2027年1月10日に放送が始まるNHK大河ドラマ第66作『逆賊の幕臣』(主演・松坂桃李)の舞台は、主人公・小栗上野介忠順が最期を迎えた群馬県高崎市倉渕町と、製鉄所の建設を主導した神奈川県横須賀市の二つに分かれる。放送まで約3か月となった2026年10月時点でメトロエンジンリサーチのデータを集計すると、倉渕町権田の半径10km圏で掲載が確認できる宿泊施設は3施設40室で、宿泊の受け皿は車で30〜47分の距離にある高崎駅前・伊香保・安中などに計5,804室が広がっていた。本稿では「現地に泊まるのか、拠点に泊まって通うのか」を道路距離で整理したうえで、過去3作のゆかり地で放送年に宿泊単価がどう動いたかを月次データで確かめ、放送年に間に合う新規供給までを読み解く。
本記事における指標の定義
※本記事における指標の定義:ADR(平均客室単価)=各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。OCC(稼働率)=エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値、REIT月次公表値との整合性検証で概ね数pt 程度の精度を確認済)。掲載価格に言及する箇所は2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。
受け皿(施設数・客室数):メトロエンジンリサーチが追跡するうち、2026年4〜9月に掲載が確認できた宿泊施設(レジャーホテルを除く)を対象に、起点からの直線距離で集計した。OTA未掲載の旅館・民宿・簡易宿所は含まない。2026年8月公開の関連記事とは掲載確認の対象期間が異なるため、施設数・客室数は一致しない。
道路距離・所要時間:公開されている道路ネットワークデータに基づく経路計算による目安で、渋滞・冬季の路面状況は考慮していない。倉渕側の起点は東善寺が所在する高崎市倉渕町権田の代表点。データ出典:メトロエンジンリサーチ
- — 倉渕は10km圏に3施設40室。高崎駅まで道路30.3km・約44分で、「拠点に泊まって通う」型の舞台地。車で30〜47分の5クラスターに計5,804室が広がる。
- — 横須賀はヴェルニー公園5km圏に10施設892室。半径1kmに3施設437室がまとまり、史跡の徒歩圏に泊まれる「現地泊」型。
- — 2026年8月のADRは高崎市 約¥7,700(N=33)、安中市 約¥8,900(N=13)、横須賀市 約¥12,200(N=17)。高崎は群馬県中央値の58%の水準。
- — 過去3作のゆかり地は県比−6.9〜+6.0ポイントと符号が割れた(大津・越前・台東区・長浜・名古屋市中村区の6比較)。大河は需要の一因であり、市全体の単価を単独で動かす姿は確認できない。
- — 放送年に間に合う新規供給は高崎市内の378室(199室が2026年11月2日開業予定、179室が報道で2026年完成予定)。横須賀は129室が2029年竣工予定で、放送年は既存ストックで受ける。
『逆賊の幕臣』の舞台は高崎市倉渕と横須賀 — 生誕200年に重なる2027年
まずは事実関係を確認しておきたい。『逆賊の幕臣』はNHK大河ドラマの第66作で、脚本は安達奈緒子、主演は松坂桃李。主人公の小栗上野介忠順(1827〜1868年)は、1860年の遣米使節に加わったのち幕府の要職を歴任し、横須賀製鉄所の建設を推し進めた幕臣である。2027年は小栗の生誕200年にあたり、放送は2027年1月10日に始まる予定だ。横須賀市は制作決定時の市長コメントで、小栗を「横須賀製鉄所の開設に尽力した人物」と位置づけている。
