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ホテル業を成長させる人材戦略としての外国人採用

投稿日 : 2025.03.03

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日本のホテル業界では、労働人口の減少やインバウンド観光の復活を背景に、深刻な人材不足が大きな課題となっています。特に、外国人観光客の急増に伴い、多言語対応や異文化理解の必要性が高まり、外国人材の採用が今後の成長に欠かせない戦略となっています。一方で、外国人材の活用に関心を持ちながらも、実際にどのように採用すればよいのか、活用できる制度や在留資格の種類、そして運用の具体的な方法がわからず、悩んでいる宿泊業界の方の声も多く聞かれます。

本コラムでは、海外人材雇用をテクノロジーで支援するBEENOS HR Link株式会社代表取締役社長の岡﨑陽介が、ホテル業界が抱える人材不足の課題解決につながる、外国人材採用の具体的な方法を解説します。さらに、外国人材採用の際に関わる在留資格の概要や、採用時に注意すべきポイント、そして実際に外国人材が現場で活躍する事例をご紹介します。

第1回となる今回は「ホテル業界における外国人材の必要性と現状」について解説いたします。

第1回:ホテル業界における外国人材の必要性と現状

①日本のホテル業界が直面する人手不足の課題(インバウンド需要の増加と人材不足の現状)

訪日外国人観光客の増加は、日本の観光立国としての地位を確立するための重要な要素です。政府は「明日の日本を支える観光ビジョン」 として2025年までに訪日観光客を6000万人に増やす目標を掲げており、それに伴いホテルや旅館などの宿泊業界ではフロントや調理スタッフの確保や多言語対応などのサービスの質向上が必要となっています。

訪日外国人観光客は、新型コロナウイルスのパンデミックによる影響を受けたものの、2023年以降に回復基調にあり、観光地や都市部を中心に宿泊施設の需要が増加しています。2024年中の訪日客数は12月時点で単月3,489,800人を記録し過去最高を記録しています。(※1)さらに2025年には大阪万博の開催を控えており、訪日外客による宿泊施設の需要はより大きくなると見込まれます。 日本のホテル業界はこうした背景から、急速に高まるインバウンド需要に直面しています。この需要増に応えるためには宿泊施設における人材確保が大きな課題となっています。

しかし、急速な需要拡大に対して、業界の人手不足が深刻化している現状があります。ホテル業界の人手不足の背景には、いくつかの要因があります。まず第一に、宿泊業は長時間労働や不規則な勤務体制が一般的であるため、若い世代を中心に敬遠されることがあります。また、給与水準が他業界に比べて低いことも、離職率の高さや新規参入の減少につながっています。特に地方のホテルでは都市部への人口集中が影響し、深刻な人材不足に陥っている例もあります。

こうした状況を受け、国内に留まらず外国人材の採用が注目されており、積極的な採用を行う宿泊施設は増加しています。日本政府観光局(JNTO) 「訪日外客数(2024 年 12 月および年間推計値)」より引用)

外国人材が注目される背景(インバウンド対応と多言語人材の重要性、特定技能制度のはじまりなど受け入れ拡大の現状)

日本において深刻化する人手不足問題を背景として外国人材の受け入れが多くの業界で注目されています。宿泊業をはじめ、外食や介護などの業界で外国人材の存在は不可欠となりつつあります。特に宿泊業では、これまで外国人材の雇用は主に「技術・人文知識・国際業務」ビザを活用した通訳業務が中心でした。しかし、インバウンドの活況に伴い宿泊業界の需要が拡大し、人手不足が深刻化する中で、通訳にとどまらず、さまざまな業務において外国人材が活躍する場が広がっています。ホテル業務は、フロント業務や接客対応だけでなく、客室清掃、レストラン運営、バックオフィス業務など多岐にわたり、近年は人手不足によるスタッフ一人ひとりの負担増加が課題となっています。今後、政府方針としてもインバウンド客の増加が見込まれ、宿泊業における人手不足の慢性化が予想される中、外国人材の活用は労働力の安定確保やサービス向上において重要な要素となっています。

政府は人手不足問題を解消する手段の一つとして宿泊、外食、建設、農業、介護など、慢性的な人手不足に直面している12の分野で一定の技能を持つ外国人材を受け入れる在留資格である「特定技能制度」を2019年より開始し、2024年度から5年間の受け入れ枠を82万人に拡大することを閣議決定しました。「特定技能制度」は即戦力となる人材獲得を目的とした制度である点が特徴となっており、特定技能1号と特定技能2号が存在します。現在日本で生活・就労する特定技能制度によって雇用される外国人材の多くは特定技能1号に該当します。宿泊分野における「特定技能」では当初は滞在年数5年までの制限がある「特定技能1号」のみが対象でしたが、令和5年6月9日に閣議決定により、さらに熟練した技能を必要とし、条件によっては在留年数の上限が撤廃される「特定技能2号」に宿泊分野が新たに追加されました。これにより熟練した技能を有する外国人材の長期的な雇用の可能性が広がりました。

宿泊業に従事できる在留資格は「特定技能」や「技能実習」のほか、永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者などを含む「身分に基づく在留資格」や、フロント業務や通訳などの限定的な業務に従事できる「技術・人文知識・国際業務」、高度な外国人材や、ワーキングホリデーなどが対象の「特定活動」、「留学」など本来持っている在留資格では就業できない分野で働く許可を特別に得ることができる「資格外活動」などがあり、それぞれに就業できる分野や対象者などが定められています。これらの制度は目的や対象業務、受け入れ条件が異なるため、企業が制度を適切に理解し活用することが重要です。本連載ではこれらの在留資格についても詳しく紹介します。

