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【前編】地域に根ざす西鉄ホテルグループ──多彩な事業展開と名物企画を生み出し続ける秘訣

投稿日 : 2025.03.11

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西鉄ホテルグループは、福岡市にある西鉄グランドホテルをはじめ、ソラリア西鉄ホテル、西鉄ホテルクルームなど、多様なブランドを日本国内および海外に展開しています。本記事では、西鉄ホテルグループの運営戦略や地域密着の姿勢について、株式会社西鉄ホテルズの取締役経営戦略部長・森山俊行さん、そして数々の企画を手がける「名物企画担当」、マーケティング戦略部 商品企画担当部長・松本憲治さんにお話を伺いました。

「福岡の応接間」として誕生

──2024年に55周年を迎えた西鉄グランドホテルは、伝統や格式を感じるクラシカルさが魅力です。西鉄ホテルグループの歴史と、ブランド展開について教えてください。

森山: 西鉄ホテルグループのルーツは、1969年に福岡市に開業し、2今年度55周年を迎えた「西鉄グランドホテル」にあります。当時、福岡には本格的なシティホテルが少なかったため、国際交流の場にふさわしい規模と品位を備えた「福岡の応接間」を作ろうと、地元経済界の後押しもあり誕生しました。その後、地域の発展とともに、1989年に「ソラリア西鉄ホテル福岡」、1999年に「西鉄イン天神」から始まる宿泊主体型ホテルの全国展開がスタートしました。2015年以降は韓国の「ソラリア西鉄ソウル明洞」から始まり、釜山、バンコク、台北と海外展開も始まりました。国内外問わず積極的にチャレンジする姿勢で、現在では23店舗・6,000室規模まで成長しています。

西鉄ホテルグループのブランドは、時代の変化に合わせ複数展開しています。フルサービス型の「西鉄グランドホテル」、宿泊主体ホテルは、アップグレード型の「ソラリア西鉄ホテル」、滞在・価値志向型の「西鉄ホテルクルーム」、そしてシンプルで機能的な「西鉄イン」の3ブランドで、それぞれのターゲット層に合わせて異なる魅力を持ったホテル開発を進めています。

──西鉄ホテルグループの強みはどこにありますか?

森山:西鉄グループは、もともと交通事業を基盤に、まちづくり事業や流通業など、地域に密着した事業を多角的に展開しています。また、あまりご存じではないかもしれませんが、国際物流事業は世界経済の成長に合わせ29カ国122都市にネットワークを構築するなど、グローバルな企業グループでもあります。

120年近い歴史の中で、モータリゼーション(マイカー社会)の進展やバブル崩壊、リーマンショックにコロナ禍など、激変する経営環境の中でも、柔軟に変革を重ね、独自の強みを持ち、互いが互いを補完し合う事業ポートフォリオを構成しています。

西鉄ホテルグループも同様に、55年の歴史の中で、地域のニーズや環境の変化に合わせ現在に至ります。交通事業で培った「あんしん」をブランド価値の源泉に、「西鉄グランドホテル」のおもてなし力や料理へのこだわり、そして「国際物流ビジネス」の海外ネットワークなどを活用し、西鉄グループの事業の柱の一つになるべく、成長を続けているところです。

──コロナ禍において西鉄ホテルズが取り組んだことは?

森山:先の見えないコロナ期間において、コロナを乗り越え、西鉄ホテルグループの復活、そして次への成長を目指し、様々な構造改革に挑戦し、筋肉質な体制へと変革を進めました。

西鉄インシリーズの3店舗やレストラン船「マリエラ」の売却という苦渋の決断をしましたし、スタッフのマルチタスク化や自動チェックイン機の導入、センターキッチンの活用拡大など、豊福社長を筆頭にスタッフ一丸となって、様々な取り組みを、スピード感をもって進めた結果、昨年度、2023年度の営業利益は、コロナ前の最高益(2018年度)から倍増するという成果を出すことができました。

