財務省が8月31日付で取りまとめた各府省庁の「令和9年度税制改正要望」は、重複を含めて208項目(重複排除で124項目)に上り、そのうち国土交通省(観光庁を含む)が34項目、経済産業省が48項目を提出した。本稿では、この一次資料と総務省が公表した地方税側の要望事項から、宿泊施設の取得・改修・承継・人件費に効く項目を抜き出し、要望元・対象・期限を一覧にしたうえで、「100室・建物取得価格20億円」のホテルを置いて初年度と累計の税額差を試算する。あわせて、12月の与党税制改正大綱までの日程を整理する。
本稿が扱うのはいずれも各省庁の「要望」であり、決定事項ではない。要望は今後、財務省主税局・総務省自治税務局との折衝と与党税制調査会の審議を経て、12月の大綱で採否と内容が固まる。延長を求めている制度は現行期限(多くは2027年3月31日)までは現行どおり使えるが、延長後の要件は変わりうる。税務上の判断は、個別の事情を踏まえて税理士に確認いただきたい。
- — 208項目(重複排除124項目)のうち宿泊業を名指しする国税項目はなく、宿泊施設に効くのは「中小企業枠」「立地枠」「取得枠」の三経路
- — 100室・建物20億円のモデルで、改装3億円に経営強化税制の即時償却を使うと初年度9,517万円(1室95万円)の繰延、税額控除10%なら3,000万円の恒久効果
- — 即時償却は2年目から毎年683万円ずつ戻り、5年累計6,783万円・15年でゼロ。先端設備の固定資産税特例(3%賃上げ)は5年累計1,103万円が戻らない
- — 中小企業向けの特例は資本金1億円以下が対象で、資本金1億円超なら、立地・取得主体の枠を除くモデルの効果は印紙税の12万円のみ。効果の桁は客室数ではなく資本金で決まる
- — いずれも要望段階で、採否・率・期限は12月中旬〜下旬の与党税制改正大綱で固まる(前年は11月20日に議論開始、12月19日決定)
本記事のデータについて
- 要望項目の出典:財務省「令和9年度税制改正要望」(各府省庁から提出された要望・8月31日付)に掲載された国土交通省・経済産業省の要望事項シート、総務省「各府省庁の令和9年度税制改正要望(地方税)」の要望事項シート、国土交通省「令和9年度国土交通省税制改正要望事項」(2026年8月28日公表)。項目名・率・期限はシートの記載をそのまま引用した。
- 100室モデルの前提:建物14億円(RC造・定額法・償却率0.026)と建物附属設備6億円(定額法・償却率0.067)の計20億円で取得し、土地は別とする。法人税・地方法人税・法人住民税・事業税を合わせた実効税率は34%(中小法人の所得800万円超部分の概算)、固定資産税率は1.4%、償却資産の評価は定率法(耐用年数15年・減価率0.142)で計算した。
- 試算の性質:「繰延」と記した効果は課税の時期がずれるもので累計の税額は変わらない。「恒久」と記した効果は税額そのものが減る。いずれも控除限度(法人税額の20%など)に達しない前提の上限値であり、実際の税額は各社の所得・資本金・計画認定の有無で異なる。税務判断は税理士に確認されたい。
- 施設規模の分布:メトロエンジンリサーチが追跡する国内施設のうち、ホテル・旅館系カテゴリで客室数が登録されている30,069施設を対象に、客室規模別の施設数・客室数を集計した。
要望の全体像 — 宿泊業を名指しする項目は少なく、「中小企業」と「立地」の枠で効く
まず全体を俯瞰すると、財務省の単純集計では要望項目数が208、廃止・縮減項目数が8で、国土交通省が34項目と1件、経済産業省が48項目と1件を出している。このうち項目名に「宿泊」「ホテル」「旅館」を含むものは国税側にはなく、観光庁が担当課として立つのは「沖縄の観光地形成促進地域における課税の特例措置の延長」と「電子渡航認証制度(JESTA)の導入に伴う外国人旅行者向け消費税免税制度の確認事務等の見直し」の2本にとどまる。
ただし、宿泊施設に実際に効くのは別の経路である。ひとつは中小企業庁が所管する設備投資・賃上げ・法人税率の各特例で、これらは「ほぼ全ての業種」を対象にしており、資本金1億円以下の宿泊事業者であれば使える。もうひとつは立地に紐づく特例で、半島・離島の割増償却は対象業種に「旅館業」を明記しており、沖縄の投資税額控除は「宿泊施設に附属する温泉保養施設」「宿泊施設に附属する会議場施設・研修施設」を対象施設に含む。そして取得・証券化の場面では、印紙税の軽減とリート等の登録免許税・不動産取得税の特例が、ホテルの売買そのものに掛かる。以下、この三つの経路に沿って整理する。
| 区分 | 要望項目数 | 廃止・縮減項目数 |
|---|---|---|
| 国土交通省(観光庁を含む) | 34 | 1 |
| 経済産業省(中小企業庁を含む) | 48 | 1 |
| 厚生労働省 | 21 | 0 |
| 金融庁 | 20 | 1 |
| 農林水産省 | 19 | 3 |
| 全18府省庁 合計(重複含む) | 208 | 8 |
| 重複排除ベース | 124 | 4 |
出典:財務省「令和9年度税制改正要望の状況について」(8月31日付の単純集計)よりホテルバンク編集部作成
宿泊施設に関係する要望項目の一覧 — 要望元・対象・期限
