Hakuba Valley(白馬エリア)で宿泊・飲食施設を運営する株式会社ヤマアイクルーが、白馬岩岳エリアの再生プロジェクトに参画し、歴史ある宿「岳水」を改装した宿泊・飲食複合施設「THE GAKUSUI HAKUBA IWATAKE」を2025年12月25日に開業した。
廃業が増える地域宿の後継者不足や老朽化、夕食をとれる店の少なさといった課題を背景に、全14室のカジュアルホステルとラウンジダイニングを整備。12月28日には「餃子のラスベガス」も1階へ移転オープンし、旅人と地域が交わる滞在拠点づくりを進める。
本記事では、今回のプロジェクト参画の経緯や施設のこだわりなどについて、株式会社ヤマアイクルーに取材した。
▷HP(予約サイト):https://gakusui-hakuba.com/
―――「THE GAKUSUI HAKUBA IWATAKE」プロジェクトにヤマアイクルー様として参画された背景と、岩岳エリアのどのような課題感を共有されていたのか教えてください。

白馬岩岳エリアでは、自然環境に恵まれている一方で、宿泊施設の高齢化や後継者不足、建物の老朽化が進み、長年親しまれてきた宿が営業を終えるケースが増えてきました。加えて、観光客が増える中で「旅人が気兼ねなく滞在できる場」や「地域とつながれる場所」が十分に整っていないという課題もありました。
こうした地域課題に向き合い、岩岳エリアの活性化を目的として、事業主体である「自然と伝統の融合した白馬岩岳の街並み活性化株式会社」様が、長年地域に親しまれてきた宿「岳水」の再生に着手しました。
その取り組みの中で、宿泊領域における企画・空間設計、そして今後の運営をご一緒する形で当社も参画させていただいています。
当社としても、岩岳エリアが抱える課題意識を共有しながら、企画・設計から運営まで一体となって関わっています。
また当社は、グループ会社であるFIKAとともに、「THE GAKUSUI HAKUBA IWATAKE」のほか、長野県のHakuba Valley(白馬エリア)において、ホステル「UNPLAN Village Hakuba 1・2(アンプランヴィレッジ白馬)」、ホテル「Square8 HAKUBA RETREAT・白馬旅籠丸八」(白馬村)など、複数の宿泊・飲食施設を運営してきました。


これまで白馬バレーで宿泊・飲食施設の運営に携わる中で、集まるお客様の声に向き合うほど、岩岳エリアにおける「気軽に滞在できる拠点」の必要性を強く感じてきました。今回のプロジェクトは、そうした課題に応える機会だと考えています。
―――歴史ある宿「岳水」をあえて“カジュアルホステル”として再生しようと考えられた狙いと、コンセプト設計の過程についてお聞かせください。

岩岳エリアにはホテルや民宿は一定数あるものの、バックパッカーや、気軽にスキー・スノーボードを楽しみたい層が利用しやすい宿がまだ少ないと感じていました。
また、同エリアで複数展開しているUNPLANシリーズは交流を重視する宿泊客が多く評判がよかったこと、今回のGAKUSUIでは「周辺で夜に過ごせる場所が少ないので、食事スペースもほしい」という声もいただいていました。
当社は直営でホテル事業を行うこともあれば、別のオーナー様より運営のみを依頼されたり、内装デザインのみをご依頼いただいたりと、関わり方もさまざまです。今回のオーナー様の作りたい世界観やご予算などを踏まえ、議論を重ねた結果、レストランや交流スペースのあるカジュアルホステルの構想へとつながりました。
さらに、ただのドミトリーではなく、複数タイプのプライベートルームも用意することで、一人旅/仲間旅/家族旅行など、幅広い旅のスタイルに合う柔軟な宿を目指しています。

コンセプト設計では、
・必要な機能はきちんと整える
・装飾は控えめにし、自然体でいられる余白をつくる
・交流が生まれる場所をつくる
という点を大切にしました。
現代の多様な旅人を受け入れられる「岩岳らしいホステル」をつくりたい、というのが狙いです。
宿泊機能だけでなく、旅人同士のコミュニケーション不足という課題にも向き合い、気軽に滞在できるホステルとしての快適性を追加しました。旅人と地域が自然に交わる飲食・コミュニティ空間を併設し、白馬岩岳の新しい滞在スタイルを提案する拠点として再構築しております。
―――1階のラウンジダイニングを「岩岳のリビング」のような場にするために、空間づくりやオペレーション面で意識されているポイントをお聞かせください。

