大阪市内とりわけ大阪市中心エリアのホテル開発事業が活況を呈している。本稿では、大阪市におけるホテル出店計画の発表データを元に、その背景にある理由を探っていく。同時に、過去にもあった大規模なホテル開発の失敗や低迷から読み取れる教訓・課題を紐解いていく。
2015年以前は新規ホテルの開業計画はほとんどない
近年、大阪市中心部を筆頭に、新規ホテルの建設ラッシュが続いている。東京オリンピックが開催される2020年までに新規開業をするホテルは実に80軒を越える計画だ。この新規ホテル建設ラッシュだが、実は最近になって活況を呈しているものだ。表1を見ると分かるように、2015年以前は2013年と2015年にそれぞれ大阪市中央区難波に1軒ずつ新規計画の発表があったのみなのである。
2016年に入ると一気に建設計画の発表が相次ぐ
表1のように、2015年以前はほとんど見られなかった新規ホテル開業計画だが、2016年に入ると一気にその数が増えていく。表2を見るとわ分かるように、2016年に新規開業の計画が発表されたホテルは47軒にも上っている。2015年以前と比べると急増した大きな理由は、外国人観光客の増加によるところが大きい。
公益財団法人大阪観光協会によると2013年以前は、大阪市を訪れる外国人観光客数は200万人前後で推移していた。ところがここから急速に増えだし、2014年は376万人、2015年が716万人を記録しており、近い将来には1,000万人を突破するのではと言われている。2013年以前と比べるとわずか数年間で、大阪市を訪れる外国人観光客数は実に3倍もの伸びを見せているというわけだ。
また、それに伴って活況なのが大阪市のホテル業界だ。大阪市内のホテル稼働率は2014年は81.0%、2015年は84.8%を記録し、ともに全国の自治体でトップの稼働率であった。つまり、外国人観光客の増加に伴い大阪市内での宿泊施設の数が足りていないというのが実状なわけである。このまま外国人観光客数が右肩上がりをしていけば、宿泊施設のキャパシティオーバーという問題が起こるであろうことは想像に難くない。
ホテル開発にかかる時間の長さがタイムラグの大きな要因
2014年から増加傾向にあった大阪市の外国人観光客数だが、2016年に入ってから新規ホテルの開発計画が相次いで発表されたのは、ホテル開発にかかる時間の長さが主な原因である。通常ホテル開発は、企画、用地買収、自治体との折衝、開発計画発表というステップを踏む必要がある。この工程に数年かかってしまうケースが多いのである。外国人観光客が増えてきたからと言ってすぐに建設計画発表とはいかないのである。
2017年も新規開業計画はさらに増えている
2017年に目を向けてみると、相変わらず活況を呈していて新規計画の発表は2016年よりもさらに増えている。表3を見ると分かるように、9月末までに発表済のものだけで56もの計画が明らかになっている。東京も同じようにホテル建設ラッシュだが、東京の場合はオリンピックが開催される2020年をピークにいったん小康状態になることが予想されている。大阪市の場合でも国の一大事業であるオリンピックを目安にしている企業も多いだろうが、東京と少々事情は異なりそれ以降も新規ホテルの建設は続いていくという見方が強い。
大阪市にはビッグプロジェクトの計画が予定されている
大阪でホテル建設ラッシュが続くことの大きな要因は、国家的なビッグプロジェクトが控えていることにある。そのひとつがカジノ誘致だ。2016年末、カジノを中心とする統合型リゾート(IR)整備推進法(いわゆるカジノ法)が国会で成立した。国は現在、カジノを設置する自治体の選定を進めているが大阪府は東京都、神奈川県とともに有力な候補地とされている。
他の自治体の首長が消極的な姿勢を見せる中、大阪府にとってカジノ誘致は橋下徹・前市長時代からの悲願と言われていて、松井一郎大阪府知事を筆頭に大阪維新の会で与党の地位にある「大阪維新の会」も全面バックアップしている。カジノ設置が決まればさらに観光客は増え、宿泊施設が足りなくなると予想される。
加えて、大阪市は2025年に開催予定の万国博覧会も誘致しており、こちらも決定すれば相当数の観光客が見込まれている。
ホテル活況の裏で懸念や課題も
このように、活況にある大阪市のホテル事業だが、懸念点もある。過去にも同じような活況の後、長い低迷にあえいだ時期があるからだ。1994年に関西国際空港が建設されると周辺にホテルが林立して、結果、供給過多、稼働率低迷に陥った例がある。
加えて、観光事業というものは周辺国のリスクや世界的な感染症の流行などのリスクがつきものである。こうしたリスクを念頭に置き、外国人観光客が増えていることを一過性のブームにしない努力を自治体、ホテル業者ともにできるかどうかが成功のカギになるのではないだろうか。