なお本稿が扱うのは撮影地(ロケ地)ではなく、史実のうえで物語の舞台となる「ゆかりの地」である。群馬側は、小栗が罷免後に移り住み、1868年に生涯を閉じた高崎市倉渕町権田(旧権田村)で、墓所のある東善寺が中心になる。上毛新聞によれば、東善寺の近くでは一般社団法人小栗上野介顕彰会が記念館の建設を進めており、2026年12月の開館を目指している。神奈川側は、製鉄所跡(現在は米海軍施設)を対岸に望むヴェルニー公園の一帯である。タウンニュース横須賀版(2026年9月25日)は、市が汐入駅近くの横須賀産業交流プラザに大河ドラマ館を2027年7月から12月まで開設する方針だと伝えており、放送年の後半に集客の山が来る設計になっている。
| エリア | 主な拠点 | 放送年に向けた動き | 出典 |
|---|---|---|---|
| 群馬県高崎市倉渕町 | 東善寺(小栗の墓所)、終焉の地(烏川河畔) | 小栗上野介記念館が2026年12月の開館を目指す | 上毛新聞、高崎市 |
| 群馬県安中市周辺 | 倉渕に隣接。北陸新幹線の安中榛名駅 | 倉渕への鉄道の玄関口のひとつ | — |
| 神奈川県横須賀市 | ヴェルニー公園、ヴェルニー記念館、ティボディエ邸 | 大河ドラマ館を2027年7〜12月に開設予定。横須賀美術館で特別展(2027年7〜9月) | タウンニュース、横須賀市 |
出典:横須賀市、高崎市、上毛新聞、タウンニュース横須賀版の公表・報道よりホテルバンク編集部作成
舞台地の宿泊受け皿を施設数・客室数・価格帯で棚卸しした結果は、2026年8月公開の2027年大河『逆賊の幕臣』ゆかり地の宿泊受け皿 — 横須賀・高崎を放送1年前に棚卸しでまとめている。今回はその続編として、道路距離で見た「泊まる場所の選び方」と、過去の大河ゆかり地の単価の動き、放送年に間に合う供給の3点に絞って掘り下げる。
舞台地の単価階層 — 高崎は県中央値の58%、横須賀は県内の中位帯
舞台地の宿泊市場は、県内でどの価格帯に位置しているのか。2026年8月の推定成約ADRを市町村別に並べると、群馬県では温泉地を抱える自治体が上位に集まり、みなかみ町が約¥20,400(N=48)、草津町が¥19,500(N=92)、伊香保温泉のある渋川市が約¥19,400(N=46)だった。これに対して高崎市は約¥7,700(N=33)で、算出対象が5施設以上ある16市町村のうち12番目、県全体の中央値(約¥13,200、N=429)に対して58%の水準である。隣接する安中市は約¥8,900(N=13)、県都の前橋市は約¥7,900(N=30)と、3市とも新幹線・在来線の駅前を中心とする宿泊特化型の価格帯に並んでいる。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年8月・推定成約ADR。算出対象5施設以上の16市町村、濃色=舞台地周辺の3市、破線=群馬県中央値 N=429)
見方を変えれば、高崎市の単価は伊香保温泉を抱える渋川市の4割ほどで、倉渕を訪ねる来訪者にとって「手頃に泊まれる拠点」と「温泉で滞在する拠点」の二つの選択肢が同じ県内に用意されていることになる。単価の方向も確認しておくと、2026年1〜8月の平均は高崎市が前年同期比+7.0%(約¥7,000→約¥7,500)、安中市が+11.9%(約¥7,500→約¥8,400)で、群馬県全体の+2.0%を上回った。直近13か月(2025年8月〜2026年8月)のうち高崎市の前年同月比が県を上回ったのは9か月である。放送前から続く基調であり、ドラマとの関係を示すものではないが、単価が緩やかに切り上がる局面で放送年を迎える点は押さえておきたい。県内の価格階層の全体像は群馬の宿泊単価、市町村で3.5倍差 — みなかみ・草津と県都の価格階層2026で整理している。
