をご案内しました。
チェックアウト前、お客様から「 Arcade Hotelに泊まっていて、おすすめされたと伝えたところ、お店の方だけでなく常連さんまで気さくに話しかけてくれて、とても温かい気持ちになった」と嬉しいご感想をいただきました。
単なる紹介にとどまらず、地域の方々が自然とおもてなしの輪に加わってくださっていることに、大きな喜びを感じました。

もう一つは、友人との旅行でお越しくださった40代の男性2人組のエピソードです。チェックイン時にはすでに夕食を済ませており、バーを探しているとのことでしたが、それぞれ好みが異なり、お一人はウイスキー、もう一人は甘めのカクテルをご希望でした。
そこで、昼は床屋・夜はモルトバーとして営業している隠れ家的なお店と、旬のフルーツを贅沢に使ったカクテルが楽しめるバーをそれぞれご紹介しました。
最終的には「せっかくだから両方行ってみる」と仰ってくださり、「モルトバーは教えてもらわなければ辿り着けなかったし、カクテルバーはドンピシャで好みだった!最高の夜をありがとう」と、心温まるお言葉をいただきました。
こうした交流が、まさに“まちやど”の本質であり、私たちの原動力になっています。私たち自身も日々、実際に自分たちの足で街を歩き、飲食店に足を運び、生の体験を通じて得たリアルな情報を宿泊者の皆さまにお届けできるよう心がけています。だからこそ、紹介したお店での出会いや感動を共有していただけることが、何よりの喜びです。
―――「清と濁のコントラスト」という建築デザインのテーマに込めた想いや、宿泊者の反応について伺えますか?

当地・静岡県富士市は富士山の南麓に位置し、その恵みとして豊富な湧水が地域の生活や産業の基礎となっており、周辺エリアの持つこの清らかな水や自然の環境が正に「清」のイメージです。
一方、Arcade Hotelのある吉原商店街は、地域の産業を担う多くの工場に勤務する方々や地元企業の経営者さんらが憩う居酒屋やBARなどの飲み屋さんも多数集まっており、夜の雰囲気は人々の生々しい日常が垣間見えるある種「濁」的な要素と捉えています。
当地の持つこうした二面性(或いはもっと多面的な顔を持っている)を建築設計のテーマにも据えており、内装を解体して露になったコンクリートの壁面や天井は荒っぽいながら、建物の建てられた時代も感じられる顔として、濁の要素としてデザインに取り込み、一方で新設した内装部分は均整のとれた清の要素を表現しています。

こうした清と濁のコントラストは、そのバランスがとても重要であり、どちらに偏りすぎてもアンバランスなものになります。相反する要素を自然に受け入れられ、尚且つ他にはない個性として価値ある宿泊体験に繋げられるように設計されています。
宿泊者様方からのレビューの他、直接スタッフに対してお伝えいただく感想としても、好評を得ており、狙った体験を提供できていることを感じています。



――― Arcade Hotelを通じて、これからの吉原のまちにどんな未来を描いていきたいと考えていますか?

私たちは、これまでも吉原商店街周辺の空きビルや空き店舗の活用を促し、新たなプレイヤーの呼び込みや育成を担い、同時にエリア全体の回遊を楽しめるような仕掛けや企画に注力してきました。
商店街のメイン通りに面した1階店舗は比較的店舗開業につなげやすいものの、2階以上の活用には難しいものがあります。
Arcade Hotelは、現在5室の小規模な施設ですが、隣や道の向いなど、ごく近隣のエリアに客室を拡張していくことで成長するホテルを目指しています。ホテルの客室としての空き物件活用は、2階や3階といった、通常活用しにくい物件の利用を進めていく一つの答えになると考えています。
それは、全国の地方商店街が抱える構造的な課題に対するアプローチになり得るかもしれません。この地を舞台に、全国に発信できる事例を作ることが目標です。
■開業記念:富士山と過ごす日常プラン
宿泊期間:2025年7月1日(火)~2025年7月31日(木)
料金:ダブル 1名様 7,000円(税込)~
ツイン 1名様 8,500円(税込)~
予約方法 :2025年6月15日(日)から下記URLにて受付開始
URL:https://arcadehotel.jp/
■施設概要
施設名:Arcade Hotel
所在地:静岡県富士市吉原2丁目9−26
交通手段:吉原本町駅より徒歩約5分、新富士駅より車で15分、東名富士ICより約5分、新東名新富士ICより10分
施設構成:客室(スイート1室・ダブルルーム2室・ツインルーム2室)、ラウンジ(全禁煙)
営業時間:チェックイン15:00-21:00 / チェックアウト10:00
駐車場:有り 200台 1,000円(税込/泊)※予約不要