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トーセイ、神田157室・浅草72室のホテルを会社ごと取得 — 建替えで床が7割になる敷地と残る敷地

投稿日 : 2026.10.13

東京都

投資・開発

トーセイ、神田157室・浅草72室のホテルを会社ごと取得 — 建替えで床が7割になる敷地と残る敷地

トーセイ(8923)は2026年6月30日、ホテル運営会社ペリカンホテルズの全株式を株式会社ペリカン観光から取得し、同社が保有する「神田グランドセントラルホテル」(千代田区・157室・1981年6月築)と「浅草セントラルホテル」(台東区・72室・1988年11月築)の2棟を手にした。取得価額は非公表だが、リリースに載った敷地面積・延床面積・客室数を並べると、1室あたり延床は神田が22.9㎡、浅草が56.0㎡と2倍以上の開きがあり、指定容積率で建て替えた場合に確保できる床も神田は現況の70%、浅草は98%と大きく分かれる。本稿では、公表された2棟の諸元を起点に、会社ごと買った後の「改装して持つ」「建て替える」という2つの選択肢を、1km圏の単価分布・供給推移・用途地域と重ねて試算する。

既刊との違いを先に整理しておきたい。取得スキームごとの許可承継の仕組みは「旅館・ホテル取得3スキーム比較」で、建て替えると床が減る構造の一般論は「ホテル建替えの解体費は㎡5.1万〜14.7万円」で扱った。浅草寺周辺の新築開発と供給については「浅草二丁目に野村不動産のホテル2件」で別に取り上げている。本稿はこれらの制度論・一般論を繰り返さず、実際に公表された2つの敷地・延床・築年に数字を当てはめる点に絞る。なお、取得価額と利回りは公表されておらず、本稿でも推定しない。

取得2棟の客室数
229室
神田157室+浅草72室
1室あたり延床
22.9㎡/56.0㎡
神田/浅草(共用部込み)
指定容積率で確保できる床
70%/98%
現況延床比・神田600%/浅草700%
駅1km圏の客室 2016→2026年
1.39倍/2.09倍
神田駅/浅草駅
区の推定成約ADR(12か月平均)
¥16,308/¥14,403
千代田区/台東区・2025年9月〜2026年8月

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。試算に用いた85%は通年の仮定値で、実測値ではありません。
  • 1室あたり延床(客室原単位):建物全体の延床面積÷客室数。客室の専有面積ではなく、廊下・ロビー・浴場・機械室などの共用部を含む係数です。
  • 駅1km圏の客室ストック:神田駅(北緯35.6918度・東経139.7709度)、浅草駅(北緯35.7107度・東経139.7976度)を中心とする半径1kmに立地し、開業年が分かる施設について、各年末時点(2026年は調査時点)で開業済み・営業終了前の軒数と客室数を数えたもの。同一地点・同一客室数の登録は1施設にまとめています。メトロエンジンリサーチが把握する範囲の集計で、全数調査ではありません。
  • 単価分布の対象:上記1km圏のうち、2025年9月〜2026年8月に10か月以上の推定成約ADRが得られた施設(取得2棟を除く)。神田駅圏N=56施設・8,537室、浅草駅圏N=60施設・7,506室。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング、国土交通省 不動産情報ライブラリ、総務省・経済産業省 経済センサス
Key Takeaways
  • — 会社ごと取得:トーセイは2026年6月30日にペリカンホテルズの全株式を取得し、神田157室・浅草72室の2棟を営業中のまま引き継いだ。取得価額は非公表。
  • — 再現できる床は70%と98%:敷地面積×指定容積率の単純計算で、神田は現況延床の70.3%(2,524㎡)、浅草は97.7%(3,941㎡)。
  • — 供給は横ばいと2.1倍:駅1km圏の客室は2019年比で神田−3.1%、浅草+23.9%。2016年からの10年では神田1.39倍、浅草2.09倍。
  • — 改装の回収は神田5.5〜8.8年:坪45万円の改装費を、単価が同規模帯の四分位を1段上がる前提で試算。浅草は8.5〜16.6年(稼働率は通年85%の仮定、GOP率40%)。
  • — 建替えは急ぐ理由が薄い:神田は110室に減ってGOPが年0.95億円減、浅草は112室に増えて年1.04億円増だが、増分GOPでの単純回収は34.8年。