宿泊施設の投資判断に関わる項目を、国税(財務省取りまとめ)と地方税(総務省取りまとめ)の両方から抜き出したのが次の表である。「現行期限」は各シートの記載で、要望が通れば「要望後」の期限まで続く。事業承継税制の期限(2027年12月)と自社株評価の論点は既報で扱っているため、ここでは令和9年度要望の新規・延長項目に絞っている。表は16行だが、過疎地域の割増償却は要望事項シートの記載内容を確認できていないため参考掲載とし、本稿の「15項目」はこれを除いた数である。
| 要望項目 | 要望元 | 宿泊施設への効き方 | 現行期限 → 要望後 | 税目 |
|---|---|---|---|---|
| 中小企業経営強化税制の拡充等(経営規模拡大設備の適用要件の柔軟化、2年延長) | 中小企業庁(国交省も共同提出) | 経営力向上計画の認定を受け、器具備品・建物附属設備・ソフトウエア等を取得すると即時償却または10%税額控除(資本金3,000万円超1億円以下は7%) | 2027/3/31 → 2029/3/31 | 法人税・所得税 |
| 中小企業投資促進税制の延長等(見直しのうえ延長) | 中小企業庁(国交省も共同提出) | 計画認定なしで機械装置・ソフトウエア等に30%特別償却または7%税額控除(税額控除は資本金3,000万円以下) | 2027/3/31 → 2029/3/31 | 法人税・所得税 |
| 生産性向上・賃上げに資する中小企業の設備投資の固定資産税の特例の拡充等(賃上げ水準の要件見直し、研究開発設備の拡充、2年延長) | 中小企業庁(地方税) | 先端設備等導入計画に基づく新規取得の償却資産について、1.5%以上の賃上げ方針で3年間課税標準1/2、3.0%以上で5年間1/4 | 2027/3/31 → 2029/3/31 | 固定資産税 |
| 中小企業向け賃上げ促進税制の拡充及び延長(3年延長、要件を「従業員一人平均給与」基準へ) | 中小企業庁 | 給与総額を1.5%/2.5%以上増やすと増加額の15%/30%を税額控除、くるみん・えるぼしで5%上乗せ、控除は法人税額の20%が上限、5年繰越 | 2027/3/31 → 2030/3/31(令和9〜11年度) | 法人税・所得税 |
| 中小企業防災・減災投資促進税制の拡充及び延長(浸水防止設備を構築物として追加、自治体補助金との併用可、2年延長) | 中小企業庁 | 事業継続力強化計画の認定を受けて自家発電設備・止水設備等を取得すると特別償却(2025年4月以降の取得は16%) | 2027/3/31 → 2029/3/31 | 法人税・所得税 |
| 中小企業者等の法人税率の特例の延長等 | 中小企業庁 | 年800万円以下の所得に本則19%ではなく15%を適用 | 2027/3/31 → 2029/3/31 | 法人税 |
| 交際費の課税の特例(中小法人の損金算入特例)の延長 | 中小企業庁 | 定額控除限度額800万円までの交際費を損金算入 | 2027/3/31 → 2030/3/31 | 法人税 |
| 工事請負契約書及び不動産譲渡契約書に係る印紙税の特例措置の延長(3年延長) | 国交省 建設振興課 | ホテルの売買契約書・改修工事の請負契約書の印紙税を本則から20〜50%軽減 | 2027/3/31 → 2030/3/31 | 印紙税 |
| リート及び特定目的会社に係る登録免許税の特例措置の延長(2年延長)、同 不動産取得税の課税標準3/5控除(地方税) | 国交省 不動産市場整備課 | リート等がホテルを取得する際の移転登記の税率を本則2%から1.3%に軽減、不動産取得税の課税標準から3/5を控除 | 2027/3/31 → 2029/3/31 | 登録免許税・不動産取得税 |
| 中小企業事業再編投資損失準備金(中堅・中小グループ化税制)の延長等(3年延長、手続の見直し) | 中小企業庁(国交省も共同提出) | 経営力向上計画の認定を受けた中小企業が株式取得でM&Aを行う際、取得価額の70%を準備金として損金算入(5年据置後に5年で益金算入) | 2027/3/31 → 2030/3/31 | 法人税 |
| 半島振興対策実施地域・離島振興対策実施地域における工業用機械等に係る割増償却制度の延長(各2年延長) | 国交省 国土政策局 | 対象業種に「旅館業」を明記。5年間、機械装置は普通償却限度額の32%、建物・附属設備・構築物は48%を割増償却。資本金5,000万円以下は取得等、超は新増設が対象 | 2027/3/31 → 2029/3/31 | 法人税・所得税 |
| 過疎地域における事業用設備等に係る割増償却の延長 | 国交省 | 財務省掲載の要望一覧に項目として記載(シートは画像形式のため本稿では詳細を引用していない) | 延長要望 | 法人税・所得税 |
| 沖縄の観光地形成促進地域における課税の特例措置の延長(3年延長) | 観光庁 観光地域振興課(内閣府・経産省と共同) | 宿泊施設に附属する温泉保養施設・会議場施設等の新増設(取得価額1,000万円超)で、機械装置の15%・建物等の8%を法人税額から控除(法人税額の20%限度、繰越4年、取得価額上限20億円)。法人住民税にも自動連動 | 2027/3/31 → 2030/3/31 | 法人税・法人住民税・事業所税 |
| 土地に係る固定資産税の負担調整措置及び条例減額制度の延長 | 国交省(地方税) | 令和9年度の評価替えで商業地等の負担が増える見込みのなか、激変緩和を継続 | 延長要望 | 固定資産税・都市計画税 |