年間約100本の企画書を書く手法とは

──松本さんは「名物企画担当」と社内で言われているそうですね。ご経歴を教えてもらえますか。

松本:私のホテルマン人生は、「ホテルニューオータニ」からスタートしました。ホテル専門学校を卒業後、ホテルニューオータニに就職し、フロント業務や営業、宿泊企画など多岐にわたる業務を経験しました。その後、外資系ホテルなどでの経験を積み、西鉄ホテルズには2015年に入社しました。

現在は、西鉄ホテルズの商品企画担当で、年間20〜30本の自主企画を手掛けています。企画書ベースで言えば100本近く提案しており、ホテル利用者の満足度向上と収益性の両方を考えながら、イベントを企画・実行しています。

インタビューに応える松本憲治さん

──これまでに手掛けた印象的な企画を教えてください。

松本: 企画を考える際には「宿泊者だけでなく地域の人々とも関われるもの」を意識しています。例えば、九州各県とのコラボフェアや、行政と共同で行った地域活性化イベントを手掛けてきました。

今年に入って取り組んだ「大分・佐伯フェア」では、佐伯市の特産品や観光資源を西鉄グランドホテルで発信する取り組みを行いました。生産者と連携し、ホテルレストランで佐伯の郷土料理を提供することで、県外の方にも大分の魅力を知ってもらう良い機会になりました。

また、福岡出身のシンガーソングライターでチューリップの財津和夫さんによる作詞講座も企画しました。歌詞の創作秘話や音楽業界の裏話を聞けるトークイベントで、ホテルが文化発信拠点としての役割の場になれたと感じています。

さらに、シルバニアファミリーとのコラボ宿泊プランも手掛けました。シルバニアファミリーの世界観を再現した特別ルームでの宿泊体験や、オリジナルグッズ、オリジナルスイーツプレートを提供しました。特にファミリー層からの支持が高く、満室が続くほどの大反響でした。

財津和夫さんの作詞講座

──昨年55周年を迎えられたとのことで、どのような企画を行っていますか?

松本:ホテルパティシエによる手づくりのお菓子のジオラマで、福岡の街並みと西鉄グループの周年企業の施設を表現し、館内に展示しています。Nゲージの西鉄電車も一緒に配置し、100円を入れると電車が走る仕様にしました。集まった金額は能登半島地震の被災者に寄付する予定です。ジオラマは西鉄グランドホテルだけでなく各地のグループホテルにも運び、展示しています。

お菓子のジオラマ

「誰もやっていないこと」「とにかく動いてみる」ことで広がるご縁

──企画はどのように生まれるのでしょうか?

松本: アイデアは、人との交流から生まれることが多いですね。日々の会話や打ち合わせの中で「こういうことを一緒にやってみませんか?」と話が自然に生まれることが多いです。

利益を出すことが大前提です。協力していただく関係者の皆さまがWin-Winの関係でいられることを大切にしています。「誰もやっていないことをやろう」と考え、チャンスがあれば多少図々しくても声を上げることも意識しています。

大分・佐伯フェアの企画は、以前から佐伯市の食材を活かしたプランをやりたいと思っていたところ、市の担当者と話す機会があり、「それなら佐伯市だけでなく大分県も協力できる」と関係が広がって実現しました。

財津さんのイベントは、5年前の2019年、「西鉄グランドホテル50周年を記念に、何かおもしろいイベントを企画してほしい」と当時の社長から相談されたのがきっかけです。

著名な方なので、直接の依頼だとなかなか条件面での折り合いが難しい状況でしたが、他の取引先の方に「財津さんをお呼びできたらと思っているんだけど、難しそうで」と世間話のつもりでこぼしたところ、その方が偶然にも財津さんの初代マネージャーさんです。ご縁をいただき、ディナーショーの実現に至り、大変盛況を博しました。

そして、開催後しばらく経ってから、財津さんより「作詞講座を開きたい」と相談をいただいたのです。6ヶ月の間に5日間(全10時間)で77,000円という価格ながら、定員いっぱいの80名でスタートできました。