取得の中身 — 不動産ではなく、2棟を保有・運営する会社の株式を買った

まずは公表事実を確認する。対象会社のペリカンホテルズは2025年8月14日設立・資本金100万円で、売主のペリカン観光がホテル事業を担う会社として用意した器とみられる。トーセイはその全株式を取得して100%子会社とし、2棟の保有と運営をグループに取り込んだ。同社によれば、他社が運営するホテルを事業ごと取得するのは「トーセイホテル&セミナー幕張」に続き2例目になる。背景についてリリースは、建築費の高騰で新築・中古を問わず不動産価格が上がっていることを挙げ、「不動産および不動産関連事業のM&A、事業承継支援などを通じた物件取得手法の多様化を図っています」と説明している。

取得2棟の物件概要(公表値と本稿算出値)
項目神田グランドセントラルホテル浅草セントラルホテル
所在地千代田区神田司町2-2台東区浅草1-5-3(雷門通り沿い)
交通東京メトロ銀座線・JR「神田」駅 徒歩3分東京メトロ銀座線「浅草」駅 徒歩3分/都営浅草線 徒歩5分
構造・規模S・RC造 地下1階・地上11階S・RC造 地下2階・地上8階
敷地面積(公簿)420.62㎡563.06㎡
延床面積3,589.66㎡4,033.69㎡
客室数157室72室
築年月1981年6月1988年11月
1室あたり延床(本稿算出)22.9㎡56.0㎡
延床÷敷地(本稿算出)約8.5倍約7.2倍

出典:トーセイ「ホテル事業のM&A、神田および浅草の駅近好立地ホテル2棟を取得」(2026年6月30日)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。延床÷敷地は地下階などを含む単純比で、容積率そのものではない

株式で買うことの意味は、建物と一緒に「営業している状態」が手に入る点にある。不動産を現物や信託受益権で取得する場合、旅館業の営業者は売主のままであり、買主側が営業するには承継の承認や新規の許可が要る。これに対して運営会社の株式を取得する方法では、営業者である法人そのものは変わらないため、旅館業の許可、従業員との雇用関係、予約チャネルの契約や口コミの蓄積が会社ごと引き継がれる。売主にとっても、ホテル事業を切り出した会社を譲る形は、ほかの事業を手元に残したまま承継先を探せる手法といえる。制度の詳細と営業停止日数の影響は前掲の既刊に譲り、以下では取得後の選択肢に進む。

取得後の方針について、リリースは「築年数が45年、38年と老朽化が進んでいるため」としたうえで、「立地のポテンシャルを活かし、事業収益をより高められるバリューアップや宿泊プラン企画等を検討」すると記す。つまり現時点で公表されているのは、運営を続けながら価値を高める方向であり、建替えは明示されていない。本稿が建替えを並べて試算するのは、長期保有の出口として必ず比較される選択肢だからである。

立地評価 — 就業48万人の神田と、地価が5年で2倍になった雷門通り

2棟はどちらも最寄り駅から徒歩3分だが、周囲の街の性格は対照的である。経済センサスで駅1km圏の従業者数を見ると、神田駅は482,115人(事業所17,876、うちオフィス系の従業者比率42.0%)、浅草駅は55,765人(事業所6,042、同16.4%)と、約8.6倍の差がある。神田は平日の出張需要を厚い就業人口が支える業務地であり、浅草は雷門・浅草寺を核にした観光地という位置づけになる。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(単価分布の対象 神田駅圏N=56・浅草駅圏N=60)。★=取得2棟、破線=各駅から半径1km、円の大きさ=客室数、色=直近12か月の推定成約ADR帯

2棟の立地指標(用途地域・地価公示・従業者数・浸水想定)
立地の指標神田(神田司町2丁目)浅草(浅草1丁目)
用途地域商業地域商業地域
指定容積率/建蔽率600%/80%700%/80%
防火指定防火地域防火地域
近接の地価公示地点(2026年)神田司町2-19-25:272万円/㎡(前年比+20.4%)浅草1-1-2:915万円/㎡(前年比+27.6%)
同地点の2021年→2026年168万円→272万円(1.62倍)440万円→915万円(2.08倍)
同地点の前面道路幅員8.0m(区道)27.0m(区道)
駅1km圏の従業者数482,115人(オフィス系42.0%)55,765人(オフィス系16.4%)
洪水浸水想定(荒川)区域内・想定浸水深0.5m未満の区分区域内・想定浸水深0.5m以上3.0m未満の区分