| 減価償却資産に係る取得価額基準等の見直し | 経産省 企業行動課 | 10万円未満の全額損金・10万円以上20万円未満の3年均等償却の基準額を物価上昇を踏まえて見直し(金額は示されていない) | 新規(恒久) | 法人税・所得税 |
| 電子渡航認証制度(JESTA)の導入に伴う外国人旅行者向け消費税免税制度の確認事務等の見直し | 観光庁 観光戦略課 | 令和10年度中のJESTA導入で上陸許可証印が省略される入国者が出るため、館内免税店の確認事務を見直す | 恒久措置 | 消費税・酒税 |
出典:財務省「令和9年度税制改正要望」掲載の国土交通省・経済産業省 要望事項シート、総務省「各府省庁の令和9年度税制改正要望(地方税)」よりホテルバンク編集部作成
表のなかで宿泊業にとって新しい論点は二つある。ひとつは中小企業経営強化税制の「経営規模拡大設備」で、令和7年度改正で建物とその附属設備を対象に加えた拡充枠について、要望は「適用要件の柔軟化等、インセンティブの強化」を求めている。専門家の解説によれば現行の拡充枠は売上高100億円超を目指す投資計画などが要件で、100室規模の単体ホテルには届きにくい設計だったが、要件が緩む方向に動けば増築・建替えを伴う投資で使える可能性が出てくる。現行のE類型が建物本体に付ける特別償却15〜25%と賃上げ5%の要件を100室クラスで試算した結果は、経営強化税制E類型の試算記事で詳しく扱っている。もうひとつは減価償却資産の取得価額基準で、10万円・20万円という閾値は長年据え置かれてきた。客室のテレビや冷蔵庫、寝具の更新はこの閾値の周辺に集中するため、見直しの中身次第で初年度の損金が動く。
100室モデルの置き方 — 国内2,300施設・27.8万室が同じ規模帯にいる
試算の前に、100室という規模がどの層を代表するのかを確認しておく。メトロエンジンリサーチが追跡する国内施設のうち、ホテル・旅館系カテゴリで客室数が登録されている30,069施設を客室規模別に集計すると、客室数100〜149室の施設は2,300施設・27万8,334室で、150〜199室の1,525施設・26万1,447室と合わせて「100室台」が53万9,781室を占める。施設数では20室未満が13,537施設と圧倒的に多いが、客室ベースでは100室台(約54万室)と200室以上(約60万室)がそれぞれ全体の約3割(約31%・約34%)を担っており、100室は客室供給の中心に近い規模といえる。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(ホテル・旅館系カテゴリ、客室数が登録されている施設、N=30,069施設)
モデルは次のとおり置いた。建物14億円と建物附属設備6億円の計20億円で既存ホテルを取得し、土地は別途とする。建物はRC造で定額法(償却率0.026、年3,640万円)、附属設備は定額法(償却率0.067、年4,020万円)で償却する。取得後の初年度に客室改装として器具備品・建物附属設備3億円、機械装置3,000万円、自家発電設備2,000万円を投資し、従業員40人・給与総額1億4,000万円で2.5%の賃上げを行う。法人税等の実効税率は34%とする。中小企業向けの特例は資本金1億円以下(税額控除の一部は3,000万円以下)の法人が対象なので、資本金がこの範囲にあることも前提である。いずれも仮定であり、各社の決算に当てはめる際は税理士と前提を置き直していただきたい。
試算① 設備投資系 — 即時償却なら初年度9,500万円、税額控除なら3,000万円が動く
最も効き方が大きいのは中小企業経営強化税制である。改装投資3億円(器具備品・建物附属設備)を経営力向上計画の認定のもとで取得し、即時償却を選ぶと、通常の償却(15年定額で年2,010万円)との差2億7,990万円が初年度の損金に上乗せされる。実効税率34%で初年度の納税が9,517万円少なくなる計算で、1室あたり95万円に相当する。ただしこれは繰延であり、2年目以降は通常なら計上できた償却費683万円分の税負担が毎年戻ってくるため、15年の累計では差が消える。一方で税額控除を選べば、取得価額の10%にあたる3,000万円(資本金3,000万円超1億円以下は7%で2,100万円)が恒久的に減る。どちらが有利かは、初年度の所得の大きさと法人税額の20%という控除上限で決まる。
中小企業投資促進税制は計画認定が要らない分、使いやすい。機械装置3,000万円に30%の特別償却を適用すると初年度の損金が900万円増え、税額では306万円の繰延になる。資本金3,000万円以下であれば7%の税額控除(210万円)も選べる。ホテルで機械装置に区分される資産は限られる(リネン洗濯設備や一部の厨房機械など)ため、空調や給排水のように建物附属設備に区分されるものは経営強化税制側で拾うのが筋道になる。
防災・減災投資促進税制は規模こそ小さいが、要望内容に実務上の変化がある。自家発電設備2,000万円に16%の特別償却を適用すると初年度の損金が320万円増え、税額で109万円の繰延になる。要望は対象に浸水防止設備(構築物)を加え、地方公共団体の補助金との併用を認める内容で、止水板や防水扉を自治体補助で入れつつ特別償却も使う、という組み合わせが可能になる方向である。
