NBIホールディングスが2026年1月30日に公表した「NBI草津温泉プロジェクト」は、草津町草津553の既存旅館「フォートリート草津」(14室・敷地29,148.15㎡)を取得し、敷地内に露天風呂付き客室33室とレストランを備えた増築棟を積水ハウスの設計・施工で建てて総客室数47室の高級温泉旅館に再生する計画だった。続く8月3日には、同社がアセットマネージャーを務める「合同会社NBI草津開発」がSBI証券グループのER27から匿名組合出資を受け、湯畑徒歩3分の「裏草津 蕩 TOU」(56室・うち露天風呂付き4室)を取得し、温泉旅館2号ファンドの運用を始めている。半年のあいだに同じ温泉地で、片方は「建てて増やす」バリューアップ型、もう片方は「買って持つ」インカム型と、性格の異なる2つの器が並んだことになる。
本稿では、この2件を題材に、①取得の器(SPC・出資者・融資行)の比較、②草津町の推定成約ADRと湯畑2km圏の単価分布のなかで露天風呂付き33室がどこに入るか、③33室分の年間売上の上乗せ幅を稼働率シナリオ別に置いた感度表、④湯畑2km圏の客室供給、⑤国土交通省の不動産情報ライブラリで照会した用途地域・土砂災害・火山の扱い、の5点を整理する。想定する読者は、既存の敷地に客室を足すことを検討する旅館オーナーと、その相談を受ける地域金融機関、温泉旅館に投資するファンド、宿泊施設の営業を担う建設会社である。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価):各施設が主要予約サイト上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。本文で「掲載価格」と記した箇所は、主要予約サイトに公開されている販売価格(2名1室利用時の1室あたり料金・税込)を指し、ADRとは区別しています。
- OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値、REIT月次公表値との整合性検証で概ね数pt 程度の精度を確認済)。主要予約サイト上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。
- ブッキングカーブ・LT:ブッキングカーブ=チェックイン日に向けた残室数の推移。LT(リードタイム)=チェックイン日までの日数(LT0=当日)。本稿はLT45〜LT1の観測のみを用いる。早期完売LT=残室数が初めて0室に到達したリードタイム。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(国内約27,000施設・約126万室の主要予約サイト掲載データ)、国土交通省 不動産情報ライブラリ、各社公表資料。
- — 半年で2つの器:2026年1月のフォートリート草津は14室→47室(露天風呂付き33室を増築)のバリューアップ型、8月の裏草津 蕩 TOU(56室)はER27の匿名組合出資と群馬銀行・東和銀行の融資によるインカム型。
- — 草津町の推定成約ADRは¥17,600(2025年9月〜2026年8月平均・N=77〜92施設)。山は12月の¥21,300、谷は6月の¥14,600で、その比は1.46倍。
- — 湯畑2km圏で3万円超は88軒中12軒・731室。露天風呂付き客室が主体の既存3軒は¥33,400〜¥39,900の帯にあり、増築棟が入る価格帯の目安になる。
- — 33室の上乗せは年5,500万〜8,800万円(基準ケース・計算値)。客室売上は2.1億〜5.3億円、建築工事費は17.8億〜24.9億円、建設費に対する簡易利回りは3.0〜6.2%の試算。
- — 許可面が採算と同じ重さ:フォートリート草津の建物位置は第一種中高層住居専用地域。既存不適格なら増築は基準時の1.2倍以内(約390㎡)にとどまり、48条ただし書き許可か用途地域の見直しが論点になる。
2件の器 — 増築を伴うバリューアップ型と、融資2行が付いたインカム型