出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(用途地域・防火地域・地価公示・洪水浸水想定区域)、総務省・経済産業省 経済センサス-活動調査(2021年)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。用途地域は各ホテルの所在地点で判定。従業者数は居住人口ではなく事業所ベース

用途地域はどちらも商業地域・防火地域で、指定容積率は神田司町2丁目の所在地点が600%、浅草1丁目の所在地点が700%だった。地価の動きにも差がある。神田司町2丁目の地価公示地点は2026年に272万円/㎡と前年比+20.4%、浅草1丁目の地点は915万円/㎡で同+27.6%と、神田は2年続けて約2割、浅草は3割近い上昇が続いている。2021年からの5年間では神田の地点が1.62倍、浅草の地点が2.08倍である。土地から仕入れて新築する場合の原価がこれだけ動いた局面だからこそ、既に建っているホテルを会社ごと取得するという手法が選択肢に上がってくる。なお、両地点とも荒川の洪水浸水想定区域に含まれるため、設備更新や建替えの際には電気室・機械室の配置が検討項目になる。

供給環境 — 2019年から横ばいの神田、10年で2.1倍の浅草

同じ「駅徒歩3分の既存ホテル」でも、周囲の供給の動き方はまったく違う。神田駅1km圏の客室ストックは2016年の53軒7,604室から2019年に90軒10,878室へ増えた後、2026年は97軒10,541室と、2019年比で−3.1%のほぼ横ばいで推移している。2020年以降に開業した施設は19軒1,079室、同じ期間に営業を終えた施設は12軒1,416室で、新規と退出が相殺しあう成熟した市場といえる。

一方、浅草駅1km圏は2016年の77軒5,111室から2026年には192軒10,686室へ、10年で2.09倍になった。2019年以降だけでも58軒・2,058室の純増(+23.9%)である。10年前には神田駅圏の3分の2ほどだった客室数が、いまは同じ規模に並んでいる。浅草では既存ホテルの取得であっても、周囲に新しい競合が増え続ける前提で単価を置く必要があり、ここが神田との大きな違いになる。台東区全体で施設数が多く単価が中位にとどまる構造については、台東区はなぜ23区で最も宿が多いのかで整理している。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、2026年時点 神田駅圏N=97施設・浅草駅圏N=192施設)。各年末時点、2026年は調査時点。現在の客室数を過去年にも適用しているため、増改築による客室数の変化は反映していない

単価水準 — 区の中央値は千代田1.63万円・台東1.44万円、同規模帯の四分位に1段4,600〜7,200円の幅

次に、2棟が属する市場の単価を確認する。区単位の推定成約ADRは、直近12か月(2025年9月〜2026年8月)の平均で千代田区が¥16,300(月次N=78〜84施設)、台東区が¥14,400(同N=161〜177施設)だった。前年同期(2024年9月〜2025年8月)と比べると千代田区が+6.1%、台東区が+4.2%である。ただし足元の夏は弱含んでおり、2026年8月は千代田区¥12,600(前年同月比−10.9%)、台東区¥11,600(同−7.2%)と、6月から3か月続けて前年を下回った。4月(千代田区¥20,300、同+7.0%)のような繁忙月との振れ幅が大きい点は、年間の収益計画を置くうえで押さえておきたい。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR・区の中央値、千代田区N=78〜84施設・台東区N=161〜177施設)。2026年は確定月の9月まで

区の中央値だけでは、157室と72室という個別の規模に対する目線が定まらない。そこで駅1km圏の施設を客室規模帯で分け、直近12か月の推定成約ADRの四分位を取った。神田駅圏の100〜199室帯(N=33)は下位25%が¥13,500、中央値が¥16,400、上位25%が¥20,900で、中央値から上位25%までの距離は約¥4,600ある。浅草駅圏の50〜99室帯(N=13)は同じく¥13,500・¥17,200・¥24,400で、中央値と上位25%の差は約¥7,200とさらに大きい。浅草は49室以下の小規模帯で上位25%が4万円台に達しており、多人数で泊まれる広い客室を高単価で売る施設群が分布の上側を形づくっている。

