鶴岡八幡宮、銭洗弁財天、小町通り、鎌倉海岸など豊富な観光資源を持つ観光都市として国内外で有名な鎌倉。
国内外から人気の高い鎌倉だからこそホテルや旅館などの宿泊施設も多数存在するかと思うと実はそうではない事実が浮かび上がってきた。多くの観光客が訪れるのにもかかわらず宿泊施設が少ない鎌倉の宿泊事情に迫った。
人気の観光地でありながらホテルが少ない鎌倉
ホテル調査ツールのメトロエンジンリサーチ(表)で神奈川県における宿泊施設の多い市区町村別ランキングを読み解くと、意外な事実に気づく方も多いだろう。それは、鎌倉市の客室数がわずか856部屋しかないということだ。
実際に鎌倉市は、観光客から高い人気を得ており2016年の延入込観光客数は2,293万人を数える。延入込観光客の集計方法は、1人で3つの観光施設を観光したら3人とカウントするものとなるので、これがそのまま観光客数の実数とは言えない側面があるが、少なく見積もっても数百万人単位で観光客が訪れる都市であることは確実だ。
出典:メトロエンジンリサーチ
神奈川県内で鎌倉同様に観光地として知られる箱根町の入込観光客数(2016年)は約1,950万人で鎌倉市の数値と近い。その一方で箱根町には鎌倉市の6倍にあたり328の宿泊施設があり、鎌倉市の9倍にあたる約7,900の客室数がある。
その観光都市である鎌倉市に宿泊客室数が800あまりしかないことは、事情を知らない人の目からは非常に意外に映るのではないだろうか?
鎌倉に宿泊施設が少ない2つの理由とは?
一つめは、東京や横浜といった大都市圏からの近さとアクセスの良さだ。鎌倉市の主要駅である鎌倉駅から東京駅までは各駅停車でも1時間もかからない。また、鎌倉駅から横浜駅は快速電車に乗ってしまえばわずか20数分という距離である。観光は鎌倉で宿泊は東京や横浜でといった観光スタイルが取りやすいのだ。
二つめの理由は、鎌倉市の観光スポットがコンパクトにまとまっている点である。先述したように鎌倉市には多数の観光資源があるが、それらすべてを周ったとしても1日あれば十分だ。
同じような観光地に京都市があるが、京都の観光スポットを数多く見て周ろうとすれば、どれだけ急いでも数日を要してしまう。それ故に、京都では数多くの宿泊施設が必要となっているようだ。
このように、大都市圏からの距離の近さと観光スポット同士の距離の近さ、大きくわけてこのふたつが鎌倉市に宿泊客室が少ない理由である。つまり鎌倉市は日帰りに特化した珍しいタイプの観光都市であると言えるだろう。ただ、この日帰りに向いているエリア特性が、近年ある問題を引き起こしている。それは、休日を中心とした市内の交通麻痺である。
鎌倉市には宿泊施設が少ないので、観光客は車やバスを利用して観光スポットを周ることになる。そこで起こるのが交通渋滞である。普段なら車で数分の距離でも数十分、場合によっては1時間かかってしまうということも近年、珍しい話ではなくなっている。この交通渋滞を解消するために、鎌倉市は自動車の乗り入れを規制する条例の検討も始めた。
鎌倉はホテルが少ないことから宿泊需要がないと考えがちだが、観光庁の平成29年8月分(第2次速報値)宿泊旅行統計調査によれば神奈川県のホテル稼働率は71%と全国平均(65%)を上回る。観光客は多く訪れることから潜在的な宿泊ニーズはあるとみられ今後、状況が変わっていく可能性はあると言えそうだ。