業種によってはイールドマネジメントの導入が定着しており、需要の予測と適正価格の計算が売上に大きく影響するようになりました。
自社でもイールドマネジメントを検討しているものの、計算方法がわからず、困っている担当者もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、イールドマネジメントの考え方や導入方法、計算の仕方について解説します。
イールドマネジメントとは?
イールドマネジメントとは、顧客のニーズに合わせて商品・サービスの価格を変動させる戦略を指します。
レベニューマネジメントとも呼ぶ場合もありますが、どちらも同じ意味で用いられるのが特徴です。
商品・サービスの価格を変動させる理由としては、本来得られるはずの収益を最大化させるのが目的にあります。
例えば、100円で売れる商品をが10個ある場合、全て売れたら1,000円の売上です。
しかし、需要が高い商品で110円でも売れるとなった場合、全て売れると1,100円となり、100円の利益の差が生まれます。
また、100円で売れる商品が5個しか売れない場合、80円に値下げをして7個売ることで、500円と560円で損失を防ぐことも可能です。
このように、需要に合わせて高価格・通常価格・低価格の3タイプを提供し、収益を最大化させるのがイールドマネジメントの仕組みになります。
イールドマネジメントの歴史
イールドマネジメントが注目され始めたのは、1970年代アメリカの航空業界における規制緩和が発端です。
1980年代初頭にアメリカ政府は航空会社の運航路線・運賃の自由化を実施し、競争が激化していきました。
そうなると、当然顧客としては価格の安い航空会社を利用するようになります。
この競争環境によって、1ヶ月に平均1社の航空会社が倒産するという厳しい状況になっていったのです。
そこを食い止めるべく、ロバート・クロス氏が生み出したレベニューマネジメントこそ、イールドマネジメントになります。
ロバートクロス氏のイールドマネジメントによって、務めていたデルタ空港はおよそ940億円にもなる価値をもたらすようになるのです。
その後、他航空会社でもイールドマネジメントは導入され、後々ホテル業界やアミューズメント業界にも浸透していきました。
日本においては、1990年代後半に浸透し、現在でも多くの業界で導入されています。
イールドマネジメントの考え方と計算方法
イールドマネジメントについての考え方と、具体的な計算方法について見ていきましょう。
まず何度もお伝えしている通り、イールドマネジメントは収益を最大化させることを根底とする経営戦略です。
そのためには、顧客の需要に合わせた最適な供給をしなくてはいけません。
ホテル事業を例にしてみましょう。
提供できる部屋を10室用意したとして、通常価格を5,000円とし、通常は8室利用されるものと仮定すると、最大売上は40,000円です。
その際、「価格が高くても売れるケース」「価格が安いと売れるケース」を考え、価格設定をしていくのがイールドマネジメントです。
例えば、
・出張や急遽予定が入り、価格よりも宿泊を目的とする顧客向け:当日宿泊料金を高く設定
・事前に予定を決めているため価格に敏感な顧客向け:早期予約割引で宿泊料金を安く設定
といったように通常価格よりも25%増しの部屋と、25%引きの部屋を用意すれば、在庫を余すことなく売上を増やすことができます。
以下のような内訳で提供できると通常価格帯よりも稼働率が高く、なおかつ売上も高くなる状況が実現可能です。
・当日宿泊価格6,250円が2室:12,500円
・通常価格5,000円が5室:25,000円
・早期割引宿泊価格3,750円が3室:11,250円
通常価格のみで提供すると40,000円の売上ですが、イールドマネジメントを導入すると48,750円となり、8,750円のプラスになります。
ただし、あくまで自社の需要予測が正確だった場合というのが前提です。
実際は、季節や周辺地域のイベント情報、競合や過去のデータなどから需要予測をしなくてはいけません。
価格帯も稼働率や利用率を高めるために大幅に変動させてしまうと、クレームに発展する可能性もあるでしょう。
そのため、価格決定・販売タイミング・販売量といった部分は、より慎重に進めていくべきです。