まず2件の資料を並べると、器の組み方がはっきり違う。1月のフォートリート草津はNBIホールディングス自身の「投資実行案件」7件目として公表され、SPCや出資者、融資行の記載はない。公表されているのは敷地29,148.15㎡(8,187坪)、鉄筋コンクリート造ステンレス鋼板葺地下1階付3階建1,952.98㎡(591坪)、取得時14室という既存棟の概要と、33室・全室客室露天風呂付きの増築棟をレストランとともに積水ハウスの設計・施工(施工は予定)で開発するという計画の骨格である。これに対し8月の裏草津 蕩 TOUは、資金調達者が合同会社NBI草津開発、匿名組合出資者がER27株式会社(SBI証券のグループ会社)、ファイナンシャルアドバイザーが昭和リース、レンダーが群馬銀行と東和銀行、アセットマネージャーがNBIホールディングスと、関係者がすべて開示されている。投資戦略も「インカムゲイン運用」と明記され、2022年にフルリノベーションを終えた物件に小規模なリニューアル工事を加える、という設計だった。
つまり前者は、既存建物を核にして客室数を3.4倍に増やす開発リスクを取りに行く案件であり、後者は改装済みの物件を地銀2行のシニアローンと証券グループのエクイティで持つ案件といえる。同じ運用会社が同じ温泉地で両方を同時に走らせている点に、温泉旅館への私募マネーの入り方の現在地がある。NBIは2025年4月に投資を開始して以降、国内機関投資家・金融機関の協力を得て約200億円を実行済みで、1月の資料では投資計画を上方修正し、以後1年間で300億円、2027年3月期までに合計500億円を投資する予定だと述べている。
| 項目 | フォートリート草津(2026年1月) | 裏草津 蕩 TOU(2026年8月・2号ファンド) |
|---|---|---|
| 所在地 | 草津町草津553(バスターミナル徒歩約15分) | 草津町大字草津300(バスターミナル徒歩3分・湯畑徒歩3分) |
| 客室数 | 取得時14室 → 増築後47室(露天風呂付き33室を増築) | 56室(うち露天風呂付き4室) |
| 建物・敷地 | 敷地29,148.15㎡(8,187坪)/RC造 地下1階付3階建 1,952.98㎡ | 2022年にフルリノベーション完了(面積の記載なし) |
| 投資の型 | バリューアップ型(運営変更+増築棟・レストラン) | インカム型(安定収益+小規模リニューアル) |
| 器(SPC) | 公表資料に記載なし(NBIの投資実行案件として公表) | 合同会社NBI草津開発 |
| エクイティ | 記載なし | ER27株式会社(SBI証券グループ)の匿名組合出資 |
| デット | 記載なし | 群馬銀行・東和銀行 |
| FA/AM | 記載なし/NBIホールディングス | 昭和リース/NBIホールディングス |
| 設計・施工 | 積水ハウス(設計・施工予定) | — |
出典:NBIホールディングス「NBI草津温泉プロジェクト開始のお知らせ」(2026年1月30日)、SBI証券・NBIホールディングス・昭和リース「温泉旅館2号ファンドを運用開始」(2026年8月3日)よりホテルバンク編集部作成
参考までに、NBIが1月時点で公表していた投資実行案件の一覧を掲げる。延床面積は改修工事前の値で、草津は7件中5番目の規模だが、増築後は既存棟1,952.98㎡に33室分の新棟が加わる。レンジとしては881㎡の小規模高級旅館から9,514㎡の中規模施設まで幅があり、「ラグジュアリーグレード」と「ミドルアッパーグレード」の2つの型で温泉地を横断している。
| No. | プロジェクト名 | 投資実行月 | 延床面積(㎡・改修前) | タイプ |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 福岡糸島プロジェクト | 2025年4月 | 4,235.09 | ミドルアッパーグレード |
| 2 | 源泉一途岩手雫石プロジェクト | 2025年4月 | 9,514.43 | ミドルアッパーグレード |
| 3 | 阿蘇黒川温泉プロジェクト | 2025年5月 | 1,554.50 | ラグジュアリーグレード |
| 4 | 源泉一途南伊豆プロジェクト | 2025年8月 | 6,611.19 | ミドルアッパーグレード |
| 5 | 箱根強羅プロジェクト | 2025年10月 | 1,959.81 | ラグジュアリーグレード |
| 6 | 熱海さんがプロジェクト | 2025年11月 | 881.47 | ラグジュアリーグレード |
| 7 | 草津温泉プロジェクト | 2026年1月 | 1,952.98 | ラグジュアリーグレード |
