宿泊体験の質が問われる中、宿泊施設が果たす地域案内の役割に変化が生じている。東急リゾーツ&ステイ株式会社が運営する「東急ステイ池袋」では、街全体での過ごし方を宿泊者に提案するための新たな試みとして、株式会社インセクト・マイクロエージェンシーによって、タッチ操作型のインフォメーションシステム『FLOW NAVI』が導入された。
同ホテルが掲げる「日常を旅するホテル」というコンセプトは、滞在中も日常に近い感覚で地域と関わることを重視している。これまでは飲食店や観光案内を紙ベースで提供していたが、外国人旅行者の増加とともに、言語や視認性の壁が課題となっていた。今回、館内に設置されたシステムは、そうした壁を越え、より直感的に情報を得られる環境の整備を目的としている。
注目すべきは、情報が一方的に提供されるのではなく、ホテルスタッフが地域の特集を自ら企画し、画面上に反映できる点である。スタッフと宿泊者のあいだに自然な対話が生まれやすく、地域に根ざした提案を通じて、街との関係性を深めるきっかけになっている。
画面にはイラストマップが表示され、親しみやすいビジュアルで街の魅力を表現した。多言語対応のため、海外からのゲストにとってもアクセスしやすく、旅の起点となるホテルから外へ広がる体験を後押しする。さらに、気になった情報はQRコードでスマートフォンに転送でき、滞在中の行動範囲に合わせた柔軟な活用が可能である。
導入の背景には、地域の価値を可視化し、旅の満足度を高めたいという現場の思いがある。情報提供の効率化よりも、旅を豊かにするための“余白”としての価値創出を重視している点が印象的である。
このように、宿泊施設が地域とのつながりを再構築するなかで、情報設計やコミュニケーションのあり方もまた変化しつつある。今後は同様の仕組みが、他地域や公共空間にも広がりを見せる可能性がある。観光を通じた地域との接点が、“点”から“面”へと拡がる兆しといえるだろう。