固定資産税側では、先端設備等導入計画に基づく特例が改装投資に直接掛かる。新規取得した償却資産3億円は初年度の評価額が2億7,870万円(定率法・半年分の減価)、固定資産税は390万円である。1.5%以上の賃上げ方針を表明すれば3年間課税標準が1/2になり、初年度195万円・3年累計506万円の軽減となる。3.0%以上なら5年間1/4で、初年度293万円・5年累計1,103万円まで広がる。こちらは繰延ではなく税額そのものが減る恒久効果で、要望はこの賃上げ水準の要件を見直したうえで2年延長する内容である。
出典:各省庁の令和9年度税制改正要望シートの率・限度を100室モデル(本文の前提)に当てはめてホテルバンク編集部試算。繰延は課税時期の差、恒久は税額の差
試算② 取得・再編系 — 印紙税は12万円、リート経由の取得は3,700万円、M&A準備金は1.2億円
取得の場面で誰にでも掛かるのが印紙税である。20億円の不動産譲渡契約書は「10億円超50億円以下」の区分で本則40万円のところ特例で32万円、3億円の改修工事請負契約書は「1億円超5億円以下」で本則10万円のところ6万円となり、合わせて12万円の差になる。金額は小さいが、要望が通らなければ2027年4月以降の契約から本則に戻る点は押さえておきたい。要望は2030年3月31日までの3年延長である。
取得主体がリート等の場合は桁が変わる。移転登記の登録免許税は固定資産税評価額を課税標準とするため、評価額を取得価格の6割の12億円と仮定すると、本則2%の2,400万円が特例1.3%で1,560万円となり、差は840万円である。地方税側では不動産取得税(非住宅家屋4%)の課税標準から3/5が控除されるため、2,880万円が軽減される。合計3,720万円、1室あたり37万円で、国土交通省はこれを「リート等の資産総額を2030年頃までに約40兆円」という政府目標の達成手段として2年延長を求めている。ホテルを保有する上場リートの取得動向については出口コストの試算記事も参照されたい。
事業会社が旅館・ホテルを株式取得で買う場合には、中堅・中小グループ化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)がある。株式取得5億円の70%にあたる3億5,000万円を準備金として損金算入でき、初年度の税額で1億1,900万円の繰延になる。5年の据置後に5年で益金に戻すため累計では消えるが、買収直後の資金繰りには大きい。要望は3年延長と「中小企業のM&Aの実態を踏まえた手続の見直し」で、国土交通省も共同で提出している。
試算③ 人件費・所得系 — 賃上げ2.5%で年105万円、軽減税率で年32万円
賃上げ促進税制は、要望の中で最も制度設計が動く項目である。現行は給与総額を前年度比1.5%以上増やすと増加額の15%、2.5%以上で30%を税額控除し、くるみん・えるぼしの認定で5%が上乗せされる。給与総額1億4,000万円のモデルで2.5%(350万円)の賃上げを行えば控除は105万円、上乗せがあれば122万円となり、3年続ければ315万円が恒久的に減る。控除は法人税額の20%が上限で、使い切れなかった分は5年繰り越せる。
要望はこれを3年延長したうえで、「雇用者給与等支給額の増加」という総額基準を「従業員一人平均給与等支給額の増加」基準に改めるとしている。宿泊業のように繁閑で人員が動く業種では、人数が減った年に総額基準を満たしにくかったが、一人平均基準なら評価のされ方が変わる。閾値そのものも「より積極的な賃上げを後押し」する方向で見直すとされており、12月の大綱で率と要件がどう置かれるかが宿泊業には最も身近な論点になる。中小企業向け以外の賃上げ税制は令和8年度改正で大企業向けが廃止・中堅向けが縮小されており、中小枠が賃上げ税制の中心になっている。
法人税率の特例は年800万円以下の所得に19%ではなく15%を適用するもので、所得が800万円以上あれば年32万円、2年延長で64万円の差になる。交際費の特例は中小法人の800万円までの損金算入を3年延長する内容で、婚礼や宴会営業を持つホテルの営業活動に関わる。日本ホテル協会は7月28日の要望で、交際費の飲食接待費の非課税上限(1万円)の引上げも求めており、こちらは中小企業庁の要望シートには含まれていない。
累計で見ると — 「繰延」は山が崩れ、「恒久」は積み上がる
初年度の数字だけを並べると即時償却の9,517万円が突出するが、5年累計で見ると景色が変わる。即時償却の効果は2年目から毎年683万円ずつ戻り、5年目の累計は6,783万円、15年目にはゼロになる。半島・離島の割増償却も同じ繰延だが、5年間にわたって毎年1,250万円ずつ積み上がり、5年累計で6,251万円に達したあと、残りの償却期間で戻る。これに対して固定資産税の特例(3%賃上げ・1/4×5年)は5年累計1,103万円、賃上げ税制は年105万円で5年525万円が、いずれも戻らない恒久効果として残る。
出典:ホテルバンク編集部試算(100室モデル)。繰延は課税の時期をずらす効果で、償却期間の終了時に累計差はゼロになる
| 項目(モデルでの適用前提) | 初年度 | 5年累計 | 1室あたり(初年度) | 性質 |
|---|---|---|---|---|
| 経営強化税制・即時償却(改装3億円) | 9,517万円 | 6,783万円 | 95.2万円 | 繰延 |