出典:NBIホールディングス「NBI草津温泉プロジェクト開始のお知らせ」(2026年1月30日)投資実行案件一覧
草津町の単価 — 12か月平均1.76万円、12月の山と6月の谷の差は1.5倍
次に、増築棟が入っていく市場の単価を押さえたい。メトロエンジンリサーチ&コンサルティングの推定成約ADR(市区町村別)で草津町の確定12か月(2025年9月〜2026年8月)を平均すると、全業態で¥17,600(対象N=77〜92施設)、旅館に絞ると¥17,100(N=68〜83施設)になる。月別の山は2025年12月の¥21,300、谷は2026年6月の¥14,600で、その比は1.46倍と季節の振れが大きい。直近の確定月である2026年8月は¥19,500で前年同月の¥20,600に対し−5.6%、9月は¥17,000で前年同月比+0.8%と、夏から秋にかけては前年並みの水準で推移している。
一方、推定OCC(掲載在庫ベース)は2026年8月が88.4%(対象57施設/1,867室)、9月が85.2%(対象47施設/1,804室)で、旅館に限ると8月90.5%(対象39施設/1,194室)だった。群馬県の年末年始調査(2025年12月27日〜2026年1月4日)でも草津温泉の宿泊者数は60,187人(9日間・1日平均6,687人)で前年度比108.0%と、県内主要7温泉地のなかで宿泊者数が最も多く、伸び率も磯部温泉(120.1%)に次いで高い。2号ファンドの資料が「年間を通じて高い稼働率」と書いた背景は、こうした数字と整合する。なお調査時点で掲載が出ている2026年10月〜2027年1月の先行月は¥17,000〜¥20,000(調査時点の掲載水準に基づく推定)で、12月・1月に向けて単価が上がる形は前年と同じだが、確定月とは比較しない。
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(草津町・全業態・推定成約ADR、各月N=73〜96施設。2026年10〜12月は調査時点の掲載水準に基づく推定)
湯畑2km圏の単価分布 — 3万円超は88軒のうち12軒、露天風呂付き主体の既存3軒は3.3万〜4.0万円
では、全室露天風呂付きの33室はこの市場のどこに座るのか。湯畑(北緯36.6226度・東経138.5961度)から半径2kmにある施設のうち、2026年7〜9月に主要予約サイトで販売が観測できた150軒2,925室を施設単位で棚卸しし(同一施設は1軒として集計)、そのうち確定12か月の推定成約ADRが6か月以上算出できる88軒2,325室を単価帯に分けたのが次の表である。1.5万〜3万円に47軒1,193室と、軒数・室数とも過半が集まる一方、3万〜5万円は10軒718室、5万円以上は2軒13室にとどまる。
| 推定成約ADR帯(12か月平均) | 軒数 | 客室数 | 客室シェア |
|---|---|---|---|
| 1万円未満 | 11 | 135 | 5.8% |
| 1万〜1.5万円 | 18 | 266 | 11.4% |
| 1.5万〜2万円 | 22 | 541 | 23.3% |
| 2万〜3万円 | 25 | 652 | 28.0% |
| 3万〜5万円 | 10 | 718 | 30.9% |
| 5万円以上 | 2 | 13 | 0.6% |
| 合計 | 88 | 2,325 | 100% |
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(湯畑半径2km・推定成約ADR 2025年9月〜2026年8月平均・N=88施設)
露天風呂付き客室を主体にした既存施設を3軒拾うと、湯宿 季の庭(64室)が¥39,900、草津温泉 湯畑泉水(33室)が¥34,300、ラビスタ草津ヒルズ(69室)が¥33,400で、いずれも3万〜4万円の帯に入る。宿泊者口コミでも「露天風呂付き客室」への言及率は湯畑泉水30.7%(N=508件)、ラビスタ草津ヒルズ25.4%(N=1,113件)、季の庭19.5%(N=953件)と群馬県内で上位に入り、客室の露天風呂が選ばれる理由として機能していることが読み取れる。フォートリート草津の既存14室は2025年の確定12か月で¥31,200(¥28,300〜¥34,400)の帯にあり、宿泊者口コミ(直近24か月・158件、ホテルバンク編集部調べ・NLP解析)では客室の広さと静けさへの肯定的な言及がそれぞれ12.0%、食事への言及が36.1%(うち肯定的な声が49件)を占める。裏草津 蕩 TOUは宿泊者口コミ2,020件の集計で立地4.29(N=894)、清潔感4.41(N=399)、食事4.34(N=409)と、湯畑徒歩3分の立地と改装後の設えが評価の軸になっている(ホテルバンク編集部調べ)。増築棟が3万〜5万円の帯に入るなら、2km圏でこの帯に属する客室は現状718室(88軒の客室の30.9%)であり、47室はその帯を6.5%押し広げる計算になる。