宿泊業界における外国人材の需要と現状

2023年10月末時点では外国人雇用は2,048,675 人となり、外国人雇用届出が義務化された平成19年以降で過去最高となりました。外国人雇用は国籍別では多い順にベトナムが 25.3%、中国が19.4%、フィリピンが11.1%と3国で半数以上を占めています。在留資格別の外国人材の数は「身分に基づく在留資格」が全体に占める割合が約30%と最も高く、次に「専門的・技術的分野の在留資格」が約29%、「技能実習」が約20%、「資格外活動」が約6.5%、「特定活動」が3.5%(※2)となっています。宿泊業、飲食サービス業に従事する外国人材は11.4%となっており、そのうちの宿泊業が占める割合は1.6%とまだまだ外国人材の受け入れ数は十分ではない状況です。

厚生労働省の2024年11月時点での調査では宿泊業・飲食サービス業の欠員率は4.5%となっており、運輸業・郵便業の5.9%、サービス業の5.3%についで高いものとなっており、コロナ禍が落ち着きインバウンドが増加傾向にある中においてもまだ人材不足が深刻であることが伺えます。(※3厚生労働省 「労働経済動向調査(令和6年11月)の概況」より引用)

訪日外客への対応とともに早急な人材の確保が望まれる中では外国人材の獲得は重要な手段のひとつです。しかし従事する業務によって対象となる在留資格が違うことや、特定技能や技能実習などの制度が複雑であることから、スムーズに外国人採用に至っていないという企業も多く見られます。特に制度が始まってまだ5年である特定技能制度に関しては何から始めればよいのかわからないといったご相談をBEENOS HR Linkでもよく頂いており、コンサルティング支援などを通じて制度理解から実際の採用まで多くの企業をサポートしています。こういった外部サービスを利用して外国人採用に至っている企業や、自社で外国人採用を行っている企業は増えつつありますが、まだ外国人採用を検討しているものの実際の採用段階に進めていないという企業も少なくありません。

外国人材受け入れにより広がる可能性(インバウンド対応の最適化、顧客満足度や体験の向上、人員増加による働き方の多様化への対応など)

日本の人口減少が加速していく中で国内の人材に留まらず海外の人材を雇用することで人材不足解消を図る企業は今後も増加していくと見られます。

訪日外客数は2024年1月~12月で36869900人に及ぶと推計されており、同期間での国・エリア別の伸び率では中国の187%を筆頭に、ロシアが136%、メキシコが60%、中東地域が51%、イタリア・豪州が50%と推計されており、(※4)こうした多様なエリアの観光客が訪日していることから、宿泊業においても多様な国籍の人材の獲得が急がれています。人材不足解消を目的としてはじまった特定技能制度において宿泊業に従事できる「宿泊業」の分野ではホテルのフロント業務や付随する企画広報などの業務のほか、宴会場でのキッチン業務にも従事することができ、「外食業」の分野ではホテルのテナントに入っているレストランの業務に従事することができるほか、「ビルクリーニング」の分野ではホテルから受託した室内清掃やベッドメイキングを請け負うことが可能になっています。このように「特定技能制度」では、従来の宿泊業の一部の業務に従事することが出来る「技術・人文知識・国際業務」などの在留資格と比較すると、より広範な業務に携わることができます。

「特定技能1号」では最も多い分野「飲食料品製造業」70202人に対して「宿泊」分野はまだ492人(※5)と採用数が少ないですが、特定技能制度では宿泊業に関連する分野が多数カバーされていることから、今後の外国人採用において特定技能雇用は拡大していくと考えられます。外国人材の受け入れが拡大することによってこれから更なる成長が見込まれるインバウンド市場において訪日外客への対応が最適化され、適切な文化理解や多様な言語対応で顧客満足度の向上が期待されるほか、人員の増加によって外国人材だけでなく日本人従業員を含めた職場全体の休暇の取りやすさが向上したり、労働時間がフレキシブルになるなど、より柔軟な働き方が実現する可能性も高まります。外国人材を人材不足の一時的な対処法として考えるのではなく、より良い成長環境を作る仲間として、ともに高めあう意識を持った関係づくりが重要です。

(※1) 日本政府観光局(JNTO) 「訪日外客数(2024 年 12 月および年間推計値)」https://www.jnto.go.jp/statistics/data/_files/20250115_1615-1.pdf

(※2) 厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/001195787.pdf

(※3) 厚生労働省 「労働経済動向調査(令和6年11月)の概況」https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/keizai/2411/

(※4) 日本政府観光局 訪日外客統計 2024 年 12 月および年間推計値https://www.jnto.go.jp/statistics/data/_files/20250115_1615-1.pdf

(※5) 出入国在留管理庁 「特定技能在留外国人数」https://www.moj.go.jp/isa/content/001424793.pdf

 

著者

BEENOS HR Link株式会社
代表取締役社長 岡崎陽介

2015年BEENOSグループ入社。2019年よりインキュベーション部門に転籍し、2020年7月に「Linkus」のサービス提供を開始。2020年12月にBEENOS HR Link株式会社を設立、代表取締役社長に就任。特定技能雇用の課題をテクノロジーで解決するBEENOS HR Link代表取締役社長として、事業構築からサービス企画・コンサルティングなどを統括。特定技能制度の開始当初から、海外人財、送り出し機関、支援団体、受け入れ企業といった、特定技能雇用に関わる全ての方の課題解決を支援。支援業務の内製化や、自社が登録支援機関となりグループ内の支援の一本化を希望される雇用企業様に対するコンサルティングも行う。
2021年7月~2022年3月国際協力機構(JICA)課題アドバイザー兼任。
◆ 「Linkus」URL:https://linku-s.com/

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