| 経営強化税制・税額控除10%(同上、即時償却との選択) | 3,000万円 | 3,000万円 | 30.0万円 | 恒久(法人税額20%限度) |
| 沖縄 観光地形成促進地域(温泉保養施設等2億円+機械3,000万円) | 2,050万円 | 2,050万円 | 20.5万円 | 恒久(繰越4年) |
| 半島・離島 割増償却48%(建物14億円+附属6億円を新設) | 1,250万円 | 6,251万円 | 12.5万円 | 繰延(5年間) |
| 先端設備 固定資産税特例・3%賃上げ(償却資産3億円) | 293万円 | 1,103万円 | 2.9万円 | 恒久 |
| 先端設備 固定資産税特例・1.5%賃上げ(同上) | 195万円 | 506万円(3年) | 2.0万円 | 恒久 |
| 投資促進税制・特別償却30%(機械装置3,000万円) | 306万円 | — | 3.1万円 | 繰延(控除7%なら210万円の恒久) |
| 賃上げ促進税制・2.5%賃上げ(給与総額1.4億円) | 105万円 | 525万円 | 1.1万円 | 恒久(法人税額20%限度) |
| 防災・減災投資促進税制・特別償却16%(自家発電2,000万円) | 109万円 | — | 1.1万円 | 繰延 |
| 法人税率の特例15%(所得800万円超の場合) | 32万円 | 64万円(2年) | 0.3万円 | 恒久 |
| 印紙税特例(譲渡契約20億円+請負契約3億円) | 12万円 | 12万円 | 0.1万円 | 恒久(契約時のみ) |
| リート等の登録免許税1.3%+不動産取得税3/5控除(評価額12億円) | 3,720万円 | 3,720万円 | 37.2万円 | 恒久(取得主体がリート等) |
| グループ化税制・準備金70%(株式取得5億円) | 1億1,900万円 | 1億1,900万円 | 119万円 | 繰延(5年据置後5年で益金) |
出典:各省庁の令和9年度税制改正要望シートの率・限度をもとにホテルバンク編集部試算。実効税率34%、固定資産税率1.4%、控除限度に達しない前提
感応度 — 資本金区分と改装投資額・税率で効果はどう動くか
ここまでの試算は「資本金1億円以下・改装3億円・実効税率34%」という一点の前提に立っている。実際には、どの特例が使えるかは資本金で、効果の大きさは投資額と税率で動く。まず資本金区分ごとに、モデルで使える項目の初年度効果を合算した(沖縄・半島離島の立地枠と、取得主体がリート等の場合の枠は別に加算される)。
| 資本金区分 | モデルで使える項目 | 初年度(即時償却・特別償却を選択) | 初年度(税額控除を選択) |
|---|---|---|---|
| 資本金3,000万円以下 | 経営強化(即時償却 or 控除10%)、投資促進(特別償却30% or 控除7%)、防災・減災、先端設備(3%賃上げ)、賃上げ促進、法人税率15%、印紙税 | 1億374万円 | 3,761万円 |
| 資本金3,000万円超1億円以下 | 経営強化(即時償却 or 控除7%)、投資促進(特別償却30%のみ)、防災・減災、先端設備(3%賃上げ)、賃上げ促進、法人税率15%、印紙税 | 1億374万円 | 2,957万円 |
| 資本金1億円超(中小企業者等に該当しない) | 印紙税のみ(中小企業向けの特例は対象外) | 12万円 | 12万円 |
出典:表3の各項目を資本金区分ごとの適用可否に沿って合算したホテルバンク編集部試算。即時償却・特別償却の列は繰延を含み、税額控除の列は防災・減災(特別償却)を除いて恒久効果。控除限度に達しない前提
資本金1億円以下であれば、即時償却を選ぶ場合の初年度効果はおよそ1億374万円で、資本金3,000万円の線をまたいでも変わらない。差が出るのは税額控除を選ぶ場合で、3,000万円以下は3,761万円、3,000万円超1億円以下は経営強化の控除率が7%に下がり投資促進の控除も使えないため2,957万円にとどまる。資本金1億円を超えると中小企業向けの特例は一つも使えず、モデルで残るのは印紙税の12万円だけである。同じ100室のホテルでも、効果の桁を決めるのは客室数ではなく資本金である。
| 改装投資額(器具備品・建物附属設備) | 即時償却・実効税率25% | 即時償却・30% | 即時償却・34% | 税額控除10% | 控除を当期で使い切るのに要る法人税額 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1億円 | 2,333万円 | 2,799万円 | 3,172万円 | 1,000万円 | 5,000万円 |
| 2億円 | 4,665万円 | 5,598万円 | 6,344万円 | 2,000万円 | 1億円 |
| 3億円(モデル) | 6,998万円 | 8,397万円 | 9,517万円 | 3,000万円 | 1億5,000万円 |
| 4億円 | 9,330万円 | 1億1,196万円 | 1億2,689万円 | 4,000万円 | 2億円 |
| 5億円 | 1億1,663万円 | 1億3,995万円 | 1億5,861万円 | 5,000万円 | 2億5,000万円 |