一方の横須賀市は約¥12,200(N=17)で、神奈川県の中央値(約¥14,500、N=578)の84%にあたる。政令市の区を除き、算出対象が5施設以上ある12市町で比べると、箱根町(約¥28,200、N=186)や湯河原町(約¥21,700、N=56)、鎌倉市(約¥20,100、N=18)といった観光地に次ぐ6番目で、藤沢市(約¥12,100、N=22)とほぼ同じ帯に入る。2026年1〜8月の平均は前年同期比+8.2%(約¥11,400→約¥12,300)と、県全体の+2.6%を5.6ポイント上回り、直近13か月では10か月で県の伸びを上回った。なお、掲載が確認できる施設は高崎市49・横須賀市37で、そのうち推定成約ADRの算出対象となる業態の施設がそれぞれ33・17である。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年8月・推定成約ADR。政令市の区を除く算出対象5施設以上の12市町、濃色=横須賀市、破線=神奈川県中央値 N=578)
倉渕は「泊まって通う」舞台地 — 10km圏40室、車30〜47分に5,804室
ここからが本題である。倉渕町権田は榛名山の西麓、烏川の上流に位置する山あいの地区で、高崎市の中心部とは同じ市内でも距離がある。起点から半径10km圏で掲載が確認できた宿泊施設は3施設40室、5km圏に絞ると1施設10室だった。直線20km圏まで広げると148施設5,313室になるものの、この円は榛名山や碓氷峠の向こう側まで含むため、実際の移動時間で読み直す必要がある。そこで、主要な宿泊クラスターまでの道路距離と所要時間を計算した。
| 宿泊クラスター(代表地点) | 道路距離 | 車の所要時間 | 施設数 | 客室数 | ADR中央値(算出施設数) |
|---|---|---|---|---|---|
| 高崎市 倉渕・榛名(榛名湖) | 17.0km | 約29分 | 5 | 62 | — |
| 安中市(安中榛名駅) | 20.0km | 約34分 | 16 | 431 | ¥7,687(13) |
| 長野原町(北軽井沢地区) | 31.3km | 約36分 | 23 | 466 | ¥15,021(9) |
| 渋川市(伊香保温泉 石段街) | 26.1km | 約37分 | 51 | 2,224 | ¥17,006(46) |
| 高崎駅 半径3km圏(高崎駅) | 30.3km | 約44分 | 31 | 2,621 | ¥8,182(23) |
| 軽井沢町(軽井沢駅) | 51.9km | 約58分 | 37 | 1,863 | ¥27,784(27) |
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(高崎駅3km圏を除き倉渕町権田の直線20km圏内の施設を自治体別に集計。安中市は磯部駅まで30.4km・約47分。ADR中央値は2025年10月〜2026年9月の施設別平均の中央値で、算出対象が5施設未満は非表示。道路距離・所要時間は公開されている道路ネットワークデータに基づく目安)
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(N=163施設。倉渕町権田からの車の所要時間順)
結果は明快で、倉渕は「現地に泊まる」よりも「拠点に泊まって通う」舞台地だといえる。高崎駅までは道路で30.3km・約44分。その高崎駅の半径3km圏には31施設2,621室があり、ADR中央値は約¥8,200と手頃な宿泊特化型が中心になる。伊香保温泉は直線では11.6kmと近いが、榛名山を回り込むため道路では26.1km・約37分で、51施設2,224室・ADR中央値約¥17,000の旅館群が受け皿になる。北陸新幹線の安中榛名駅は約34分と最も近い鉄道の玄関口で、安中市内には磯部温泉を含めて16施設431室がある。軽井沢駅を除く5クラスターは車で約30〜47分の範囲に収まり、合計は5,804室に達する。