イールドマネジメントを導入するには、マーケティング部門の設立やITシステムやツールの活用も視野にいれる必要があります。
イールドマネジメント導入のポイント
イールドマネジメントを導入する際は、価格を変動させるタイミングを見誤らない点がポイントの1つです。
通常価格が5,000円の商品を購入したいと考えている人に、4,000円で売ってしまうと損失になります。
一方で、5,000円では購入しないが4,500円なら購入するという顧客もいるでしょう。
これらの顧客が購入したいと思えるタイミングで価格を変動させて提供するには、属性や動向などのデータの分析・解析が必須です。
近年では、ITシステム・ツールを用いてAIによる動向予測を行う企業が増えています。
しかし、AIが提示した価格・タイミングなどをそのまま利用するのではなく、必ずどのような意味があって算出されているのかを理解しなければ意味がありません。
イールドマネジメントを駆使して売上を増やしていくためには、マーケターとしての技術・知識をフル活用する必要があるでしょう。
イールドマネジメントの導入事例
イールドマネジメントがどのように導入されているのか、具体的な事例について「航空業界」「ホテル業界」「テーマパーク」から見ていきましょう。
航空業界
イールドマネジメントの発端となった航空業界では、安い価格帯で購入できる方法が特徴的です。できるだけ早く航空チケットの予約をしておくと、ANAでは最大85%、JALでは最大87%の割引が適用されます。
割引率については、搭乗日から何日前なのかによっても変わり、
・75日前
・55日前
・45日前
・28日前
・21日前
以上の各段階で割引率が変動します。
飛行機は翌日に在庫を持ち越せない以上、どれだけ座席を埋められるのかが収益のキーポイントです。そのため、早い段階で予約をしてくれる顧客に対して安く提供し、売上の安定化を図っています。
もちろん、需要が高い時期は価格が高騰し、当日は通常価格なので、できるだけ安く利用したい方は閑散期に早期予約をするのが秘訣という仕組みです。
ホテル業界
ホテル業界は、料金変動が起こる要因が多く、
・平日・土日祝日・連休
・競合の価格帯
・立地
・周辺地域のイベント
・予約時期
などがあります。
また、基本的に当日の宿泊プランは通常価格ではあるものの、予約キャンセルが出てしまった場合に、格安プランとして提供し、客室稼働率を高めているところもあります。
テーマパーク
テーマパークとして最も有名なディズニーランドでは、今までに2度イールドマネジメントによる価格帯の変更を導入しています。
2021年3月には、平日・休日のどちらかによって価格帯を変えていました。
しかし、2021年10月から予測混雑具合によって4段階の価格変動制を導入し、最大で1,500円の差で提供しているのが特徴です。
段階的な価格変動を導入することで、繁閑の差を少なくし、業務の平準化と収益の最大化を図っています。
まとめ
今回は、イールドマネジメントの考え方や、計算方法、導入事例についてご紹介しました。
通常価格を設定しつつ、需要に応じて価格を変動させて収益を最大化させるのがイールドマネジメントです。
そのため、顧客の動向やセグメントを理解し、的確な価格設定とタイミングで提供しなくてはいけません。上記の問題を解消するには、ITシステムやツールを活用するのがおすすめです。
いくら熟練のマーケターだとしても、膨大なデータから正確な価格設定とタイミングを予測するのは難しいでしょう。また、人的コストも高くなってしまうので、イールドマネジメントを導入するならITシステムやツールの準備も検討しましょう。
■記事作成:メトロエンジン株式会社
2016年創業。ダイナミックプライシングを活用したSaaSシステムのパイオニアとして躍進。ビックデータから人工知能・機械学習を活用し、客室単価の設定を行うダイナミックプライシングツールをホテルなど宿泊事業者に提供。また、レンタカー業界や高速バス業界など幅広い業界のDX支援事業も展開している。
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■引用:メトロエンジンコラム
イールドマネジメントとは?計算方法や導入事例を紹介!