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(湯畑半径2km・N=88施設。円の大きさは客室数。推定成約ADRは2025年9月〜2026年8月の平均)
単価帯と完売の速さの関係も見ておく。お盆のピーク日である2026年8月13日(木)の草津町について、主要予約サイトに総客室の30%以上を公開していた施設(対象78施設、対象338施設のうち観測データのある112施設から絞り込み)のうち、2km圏で12か月の推定成約ADRがある56軒を単価帯別に見たのが次の表だ。1.5万円未満の帯では18軒中5軒が宿泊日の45日以上前から完売していたのに対し、3万円以上の8軒は全軒が完売に至ったものの、残室が0になったのは中央値で宿泊日の2日前だった。高単価帯ほど直前まで在庫を保ちながら完売に至る動きが読み取れる。
| 推定成約ADR帯 | 軒数 | 客室数 | 45日以上前に完売 | 14〜44日前 | 13日前〜当日 | 早期完売LT中央値 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1.5万円未満 | 18 | 205 | 5 | 6 | 7 | 16日前 |
| 1.5万〜2万円 | 17 | 359 | 5 | 6 | 6 | 26日前 |
| 2万〜3万円 | 13 | 302 | 1 | 4 | 8 | 7日前 |
| 3万円以上 | 8 | 552 | 0 | 0 | 8 | 2日前 |
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(草津町・2026年8月13日宿泊・主要予約サイト公開枠が総客室の30%以上の施設のみ・N=56施設)
裏草津 蕩 TOUの同日のカーブは、宿泊日45日前に残室29/56室、30日前に21室、14日前に4室、前日に1室、当日に0室と、最後の2週間で一気に埋まる形だった(主要予約サイトへの公開枠は最大34室・総客室の60.7%)。草津町全体(対象55施設/1,809室)の推定OCCは45日前67.6%、14日前87.2%、前日95.7%で、10月3日(土)は45日前65.9%から前日93.7%、三連休初日の10月10日(土)は45日前の時点で78.9%、7日前で94.6%と、連休は早い段階から埋まっている。
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(草津町・全業態・LT45〜LT1。8月13日:対象55施設/1,809室、10月3日:73施設/2,141室、10月10日:78施設/2,190室。裏草津 蕩は56室・主要予約サイト掲載ベース)
33室の売上感度 — 露天風呂の上乗せだけで年5,500万〜8,800万円、客室売上は2.1億〜5.3億円
ここからは計算値である。既報「露天風呂付客室の上乗せは1泊約1万円(+23%)」では、同一施設の一般客室と露天風呂付き客室の2食付き最安プランを比べて、全国792軒の中央値で+23.4%・約1万円(旅館691軒は+24.4%・¥10,900、税込)の上乗せを確認し、税抜相当で保守¥5,300・基準¥9,100・上位¥18,600の3ケースを置いた。この上乗せ額を33室×365日=12,045室泊に稼働率を掛けて当てはめると、露天風呂を付けたことによる売上の上乗せ幅は次の表のとおりになる。基準ケースで通年稼働率60%なら年6,580万円、80%なら8,770万円である。
| 露天風呂付きによる上乗せ(年・百万円) | 保守 ¥5,300/泊 | 基準 ¥9,100/泊 | 上位 ¥18,600/泊 |
|---|---|---|---|
| 通年稼働率 50%(販売 6,022室泊) | 31.9 | 54.8 | 112.0 |
