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ホテル業を成長させる人材戦略としての外国人採用-5

投稿日 : 2025.03.31

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BEENOS HR Link株式会社代表取締役社長の岡﨑 陽介がホテル業界が抱える人材不足の課題解決につながる外国人材採用の具体的な方法について解説する本連載。前回は外国人雇用において拡大している特定技能による外国人材の採用・雇用方法について紹介しました。第五回となる今回はホテル業界において外国人材を定着させるための取り組みについて解説します。

第5回:ホテル業界への人材定着のための取り組み

① 現場で活きる日本語力を支える仕組みづくり

ホテル業界において、外国人材が円滑に業務を遂行するためには、日本語での基本的なやり取りが欠かせません。現場では接客や報告業務が多く、適切な言葉遣いや業務理解が求められる場面が頻繁にあります。こうした背景から、日本語教育の仕組みを企業側で整備することが、外国人材の定着と職場全体の円滑な運営に直結します。

たとえば、日本語能力を支える企業の取り組みとして有料の外部日本語学習サービスを導入し、eラーニング形式で日常業務に関連する語彙や表現を習得できる環境を整える事例もあります。また、人的な研修サービスを活用し、会話を重視した実践的な日本語力の向上を目指す事例もあります。さらに、社内で定期的に勉強会を開催し、日本人スタッフと共に外国人材が日本語を学ぶ場を設けている企業もあり、言語学習を通じた交流促進にもつながっています。

実際にLinkusを導入している企業の中には、業務で頻出する用語やフレーズを翻訳して掲載した「用語集」を独自に作成・配布している例も見られます。こうした資料は外国人材にとって実務での理解や応用に役立ち、業務効率の向上にも貢献しています。

これらの取り組みにより、日本語力の向上はもちろん、外国人材が職場に対して感じる安心感や一体感が高まります。その結果、業務ミスの防止、職場内のコミュニケーションの活性化、さらには離職率の低下といった効果も期待されます。企業側が主体的に日本語力を支える仕組みを整えることは、外国人材の戦力化と、長期的な職場の安定につながる重要な施策です。

② 異文化を越えた相互理解の積み重ね

外国人材と日本人スタッフとの間では、価値観や文化の違いからすれ違いが生まれることがあります。たとえば、外国人材の中には病欠の連絡を当日の始業後に行う人もいます。これは、時間や労働に対する感覚が異なる文化的背景によるもので、日本では「始業時間前に判断して連絡することが常識」とされている場面でも、相手にとってはそうではないことがあります。また、休暇の申請については年末年始やお盆など、日本で長期休暇が取りやすい時期を知らず、通常業務の繁忙期に休暇を希望することもあります。こうした認識の違いは、事前に十分な説明がなければ誤解や不満につながりやすいものです。外国人材に限らず、文化や職場慣習の違いを踏まえた丁寧な共有やルール設定が行われていれば、トラブルは回避しやすくなります。

このようなギャップに対応するため、BEENOS HR Linkがサポートしている企業の中には、日本文化に理解のある通訳者が企業と外国人材の間に入る形で支援を行う事例があります。特にホテル業界のように迅速かつ正確な対応が求められる職場では、言葉だけでなく意図や空気感の伝達も重要になります。通訳者を通じて「なぜそれが大事なのか」まで含めて丁寧に伝えることで、外国人材も理解を深めやすくなります。

また、通訳者が単なる翻訳者ではなく、相互理解の橋渡し役としての立場を担うことで、現場の信頼構築にもつながります。こうした対話は一度で終わるものではなく、定期的に繰り返す中で少しずつ相互理解が育まれていきます。文化の違いを前提に置いたうえで歩み寄る姿勢を持つことが、職場定着の大きな要因となります。

このほか、日本人スタッフとの関係構築を支援することも、外国人材が快適に働くために大きく影響します。言葉の壁や文化の違いが原因で、業務の進め方や考え方にズレが生じることもあります。そのため、外国人材が職場で孤立しないよう、企業側が積極的に関与し、日常的なコミュニケーションを促進することが大切です。例えば、業務の進捗を確認する際に外国人材の意見をしっかりと聞き、適切なフィードバックを行うことで、職場内での信頼関係が深まり、働きやすい環境につながります。

