世界でも屈指のビジネス街であり、なおかつ近年では外国人観光客が集まる街としても知られる東京。
東京23区内だけで15万室を数えるなどホテルが密集する東京で流行になりつつある、新しいホテル開発の形に迫った。
東京23区は世界でも屈指のホテル過密地域
東京23区内にはどれだけの客室数があるかご存知だろうか。多くの人は漠然と「多分多いのだろう」と感じているのだろうが、東京23区内にある宿泊施設の客室数をすべて合算すると、実に約15万6,000室に上る。
15万6,000室と聞いてもピンと来ない方もいるだろうが、これは世界でも屈指の客室数である。同じような規模や特色をもつアメリカ・ニューヨーク市の客室数は、2017年現在約11万3,000室だ。しかもニューヨーク市の面積は約789km²なのに対して、東京23区は619km²と170km²も東京23区の方が狭いのだ。東京23区は世界でも屈指のホテル過密地域と言っても言い過ぎではないだろう。
出典:メトロエンジンリサーチ
また、東京23区の宿泊事情の特徴として、特定の行政区に偏っていないということも挙げられる。表1は、メトロエンジンリサーチで全国市町村別の客室数を表したものであるが、上位10自治体のうち5自治体を東京23区が占める。また、表2では東京23区内の客室数を表したものとなるが、1万室を超える行政区が6区ある。つまり、全国的に見ても東京23区は満遍なく客室数が多い都市というわけだ。
出典:メトロエンジンリサーチ
これだけ客室数が多ければ、十分足りていると思う方も多いが、驚いたことに2016年の東京都全体のビジネスホテルの客室稼働率は83.5%、シティホテルは80.8%を記録している。一般的に客室稼働率が80%を超えると宿泊予約がとりづらいとされている。
つまり、東京都はこれだけの客室数を抱えながら、なお客室数が需要に追いついていないのである。この要因は外国人観光客数の増加と考えられる。
東京都の調査によると、2016年に東京都を訪れた外国人観光客数は約1,310万人を記録し、前年と比べると10.2%の伸びを示していることから、年間100万人単位で増えていることがわかった。
この傾向は東京オリンピックが開催される2020年以降も続くものと見られている。現在でも十分と言えない東京の客室数だが、これからさらに足りなくなるとの見方が強いのだ。
そこで、現在東京では、官民挙げての開発ラッシュが起っているのだが、東京の中でも特に23区は面積が小さく、開発用地の取得がままならないという大きな問題がある。
近年注目されているオフィスビルのリノベーション
開発用地の少なさや小ささが東京におけるホテル開発の大きな問題だが、最近ではそれを逆手に取った開発が目立つ。それは、買い手のつかないオフィスビルをリノベーションしてホテルに転用するというものだ。東京23区は、開発用地が少ない代わりに、バブル期にこぞって建設されたオフィス用ビルが有り余っている。
オフィスビルの容積的にシティホテルやビジネスホテルへの転換は難しいものの、宿泊に特化した形態のホテルなら十分成り立つ。また、オフィスビルのホテルへの転用のメリットは、用地の問題がクリアになることだけではない。
まったくの新規ホテルを開業するのに比べると準備期間が短く、投資額も抑えることができるのだ。オフィスビルのホテルへの改装を手がけるファーストキャビンの来海忠男社長は産経新聞の取材に「準備期間は約1年、投資額も5億円ほどで開業できる」と答えている。
こうしたトレンドは、近年特に流行の気配を見せており、アメリカ大手ホテルチェーン「マリオット・インターナショナル」は11月、墨田区に「モクシー東京錦糸町」をオープンさせた。これはもともとオフィスビルだったものをホテルにリノベーションしたものだ。
貸し会議室などを全国に展開する「TKP」も、オフィスビルを改装して会議室付きのコンパクトホテルにする計画を発表し、2018年4月の開業を目指している。
また、音楽配信大手のUSENの場合は、オフィスビルを買収してホテルに転用するのではなく、社員寮や自社ビルをホテルに転用するという手法を取っている。女性向けカプセルホテルとして話題を集めた「NADESHIKO HOTEL SHIBUYA」がそれにあたる。
オフィスビルを転用してホテルとしてオープンさせるこの手法は、オフィスビルが多く、開発用地の少ない東京には打ってつけの方法に見える。既成概念にとらわれないこうした新たな動きが、宿泊施設不足に悩む東京の窮余の一策となるか、今後さらに動向を見守っていきたい。