BEENOS HR Link株式会社代表取締役社長の岡﨑 陽介がホテル業界が抱える人材不足の課題解決につながる外国人材採用の具体的な方法について解説する本連載。前回は「ホテル業界における外国人材の必要性と現状」について紹介しました。第二回となる今回は「外国人材が活躍するホテルの職場環境」として、外国人材が活躍できる環境づくりについて解説します。
第2回:外国人材が活躍するホテルの職場環境
① ホテル業界での外国人材の具体的な業務内容
ホテル業界では、訪日観光客の増加と人手不足を背景に、外国人材の活用が広がっています。特に、特定技能や技能実習、技術・人文知識・国際業務などの在留資格を取得した外国人が、さまざまな業務で重要な役割を果たしています。これらの在留資格に対応した業務内容を紹介します。
特定技能の宿泊業分野に該当する外国人材は、フロント業務から予約管理対応、企画やPR、レストランサービス(ホテルが運営するレストランに限る)、客室清掃やベッドメイキングなど、全ての業務に従事することができます。フロント業務では、チェックイン・チェックアウトの対応や宿泊客の受付、観光案内を行い、レストランサービスでは配膳や接客、キッチン業務などを担当します。一方、技能実習生は、特定技能と比べて従事できる業務が異なります。技能実習制度では、実習計画に基づき、業務内容が細かく設定されており、単一の単純作業ではなく、一定の専門性を持つ複数の業務に携わることが求められます。宿泊業においては、主に客室清掃やレストランの補助業務、施設整備の業務に従事し、具体的には清掃作業やリネンの管理、調理補助や皿洗い、日常的なメンテナンスなどを行います。
そのほか「技術・人文知識・国際業務」では 国際業務分野にあたる「通訳」 の在留資格で宿泊業に従事している外国人材が多いです。「通訳」の在留資格の場合、原則として 「通訳・翻訳」 業務のみに従事することが求められており、基本的にはフロント業務における通訳対応や宿泊施設の案内・パンフレットの翻訳、外国語での接客マニュアルの作成・社内研修などに業務が限定されます。しかし、これまでは通訳・翻訳以外の業務にも携わるケースが多く、実態としてはフロントでの受付業務や予約や問い合わせ電話への対応などが行われるなど業務範囲が曖昧になっていました。こうした状況に対し、特定技能の創設によって明確な線引きがなされ、それぞれの在留資格で行うことが出来る業務の区分けがより明確になりました。
外国人材の活用は、単なる人手不足の解消にとどまらず、ホテル業界のサービス向上に大きな役割を果たしています。外国人材の採用による人材不足解消は質の高いサービス提供につながり、国内外の宿泊客に満足感を与えるだけでなく、日本の観光業全体を活性化させる効果もあります。さらに、外国人材が持つ異なる視点や文化的背景は、ホテル業界に新たな視野をもたらし、国際的な競争力を高めることも期待できます。
② 外国人材が活躍するために必要な言語理解
BEENOS HR Linkuが提供する特定技能外国人の支援業務管理システム「Linkus」導入企業の場合は宿泊業の場合、フロント業務や配膳など、日本人従業員と同様の業務に外国人材を配置し人手不足により一人一人の負担が増加していた業務の円滑化を図ることに貢献しています。
外国人材が従事する業務としてフロント業務やレストラン業務、客室清掃などそれぞれ業務内容に違いはありますが、現場では日本人従業員とのコミュニケーションが必須となっており、業務指示などを理解するためにも日本語の理解度が共通して必要とされます。特定技能制度を例に挙げると日常生活で必要な基本的な日本語を理解できるレベルである日本語能力試験(JLPT)N4以上に合格することが要件となっており、特定技能外国人を雇用する企業には日本語学習の機会の提供を含めた様々な支援が義務付けられています。
宿泊業に限らず、外国人材を雇用する上で 日本語の習得は重要な要素ですが、その習得状況は一人ひとり異なります。宿泊業においては、業務の特性上、日本語力やコミュニケーション能力が評価基準の一つとなるのは避けられない側面があります。言語能力が評価に影響を与える職場環境は、一見すると外国人材にとってハードルが高いように感じられますが、業務の円滑な遂行や顧客対応の質を考えれば、一定の日本語力が求められることは必然とも言えます。そのため、業務指導においては 外国人材の言語レベルに応じた柔軟な対応が求められます。