| 通年稼働率 60%(販売 7,227室泊) | 38.3 | 65.8 | 134.4 |
| 通年稼働率 70%(販売 8,431室泊) | 44.7 | 76.7 | 156.8 |
| 通年稼働率 80%(販売 9,636室泊) | 51.1 | 87.7 | 179.2 |
計算値:33室×365日×稼働率×上乗せ額(税抜相当)。上乗せ額は既報「露天風呂付客室の上乗せは1泊約1万円(+23%)」の同一施設比較に基づく編集部の設定
上乗せ分だけでなく客室売上そのものを置くと、投資の規模感がつかめる。推定成約ADRを2km圏の3万〜5万円帯に合わせて¥35,000・¥45,000・¥55,000(1室2名・税抜相当)の3ケース、稼働率を50〜80%として33室の年間客室売上を求めると、2.1億円から5.3億円の幅になる。既存14室が2025年に¥31,200の帯で運営されていたことを踏まえると、増築棟はその上に新しい価格帯を積む設計になる。
| 33室の年間客室売上(百万円) | ADR ¥35,000 | ADR ¥45,000 | ADR ¥55,000 |
|---|---|---|---|
| 通年稼働率 50% | 211 | 271 | 331 |
| 通年稼働率 60% | 253 | 325 | 397 |
| 通年稼働率 70% | 295 | 379 | 464 |
| 通年稼働率 80% | 337 | 434 | 530 |
計算値:33室×365日×稼働率×ADR(税抜相当・1室2名)。料飲・入湯税・宿泊税は含まない
建設費は2段階で置く。国土交通省の建築着工統計に基づく2025年のホテル建築費は全構造平均で坪195.2万円、RC造202.6万円、S造240.5万円で、業態別の目安ではラグジュアリー帯が坪250〜350万円とされる。増築棟の延床を仮に2,350㎡(客室33室×50㎡+レストラン・共用700㎡、約711坪)と置くと、建築工事費は17.8億〜24.9億円、1室あたり5,400万〜7,500万円になる(温泉引湯・外構・家具什器・設計監理は含まない)。さらに工期の中間点を2027年半ばと置き、Turner & Townsendの予測(2026年+5.3%、2027年+5.0%)を複利で織り込むと約+8%で、19.2億〜26.9億円まで見ておきたい。建設費の上昇は新規供給を抑える方向にも働くため、既存施設の希少性を支える要因でもある。
この前提で利回りを試算すると、GOP率25%(編集部の前提値)、建設費21.3億円(中位)に対する簡易利回りは、ADR¥45,000・通年稼働率70%で4.5%、ADR¥55,000・稼働率80%で6.2%になる。土地は既に取得済みのため建設費のみを分母に置いた数値で、既存棟の取得価格は公表されていない。いずれも前提値に基づく簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要である。
| 簡易利回り(GOP÷建設費21.3億円) | ADR ¥35,000 | ADR ¥45,000 | ADR ¥55,000 |
|---|---|---|---|
| 通年稼働率 60% | 3.0% | 3.8% | 4.7% |
| 通年稼働率 70% | 3.5% | 4.5% | 5.4% |
| 通年稼働率 80% | 4.0% | 5.1% | 6.2% |
計算値:年間客室売上×GOP率25%÷建設費21.3億円(延床2,350㎡×坪300万円)。建設費の出典は国土交通省「建築着工統計」(archi-book 2025年版集計)、業態別目安はHOTELISM
湯畑2km圏の供給 — 150軒2,925室、半数は10室未満、2026年は7軒210室が加わった
供給側を施設単位で見ると、湯畑2km圏で販売が観測できる150軒2,925室のうち旅館が87軒1,902室(客室の65.0%)、リゾートホテルが9軒654室(22.4%)、デラックスホテルが1軒56室で、残りは民宿・ペンション・貸別荘・ゲストハウスなどの小規模施設である。規模別では10室未満が78軒と過半を占め、10〜29室が48軒、30〜49室が9軒、50〜99室が8軒、100室以上が7軒にすぎない。増築後47室のフォートリート草津は、30〜49室という2km圏で最も層の薄い規模帯に入ることになる。
