ダイナミックプライシングとは?
「ダイナミックプライシング」とは、需要と供給の状況に応じて、商品やサービスの価格を頻繁に変動させる仕組みのことです。「ダイナミック」は「動的」、「プライシング」は「値決め」を意味することから、「変動料金制」「価格変動制」と呼ばれることもあります。
ダイナミックプライシングにおいて、季節や曜日、イベント、競合の動向など、価格を左右する要素はさまざまです。「需要が集中する年末年始やゴールデンウィークには価格を上げて、需要の少ない平日は価格を下げる」「直前になっても在庫が残っている場合は、売り切るために価格を下げる」というように、需要と供給に応じて柔軟に価格を変動させるのがダイナミックプライシングの特徴なのです。
ホテルのダイナミックプライシングは収益性を上げる仕組み
ダイナミックプライシングの活用が特に進んでいる業界のひとつが、ホテル業界です。「365日同一料金」という戦略を取っているホテルも存在しますが、そういった施設はまれで、ほとんどのホテルは季節や曜日、予約のタイミングなどさまざまな要素に基づいて、日々宿泊料金を変動させています。
では、ホテル業界ではなぜダイナミックプライシングが主流となっているのでしょうか。
それは、ホテルが在庫を繰り越せない産業であることが関係しています。小売業の場合、生ものでない限り、お客様の少ない平日に商品が売れ残ったとしても、書き入れ時の休日にまとめて売ることが可能です。ところが、ホテルの場合はそうはいきません。
原則として、需要の多寡にかかわらず、販売できる客室数は常に一定なので、需要が少ないときには価格を下げてでも稼働率を上げ、需要が高まるときは価格を上げて、売上・利益を上積みすることが必要になってきます。
言い換えれば、ホテル業界におけるダイナミックプライシングは、価格を柔軟に変動させることによって需要を平準化し、収益性を向上させるための仕組みなのです。
ホテルにダイナミックプライシングを導入するメリットとは?
前述の通り、ホテルにおけるダイナミックプライシング導入のメリットは、需要と供給の状況に応じて最適な価格を設定することにより、収益の最大化が図れる点です。
ホテル業界には繁忙日と閑散日が存在しますが、繁忙日と閑散日で同じ宿泊料金を設定してしまうと、閑散日の客室稼働率は極端に下がってしまうでしょう。反対に、大型連休など需要が集中する時期は、本来なら宿泊料金を上げることで得られたはずのプラスアルファの売上・利益を逃してしまうことになります。
そこで、ダイナミックプライシングを導入して閑散日の価格を下げ、繁忙日の価格を下げることによって、閑散日の客室稼働率を改善することができます。さらに、需要が高まる繁忙日は宿泊料金を上げることによって、プラスアルファの売上・利益を上積みし、収益の最大化を図ることができるのです。
ホテルにダイナミックプライシングを導入するデメリットとは?
ダイナミックプライシングは収益最大化を図るための仕組みですが、必ずしもいいことばかりというわけではありません。ホテルがダイナミックプライシングを導入するデメリットのひとつに、業務負荷の増加が挙げられます。
データ収集・分析、需要予測を経てきめ細かく価格を変動させるダイナミックプライシングの実行には、多くの時間と手間を要します。最近では、AIを活用したツールの登場によりダイナミックプライシングのプロセスの大部分を自動化できるようになりましたが、それでも365日同じ価格で販売するのと比べれば、時間と手間がかかり、管理が煩雑になることは否めません。
また、ダイナミックプライシングは「顧客離れ」のリスクもはらんでいます。週末や大型連休など、需要が高まるタイミングではホテルの宿泊料金が上がるのは半ば常識となっていますが、いくら需要が高まるからといって過剰に価格を吊り上げてしまうと、お客様に悪印象を与えてしまい、顧客離れにつながってしまう可能性があります。
ホテル業界のダイナミックプライシングの歴史
ホテル業界におけるダイナミックプライシングには、すでに数十年の歴史があります。先陣を切ったのはアメリカで、1980年代後半には、担当者の人の手によるダイナミックプライシングが行われていました。