この構造は、宿泊事業者と自治体の双方にとって受け皿づくりの余地が大きいことを意味する。倉渕の史跡と記念館を半日で巡る行程であれば、前後の宿泊は高崎駅前でも伊香保でも成立するため、どのクラスターが「倉渕観光の拠点」として認知されるかは、これからの商品づくりと情報発信に左右される。たとえば高崎駅前のホテルであれば新幹線とレンタカーを組み合わせた1泊2日、伊香保の旅館であれば史跡めぐりと温泉滞在を合わせた連泊といった形で、距離の近さを時間で示す案内が有効といえる。現地の10km圏に40室という規模は、小規模な宿や一棟貸しにとって、記念館の開館後に滞在需要を受け止めるアップサイドが残されているとも読める。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(円=倉渕町権田から半径10km・20km、点の大きさ=客室数)
横須賀は「現地に泊まる」舞台地 — ヴェルニー公園5km圏に10施設892室
横須賀側は対照的である。ヴェルニー公園を起点にすると、半径1km圏に3施設437室、3km圏に9施設887室、5km圏に10施設892室が確認できた。5km圏の客室の99%が3km圏に収まっており、史跡と大河ドラマ館の予定地(汐入駅近く)、宿泊施設が徒歩と京急線1〜2駅の範囲にまとまっている。5km圏10施設のADR中央値(2025年10月〜2026年9月の施設別平均)は約¥11,200で、150〜200室級のビジネス・シティ系が受け皿の中心だ。
| 起点 | 半径 | 施設数 | 客室数 | 5km圏に占める割合 |
|---|---|---|---|---|
| ヴェルニー公園(横須賀市汐入町) | 1km | 3 | 437 | 49% |
| 同 | 3km | 9 | 887 | 99% |
| 同 | 5km | 10 | 892 | 100% |
| 倉渕町権田(参考) | 5km | 1 | 10 | — |
| 同 | 10km | 3 | 40 | — |
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(直線距離ベース。2026年4〜9月に掲載が確認できた施設)
つまり横須賀では、移動を挟まずに「現地に泊まる」行程が組める。都心から京急線で1時間前後という立地は日帰りの選択肢も広いが、裏を返せば、軍港めぐりや近代遺産の見学と夜の街歩きを組み合わせて宿泊に転換する余地があるということだ。大河ドラマ館の開設が2027年7〜12月と放送年の後半に置かれている点を踏まえると、上期は倉渕と同様に史跡そのものを訪ねる来訪が中心になり、下期に集客施設が加わる二段構えを想定して販売計画を組むのが現実的だろう。
過去3作のゆかり地で放送年に何が起きたか — 県比−6.9〜+6.0ポイント、符号は割れた
では、大河ドラマの放送は舞台地の宿泊単価を押し上げるのだろうか。当社の月次ADRで辿れる2024年8月以降の範囲で、過去3作の大河ドラマ館が置かれた自治体を検証した。対象は、2024年『光る君へ』の大津市・越前市、2025年『べらぼう』の東京都台東区、2026年『豊臣兄弟!』の長浜市・名古屋市中村区である。宇治市と大和郡山市は算出対象の施設数が限られるため取り上げていない。比較は、同じ月どうしの平均を前年と比べた伸び率を、所在する都府県の伸び率と並べる形にした。
| 作品(放送年) | ゆかり地 | 比較した期間 | ゆかり地の伸び率 | 都府県の伸び率 | 差 | 算出施設数 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 光る君へ(2024年) | 大津市 | 放送年8〜12月 → 翌年同期 | +21.0% | 滋賀県 +15.0% | +6.0pt | 33〜35 |
| 光る君へ(2024年) | 越前市 | 放送年8〜12月 → 翌年同期 | −5.0% | 福井県 +1.9% | −6.9pt | 7〜8 |
| べらぼう(2025年) | 台東区 | 前年8〜12月 → 放送年同期 | +9.5% | 東京都 +13.0% | −3.5pt | 161〜180 |
| べらぼう(2025年) | 台東区 | 放送年1〜8月 → 翌年同期 | +1.0% | 東京都 +1.7% | −0.7pt | 164〜177 |