開業年が確認できる施設(主要予約サイト掲載確認ベース)で2019年以降の新規供給を追うと、2019年5軒95室、2023年7軒109室、2025年5軒107室、2026年は7軒210室(界 草津94室などを含む)と、ここ2年で300室超が加わった。既報「草津温泉の宿泊単価、2026年夏は前年並み」で検証した新規開業191室の吸収が続いている局面で、上述の2026年8月の推定OCC88.4%はその吸収力を示している。なお直近の月ほど掲載が出揃っておらず、2026年の件数は今後の掲載で増える可能性がある。
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(湯畑半径2km・OTA掲載確認ベース・開業年が判明する90施設。直近年は今後の掲載で増加する可能性あり)
立地と許可面 — 蕩は商業地域、フォートリートの建物位置は第一種中高層住居専用地域に当たる
最後に、増築の許可面を公開データで確認する。国土交通省の不動産情報ライブラリ(国土数値情報・用途地域データ2026年7月更新版)で2物件の建物位置を照会すると、裏草津 蕩 TOUは湯畑と同じ商業地域(容積率500%・建蔽率80%)に入る。一方、フォートリート草津の建物位置は第一種中高層住居専用地域(容積率200%・建蔽率60%)に当たり、18m先に第二種中高層住居専用地域、160m先に第二種住居地域、313m先に商業地域の境界がある。用途地域ごとの建築物の用途制限では、ホテル・旅館は第一種・第二種中高層住居専用地域で「建てられない用途」、第一種住居地域で3,000㎡以下に限り可、第二種住居地域から商業地域までは制限なしとされている(東京都都市整備局「用途地域による建築物の用途制限の概要」)。
この点は、既存の温泉旅館に客室を足そうとする事業者の多くが最初にぶつかる論点でもある。既存棟が用途地域の指定前から建つ既存不適格の場合、増築は建築基準法施行令第137条の7により「増築後の延べ面積が基準時の1.2倍以内」などの範囲に限られ、フォートリート草津の既存棟1,952.98㎡を当てはめると上限は2,343.6㎡、増築できる床は約390㎡にとどまる計算になる。33室の増築棟をこの枠で収めるのは難しいため、現実的な経路は、特定行政庁が公開の意見聴取と建築審査会の同意を経て許可する建築基準法第48条のただし書き許可か、町による用途地域の見直しのいずれかである。敷地29,148㎡は広く、増築棟の配置によっては別の用途地域に掛かる可能性もあるため、実際の適用関係は草津町の都市計画図と計画配置で確認する必要がある。公表資料に用途地域の扱いは記載がなく、本稿は公開データから一般的な論点を整理するにとどめる。
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング、国土交通省 不動産情報ライブラリ
地価の動きも温泉街の中心と周縁で分かれている。湯畑周辺の商業地域にある基準地2地点は2024年から2026年の2年間で110,000円→138,000円(+25.5%)、84,300円→98,500円(+16.8%)と2桁の上昇が続き、2026年の前年比はそれぞれ+14.0%、+10.1%だった。これに対し、フォートリート草津と同じ第一種中高層住居専用地域の公示地は17,800円/㎡で3年続けて−0.6%、第二種住居地域の公示地も33,700円/㎡で微減にとどまる。中心の商業地が1㎡あたり10万円台で上昇する一方、8,000坪級の敷地を取れるのは周縁の住居系地域であり、取得コストを抑えて敷地を活かす増築型と、中心立地の改装済み物件をインカムで持つ取得型が同じ町で成り立つ構図は、この地価の二層構造に対応している。
出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(都道府県地価調査・各年7月1日時点・草津町の商業地域2地点)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成
示唆 — 旅館オーナー・地銀・ファンド・建設会社それぞれの読み方
