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「ホテル求人ドットコム」採用市場レポート:ホテル業界の給与推移と人材動向

投稿日 : 2025.03.05

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ホテル関連ニュース

株式会社アイ・エヌ・ジー・エンタープライズは、ホスピタリティ業界に特化した求人情報サイト「ホテル求人ドットコム」のデータを活用し、2015年1月から2024年12月までの10年間に採用された約9,000件の給与データに基づく最新の採用市場レポートを発表した。

ホテル業界は過去10年間でグローバル経済の変動や観光トレンドの変化、新型コロナウイルス感染症の影響など、多くの課題に直面してきた。特に2020年から2022年にかけては、観光客の激減や営業自粛により求人が停滞した。しかし、2023年以降は水際措置の撤廃により訪日客数が急回復し、2024年の訪日外国人旅行者数は約3,687万人に達した。この回復に伴い宿泊需要が増加し、ホテル業界では深刻な人手不足が顕在化している。帝国データバンクの調査によれば、旅館・ホテルの60%以上が人手不足を感じており、人材確保が業界全体の課題となっている。同レポートは、こうした状況下での採用時給与の動向を明らかにし、業界関係者の人材戦略に寄与することを目的としている。

株式会社アイ・エヌ・ジー・エンタープライズの資料を基に作成)

同調査では、アルバイト・パート採用の提示額を時給に、契約社員・正社員採用を年収に換算して分析を行った。アルバイト・パートの時給は2015年から2019年にかけて緩やかに上昇したが、2020年から2022年はコロナ禍の影響で停滞・減少した。しかし、2023年以降はインバウンド需要の回復と最低賃金の引き上げを背景に急上昇し、2024年も高水準を維持している。契約社員・正社員の年収は2019年まで年平均1.6%程度の上昇にとどまっていたが、コロナ禍では契約社員の採用が抑制される一方、正社員の配置転換や優秀人材確保が進められた。2023年以降は人手不足の影響で待遇が改善し、2024年も高い水準を維持している。

(出典:株式会社アイ・エヌ・ジー・エンタープライズ

施設カテゴリ別にみると、シティホテルやリゾートホテルは採用時の提示年収が高く、安定して推移している。旅館は規模や地域によるばらつきがあるものの、ホテル業界全体と同程度かやや低めの給与水準で推移している。ビジネスホテルは他のカテゴリと比較して給与水準が低く、コロナ禍前は抑制的だったが、近年は人手不足の影響で底上げが進んでいる。レストラン部門の給与は変動幅が大きく、企業によって待遇の差が顕著である。結婚式場では、コロナ禍での結婚式延期や縮小の影響で一時的に求人が減少したが、2022年以降は需要回復とともに採用が活発化し、給与水準も安定している。

(出典:株式会社アイ・エヌ・ジー・エンタープライズ

職種別では、管理職や営業部門の採用時給与の上昇が顕著である。GM・支配人・料理長などの管理職はもともと高給与水準であったが、コロナ後の人材争奪の激化によりさらに上昇した。宿泊部門や料飲部門、宴会部門の職種はコロナ禍で給与が伸び悩んだが、需要回復期に入ってから緩やかに上昇している。営業部門では、コロナ後の需要喚起や収益最大化への取り組みが求められた結果、採用時給与が大幅に上昇した。管理部門や事務職の給与は比較的安定しているが、営業部門ほどの伸びは見られない。IT担当や設備管理などの専門職では、高報酬を提示する例も増えている。

(出典:株式会社アイ・エヌ・ジー・エンタープライズ

2024年の男女別採用時給与の分析では、男女間の待遇差は徐々に縮小しているものの、依然として差が残ることが明らかになった。特に、男性は年齢が上がるにつれて給与が顕著に上昇するのに対し、女性の昇給幅は小さいままである。これは、男性が管理職に就く割合が高く、女性の昇進機会が限定的であることが要因と考えられる。しかし、近年はダイバーシティ推進や女性管理職登用が進んでおり、若年層では男女差が縮小する傾向が見られる。今後も女性のキャリアパス拡大や均等な昇進機会の確保が業界の課題となる。

同レポートのデータは、企業が採用時に提示した給与条件に基づいており、入社後の昇給や賞与実績は含まれていない。また、調査対象は「ホテル求人ドットコム」に掲載された求人データであるため、業界全体の平均値を示すものではない点に留意する必要がある。特に、都市部と地方では採用条件に大きな差があり、地域要因を考慮する必要がある。

コロナ禍を経て、ホテル業界の人材市場は大きな転換期を迎えている。人手不足の深刻化に対応するため、各企業が賃金水準を引き上げているが、それだけで課題が解決するわけではない。優秀な人材を確保し、定着させるためには、働き方の柔軟性や職場環境の整備、自社のブランド力や強みの訴求が重要である。同レポートの分析結果を参考に、ホテル業界が持続的な成長と魅力ある雇用環境の整備を進めていくことが期待される。

 

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