出典:中小企業経営強化税制の要望事項シートの率・限度を100室モデルに当てはめたホテルバンク編集部試算。即時償却は通常償却(15年定額・償却率0.067)との初年度差×実効税率で繰延。税額控除は法人税額の20%が上限のため、右端列=控除額÷20%
即時償却の効果は改装投資額と税率にほぼ比例し、改装1億円・実効税率25%の2,333万円から、5億円・34%の1億5,861万円まで広がる。税額控除10%は税率に左右されない代わりに、法人税額の20%という上限が効く。モデルの3億円で控除3,000万円を当期に使い切るには法人税額が1億5,000万円必要で、100室クラスの単体ホテル会社が毎期この水準の法人税を納めているとは限らない。所得が小さい会社ほど控除は使い切れず、即時償却の繰延のほうが資金繰りに効くという整理になる。
立地で加算される二つの枠 — 沖縄の8%控除と半島・離島の48%割増
沖縄振興特別措置法に基づく観光地形成促進地域の投資税額控除は、観光庁が内閣府・経済産業省と共同で3年延長を求めている。対象施設には「休養施設(宿泊施設に附属する温泉保養施設を含む)」と「集会施設(宿泊施設に附属する会議場施設・研修施設を含む)」が明記されており、宿泊棟そのものではなく附属施設の新増設が対象になる。モデルで温泉保養施設と会議場の建物2億円、機械装置3,000万円を新設すると、建物等の8%で1,600万円、機械装置の15%で450万円、合計2,050万円が法人税額から控除される。限度は法人税額の20%で、控除しきれない分は4年繰り越せる。地方税側では法人住民税の法人税割にも自動連動し、那覇市で新設された1億円超の特定民間観光関連施設は5年間、事業所税の資産割の課税標準が2分の1になる。観光庁のシートはこの措置の達成目標として、令和11年度の沖縄の観光収入1兆3,328億円と、活用事業者の設備投資額30億3,811万円を掲げている。
半島振興対策実施地域と離島振興対策実施地域の割増償却は、製造業・旅館業・農林水産物等販売業・情報サービス業等を対象に、市町村が産業振興促進計画を作り主務大臣が認定した地域で使える。旅館業の場合、資本金5,000万円以下は機械装置・建物・附属設備・構築物の取得等、5,000万円超は新増設が対象で、取得価額の下限は資本金1,000万円以下で500万円、1,000万円超5,000万円以下で1,000万円、5,000万円超で2,000万円である。5年間、機械装置は普通償却限度額の32%、建物・附属設備・構築物は48%を上乗せして償却できる。モデルの建物14億円・附属設備6億円を半島地域で新設した場合、普通償却7,660万円に対して48%の3,677万円が毎年加わり、税額では年1,250万円、5年で6,251万円の繰延になる。国土交通省のシートは半島地域の人口増減率を▲13.5%、離島を▲17.2%(平成27年〜令和6年)と示し、旅館業を地域の基幹産業として支援する必要を延長理由に挙げている。この割増償却と指定地域の条例による固定資産税免除が投資利回りをどこまで動かすかは、過疎・離島・半島の税制優遇でIRRは0.6pt動くで立地別に試算している。
地方税側の論点 — 令和9年度の評価替えと土地の負担調整措置
ホテルの固定資産税は建物・償却資産・土地の三層で掛かる(償却資産税の1室あたり試算)。このうち土地について、国土交通省は「土地に係る固定資産税の負担調整措置及び条例減額制度の延長」を地方税の要望に入れている。シートは、全国的に地価が上昇し特に令和6〜8年の上昇幅が大きいことから「令和9年度の評価替えに伴い、商業地等の固定資産税負担は大幅に増加する見込み」とし、負担調整措置を「期待先行で上昇する地価に連動する固定資産税の急激な負担増を緩和し、賃料等の収益が増加するタイミングに合わせる効果」と位置づけている。商業地の地価指数は三大都市圏平均で直近に+21.4%、全国平均で+15.0%(国交省「地価公示」をもとに平成20年=100とした指数)と記されており、駅前・繁華街に立つホテルほど評価替えの影響を受けやすい。日本ホテル協会も7月の要望で同じ措置の延長を第一に挙げており、省庁要望と業界要望が重なる項目である。負担調整措置が働いた場合に評価額の上昇が税額にどこまで反映されるかは、2027年度の固定資産税評価替え試算で10立地について追っている。
償却資産については前述の先端設備等導入計画の特例があり、中小企業庁のシートによれば適用件数は令和5年度11,120件、令和6年度6,539件、令和7年度4,523件(12月末まで)で、減収額は令和7年度76億円である。令和7年度改正で賃上げ方針の表明が要件化されたあと、賃上げ表明をした適用者の労働生産性は前年度比+2.6%だったとシートは記しており、要望はこの実績を踏まえて賃上げ水準の要件を見直す。
業界要望との重なり — 協会が求めた10項目のうち省庁要望に入ったのは4項目
日本ホテル協会は7月23日の理事会で令和9年度税制改正要望を決め、7月28日に公表した。内容は、交際費の飲食接待費の非課税上限引上げと特例延長、土地の固定資産税の負担調整措置等の延長、建物の固定資産税の最終残価率到達年数の短縮(ホテル・旅館は45年だが宿泊4団体の調査では32年が適当との結果)、産業競争力強化法の計画認定の再開、印紙税の廃止または非課税上限の引上げ、食料品の消費税減税実施時の手当て、観光人材投資促進税制の創設、宿泊業の危機対応準備金制度の創設、サイバーセキュリティ投資促進税制の創設、外国人旅行者向け消費税免税制度の維持、そして中小企業投資促進税制と中小企業経営強化税制の延長である。