旅館オーナーにとっての示唆は、「敷地があれば増やせる」の前に用途地域の確認が入る、という順番にある。温泉街の中心は商業地域で制限が緩い一方、広い敷地が残る周縁は住居系地域であることが多く、その場合は既存不適格の1.2倍枠か48条許可か用途地域の見直しかを早い段階で見極めたい。露天風呂付き客室の上乗せは同一施設比較で1泊約1万円が目安で、33室規模なら年5,500万〜8,800万円の上乗せが計算上見込める。一方、建築費は坪250〜350万円の帯にあり、1室あたり5,000万円台から7,000万円台の投資になる。上乗せ分だけで回収するのではなく、客室売上全体で3万〜5万円帯を取りに行く価格設計が前提になる。
地域金融機関にとっては、2号ファンドの構造がそのまま参考になる。群馬銀行と東和銀行が地元の改装済み物件にシニアローンを付け、エクイティは証券グループのER27、FAに昭和リースが入り、運用はNBIが担う。改装リスクを取らないインカム型だからこそ地銀が主役になれる器であり、既報「地銀主導『小規模連続開発・改装ファンド』の構造分析」で整理した地銀主導の小規模ファンドとは、エクイティの出し手が違う点で対になる。ファンドにとっては、草津町の推定OCCが8月88.4%・9月85.2%と高く、単価の季節差が1.46倍ある市場で、12月の山をどう取るかが運用の中心になる。建設会社にとっては、2,000㎡級の既存棟に数千㎡の増築棟を付ける案件が温泉地で現実に動いている事実そのものが営業上の材料である。
まとめ
NBIホールディングスは2026年1月にフォートリート草津(14室・敷地8,187坪)を取得して露天風呂付き33室の増築で47室化する計画を公表し、8月にはSBI証券グループのER27が出資し群馬銀行・東和銀行が融資する2号ファンドで裏草津 蕩 TOU(56室)を取得した。草津町の推定成約ADRは12か月平均¥17,600(N=77〜92施設)で、湯畑2km圏の88軒のうち3万円超は12軒・731室にとどまり、露天風呂付き主体の既存3軒は3.3万〜4.0万円の帯にある。33室の露天風呂付き客室は、上乗せ分だけで年5,500万〜8,800万円、客室売上で2.1億〜5.3億円の幅を持つ一方、建築費は17.8億〜24.9億円の試算になる。用途地域の照会ではフォートリート草津の建物位置が第一種中高層住居専用地域に当たり、増築の経路(既存不適格の1.2倍枠・48条許可・用途地域の見直し)が投資採算と同じ重さで検討項目に入る。温泉旅館への私募マネーは、建てて増やす器と買って持つ器の両方で入り始めている。
⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事で2026年10月以降の月に言及した推定成約ADRは、調査時点で主要予約サイトに公開されている販売価格に基づく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて新規プランの追加や価格調整で変動します。確定月(2026年9月以前)の数値とは同列に比較していません。売上・建設費・利回りの各表は前提値に基づく計算値であり、個別案件の収支を示すものではありません。
よくある質問
Q. 既存旅館の増築はどの程度まで認められますか。
A. 用途地域で旅館が建てられる地域なら、容積率・建蔽率・高さなどの形態制限の範囲で増築できます。旅館が建てられない住居系地域に既存不適格として建っている場合は、建築基準法施行令第137条の7の範囲(増築後の延べ面積が基準時の1.2倍以内など)に限られ、それを超える増築は建築基準法第48条のただし書き許可か用途地域の見直しが前提になります。個別の判断は所管の特定行政庁に確認してください。
Q. 露天風呂付き客室の上乗せはどのくらい見込めますか。
A. 同一施設の一般客室と露天風呂付き客室の2食付き最安プランを比較した全国792軒の中央値は+23.4%・約1万円(税込)で、旅館に限ると+24.4%・¥10,900です。客室の広さや設えの差も含む掲載価格の差であり、露天風呂単体の効果ではありません。
Q. 草津町の単価はどの月が高いですか。
A. 推定成約ADR(全業態)の確定月では2025年12月の¥21,300が山、2026年6月の¥14,600が谷で、12月・11月・8月が高く、6月と7月が低い形です。旅館に絞っても山は2025年12月(¥20,600)、谷は2026年6月(¥14,600)で同じ並びになります。
あわせて読みたい
- 露天風呂付客室の上乗せは1泊約1万円(+23%)— 792軒の同一施設比較と改装回収5.7〜11.1年
- ホテル増築は5年で1.9万室分 — ㎡単価は新築とほぼ同水準、着工統計で測る第3の供給