2020年の初回から半期ごとに開催され、今では11シーズン目を迎えて、毎回100名ほど参加していただける人気企画となりました。

松本さんが手がけたイベントの数々

常に変化することで地域の人々を呼び込む

──松本さんの長年のご経験も生きているのでは。

松本:そうかもしれません。私はニューオータニ時代、国賓のお客様をお迎えするチームで働いていたのですが、ホテルマンという仕事を通して通常出会えないような方々と関われることが幸せでした。企画をする際も、「多くの人脈を持っている」とよく言われますが、もともと人脈というものを持っているわけではなくて、自分からチャレンジしてきたことで、少しずつ繋がりが生まれて今に至ります。これまでに失敗もたくさんしてきましたが、恐れずに飛び込むこと、一歩進めるかどうか。柔軟な発想と行動力が、新しい商品企画につながっています。

西鉄グランドホテルは、今年度で55周年になります。ホテルの外観からは、あまり変化がないように見えるかもしれません。ただ、館内では新たな商品や展示、イベントなどを開催していますので、ご来館いただいて、たくさんの変化や魅力を感じていただければと考えます。そのため、イベントで多くのお客様に足を運んでいただき、接点を増やせればと考えて日々企画を立てています。「あのホテルはいつも何かやっているな」感をずっと出し続けたいのです。

──西鉄ホテルズのブランディングについてどのように考えていますか?

松本: 私たちが目指しているのは、西鉄ホテルズのブランド価値をより強固なものにすることです。その一環として、2024年は西鉄グランドホテル55周年を記念した様々な企画を行いました。例えば、「ホテルの歴史を未来に伝える」というテーマのもと、過去にご利用いただいた皆さまの思い出やエピソードを募集し、作品集を制作しました。

また、5年前の2019年には、50周年を記念して初めての記念誌を制作しました。この記念誌は単なる記録誌ではなく、ホテルの歴史やストーリーを伝える重要なツールとして、今でも活用しています。なおこの記念誌は、国立国会図書館からの依頼を受け寄贈し、半世紀以上にわたるホテルの歩みを後世に残す取り組みになりました。

──今後の企画や、展望をお聞かせください。

松本:55周年を機に、次世代のファンづくりの一環として、3歳から小学生以下のお子様に向けた会員サービス「グランドキッズ」を始めました。誕生月にケーキをプレゼントしたり、会員のお子様分をランチにご招待したりと、様々な特典を用意しています。

かつて福岡には、フレンチレストランは西鉄グランドホテルのみの時代があり、今利用してくださっているお客様から、当時ご両親に連れられて来ていた思い出をよく聞くんですよね。ですので、「子どものころにホテルでの思い出を作るイベントを」との発想で企画しました。2024年に募集した第1期は80名の方に参加していただきました。もうすぐ第2期の募集も始まります。今後は、お子様だけではなく、女性やご年配の方などに対象を広げ、より多くの人に愛されるホテルを目指します。ぜひ、ホームページのお知らせをチェックしてください。

またインバウンドのお客様向けに、着物を着て街歩きをする企画も立てました。福岡にはかつて福岡城のお堀だった大濠公園があり、日本庭園もあるので、福岡の街並みとともに歴史も感じてもらえる企画です。

55年の歴史を持つ西鉄グランドホテルは、多くのお客様に愛され続けてきました。今後はさらに「西鉄ホテルズならではの体験」を提供することで、ブランドの独自性を高めていきたいと考えています。

森山: 55周年を機に作成した企業理念で定めた「チェンジ・チャレンジ」の視点で、更なる構造改革を進めるとともに、「適切な設備の提供」や「おもてなし力の磨き上げ」など、ハード・ソフト両面で品質向上を推進したいと考えます。そして55年の伝統を持つ西鉄グランドホテルのDNAを継承しながら、新しい時代のニーズに応えるホテル創りに挑戦していきます。

取材に対応いただいた西鉄ホテルズの皆さん。左から、経営戦略部の野中まいかさん、商品企画担当部長の松本憲治さん、経営戦略部課長の生津忍さん、取締役経営戦略部長の森山俊行さん。

次回【後編】では、クルーム博多祇園の特徴と業界内での位置づけについて詳しく伺います。

【後編】はこちら

(取材・執筆 かたおか由衣)

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