これを省庁側の要望と突き合わせると、投資促進税制と経営強化税制の延長、交際費特例の延長、土地の負担調整措置の延長、免税制度の維持(JESTA対応の見直しとして)の4項目は省庁要望に対応する項目があり、12月の大綱に向けて審議の俎上に載る。一方、最終残価率到達年数の見直し、観光人材投資促進税制、危機対応準備金、サイバーセキュリティ投資税制は、今回確認した国土交通省・経済産業省のシートには対応する項目が見当たらない。宿泊業固有の税制は業界団体の要望として提示されている段階であり、将来の論点として残る。
12月の与党税制改正大綱までの日程 — 前年は11月20日に議論開始、12月19日に決定
税制改正は毎年ほぼ同じ時間割で進む。各省庁の要望は8月末に出そろい、9月から11月にかけて財務省主税局・総務省自治税務局が各省庁からヒアリングを行い、11月中旬から下旬に与党税制調査会が議論を始め、12月中旬から下旬に与党の大綱が決まり、年内に政府の大綱が閣議決定される。令和8年度改正では自民党税制調査会の総会が2025年11月20日に開かれ、与党大綱は12月19日、閣議決定は12月26日だった。改正法案は翌年1月以降の通常国会に提出され、3月末までに成立して4月1日から施行されるのが通例である。
| 時期 | 出来事 | 宿泊事業者にとっての意味 |
|---|---|---|
| 2026年7月28日(火) | 日本ホテル協会が令和9年度税制改正要望を公表 | 業界側の論点が出そろう |
| 2026年8月28日(金) | 国土交通省が税制改正要望事項(36ページ)を公表 | 観光庁・国交省の項目が確定 |
| 2026年8月31日(月) | 財務省が各府省庁の要望(国税)を取りまとめ | 208項目(重複排除124項目)が公開 |
| 2026年9月1日(火) | 総務省が各府省庁の要望(地方税)を公表 | 固定資産税・不動産取得税の項目が確認できる |
| 9月〜11月 | 財務省主税局・総務省自治税務局による各省庁ヒアリング、要望の絞り込み | 延長項目の「見直し」の中身が詰まる |
| 11月中旬〜下旬(例年) | 与党税制調査会が議論を開始(前年は11月20日総会) | 賃上げ税制・経営強化税制の要件が報道に出始める |
| 12月中旬〜下旬(例年) | 与党税制改正大綱の決定(前年は12月19日)、政府大綱の閣議決定(前年は12月26日) | 採否・率・期限が固まる |
| 2027年1月〜3月 | 改正法案の国会提出・審議、3月末成立が通例 | 成立までは現行制度が続く |
| 2027年4月1日 | 改正法施行 | 延長が認められた制度は切れ目なく継続 |
出典:財務省・総務省・国土交通省の公表日、前年の日程は自由民主党「令和8年度税制改正大綱」(2025年12月19日)および財務省「令和8年度税制改正の大綱」(2025年12月26日閣議決定)よりホテルバンク編集部作成。11月以降は例年の進行で、政治日程により前後する
実務上の留意点は、延長が大綱に盛り込まれても法律の成立は3月末であり、「2027年3月31日までの取得」を要件とする現行制度と、4月1日以降の延長後制度の境目に投資が掛かる場合は扱いが分かれる点である。経営力向上計画・事業継続力強化計画・先端設備等導入計画はいずれも認定を受けてから設備を取得する順序が求められるため、2027年春以降の改装を見据えるなら、計画の作成と認定申請を年内から準備しておくと選択肢が広がる。また、早期事業再生法が2026年12月11日に施行されるのに合わせ、経済産業省は事業承継税制の納税免除要件に同法の権利変更決議を加える要望も出しており、借入の組み替えを伴う承継では同法の解説記事と併せて確認しておきたい。
まとめ — 100室ホテルで効くのは「中小企業枠」「立地枠」「取得枠」の三つ
令和9年度税制改正要望のうち宿泊施設に関係する項目は、宿泊業を名指しするものではなく、中小企業向けの設備投資・賃上げ・法人税率の各特例、半島・離島・沖縄の立地特例、そして売買・証券化に掛かる印紙税・登録免許税・不動産取得税の特例という三つの経路で効いてくる。100室・建物取得価格20億円のモデルでは、改装3億円に経営強化税制の即時償却を使えば初年度9,517万円(1室95万円)の繰延、税額控除なら3,000万円の恒久効果があり、固定資産税の先端設備特例は3%の賃上げ方針で5年累計1,103万円、賃上げ税制は年105万円、沖縄の投資税額控除は附属施設2億円で1,600万円、半島・離島の割増償却は新設時に年1,250万円といった規模感になる。リート等が取得する場合は登録免許税と不動産取得税で3,720万円が動く。
これらはいずれも要望段階であり、12月の与党税制改正大綱で採否と要件が決まる。延長項目の多くは「見直しのうえ延長」とされているため、率や閾値が現行のまま続くとは限らない。宿泊事業者にとっての準備は、自社が中小企業者等の範囲にあるかを資本金で確認すること、2027年春以降の投資計画について経営力向上計画・先端設備等導入計画・事業継続力強化計画のどれが当てはまるかを整理すること、そして賃上げの基準が「一人平均」に変わった場合に自社の数字がどう動くかを試算しておくことの三点に集約される。税額の判断は、本稿の前提をそのまま使わず、税理士に個別に確認していただきたい。