駅1km圏・客室規模帯別の推定成約ADR四分位(2025年9月〜2026年8月平均)
客室規模帯神田駅圏 N下位25%/中央値/上位25%うち2016年以降開業の中央値浅草駅圏 N下位25%/中央値/上位25%うち2016年以降開業の中央値
49室以下2¥12,578 / ¥16,034 / ¥19,490—(N=0)16¥12,696 / ¥18,248 / ¥41,303¥20,217(N=11)
50〜99室11¥12,251 / ¥13,127 / ¥15,306¥15,268(N=5)13¥13,496 / ¥17,187 / ¥24,427¥18,095(N=12)
100〜199室33¥13,514 / ¥16,368 / ¥20,937¥16,373(N=19)20¥12,741 / ¥14,998 / ¥23,534¥18,524(N=14)
200室以上10¥14,742 / ¥17,466 / ¥19,885—(N=2)11¥11,564 / ¥12,195 / ¥22,540¥12,157(N=8)
全体56¥13,075 / ¥15,744 / ¥19,826—60¥12,213 / ¥17,288 / ¥24,772—

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR・2025年9月〜2026年8月平均、取得2棟を除く神田駅圏N=56・浅草駅圏N=60)。N=5未満の区分は中央値を表示していない

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(神田駅圏N=56・浅草駅圏N=60、取得2棟を除く)。400室超または¥50,000超の施設(神田駅圏1・浅草駅圏5)は図の範囲外。縦線は取得2棟の客室数で、2棟自体の単価は示していない

改装がどの程度単価に結びつくかについて、口コミからも参考値を取っておく。2つの駅圏で2005年以前に開業したビジネスホテル17施設(取得2棟を除く)を、直近24か月(2024年10月〜2026年9月)の口コミで「改装されてきれい」「新しい」といった客室への肯定的な言及の比率で分けた。言及率1%以上の5施設(口コミ5,229件中の該当言及88件)は推定成約ADRの中央値が¥19,600、言及率1%未満または言及が確認できない12施設は¥13,600で、差は約6,000円になる。施設数が少なく、立地やブランドの違いも混ざるため因果を示すものではないが、開業から20年を超えた建物でも、客室の状態が評価されている施設群は同規模帯の上位25%に近い水準で売れていることが分かる(出典:ホテルバンク編集部調べ・NLP解析)。

改装して持つ場合 — 神田は客室数を活かして回収5〜9年、浅草は広い床の使い方が論点

ここからは試算に入る。既存の建物を活かす場合の変数は、改装にいくらかけ、単価が同規模帯の分布の中でどこまで上がるかの2つである。改装費は延床あたり坪30万・45万・60万円の3水準を仮定した。当サイトの既刊の試算で置いた客室全面改装分(1室450万円・1室あたり延床45㎡=坪33万円相当)を下限付近、用途変更を伴う転用工事のレンジ(坪40〜80万円)の中ほどを上限とした本稿の仮定であり、2棟の実際の工事計画ではない。稼働率は通年85%、GOP率は40%(インヴィンシブル投資法人が開示するMHM運営ホテルの2024年12月期実績38.9%を参考)で固定している。参考までに、当社推定の稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)は2026年6〜9月の月次で千代田区が88.9〜91.9%(対象58〜59施設/客室8,790〜8,862、主要予約サイト掲載ベース)、台東区が89.6〜91.8%(対象143〜146施設/客室13,247〜13,647、同)だった。

改装して持つ場合の試算(改装費3水準×同規模帯の単価四分位)
項目神田(157室)浅草(72室)
延床3,589.66㎡(1,085.9坪)4,033.69㎡(1,220.2坪)
改装費:坪30万/45万/60万円3.26億/4.89億/6.52億円3.66億/5.49億/7.32億円
1室あたり改装費(坪45万円)311万円763万円
参照した規模帯100〜199室(N=33)50〜99室(N=13)
年間客室売上:下位25%/中央値/上位25%の単価6.58億/7.97億/10.20億円3.01億/3.84億/5.46億円
単価が下位25%→中央値に上がる場合の増分GOP年0.56億円(+¥2,854)年0.33億円(+¥3,691)
 改装費の単純回収(坪30万/45万/60万円)5.9年/8.8年/11.7年11.1年/16.6年/22.2年
単価が中央値→上位25%に上がる場合の増分GOP年0.89億円(+¥4,569)年0.65億円(+¥7,240)
 改装費の単純回収(坪30万/45万/60万円)3.7年/5.5年/7.3年5.7年/8.5年/11.3年

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。稼働率85%(通年仮定)・GOP率40%・年365日。単価は同規模帯の四分位を当てはめたもので、取得2棟の実績ではない。工事中の売り止めによる減収は含めていない。簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です