また、指導は必ずしも日本人が行う必要はなく、外国人従業員同士でのサポートや、多言語対応のマニュアルの活用など、多様なアプローチが考えられます。指導を担当する従業員は、外国人材の日本語レベルに応じて、理解しやすい表現を選ぶことが重要です。特に、敬語や謙譲語などの難しい言い回しを避け、平易な単語やわかりやすい言葉遣いを意識することで、スムーズな業務指導につながるでしょう。
日本人は「あれをやっておいて」といったあいまいな指示や「それが終わったらこれをして」というような指示語を多く含む業務指導や「言われなくてもわかるはず」といった暗黙の了解を無意識に求めてしまうといった事例があります。こうした日本人独特の表現や察する文化は言語や文化習慣の違う外国人材に対しては伝わらないことも多いため、具体的でわかりやすい指示を心掛けることが大切になります。
言語の面では外国人材に要される日本語の習得状況が注目されますが、外国人材の母国の国民性や文化習慣を理解することもコミュニケーションを向上させる要素となるため、社内で研修を実施することも外国人を雇用するうえで有効な取り組みの一つです。異文化理解を深めることで、円滑なコミュニケーションが生まれ、職場全体の協力体制の強化も期待できます。
③ 職場環境づくりにおける文化的配慮の必要性
外国人材の雇用状況ではベトナム(24.8%)を筆頭に中国(17.8%)、フィリピン(10.7%)、ネパール(8.1%)、インドネシア(7.4%)などの国が多くなっています。(※1)
国によって文化や宗教、生活習慣が異なることから外国人材を雇用するうえで直面する配慮の事例は多岐にわたります。
例えばベトナムや中国においてはそれぞれテトや春節といった旧正月が1月の終わりから2月頭頃にあり、旧正月の時期に休暇を取りたいという要望が上がることが多いです。こうした休暇の要望は日本の正月と時期が異なることから業務内容によってはすり合わせが必要となる例もあります。
そのほかの宗教的な配慮の例ではインドネシアなどで信者が多いイスラム教については、女性の場合は着用が義務付けられている被り物の「ヒジャブ」を着用したまま業務に従事できるかといった点も話題に上がります。「ヒジャブ」の着用が許可されるかどうかは、その業務によって異なりますが、食品などを扱う現場では衛生的な理由から許可が下りないことがあります。
また、イスラム教においては1日5回の礼拝が行われ、15分程度の祈りをささげる時間と場所が必要となっているほか、豚肉など特定の素材を食べる(扱う)ことが禁じられています。礼拝については1日分の礼拝を1度でまとめて行う人や、できるときにすればいいという考えの人もおり、世代によっても宗教観が様々なので対応は人によって異なります。食事についても、レストラン業務などに従事する際に賄い食への配慮が必要になることも考えられますが、人によっては厳密に食べるものを制限していないこともあります。
外国人材を雇用する企業は慣習や宗教などによって求められる配慮を一律にただ受容するのではなく、業務内容と個人の要望を鑑みて適切な対応を行うことが大切です。こうした一連の外国の宗教・文化習慣に対して企業がどこまで対応できるのかは企業の規模感などにもよるので雇用される外国人材と企業の間での事前の確認が必要です。雇用するうえでの面接などで事前の条件のすり合わせは重要ですが、企業がすぐに取り掛かれる工夫としては求人票にしっかりと宗教上配慮できること・できないことについて明記することでマッチングのすれちがいを減らすことが出来ます。(厚生労働省「外国人雇用状況」の届け出状況まとめ より引用)
④ 外国人材を採用するために持つべき意識
特定技能制度の開始に象徴されるように、日本政府は人材不足解消の手段として外国人雇用を重視しており、特定技能の受け入れ上限数を2024年度からの5年間で最大82万人に拡大すると設定しています。今後、働き手を確保するためにも、外国人材の採用はますます活発化すると考えられます。
しかし、賃金面では日本は他国に比べて不利な状況にあります。例えば、アメリカ・ニューヨーク市では2025年1月1日から最低賃金が16ドル50セント(約2,500円)に引き上げられ(※2)、オーストラリアでは2024年7月~2025年6月の最低賃金が24.10オーストラリア・ドル(約2,300円)に設定されています。(※3)
一方、日本の最低賃金は2024年時点で全国平均1,055円(※4)と、世界的には低い水準にとどまっています。昨今の国内の物価上昇も相まって、待遇面でより魅力的な国へ外国人労働者が流出する可能性が高まっています。
