シャッター商店街に点在する空き家7棟を地元工務店「木の家専門店谷口工務店」が改修、ホテルとして蘇らせ、町の活性化を図るプロジェクト「商店街HOTEL 講 大津百町」が2018年度グッドデザイン賞(主催:公益財団法人 日本デザイン振興会)を受賞した。
出典:谷口工務店
大工集団の町おこし、シャッター商店街の空き家をホテルに
「大津百町」とは、江戸時代に町割が100町あったと言われ、その繁栄を称してつくられた言葉。豊臣秀吉の時代に大津城が築かれた頃、現在の市街地が形成された。その後、徳川政権下で城下町から商業都市へと変化し、江戸幕府の天領として発展した歴史がある。
出典:谷口工務店
高度成長期以降はにぎわいが失われて久しいが、栄華を極めた名残が各所にみられる場所だ。
大津市の調査によると、宿場町として栄えた市中心部には現在約1,500棟の町家があり、その1割は空き家。活用が難しく取り壊されることが多い。
半世紀ほど前までは、「結」(ユイ)や「講」(コウ)という日本の伝統文化を象徴する相互扶助組織がどこにも存在していた。集落を代表して寺社仏閣に参拝し、その道中で学んだことを仲間に伝えることも目的だった。伊勢に詣でたように大津に来てほしい、古き良き日本の空気感を体感してほしい。ホテル名「講」にはそんな想いが込められた。
デザインコンセプトは、「空き家をホテル化し、商店街をコンテンツ化し、ホテルをメディア化することによって新しい価値を創出する。」だ。
宿泊料の一部を商店街の維持等のために寄付する「ステイ・ファウンディング」を実施。さらに空き家が目立つ商店街の40円のコロッケを売る精肉店や、鮒寿司の老舗、提灯屋などでの飲食、買い物等を体験プログラム化(着地型観光)することにより、商店街をコンテンツに変える仕組みを提案している。
ガイドブック制作のほか、常駐するコンシェルジュが魅力を紹介することでホテルのメディア化も目指している。 開業は2018年8月なので地域への経済効果はこれからだが、同プロジェクトに大津市が呼応する形で「宿場町構想」を発表、2018年4月のプレオープン内覧会には1000名が来場、オープン記念の茶会には県知事やデンマーク大使も参加するほど注目を浴び、町おこし団体との連携も始まっている。
出典:谷口工務店
【審査員のコメント】
街の活性化として宿泊体験型を採用する。歴史のある商店街は、溯ってみると街に現存する商店にも、その面影がある。再生すべき状況はこの町にとって必要な要素を見つけることになるのだが、歴史の掘り起こしでは無く、減少に向かう方向に持続する仕組みの組み合わせによって繋がる。空き家として既に活用を待ち望んだであろう町屋を繋ぎ、最適なスケールでホテルとしてのオペレーションを落とし込んでいる。かつてそれぞれの良好な関係で街が賑わっていたように、もう一度繋ぎ合わせる様に、このプロジェクトは接点となっている。
住所:滋賀県大津市中央1-2-6
客室数:13(一棟丸ごと貸切タイプ:5棟 そのほか:8室)
滋賀県大津市ホテル展開状況
メトロエンジンリサーチによると、大津市の宿泊施設は111、部屋数としては3,347が提供されている。
同ホテルはまだ今夏に開業したばかりということもあり、レビュー分析はこれからとなるが、部屋の設備や飲食、立地を中心として評価としては上々の立ち上がりを見せている。
同市内の客室数トップ10は以下の通りとなっている。
出典:メトロエンジンリサーチ
「琵琶湖大津プリンスホテル」(530室)がマーケットシェア15.8%とダントツの部屋数を誇っている。琵琶湖に隣接し宿場町として栄えた大津市では、旅館(23軒)や簡易宿所(17軒)がビジネスホテル(11軒)を上回り多く展開している。
棟梁が街を元気にする、中心街のアーケードを再評価
同社の代表の谷口弘和氏は「大工の地位向上が開業当時からの目標でした。棟梁が街を元気にすることで信頼を頂き、事業も繁栄させていきたい。建築業の良い事例となり全国の大工職人に夢と希望を与えたい」と語る。
少子高齢化、人口減少により日本各地の地方都市でシャッター通りが目につく中で、アーケード不要論も聞かれるが、雨風を防ぐアーケードは便利なもの。 かつて宿場町を旅人が歩き、消費することは当然のことだった。
「観光」という新たな視点を取り入れ、現代の宿場町として街を蘇らせることで、住む人々の価値観が変わり、かつての賑わいを取り戻すことを目標とした同ホテルの活躍は、他の地域でも見習うことが出来るのではないだろうか。
出典:グッドデザイン賞