よくある質問
Q. 要望が大綱に入らなかった場合、2027年4月以降はどうなりますか。
A. 延長を求めている制度は現行の適用期限(多くは2027年3月31日)で終了します。期限内に取得・契約した分には現行制度が適用されるのが通例ですが、計画認定を要する制度は認定日と取得日の順序が要件になるため、期限間際の投資は税理士に確認してください。
Q. 中小企業向けの特例は、どの規模のホテル会社まで使えますか。
A. 中小企業者等の範囲は原則として資本金1億円以下の法人(一部の税額控除は3,000万円以下)で、大規模法人の子会社などは除かれます。客室数ではなく資本金と資本関係で決まるため、100室でも300室でも会社の形態次第で使えます。
Q. 試算の「繰延」と「恒久」はどう違いますか。
A. 繰延は即時償却や割増償却のように損金の計上時期を前倒しする効果で、償却期間全体では税額の合計は変わりません。恒久は税額控除や固定資産税の課税標準の軽減のように、納める税額そのものが減る効果です。資金繰りを重視するなら繰延、総額を重視するなら恒久の効果を見るのが整理の目安になります。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
要望項目・率・期限は財務省「令和9年度税制改正要望」(8月31日付)に掲載された国土交通省・経済産業省の要望事項シート、総務省「各府省庁の令和9年度税制改正要望(地方税)」、国土交通省「令和9年度国土交通省税制改正要望事項」(2026年8月28日公表)から引用した。業界要望は日本ホテル協会の公表資料(2026年7月28日)、前年の日程は与党・政府の令和8年度税制改正大綱による。客室規模の分布はメトロエンジンリサーチの施設データ(ホテル・旅館系カテゴリで客室数が登録されている30,069施設)を集計した。
■ 試算前提
100室・建物14億円(RC造・定額法・償却率0.026)+建物附属設備6億円(定額法・償却率0.067)、土地は別。初年度に改装3億円(器具備品・建物附属設備)・機械装置3,000万円・自家発電設備2,000万円を投資し、給与総額1億4,000万円で2.5%賃上げ。実効税率34%、固定資産税率1.4%、償却資産は定率法(耐用年数15年・減価率0.142・初年度は半年分)。リート等の登録免許税・不動産取得税は評価額を取得価格の6割(12億円)と仮定。資本金1億円以下(税額控除の一部は3,000万円以下)を前提とし、感応度表では資本金区分・改装投資額・実効税率を動かした。
■ 限界・留意点
すべて要望段階の率・限度に基づく上限値で、12月の大綱と翌年3月の法改正で率・要件・期限は変わりうる。税額控除は法人税額の20%などの控除限度に達しない前提で、所得が小さい会社では試算どおりに使い切れない。5年累計は、要望の延長期間(多くは2年・3年)を超える年も現行の率が続くと仮定した値である。過疎地域の割増償却は要望事項シートの内容を確認できていないため試算に含めていない。個別の税務判断は税理士に確認されたい。
■ 政府公表資料(一次情報)
- 財務省「令和9年度税制改正要望」(各府省庁から提出された要望・8月31日付)
- 財務省「令和9年度税制改正要望の状況について」(8月31日付の単純集計)
- 財務省 令和9年度税制改正要望(国土交通省)— 印紙税特例の延長、リート等の登録免許税特例の延長、半島・離島の割増償却の延長、JESTA導入に伴う免税制度の見直し、沖縄の観光地形成促進地域の特例延長 各要望事項シート
- 財務省 令和9年度税制改正要望(経済産業省)— 中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制、中小企業向け賃上げ促進税制、中小企業防災・減災投資促進税制、法人税率の特例、交際費特例、減価償却資産の取得価額基準、早期事業再生法に伴う事業承継税制 各要望事項シート
- 国土交通省「令和9年度国土交通省税制改正要望事項」(2026年8月28日公表)
- 総務省「各府省庁の令和9年度税制改正要望(地方税)」
- 総務省掲載 経済産業省「生産性向上・賃上げに資する中小企業の設備投資の固定資産税の特例の拡充等」要望事項シート
- 総務省掲載 国土交通省「沖縄の観光地形成促進地域における課税の特例措置の延長」要望事項シート(地方税)
- 中小企業庁「中小企業防災・減災投資促進税制の概要」(特別償却率16%)
■ 業界団体・解説
- 一般社団法人日本ホテル協会「『令和9年度税制改正要望』及び『予算・政策要望』の決定について」(2026年7月28日)
- TKC「国土交通省 令和9年度税制改正要望事項を公表」(2026年8月31日)
- 山田&パートナーズ「令和7年度税制改正 中小企業経営強化税制の見直し・延長」(経営規模拡大設備の要件解説)
- TKC「令和8年度与党税制改正大綱が決定」(2025年12月19日)
- 国税庁 中小企業事業再編投資損失準備金(措置法第56条)解説
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ — 国内宿泊施設の客室規模分布(ホテル・旅館系カテゴリで客室数が登録されている30,069施設)