③ 適切な評価制度の“公平”とは何かを見直す

外国人材が職場に長く定着するためには、成果が正当に評価されていると実感できることが重要です。例えば日本では協調性や勤務態度といった定性的な要素が重視されがちであり、それが外国人材にとっては評価基準の不明瞭さとして映り、不公平に感じられることもあるようです。

実際、Linkusを導入している企業の中にも、外国人材に対して日本人と同一の評価制度を適用する一方で、「同じ基準=公平」とは限らないとの考えから、独自の配慮を加える工夫をしている例もあります。

そのような言語や文化的背景の違いに配慮した、外国人材に適した柔軟な評価制度の設計をすべての企業で実施することは現実的には難しいかもしれません。だからこそ、まずは「どのような基準で評価されるのか」「なぜその評価になったのか」を本人が理解できるように伝える工夫が重要です。たとえ制度自体は共通であっても、その内容や意図を丁寧に説明し、納得感を得られるようにすることで、評価への信頼感やモチベーションの向上につながります。

評価を受ける立場から見て、「何をすれば評価されるのか」がわかること、そして「自分がどう見られているか」を理解できることが、制度そのものへの信頼性を高めます。外国人材を日本人従業員と同じ評価基準で評価する場合でも、文化や言語の違いにより、必ずしも公平な結果にならないこともあります。だからこそ、国籍にとらわれず、実際の業務内容や職場で求められる役割に即した評価基準を意識することが大切です。

評価制度は、企業がどのような働き方を重視しているかを示すものでもあります。それがしっかり伝われば、外国人材にとっての信頼や安心にもつながっていきます。

④信頼関係とキャリア支援による長期定着の実現

外国人材の定着のためには外国人材と日本人スタッフとの信頼関係を築くことが大切です。そのためには、単に労働環境を整えるだけでなく、継続的なコミュニケーションを通じて、外国人材が職場に馴染み、安心して働けるようなサポートが望まれます。特に、外国人材の多くは日本の終身雇用や勤続年数による昇給といった雇用文化に馴染みがなく、現時点での給与を重視する傾向があります。そのため、より高い給与を提示する企業へ転職を検討するケースも見られます。例えば、現在の職場に対し、業務内容や人間関係など、特に不満が無い状態でも、「他の勤め先の方が給与が高い」という事を聞いたことによる転職相談を受けることもしばしばです。

こうした雇用や転職に対する感覚を踏まえ、企業側は給与条件だけではなく、外国人材のキャリア形成を支援し、長期的な雇用のメリットを伝えていくことが重要になります。スキル向上を支援する研修制度を充実させたり、働くうえでの課題を早期に把握するために定期的な面談を行ったりすることで、外国人材が職場での成長を実感しやすくなります。

日々の業務のなかで個別に相談する機会を設けることで、職場の悩みやキャリアに関する希望を共有しやすくなり、より働きやすい環境の整備につながるでしょう。また、前段でお話しした評価制度に関する視点も、定着という面においては重要です。

「Linkus」を導入いただいている企業の中でも外国人材それぞれが持つ目標に合わせてキャリアプランの設計や細やかな支援を実施することで、外国人材の定着化を推進している事例があります。こうした取り組みは単に離職を防ぐだけでなく、外国人材のやりがいにもつながり、職場全体の活性化にも貢献しています。

著者

BEENOS HR Link株式会社
代表取締役社長 岡崎陽介

2015年BEENOSグループ入社。2019年よりインキュベーション部門に転籍し、2020年7月に「Linkus」のサービス提供を開始。2020年12月にBEENOS HR Link株式会社を設立、代表取締役社長に就任。特定技能雇用の課題をテクノロジーで解決するBEENOS HR Link代表取締役社長として、事業構築からサービス企画・コンサルティングなどを統括。特定技能制度の開始当初から、海外人財、送り出し機関、支援団体、受け入れ企業といった、特定技能雇用に関わる全ての方の課題解決を支援。支援業務の内製化や、自社が登録支援機関となりグループ内の支援の一本化を希望される雇用企業様に対するコンサルティングも行う。
2021年7月~2022年3月国際協力機構(JICA)課題アドバイザー兼任。
◆ 「Linkus」URL:https://linku-s.com/

◆第一回記事
ホテル業を成長させる人材戦略としての外国人採用
◆第二回記事
ホテル業を成長させる人材戦略としての外国人採用-2
◆第三回記事
ホテル業を成長させる人材戦略としての外国人採用-3
◆第四回記事
ホテル業を成長させる人材戦略としての外国人採用-4

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