神田は1室あたり延床22.9㎡という床の使い方がそのまま強みになる。157室という客室数があるため、単価が同規模帯の四分位を1段上がるだけで年間の増分GOPは0.56億〜0.89億円に達し、坪45万円(総額4.89億円・1室311万円)の改装費を5.5〜8.8年で回収できる計算になる。就業人口48万人の業務地で供給が増えていないことを踏まえると、客室数を保ったまま内装・水回り・設備を更新していく案に分があるといえる。なお、この試算に含めていない工事中の売り止めの影響は、ホテル改装の逸失売上は工事費の32.6%で詳しく試算している。

浅草は構図が異なる。72室に対して延床が4,033.69㎡あるため、延床に比例する改装費は1室あたり763万円(坪45万円)と重くなり、単価が中央値から上位25%へ上がるケースでも回収は8.5年、下位25%から中央値へのケースでは16.6年かかる。裏返せば、浅草の伸びしろは1室56.0㎡という床の広さそのものにある。広い客室をファミリー・グループ向けに仕立て直して分布の上側(上位25%の¥24,400以上)を狙うか、共用部の一部を客室に振り向けて室数を増やすかである。後者を単純計算すると、1室あたり延床を45㎡にすれば89室、新築計画の平均的な水準である35㎡(計画31件の客室原単位)なら115室になる。地下2階分の床は客室にできないため上限の目安にとどまるが、中央値単価で1室増やすごとに年間GOPは約213万円増える計算で、改装費を室数で薄める効果は大きい。

建て替える場合 — 指定容積率で神田は2,524㎡(現況の70%)、浅草は3,941㎡(同98%)

建替えでまず確かめるべきは、いまの床を新しい建物で再現できるかである。指定容積率を敷地面積(公簿)に掛けると、神田は420.62㎡×600%=2,524㎡で現況延床3,589.66㎡の70.3%、浅草は563.06㎡×700%=3,941㎡で現況4,033.69㎡の97.7%になる。現況の延床には地下階や容積率に算入されない部分が含まれうるため、この比較だけで現在の建物と規制との関係を断定することはできない。建築当時の規定や許可の内容も公表資料からは分からない。それでも、神田では建て替えると床が3割ほど小さくなる可能性が高く、浅草ではほぼ同じ床を確保できる見通しが立つ、という方向の違いは読み取れる。

出典:トーセイ リリース(2026年6月30日)、国土交通省 不動産情報ライブラリ(用途地域)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。上限床=敷地面積(公簿)×指定容積率。前面道路幅員による制限、斜線・高さの制限、容積率不算入部分は考慮していない

加えて、敷地420㎡・563㎡という規模では前面道路の幅員が効いてくる。商業地域では前面道路が12m未満の場合、容積率は「幅員×0.6」と指定容積率の小さいほうに抑えられる。神田の敷地の前面道路幅員は公表資料からは確認できないが、周辺200m以内で指定容積率600%の地価公示・基準地3地点の前面道路は11.0m・8.0m・8.0mだった。幅員が10m以上なら600%がそのまま使え、8mなら480%に下がる(幅員による容積率の低減が土地コストに与える影響は前面道路4mで容積率600%が240%にを参照)。浅草はリリースが「雷門通りに面し」と明記しており、近接する2つの地価地点(124m・287m)の前面道路はいずれも幅員27.0mであることから、700%がそのまま適用される立地とみてよいだろう。

前面道路幅員別の適用容積率・上限床・客室数(試算)
前面道路幅員神田:適用容積率上限床(現況比)22.9㎡/室での客室数浅草:適用容積率上限床(現況比)35.0㎡/室での客室数
6m360%1,514㎡(42.2%)66室360%2,027㎡(50.3%)57室
8m480%2,019㎡(56.2%)88室480%2,703㎡(67.0%)77室
10m600%2,524㎡(70.3%)110室600%3,378㎡(83.8%)96室
12m以上600%2,524㎡(70.3%)110室700%3,941㎡(97.7%)112室

出典:建築基準法第52条、国土交通省 不動産情報ライブラリよりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。特定道路までの距離による緩和、斜線・高さの制限、容積率不算入部分は考慮していない。現況の157室・72室に対する試算上の客室数

