日本屈指の観光地で、世界中の観光客からも人気のある京都市。その京都市でも外国人観光客を中心とした観光客の増加を受けて、新規開業ホテルが相次いでいる。
本稿では近年の京都市における新規ホテル開業の特徴や特殊性、そしてその課題を探っていく。
外国人観光客にも大人気の日本屈指の観光都市・京都市
京都市は日本屈指の観光地であるとともに、外国人が訪れる観光地としても国内で一二を争う人気を博している。京都市を訪れる観光客数は全体で5,000万人を優に超えており、外国人観光客に限ってみても訪問観光客数、宿泊数ともに年々増加の一途を辿っている。
京都市が毎年発表している「京都観光総合調査」によると、2016年の外国人観光客数は661万人(前年482万人)、宿泊数は318万人(前年316万人)であった。2015年に比べると約180万人増という驚異的な伸び率を示している。
しかし、このデータで重要なのは、観光客数の伸び率もさることながら、観光客数の伸びに対して宿泊数の伸びが鈍いことにある。観光客数の伸び率に対して、宿泊数の伸び率が鈍いことの主な原因は京都市内の宿泊施設不足にある。
ちなみに、2012年の同調査での宿泊外国人数は、84万5,000人に過ぎなかった。たった数年で宿泊外国人数が約4倍に膨れ上がったというわけだ。この宿泊外国人数の増加に伴って京都市内はいま、深刻な宿泊施設不足が起こっている。それを裏付けるように同調査では、京都を訪れる外国人の15.9%が「京都に泊まりたいけど泊まれない」とアンケート回答している。
宿泊をしてもらえれば食事やアルコールなどにかかる費用が当然発生するわけで、宿泊施設が足りなければこうした機会費用を見逃すことになってしまう。なお、京都市では東京オリンピックが開かれる2020年には宿泊施設6,000室が足りなくなるという試算を発表している。
出典:京都観光総合調査
京都市の宿泊施設不足の根底にある景観条例が規制緩和
先述したような深刻な宿泊施設不足を受けて、京都市が推し進めている施策の柱が民泊事業とホテルをはじめとした宿泊施設の増加だ。民泊事業も重要なファクターではあるが、本稿では宿泊施設の増加に焦点を絞ってレポートしていく。
そもそも、日本では古くから観光都市として有名な街であった京都がこれほどまでに深刻な宿泊施設不足に陥ったのは、京都特有の規制の存在なくして語ることはできない。京都市では、古くからの町並みや景観を守るために「景観条例」と呼ばれる条例があり、宿泊施設を建築するには非常に厳しい規制がかけられている。
例えば、京都駅周辺は高さ20メートルを超える建造物を立ててはならないといったきまりがそれにあたる。もともと開発できる土地が限られている京都市で、世界一厳しいとも言われる景観条例の存在が、ホテル業の新規参入を阻んでいたことは想像に難くない。
しかし、2015年11月、この条例の一部が緩和された。規制緩和された代表的なものは、これまで京都駅周辺は20メートルの高さ規制が設けられていたが、これが31メートルまで引き上げられた。また、容積率もこれまでの最大3倍に引き上げられることが決まった。
規制緩和を受けて東京や海外の大資本が新規参入
この規制緩和を受けて、東京や海外資本の企業が京都市でのホテル事業に参入してきている。現在進行中あるいはこれからスタートする新規ホテル建築プロジェクトをみると、その本社所在地には地元・京都市の企業はほとんどなく、大多数は東京に本社を置く企業である。中には三菱地所や三井不動産といった日本を代表する総合デベロッパーの計画も予定されている。
京都市を魅力的な市場と読んでいるのは、何も国内企業に限った話ではない。外資系ホテルチェーンも続々と京都市内での新規ホテル建築を発表している。ここ数年で、フォーシーズンズホテル、ハイアットリージェンシー、ザ・リッツ・カールトンといった世界に名だたるホテルチェーンが京都市内中心部に新規開業している。加えて、表にもある通り、世界的名門ホテルチェーン「パークハイアット」が京都の老舗料亭「京大和」と提携して新規ホテルをオープンさせる計画も進行中である。
景観とのバランスをどのようにとるかが今後の課題
これまで見てきたように、宿泊施設不足を解消するために京都市はさまざまな施策を打ち出している。宿泊施設が増えればより深く京都を知ることができる機会が増え、さらに観光客にとって魅力度の高い観光都市になることができるだろう。
だがその一方で、景観を守るという観点も当然のことながら重要視されなければならない。大規模なホテルの開発の裏側でもともと持っていた京都市の魅力が損なわれるのでは、打ち出している施策はまったく意味のないものになってしまう。景観を守るために京都市が各企業をどこまでハンドリングできるかが、京都の魅力を50年先、100年先に受け継いでいくためには非常に重要と言えるだろう。