- 住居専用地域の宿は529施設1万室 — 増築は基準時床面積の1.2倍まで
- 草津温泉の宿泊単価、2026年夏は前年並み — 新規開業191室と需給を検証
- 草津温泉エリアの需給ショック2026夏 — 湯畑5km圏ホテル20軒×新規開業1軒で動くADR地図
- 地銀主導「小規模連続開発・改装ファンド」の構造分析 — 大型REIT取得との資金供給比較
- ホテル1棟ファンドの想定利回り4.2%→10.0% — 不特法327事業者を全数集計
- 入湯税+宿泊税、1万円未満の温泉宿は単価の7.2% — 温泉地19市町村を価格帯別に試算
- 温泉旅館の買収上限価格を逆算 — 湯河原・伊豆長岡・水上・草津のADR×OCC×利回り12%で見る投資妙味
- 群馬の宿泊単価、市町村で3.5倍差 — みなかみ・草津と県都の価格階層2026
参考資料・出典一覧
■ データソース
メトロエンジンリサーチ&コンサルティングの主要予約サイト掲載データ(推定成約ADR:草津町・2025年9月〜2026年8月・N=77〜92施設/湯畑半径2kmの150軒2,925室、うち単価帯の集計はN=88施設/推定OCC・ブッキングカーブ:草津町・対象47〜78施設)、宿泊者口コミの解析(ホテルバンク編集部調べ)、国土交通省 不動産情報ライブラリ(用途地域・地価・災害関連の指定)、NBIホールディングスおよびSBI証券の公表資料。
■ 試算前提
増築33室×365日=12,045室泊を母数とし、稼働率は通年50〜80%で置いた。露天風呂付きによる上乗せ額は既報の同一施設比較に基づく税抜相当の3ケース(¥5,300/¥9,100/¥18,600)、客室単価は¥35,000/¥45,000/¥55,000(1室2名・税抜相当)。増築棟の延床2,350㎡(約711坪)と坪250〜350万円は編集部の仮定で、簡易利回りはGOP率25%(編集部の前提値)を建設費21.3億円で割って求めた。
■ 限界・留意点
推定成約ADR・推定OCCは掲載データに基づく推定値で、各施設の実績ではない。増築棟の面積・客室単価・工事費と既存棟の取得価格は公表されておらず、売上・建設費・利回りはすべて計算値である。温泉引湯・外構・家具什器・設計監理の費用、料飲売上、入湯税・宿泊税は含まない。用途地域は建物位置での公開データ照会であり、実際の適用関係は草津町の都市計画図と計画配置による。
■ 一次資料(取得・ファンド)
- NBIホールディングス「NBI草津温泉プロジェクト開始のお知らせ」(2026年1月30日)
- NBIホールディングス「『裏草津 蕩 TOU』取得に関するお知らせ NBIホールディングスとSBI証券で温泉旅館2号ファンドを運用開始」(PR TIMES、2026年8月3日)
- SBI証券・NBIホールディングス・昭和リース「SBI証券とNBIホールディングスで温泉旅館2号ファンドを運用開始」(2026年8月3日)
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(草津町・市区町村別、N=77〜92施設)、湯畑2km圏の施設棚卸し(150軒)、推定OCC・ブッキングカーブ(草津町、対象55〜78施設)、宿泊者口コミのNLP解析(ホテルバンク編集部調べ)
■ 政府統計・公的データ
- 国土交通省 不動産情報ライブラリ — 用途地域(国土数値情報 2026年7月更新)、都道府県地価調査・地価公示(草津町)、土砂災害警戒区域、洪水浸水想定区域、液状化傾向
- 東京都都市整備局「用途地域による建築物の用途制限の概要」
- 群馬県「土砂災害警戒区域等の指定(草津町)」
- 気象庁「草津白根山(白根山(湯釜付近))の噴火警戒レベルを1へ引下げ」(2026年5月15日)
- 内閣府「火山災害警戒地域」(指定状況図)
- 群馬県「令和7年度 年末年始における県内の主な温泉地及びスキー場の観光客数の状況について」(2026年1月16日)
- 国土交通省「建築着工統計」/archi-book 2025年版(構造別坪単価の集計)
■ 業界レポート
- HOTELISM「ホテル建設費の業態別目安」
- リロホテルソリューションズ「業態別GOP率の目安」
- Turner & Townsend「International Construction Market Survey」(日本の建設コスト上昇予測)
