通常の季節性インフルエンザは、感染者数は、国内で推定約1,000万人とも言われ、毎年冬季から早春にかけ数千人単位での死者を出している。新型コロナウイルスに注目が集まるが、今年のインフルエンザの感染状況とは。また、感染症のリスクをどう捉えるべきか。
2019年2月にはインフルエンザで2千人が死亡
インフルエンザは、予防のためのワクチン接種が普及し、タミフルなどの治療薬があるにもかかわらず、子どもや高齢者を中心に多くの人が死亡している。
インフルエンザの死者数は直接的な原因による死者数のほかに、慢性的な基礎疾患を有する患者への最後のとどめとなる間接的な死者数を推計する超過死亡概念があり、年により違いがあるもののこの推計では年間1万人程度が国内で死亡していると考えられている。
また、国立感染症研究所によれば、総死亡者数が直近の2018/19シーズンは2月に2,000人程度に上ったという。
各シーズンのインフルエンザ入院サーベイランス
出典:国立感染症研究所
年齢別入院報告数推移
出典:国立感染症研究所
2020年2−3月、昨年同時期に比べインフル感染は大幅減少
厚生労働省・感染症サーベランス事業により、全国約5,000のインフルエンザ定点医療機関を受診した患者数を週ごとに把握、過去の患者発生状況をもとに設けられた基準値から、保健所ごとにその基準値を超えた場合に、注意報レベルや警報レベルを超えたことを知らせる仕組みである「インフルエンザ流行レベルマップ」の昨シーズンと今シーズンの2−3月の比較は以下の通り。
2019年2-3月:
2020年2-3月:
出典:国立感染症研究所
昨シーズン2019年、2月にピークに達し全国で出されていた警報(赤)は3月になり徐々に注意報(黄色)へと変わり、3月後半には白が増えている。
他方で今シーズン2020年においては、2月においても警報の度合いは赤でも弱く、3月後半には注意報も消滅し、全国的に真っ白の状態となっていることが視覚的にもわかる。
直近の2020年3月16日~3月22日(2020年第12週)のインフルエンザの1週間当たりの推定患者数は約20,000人となり、8週連続で減少した。
まだ、今後インフルエンザが4-5月に再燃する可能性もあるため警戒を続ける必要はあるが、例年からすればインフルエンザの流行は終息を迎える時期となる。
大幅な減少の背景には、咳エチケットや手洗いなどの新型コロナウイルスに伴う感染症対策を各人が行った結果としての正の副産物と見ることもでき、これはコロナが終息していない現時点でも言える多くの命を救った対策の一つの成果だろう。
リスクは幅広く存在、トレードオフとなっている
新型コロナウイルスと異なり、インフルエンザが既知の病であり、ワクチンや治療薬があるとはいえ、実際にはそれでも多くの人が命を落としている。
咳エチケットや手洗いなどの対策を取ることによってインフルエンザの予防に功を奏することは将来にわたる長年の教訓とすべきだ。
しかし、2019年2月に大流行し、月間2千人もの人々がインフルエンザで死亡しても、パニックになっていた人もいなければ、外出を自粛していた人もいないのではないだろうか。
2020年のこの間にインフルエンザが昨年比で大きく抑えられた他方で、自粛によって観光業を中心に致命的な経済的打撃が生じていることもまた事実である。懸念される経済的な打撃による自殺者数の増加。
また、外出自粛措置に伴い高齢者などが社会的なつながりを断たれることによって生じる孤独死への懸念は、震災後の福島の災害住宅で多数発生した震災関連死からも容易に想起できる。
さらには、長期の休校に伴う、学力低下やDV増大への懸念など考慮すべきリスクは幅広く多岐にわたっている。
また、それぞれがどちらかのリスクを回避すれば、また別のリスクに直面する「トレードオフ」の関係にある。
新型コロナウイルスは未知の点が多く致死率もインフルエンザの10倍ほどと見られており、インフルエンザが流行しなかったからといって警戒心を怠ることは許されない。
しかし、恐怖からパニックに走るのではなく、「正しく恐れ」不安に煽られることなく、冷静な行動をとっていくことが各人に求められると言えるのではないか。
【合わせて読みたい】
影響世界規模、新型コロナウイルス関連倒産の多業種まとめ(3月23日更新)