富山県立山町で、築100年超の納屋を改修した一棟貸切宿「土肥邸 Naya」が2025年12月6日に開業した。運営は株式会社MAEで、富山国際大学の学生インターンと共同で約1年にわたり企画・事業計画・デザイン検討などを進めてきた。
コンセプトは「農業×ART」。1日1組限定の宿泊拠点として、農作業体験や里山の風景を通じて地域の暮らしに触れてもらう内容で、空き家活用や地域再生の事例としても位置づけられる。
本記事では、「土肥邸 Naya」立ち上げの経緯やこだわりなどについて、株式会社MAEに取材した。
▷予約サイト:https://www.airbnb.com/l/GVqXGIrp
▷Instagram:https://www.instagram.com/doitei_naya
―――土肥邸 Nayaの立ち上げにあたって、「築100年以上の納屋を一棟貸切宿として再生しよう」と決められた一番大きなきっかけや背景を、改めて教えていただけますか。
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ヘルジアンウッドにはもともと、“1000人の村をつくる”という大きな構想があり、その一環として「20棟ほどの宿泊施設をつくる」という計画を掲げていました。
この納屋をはじめて見たのは7年前です。放置しておくには惜しいほど立派な梁や垂木が残り、目の前には田んぼが広がり、立山連峰を望む圧倒的なロケーションがありました。

新しい建物を建てるよりも、この納屋が持つ歴史的価値と景観の力を活かして宿泊施設へ再生した方が、ヘルジアンウッド全体の構想にも大きく寄与し、場所そのものの価値も高められると判断しました。
「この建物と環境は、宿にした方が絶対にバリューが出る」という確信があり、早い段階から再生の候補として狙っていた場所でもあります。
―――本プロジェクトは「学生主体の地域再生プロジェクト」とありますが、企画立案から事業計画づくり、金融機関との調整などの過程で、特に「学生ならではの発想や行動力」が活きたと感じる具体的なエピソードがあればお聞かせください。

学生のみなさんとプロジェクトを進める中で、現代の若い世代が何を大切にし、何に幸せを感じているのかを、リアルな言葉として聞けたことが大きな財産となりました。
「自分たちの時代と共通する価値観」と「今の若者らしい新しい感性」の両方が混ざり合い、それが建築(ハード)にも体験設計(ソフト)にも自然と反映されました。
彼らの発想が入ることで、プロジェクト全体に軽やかさが生まれ、大人だけでは決して生まれない視点が宿の形に結実したと感じています。

―――コンセプトとして掲げておられる「農業×ART」について、皆さまが考える“ART”の定義や、「農作業や暮らしの一瞬一瞬がARTになる」とはどういう状態なのか、ゲストの体験イメージも含めてご説明いただけますか。

経済成長と幸せが必ずしも結びつかなくなった現代において、人間が改めて向き合うべき“本質的な豊かさ”は、土や植物、動物など自然の営みに宿っています。
農作業や暮らしの中には、私たちが忘れかけていた原初的な美しさが潜んでいます。
窓枠から見える田園風景、移ろう光、農具の形、農作業の動き——その一つひとつがすでに“ART”であり、私たちに生きる価値を感じさせてくれる存在です。
ここで過ごすゲストが、日常の一瞬の中に「美しさ」を見出す感性を取り戻すこと。その状態こそ、「農業×ART」が体現する世界だと考えています。
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―――かつて農機具を保管していた納屋の「梁」や「農具」を“アートのように再構築”されたとのことですが、空間デザインを検討するうえでこだわった部分や、設計チーム・学生とのやり取りで印象的だった点があれば教えてください。
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ヘルジアンウッドではこれまで「立山連峰に向かってビューを開く」という建築思想がありましたが、今回学生たちが示したのは“夕暮れの田んぼ”という新しい視点でした。
とくに、西側、夕陽に染まる田園風景をお風呂から眺めるというアイデアは、学生ならではの鋭さと大胆さが生んだものです。
また、20代の学生が「わちゃわちゃ過ごしたい」と感じる空間は、大人の感覚とは異なる抜け感と軽やかさがあり、その自然体の感覚を取り入れることで、無理のない豊かな空間に仕上がりました。学生がいたからこそ、構えすぎず、過剰にお金をかけずとも、良い空間をつくることができたと感じています。
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―――「空き家が持つ新たな可能性を提示する」ことを掲げておられますが、土肥邸 Nayaの取り組みを通じて、立山町や周辺地域の空き家・遊休施設活用にどのような波及効果が生まれることを期待しておられるか、また今後1~2年でどのような場所・存在に育てていきたいかお聞かせください。

この納屋は、富山・立山に限らず、全国の農村にある“どこにでもある納屋”でした。しかし、こうした建物の多くが、使われなくなり、価値を生み出さないまま残されてしまっているのが現状です。
今回の取り組みを通じて、「納屋はホテルにもなり得るし、若い世代にとっても魅力的なコンテンツになり得る」ということが実証されました。
これによって、空き家や遊休施設に対する見方が変わり、地域全体の活用モデルとして広がっていくことを期待しています。
今後1~2年で、土肥邸 Nayaが立山町における“空き家再生の象徴”となり、若い世代が地域に関わるきっかけとなる場所へと育っていく姿を思い描いています。
■ 施設概要
施設名:土肥邸 Naya(どいてい なや)
所在地:富山県中新川郡立山町日中上野53番2
電話:080-5883-9497
形態:一棟貸切型宿泊施設(1日1組限定・1~4名様)
客室:ベッドルーム2室、リビング・ダイニング、バス、トイレ
その他:スキー・スノーボード収納(4名分)
予約サイト:https://www.airbnb.com/l/GVqXGIrp
Instagram:https://www.instagram.com/doitei_naya