さらに、宿泊業は他業種と比べても賃金が低い傾向にあり、外国人材を確保するには待遇の改善が喫緊の課題となっています。日本の正社員・正職員の賃金は33万6,300円、正社員・正職員以外は22万6,600円となっています(※5)。一方で、外国人材の賃金は短時間労働者を除く場合、特定技能の賃金は23万2,600円、外国人労働者全体では26万7,700円となっています。また、外国人材のうち非正規雇用の数は51.4%と過半数を占めています(※6)。このように、半数が非正規雇用であることを考えたとき、日本人の正社員・正職員以外の給与と比較しても、賃金は高いとは言えない状況です。こうした現状を踏まえ、賃金水準の引き上げや、外国人材が安心して働ける環境の整備が急務となります。
特定技能制度においても、外国人材に対する差別的な待遇は禁じられており、日本人と同等の賃金や労働条件が求められています。しかしながら、外国人材を安価な労働力として捉える企業も一部に存在するのが現状です。本来、外国人材を受け入れるにあたっては、まず日本人と同じ基準の待遇を確保し、そのうえで日本人・外国人を問わず従業員全体の労働環境を改善していくことが求められます。
こうした改善は単に人材不足を補うためだけではなく、外国人材を「一時的な労働力」としてではなく、ホテル事業をともに支え、成長していく仲間として迎えるという意識が不可欠です。外国人と日本人を区別せず、公正な評価のもとでお互いを高め合い、働きがいのある環境を整えることが、結果的に長期的で安定した雇用にもつながります。
(※1)厚生労働省「外国人雇用状況」の届け出状況まとめ
https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/001389442.pdf
(※2)ニューヨーク州「Money in Your Pocket: Governor Hochul Reminds New Yorkers of Minimum Wage Increase on January」
https://www.governor.ny.gov/news/money-your-pocket-governor-hochul-reminds-new-yorkers-minimum-wage-increase-january-1
(※3)オーストラリア政府 「2023 – 2024 Annual Wage Review」
https://www.fairwork.gov.au/about-us/workplace-laws/annual-wage-review/2023-2024-annual-wage-review
(※4)厚生労働省 「地域別最低賃金の全国一覧」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/index.html
(※5)厚生労働省 「令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2023/dl/06.pdf
(※6)厚生労働省 「令和5年外国人雇用実態調査の概況」
https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/001359139.pdf
(厚生労働省 「令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況」、「令和5年外国人雇用実態調査の概況」からBEENOS HR Link作図)
著者

BEENOS HR Link株式会社
代表取締役社長 岡崎陽介
2015年BEENOSグループ入社。2019年よりインキュベーション部門に転籍し、2020年7月に「Linkus」のサービス提供を開始。2020年12月にBEENOS HR Link株式会社を設立、代表取締役社長に就任。特定技能雇用の課題をテクノロジーで解決するBEENOS HR Link代表取締役社長として、事業構築からサービス企画・コンサルティングなどを統括。特定技能制度の開始当初から、海外人財、送り出し機関、支援団体、受け入れ企業といった、特定技能雇用に関わる全ての方の課題解決を支援。支援業務の内製化や、自社が登録支援機関となりグループ内の支援の一本化を希望される雇用企業様に対するコンサルティングも行う。
2021年7月~2022年3月国際協力機構(JICA)課題アドバイザー兼任。
◆ 「Linkus」URL:https://linku-s.com/