東京都には宿泊施設の整備に着目した容積率の割増もあるが、運用は再開発等促進区・特定街区・高度利用地区が前提で、単独の敷地にそのまま当てはまる制度ではない(既刊「ホテルの容積率緩和で100室が151〜168室に」参照)。そこで以下では、前面道路が十分に広く指定容積率が上限になる場合を基準に、建替えの収支を置く。解体費は自治体公表の契約実額5件のレンジ(延床1㎡あたり51,025〜146,983円)から基準9万円、新築費は建築着工統計ベースのS造坪240.5万円(2025年)、営業休止は解体約10か月と単独用途ホテルの工期中央値1.96年を踏まえ30か月とした。建設期間のインフレは年+4.5〜5.3%(2026年+5.3%、2027年+5.0%、2028年以降+4.5%)を支出の中間時点2029年まで織り込み、係数1.207を新築費に掛けている。

建て替える場合の試算(解体・新築・休業と新築後の収支)
建替えの試算神田(600%・110室)浅草(700%・112室)
新築後の延床(容積対象)2,524㎡(763.4坪)3,941㎡(1,192.3坪)
客室数の前提110室(現況と同じ22.9㎡/室)112室(35.0㎡/室)
(a) 解体費:基準9万円/㎡(レンジ)3.23億円(1.83億〜5.28億円)3.63億円(2.06億〜5.93億円)
(b) 新築費:S造坪240.5万円18.36億円28.67億円
 インフレ織込み(×1.207)22.17億円34.62億円
(c) 休業30か月に得られないGOP7.97億円3.84億円
(a)+(b)+(c) 合計29.56億円36.14億円
 インフレ織込み後の合計33.37億円42.09億円
新築後の単価前提(同圏・2016年以降開業・100〜199室の中央値)¥16,373(N=19)¥18,524(N=14)
新築後の年間客室売上/GOP5.59億円/2.24億円6.44億円/2.57億円
現況(同規模帯の中央値単価)の年間客室売上/GOP7.97億円/3.19億円3.84億円/1.54億円
GOPの増減年−0.95億円年+1.04億円
現況の売上に並ぶために必要な単価¥23,362(中央値の1.43倍)—(室数増で上回る)
増分GOPによる単純回収—34.8年(インフレ後40.5年)

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。解体費は当サイト既刊の自治体公表実額、新築費は国土交通省 建築着工統計ベース(archi-book集計・2025年)、工期は国土交通省「建築物動態統計調査」の集計。稼働率85%(通年仮定)・GOP率40%。土地・株式の取得価額は含まない簡易試算

神田の結果ははっきりしている。床が7割になれば、同じ22.9㎡/室の効率で設計しても客室は110室にとどまり、47室分・年2.39億円の売上が減る。神田駅圏では2016年以降に開業した100〜199室の施設の中央値が¥16,400と、規模帯全体の中央値¥16,400とほとんど変わらない。新築というだけでは単価の上乗せが見込みにくい市場であり、建て替えた後に現況の売上へ並ぶには¥23,400、同規模帯の上位25%(¥20,900)を超える水準が必要になる。神田の敷地にとっては、いま建っている3,589.66㎡という床そのものが、建て替えでは取り戻しにくい資産といえる。

浅草は床をほぼ維持でき、1室35㎡で設計すれば客室を72室から112室へ増やせるため、売上は3.84億円から6.44億円へ伸びる計算になる。ただし解体・新築・休業を合わせた36.14億円(インフレ織込み後42.09億円)に対して増分GOPは年1.04億円で、増分だけで見た単純回収は34.8年かかる。建築費が現在の水準にある限り、浅草でも建替えは「いつでも選べるが急ぐ理由は薄い」選択肢にとどまり、当面は改装と客室構成の見直しで床の広さを収益に変えていく案が先に来るだろう。建築費の上昇は周辺の新規供給を抑える方向にも働くため、既存の床を持つ側にとっては時間を味方にできる要因でもある。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(稼働率85%〈通年仮定〉、単価は駅1km圏の同規模帯の中央値・上位25%・2016年以降開業の中央値を当てはめたもの。取得2棟の実績ではない)

2つのシナリオを並べる — 神田は「床を守る改装」、浅草は「床を使い直す改装」が先

ここまでを整理すると、2棟は同じ取得スキームで手に入った資産でありながら、取得後の最適解が異なる。神田は客室数と床効率が既に高く、建替えで床が減るため、改装して持つ案の優位が明確である。浅草は建替えても床が残る一方、建築費の水準から回収が長くなるため、広い床を活かした改装が先行し、建替えは将来のオプションとして残る形になる。