テクノロジーが進展した現在は、人の手によるダイナミックプライシングは廃れ、世界的にAIを使ったダイナミックプライシングツールによる自動化が進んでいます。
ホテル業界のダイナミックプライシングの導入方法
自社のホテルでもダイナミックプライシングを導入したいと思ったら、どのようにすればいいのでしょうか。
ダイナミックプライシングを導入するにあたっては、おもに「自社開発」「ツール導入」「外注」の3つの方法があります。このうち、社内のノウハウやリソースが不十分でも実行しやすいのが「ツール導入」と「外注」です。
ツール導入のメリットは、コストが比較的安価である点です。最近ではAIを使ったダイナミックプライシングツールが充実しており、ダイナミックプライシングの導入ハードルが格段に下がっています。AIは機械学習が可能であることから、継続的に利用することで価格調整の精度向上も期待できます。
外注は、価格調整にまつわる業務をすべて外部に任せられる点がメリットですが、その分コストがかかる点や、社内にノウハウが溜まりにくい点がデメリットといえます。自社の現状だけでなく、中長期的に目指す姿も踏まえて導入方法を検討するといいでしょう。
ホテル業界のダイナミックプライシング活用事例
では、実際にホテル業界ではどのようにダイナミックプライシングが活用されているのでしょうか。国内外の3つの事例をみてみましょう。
Hotel Windsorのダイナミックプライシング活用事例
インド北部の都市パトナにある中規模ホテル「Hotel Windsor」は、大幅な値下げを避けた結果、周辺の格安ホテルとの価格競争に負けてしまっていました。また、需要に応じた柔軟な価格設定の重要性は理解していたものの、価格変更を手動で行っていたため、価格変更の頻度は週1回程度にとどまっていたのです。
そこで、2018年にaiosellという企業のダイナミックプライシングツールを導入。それ以降は、季節や曜日、予約のタイミングなど、さまざまな要素に基づいて、柔軟な価格変更が自動で行えるようになりました。ただし、ブランドイメージを棄損するような過剰な値下げは避け、売れないと判断した客室だけを直前に値下げすることで、稼働率向上を実現しています。
星野リゾートのダイナミックプライシング活用事例
日本のレジャー業界で常にその動向が注目される星野リゾートも、ダイナミックプライシングを活用しています。
「繁忙日は価格を上げ、閑散日は価格を下げる」という基本的な考え方はほかのホテルと同じですが、星野リゾートは施設ごとに繁忙日の価格の上限値を設けている点が特徴的です。いくら繁忙日でも価格を過剰に吊り上げると顧客満足度が下がってしまうため、顧客満足度を維持するため、上限値以上には価格を上げないようにコントロールしているのです。
OYOのダイナミックプライシング活用事例
2019年に日本でもサービスを開始した「OYO」は、インド発の成長著しいホテルサービスで、データを駆使したダイナミックプライシングに力を入れていることで知られます。
RevPAR(1室あたりの売上)を最大化するため、1時間あたり14万件にのぼるビッグデータを基に、全世界の加盟ホテルを対象に1日6000万回以上もの価格調整を行っています。
その結果、客室稼働率を高めることに成功し、2013年の創業以降、アジア圏で急成長を遂げてきました。
まとめ
最近注目を集めるダイナミックプライシングは、デメリットもあるものの、効果的に活用すればホテルの収益を最大化できる仕組みです。ダイナミックプライシング導入にあたっては、価格を下げすぎてブランド価値を棄損したり、価格を上げすぎて顧客離れを起こしたりすることのないよう、適正な範囲で価格をコントロールすることが大切だといえそうです。
■記事作成:メトロエンジン株式会社
2016年創業。ダイナミックプライシングを活用したSaaSシステムのパイオニアとして躍進。ビックデータから人工知能・機械学習を活用し、客室単価の設定を行うダイナミックプライシングツールをホテルなど宿泊事業者に提供。また、レンタカー業界や高速バス業界など幅広い業界のDX支援事業も展開している。
サービスに関するお問合せはこちらから
記事引用:ホテル業界のダイナミックプライシングとは?客室の価格設定、事例まで徹底解説(メトロエンジンコラム)