1階のラウンジダイニングは、旅人だけで閉じた空間ではなく、地元の方の飲食利用者もふらっと立ち寄れ、地元の方と繋がる交流の場所を目指して設計しています。
空間づくりでは、
・レセプションと飲食スペースをゆるやかにつなげ、動線を分断しない
・区切りすぎないレイアウトで、自然と視線やコミュニティが混ざるようにする
・ひとりでも、大人数でも心地よく使える席配置にする
といった点を重視しました。

運営面では、朝は宿泊ゲストがモーニングを食べながら気持ちよく1日を始められる場所として、昼は静かに落ち着いて過ごせる場所として、夜はレストランとして賑わいが生まれる交流の場所として、時間帯ごとに表情が変わる空間を意識しています。宿泊ゲスト・地元の飲食利用者どちらも気兼ねなく過ごせるバランスを探りながら運営していきます。
―――白馬岩岳エリアで課題となっていた「夕食場所の少なさ」に対して、「餃子のラスベガス」の誘致・移転でどのような変化や相乗効果を期待されていますか。
「餃子のラスベガス」の移転は、岩岳エリアの“夕食場所の少なさ”という大きな課題を解決するために、事業主体である「自然と伝統の融合した白馬岩岳の街並み活性化株式会社」様が誘致された取り組みです。
カジュアルで入りやすく、一人でも仲間同士でも利用しやすい飲食店はホステルと相性がよく、
・宿泊者が夕食に困らない
・旅人と地元の方が自然に混ざる夜の社交場が生まれる
・宿泊と飲食が連動し、滞在の満足度が上がる
といった相乗効果を期待しています。「食事場所があること」はホステルの価値を大きく左右するため、今回の誘致は岩岳の滞在体験を大きく前進させる要素だと感じています。
―――今回の再生プロジェクトを通じて、今後白馬バレー全体で取り組んでいきたい宿泊・飲食・街並み再生の方向性や、ヤマアイクルー様として描いている中長期的なビジョンをお聞かせください。
私たちヤマアイクルーは、“その土地に合った空間をつくり、運営まで責任を持って携わる” ことを大切にしています。建物をつくるだけではなく、実際に日々のオペレーションを通じて場所の価値を育てていくことが重要だと考えているためです。
白馬バレーには、魅力的な自然がある一方で、空き宿の活用や飲食機能の不足、滞在体験の分断など、まだ改善できるポイントが多くあります。そして、海外からの旅行客も多く訪れており、そのまま白馬に移住し馴染んでいる人もいます。
一方で、割安でウィンタースポーツを楽しめるという理由で海外企業や個人の方が、自国のメンバーのみで、地元のことに関心がなく、地区の条例を無視した森林の伐採や建物の購入を進めていくことも中にはあるのが実情です。これは、白馬に限らず北海道のニセコなどリゾート地で起きている社会問題です。当社ヤマアイクルーは白馬を愛するスタッフで事業を行う、白馬の経済に貢献しうる事業体です。
今回のTHE GAKUSUIのように、
・既存建物の再生
・多様な旅人を受け入れる柔軟な宿づくり
・宿泊と飲食を組み合わせた滞在拠点づくり
・地域と旅人が交わる場の設計
といった取り組みを、白馬エリア全体で広げていきたいと思っています。
その取り組みを広げるために、当社では現在、ホステル運営の実績をもとにファンドや不動産系事業会社などからのご依頼を受け、ホテルの運営受託も積極的に行っています。ブランドや空間デザイン・建築設計、現場オペレーションの運営・改善、マーケティング強化などご相談に応じて請け負う形です。
中長期では、白馬バレーの複数エリアに宿泊・飲食の拠点を増やし、それが自然につながるネットワークをつくることを目指しています。旅人にとっても地域にとっても心地よい滞在が生まれるよう、運営サイドとしての視点を活かしながら今後も取り組んでいきたいと考えています。
■施設概要
名称:THE GAKUSUI HAKUBA IWATAKE
所在地:〒399-9301 長野県北安曇郡白馬村北城10899
アクセス:白馬駅より車で10分/岩岳新田バス停より徒歩3分
駐車場:8台(予定)
構造:地下1階・地上3階(延床面積 約850㎡)
客室数:全14室(最大宿泊人数52名)
客室構成:ドミトリールーム3室、バンクツイン(トイレ付)4室、ツイン(トイレ付)3室、トリプル(ユニットバス付)4室
共用設備:ラウンジ、乾燥室、ランドリー、Wi-Fi完備
HP(予約サイト):https://gakusui-hakuba.com/
オープン予定日:2025年12月25日(木)