旅行支援やインバウンド再開で回復が期待されるホテル業界ですが、実際のところ、市場規模はどのくらいなのでしょうか。コロナ禍で打撃が大きかったことから、コロナ前後でどのように変化したのかも気になるところですよね。
そこで、ホテル・旅館の市場規模や市場推移に加えて、ホテル業界を取り巻く直近の動向や課題にいたるまで、わかりやすく解説します。
ホテル業界の市場規模(2021年)
2020年以降、コロナ禍で大きなあおりを受けたホテル業界。実際の市場規模はどのようになっているのでしょうか。まずは直近の2021年の市場規模を確認してみましょう。
帝国データバンクが2022年10月に発表した調査結果によると、2021年度のホテル・旅館の市場規模は2兆8509億円で、2020年度に対し+0.5%となっています。
コロナ禍で市場が急激にしぼんでしまったホテル業界ですが、コロナ禍2年目の2021年度のホテル・旅館の市場規模は、対前年度比でわずかながらも回復したことがわかります。
ホテル業界の市場推移
直近のホテル・旅館の市場規模はコロナ禍の影響があまりにも大きいため、2021年度の数字だけを見ても、その実態を把握するのはきわめて困難です。
そこで、しばらく前にさかのぼってホテル・旅館の市場規模の推移をみてみましょう。
2018年:直近10年間で最大の市場規模に
国内のホテル・旅館の市場規模は、バブル崩壊後、右肩下がりの状況が続いていました。
そんな中、政府が2003年に「ビジット・ジャパン・キャンペーン」を開始し、インバウンドの強化に乗り出します。
その後、東日本大震災に伴う訪日旅行者の減少があったものの、2012年以降は一貫して訪日旅行者が増え続けたことも手伝って、2018年度のホテル・旅館の市場規模は、過去10年間で最大を記録しました。
また、コロナ禍前年の2019年は、宿泊者数が過去最大を記録しています。
2020年:コロナによって市場規模は40%以上縮小
2012年以降、インバウンド需要に下支えされて、徐々に盛り返していた日本のホテル・旅館市場でしたが、2020年からのコロナ禍によって事態は一変。
外出自粛が呼びかけられ、国内の旅行需要が低迷したことに加え、外国人観光客がゼロに近い状況となったことから、2020年度のホテル・旅館の市場規模は一気に40%以上も縮小してしまいました。
観光庁が発表した年間の「のべ宿泊者数」をみると、2019年は 5 億 3,800 万人でしたが、2020年には3 億 3,165 万人に激減しています。
2021年:地方観光などによる回復基調に
2021年も、コロナ禍でホテル業界にとっては引き続き厳しい状況が続きました。2021年の年間の「のべ宿泊者数」は3 億 1,777 万人で、対前年-4.2%となっています。
ただ、事業者売上高ベースの2021年度のホテル・旅館の市場規模は2兆8509億円で対前年+0.5%と、わずかながら回復しているように見えます。
その要因として挙げられるのが、地方観光やビジネス出張の需要回復です。観光旅行では、大都市圏よりも温泉やリゾートなど、日常から離れて自然に親しめる旅先が人気を集めました。
ホテル業界の動向
2022年に入ってからは、「旅行支援の開始」「水際対策の大幅緩和」など、さまざまな動きがありました。ホテル業界を取り巻く直近の動向はどうなっているのでしょうか。
イギリスの調査会社・STRによると、2022年9月の日本全国のホテルの平均稼働率は64.7%。これは、コロナ禍本格後は最高だった2022年8月とほぼ同水準で、コロナ禍前の2019年9月の8割にあたります。
また、2022年10月に帝国データバンクが発表した調査結果では、2022年度のホテル・旅館市場は、前年度比1割増の3.1兆円前後になることが予想されています。
コロナ禍でかつてないほどの苦境に立たされたホテル・旅館業界ですが、最悪の時期は過ぎたといえるでしょう。
旅行支援やインバウンド再開による宿泊需要に期待
ホテル業界に関連する最近のニュースを振り返ると、2022年10月に、旅行費用の一部を国が支援する「全国旅行支援」が開始されました。また、時を同じくして、水際対策が大幅緩和され、一部例外を除いて事実上受け入れを停止していた外国人旅行者の受け入れが本格的に再開されました。
「旅行支援で観光地ににぎわいが戻っている」というニュースを見聞きした人、「最近急激に外国人観光客が増えてきたな」と感じている人も多いのではないでしょうか。
まだコロナ禍が完全に収束したわけではありませんが、欧米をはじめ世界各国が「アフターコロナ」のフェーズに入っており、日本も本格的にコロナ禍からの出口戦略を描くときがきています。
旅行支援やインバウンド再開で旅行の機運が高まっていることから、2023年はさらに目立った回復がみられそうです。
円安によるインバウンドの後押し
コロナ禍で大打撃を受けたインバウンドですが、32年ぶりの円安がインバウンドの回復を後押しすることが期待されています。
対アメリカドルでみると、2022年11月の平均レートは「1ドル=114.0178円」でしたが、 2022年11月は「1ドル=142.8200円」まで円安が進んでいます。実に、わずか1年で約25%も円の価値が下がっているのです。
最近は国内でも「物価上昇」が取り沙汰されていますが、世界には日本とは比べ物にならないほど物価が上がった国も少なくありません。今の日本は多くの外国人旅行者にとって「物価の安い国」になっており、物価の安さが訪日意欲や日本国内での消費意欲を盛り上げるとみられています。
ホテル業界の今後の課題
2023年以降はさらに明るい話題が増えそうなホテル業界ですが、コロナ禍で改めて浮き彫りになった課題もあります。
なかでも急務となっているのが、人手不足への対応です。ホテル業界ではコロナ前から人手不足が取り沙汰されていましたが、コロナ禍がさらなる追い打ちをかけました。その結果、観光業が回復基調にあるにもかかわらず、十分な数のスタッフが確保できていない宿泊施設が少なくないのです。
実際に、帝国データバンクが2022年9月に実施した調査では、62.5%のホテル・旅館が「正社員不足」、62.3%のホテル・旅館が「非正規社員不足」と回答しています。
こうした人手不足を解消するには、労働環境の改善をはじめさまざまな角度からのアプローチが必要ですが、デジタルの活用にも積極的に取り組むべきでしょう。
デジタル端末を導入してチェックイン・チェックアウトを自動化する、清掃ロボットを導入するといった取り組みはもちろん、レベニューマネジメントシステム等を活用することで、バックオフィスの業務も効率化でき、少ない人数でも業務を円滑に進めやすくなります。
まとめ
バブル崩壊、インバウンドブーム、コロナ禍と、まさに山あり・谷ありだったホテル・旅館市場。コロナ禍では、対前年度比で一気に40%も市場規模が縮小するという事態に見舞われましたが、2022年以降は回復傾向が鮮明になりつつあります。
一方で、人手不足などの課題も浮き彫りになっており、日本のホテル業界はデジタルシフトによる業務効率化が急務といえそうです。
■記事作成:メトロエンジン株式会社
2016年創業。ダイナミックプライシングを活用したSaaSシステムのパイオニアとして躍進。ビックデータから人工知能・機械学習を活用し、客室単価の設定を行うダイナミックプライシングツールをホテルなど宿泊事業者に提供。また、レンタカー業界や高速バス業界など幅広い業界のDX支援事業も展開している。
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