石川県の加賀温泉郷の「ホテル北陸古賀乃井」(加賀市片山津温泉)「ホテル大のや」(同市山代温泉)を経営するホテルマネージメントインターナショナル(HMI、東京都中央区)が、両旅館の全従業員に、7月1日付での解雇を通告していたことが分かった。
コロナ禍で最も痛手を受けている業界の一つが観光業界である。
今回、対象となったのは正社員8人を含むパート、契約社員、アルバイトの計約70人。労働組合「日本労働評議会」のサイトによると、HMIの本社役員と一人5分ほどの面談を行い、「閉館に伴い、退職してほしい。残った有給は買い上げてお金を支払う」という説明で、退職同意書にサインを迫られたと言う。
HMI側は退職勧奨の理由を「施設の老朽化により改修を検討する必要があるため」と説明しているが、一部従業員からは突然の通告に「一方的だ」「労働者が自主的に退職した形にするのは卑怯だ」と反発の声が上がっている。
北海道から沖縄まで旅館やホテルなど約60施設を運営しているHMIは、新型コロナの影響を受け、石川県を含む15施設を4月以降休館にしていた。このうち加賀市内の両旅館は、当初7月からの再開を予定していたが、「先行きが見通せないこと」、また「老朽化している建物の点検」を理由に長期休館が決定。
それに伴いHMIは、開館日を未定として、しばらくの間休館することを両旅館のホームページで発表した。「現時点では、再オープンを念頭にしている」と強調するも、「最低でも一年はかかる」と休館が長期に及ぶことを示唆している。
元従業員に対する退職勧奨を受けて、日本労働評議会は「実質的な整理解雇に当たる」として、8月5日に都内で会社側との団体交渉に臨む予定だ。
先立って8月1日には、加賀市内で労組側が説明会を開催した。退職した元従業員らは「今回のやり方(会社の手続き)は納得できない」とやりきれない気持ち吐露。元従業員らと同労組は「実質的な整理解雇であり、補償を求めたい」として特別退職金をHMI側に要求する方針を固めている。団体交渉の経過は、日本労働評議会のサイトで確認できる。
HMIの広報担当者は「再就職先を含め、今後どうするかは個別に真摯(しんし)に対応していく」としている。しかしながら、加賀温泉郷では小松市の粟津温泉の「辻のや花乃庄」も全従業員50人を6月末付で解雇通知するなど、今後も観光業界において倒産または廃業を選択する経営者の割合は増えるはずだ。
帝国データバンクによると、8月3日現在で、「新型コロナウイルス関連倒産」は403件。その内訳はホテル・旅館48件、飲食店56件、食品卸27件、アパレル小売店25件となっている。
感染拡大が全国で止まらない間は、Gotoトラベルキャンペーンも追い風とはならず、観光業界は苦戦を強いられることだろう。