改装と建替えの比較(神田・浅草)
比較項目神田:改装して持つ 試算上の優位神田:建て替える浅草:改装して持つ 試算上の優位浅草:建て替える
客室数157室110室72室(45㎡/室なら89室)112室
追加投資3.26億〜6.52億円29.56億円(休業分含む)3.66億〜7.32億円36.14億円(休業分含む)
営業休止営業しながら順次30か月営業しながら順次30か月
年間客室売上の目線7.97億→10.20億円5.59億円3.84億→5.46億円6.44億円
回収の目安5.5〜8.8年(坪45万円)現況売上に並ぶ単価¥23,3628.5〜16.6年(坪45万円)34.8年(増分GOP)
鍵になる前提単価が同規模帯で1段上がるか前面道路幅員・容積の特例の有無広い客室の商品化、室数の積み増し建築費の水準、1km圏の新規供給

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。前提は各節の表と同じ

前提が動いた場合の幅も確かめておく。同規模帯の中央値単価で持ち続ける場合のGOPは、神田が年3.19億円、浅草が年1.54億円である。単価が10%下がると神田2.87億円・浅草1.38億円、稼働率が5ポイント下がると神田3.00億円・浅草1.45億円、両方が同時に起きると神田2.70億円・浅草1.30億円になる。2026年6〜8月のように区の単価が前年を4〜11%下回る月が続く局面では、改装の回収年数も同じ割合で延びる点に留意したい。

単価・稼働率が下振れした場合の感度(中央値単価で保有・通年)
感度(中央値単価で保有)ベースADR −10%OCC −5pt両方
神田157室:年間客室売上7.97億円7.18億円7.50億円6.75億円
神田157室:GOP3.19億円2.87億円3.00億円2.70億円
浅草72室:年間客室売上3.84億円3.46億円3.61億円3.25億円
浅草72室:GOP1.54億円1.38億円1.45億円1.30億円

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(ベース:神田¥16,368・浅草¥17,187、稼働率85%〈通年仮定〉、GOP率40%)

単価と稼働の組み合わせを広げて見ると、2棟の年間GOPは次の範囲に収まる。単価が10%下がり、稼働が75%まで落ちる組み合わせでも神田は年2.53億円、浅草は年1.22億円のGOPが残る計算で、坪45万円の改装費(神田4.89億円・浅草5.49億円)に対する余力は、客室数の多い神田のほうが厚い。

年間GOPの2軸感度:単価の変化×通年の稼働水準(神田157室/浅草72室)
通年の稼働水準単価 −10%単価 −5%単価 ±0%単価 +5%単価 +10%
75%2.53億/1.22億円2.67億/1.29億円2.81億/1.36億円2.95億/1.42億円3.10億/1.49億円
80%2.70億/1.30億円2.85億/1.37億円3.00億/1.45億円3.15億/1.52億円3.30億/1.59億円
85%(本稿の前提)2.87億/1.38億円3.03億/1.46億円3.19億/1.54億円3.35億/1.61億円3.51億/1.69億円
90%3.04億/1.46億円3.21億/1.54億円3.38億/1.63億円3.55億/1.71億円3.71億/1.79億円

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(ベース単価:神田¥16,368・浅草¥17,187=駅1km圏の同規模帯の中央値、GOP率40%、年365日)。各セルは神田/浅草の順。取得2棟の実績ではない

取得後の検討で確認しておきたい項目
確認しておきたい項目内容影響する選択肢
前面道路の幅員12m未満なら容積率は幅員×0.6が上限。神田は道路台帳での確認が前提建替え
耐震・設備の履歴リリースに記載はなく、本稿の改装費にも耐震・大規模設備更新の費用は含めていない。築年月だけでは適用基準を判断できない改装・建替え
建築費の変動年+5%で4年経つと新築費は約1.2倍。着工時期で総額が動く建替え
周辺の供給浅草駅1km圏は2019年以降+23.9%。神田駅圏は−3.1%改装後の単価
季節の振れ区のADRは4月と8月で1.6倍の差(千代田区¥20,291と¥12,566)年間売上の前提

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

売り手・買い手・金融機関への示唆 — 物件概要の3つの数字で選択肢は絞れる

今回の2棟から引き出せるのは、敷地面積・延床面積・客室数という物件概要の3つの数字に指定容積率を重ねるだけで、取得後の選択肢がかなり絞れるという点である。売却や承継を考えるオーナーにとっては、自社の建物が「建て替えると床が減る敷地」に立っているなら、いまの延床そのものが買い手に訴求できる価値になる。運営会社を分けて株式で譲る形にしておけば、買い手は営業を止めずに引き継げるため、交渉の入口も広がるといえる。

