(出典:JNTO)
日本政府観光局(JNTO)が発表した2025年5月の訪日外国人数は369万3,300人となり、前年同月比で21.5%増、2019年同月比では60.1%増という大幅な伸びを記録した。前月(2025年4月)との比較では5.5%の減少となったが、これはゴールデンウィーク後の季節的な調整とみられる。全体としては、2019年の水準を大きく上回る勢いで訪日市場が回復しており、コロナ禍以前を超えるインバウンドの再活性化が進行している。
(JNTOの資料を基に作成)
国別の訪日客数で最も多かったのは韓国で、2025年5月は82万5,800人が日本を訪れた。これは前月比14.4%増、前年同月比11.8%増、2019年同月比では36.9%増という堅調な伸びを示している。韓国市場は引き続き日本への渡航意欲が高く、ビザ免除措置の継続や航空便の充実が安定的な需要を下支えしていると考えられる。
2番目に多かったのは中国で、訪日者数は78万9,900人であった。前月比では3.2%増と小幅な伸びだが、前年同月比では44.8%増と大幅な回復を示している。2019年比でも4.4%増となっており、コロナ後に遅れて回復してきた中国市場が本格的な反転局面に入った可能性がある。団体観光の再開や航空路線の復便などが寄与しているとみられる。
続いて、台湾からの訪日客数は53万8,400人で、前月比0.1%増、前年同月比15.5%増、2019年比でも26.2%増と堅実な伸びを示した。米国からは31万1,900人が訪日し、前月比では4.8%減となったものの、前年同月比では26.3%増、2019年比では98.7%増と、長期的な回復基調を強く示している。一方、香港については19万3,100人と前月比26.7%減、前年同月比11.2%減となり、やや調整局面に入った可能性があるが、2019年比では2.2%増と水準自体は安定している。
これらのデータからは、東アジア市場の回復が引き続き堅調であることが読み取れる。特に韓国と台湾は安定的な回復を続け、中国市場は回復の加速が顕著になってきた。一方で、香港市場には短期的な変動が見られ、米国市場は地理的距離にもかかわらず、過去最高水準に迫る勢いで伸びている点が注目される。これは、日本の観光資源の多様性や円安による価格優位性、航空路線の拡充が影響していると考えられる。
今後に向けては、各市場の特性に応じたプロモーション戦略が重要となる。特に中国市場の本格回復を見据えた受け入れ体制の整備や、欧米豪市場からの長期滞在者への対応強化が求められる。また、持続可能な観光の観点からは、訪日客数の増加と地域分散の両立が今後の課題となるであろう。
訪日市場はコロナ禍を乗り越えて確実に回復基調に乗っており、今後の成長の持続に向けては、観光資源の保全と地域経済とのバランスを意識した戦略的な展開が不可欠である。観光業界全体が連携し、質の高い観光体験の提供を通じて、より強靭で持続可能な観光立国の実現を目指すべきであろう。