買い手の側では、1室あたり延床が小さい建物は客室数で、大きい建物は床の使い直しで収益を伸ばすという見立てを、取得前に同規模帯の単価分布と突き合わせておきたい。神田駅圏のように新築と既存の単価差が小さい市場では、改装で分布を1段上がる計画のほうが建替えより確度が高い。浅草駅圏のように供給が増え続ける市場では、広い客室という差別化の軸を早めに決めることが有効だろう。

融資を検討する金融機関にとっては、担保評価の前提になる「再建築した場合の床」と、事業計画の前提になる「単価が分布のどこに位置するか」の2点が確認項目になる。前面道路幅員や耐震・設備の履歴といった本稿で扱えなかった項目は、現地と台帳での確認が欠かせない。建築費が高止まりする間は、既存ホテルを会社ごと取得する動きが続くとみられ、同じ物差しで案件を比べる機会は増えていきそうだ。

よくある質問

トーセイは神田・浅草のホテルをいくらで取得しましたか。取得価額は公表されていません。本稿でも取得価額と利回りは推定しておらず、試算は改装費・解体費・新築費と客室売上の関係に限っています。
ホテルを株式で買うと何が引き継がれますか。営業者である法人が変わらないため、旅館業の許可、雇用関係、予約チャネルの契約などが会社ごと引き継がれます。不動産だけを取得する場合は、買主側で承継の承認や新規の許可が必要になります。
建て替えると客室は減りますか。敷地面積に指定容積率を掛けた単純計算では、神田は現況延床の70.3%(同じ床効率で110室)、浅草は97.7%になります。前面道路の幅員や個別の規定によって結果は変わります。

試算と単価データに関する注意:本記事の試算は、公表された物件概要と公的統計、駅1km圏の同規模帯の推定成約ADRを組み合わせた簡易試算であり、取得2棟の実際の単価・稼働・工事計画を示すものではない。推定成約ADRは2026年9月までの確定月を用い、調査時点の掲載水準に基づく将来月の値は使用していない。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

物件概要はトーセイのニュースリリース(2026年6月30日)の公表値。推定成約ADRはメトロエンジンリサーチ&コンサルティングの集計で、区単位は千代田区N=78〜84施設・台東区N=161〜177施設(2025年9月〜2026年8月)、駅1km圏は神田N=56施設・浅草N=60施設(取得2棟を除く)。客室ストックは駅1km圏で開業年が分かる施設(2026年 神田97施設・浅草192施設)。用途地域・地価公示・洪水浸水想定は国土交通省 不動産情報ライブラリ、従業者数は経済センサス-活動調査(2021年)による。

■ 試算前提

稼働率85%(通年の仮定値)、GOP率40%、年365日。改装費は延床あたり坪30万・45万・60万円の3水準。建替えは解体費9万円/㎡(レンジ51,025〜146,983円)、新築費S造坪240.5万円(2025年)、営業休止30か月、建設期間のインフレ係数1.207を置いた。客室単価は駅1km圏・同規模帯の下位25%・中央値・上位25%を当てはめ、建替え後は同圏で2016年以降に開業した施設の中央値を用いた。建替え後の上限床は敷地面積(公簿)×指定容積率で算出している。

■ 限界・留意点

取得価額と利回りは公表されておらず、本稿でも推定していない。単価・稼働率・GOP率はいずれも取得2棟の実績ではない。前面道路幅員による容積率の低減、斜線・高さの制限、容積率不算入部分、耐震・大規模設備更新の費用、工事中の売り止めによる減収、土地・株式の取得価額は試算に含めていない。客室ストックは把握できた範囲の集計で全数調査ではなく、現在の客室数を過去年にも適用している。口コミと単価の関係は17施設の比較であり、因果を示すものではない。

■ ニュース・プレスリリース

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(千代田区N=78〜84施設・台東区N=161〜177施設、駅1km圏 神田N=56・浅草N=60)、駅1km圏の客室ストック(2026年 神田97施設・浅草192施設)、推定稼働率(千代田区58〜59施設・台東区143〜146施設)
  • ホテルバンク編集部調べ(NLP解析)— 宿泊者口コミの客室に関する言及(2024年10月〜2026年9月、2005年以前開業のビジネスホテル17施設)

■ 政府統計・公的データ

■ REIT・業界レポート

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