| 豊臣兄弟!(2026年) | 長浜市 | 前年1〜8月 → 放送年同期 | +3.0% | 滋賀県 +5.9% | −2.9pt | 22〜24 |
| 豊臣兄弟!(2026年) | 名古屋市中村区 | 前年1〜8月 → 放送年同期 | +7.8% | 愛知県 +3.3% | +4.5pt | 71〜73 |
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(推定成約ADRの期間平均。2024年8月〜2026年8月の実績月)
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(上表と同一集計。濃色=ゆかり地、淡色=所在都府県)
6つの比較のうち、ゆかり地の伸び率が都府県を上回ったのは2つ、下回ったのは4つで、差は−6.9〜+6.0ポイントの範囲に散らばった。前年から放送年にかけての変化を測れる3比較に限っても、名古屋市中村区が+4.5ポイント、長浜市が−2.9ポイント、台東区が−3.5ポイントと方向が揃わない。少なくとも市区全体の中央値で見る限り、「放送年には単価が上がる」という一律の傾向は読み取れなかった。
ただし、これを「大河は効かない」と読むのは早計である。背景にあるのは、どの地域にも大河以外の大きな要因が重なっていたという事情だ。関西圏では2025年4〜10月に大阪・関西万博があり、滋賀県の2025年の伸びにはその波及が含まれる。大津市の+21.0%は放送の翌年に記録された数字で、大河ドラマ館が閉館した後の時期にあたる。台東区は訪日客の動向に左右される浅草・上野を抱え、名古屋市中村区は名古屋駅前のビジネス需要が厚い。越前市は算出対象が7〜8施設と限られ、1施設の価格変更が中央値を動かしやすい。来館者数という別の物差しでは、びわ湖大津の大河ドラマ館が約28万人(日本経済新聞)、越前の大河ドラマ館が312日間で16万人超(中日BIZナビ)を集めており、人の流れが生まれたこと自体は確かである。
ここまでを整理すると、大河ドラマは宿泊需要を構成する一因ではあるものの、数十〜百数十施設の中央値を単独で動かすほどの力として観測されるわけではない、というのが月次データから言える範囲になる。効果が表れるとすれば、史跡やドラマ館に近い個々の施設、あるいは放送に合わせて造成された宿泊商品の単位だろう。2023年以前の作品については当社の同じ基準のデータで辿れないため、本稿では扱わない。
放送年に間に合う新規供給 — 高崎市内に199室と179室、横須賀は2029年に129室
最後に供給の側を確認する。高崎駅東口では、アパホテル〈高崎駅東口〉(全199室・地上14階)が2026年11月2日の開業を予定しており、同社は公式サイトで開業日の決定と予約受付の開始を告知している。高崎駅から徒歩6分の立地で、開業すれば高崎駅3km圏の客室数は2,621室から2,820室へと約7.6%厚みを増す。放送開始の約2か月前に、倉渕への拠点となる駅前で新しい受け皿が加わる計算だ。
加えて、上毛新聞(2025年3月4日)は、高崎市小八木町の国道17号沿いで(仮称)ドーミーインEXPRESS前橋インター(179室・8階建て、天然温泉の大浴場を計画)が2026年9月ごろの完成予定と報じている。関越道の前橋インターチェンジに近く、倉渕までは道路で約30km・約43分と、高崎駅前とほぼ同じ時間距離にある。両計画を合わせると、高崎市内では放送年までに378室の上積みが見込まれる。
| エリア | 計画・施設 | 客室数 | 時期 | 放送年(2027年)との関係 |
|---|---|---|---|---|
| 高崎市(高崎駅東口) | アパホテル〈高崎駅東口〉 | 199 | 2026年11月2日開業予定 | 放送開始前に稼働 |
| 高崎市(小八木町) | (仮称)ドーミーインEXPRESS前橋インター | 179 | 2026年9月ごろ完成予定(2025年3月報道時点) | 放送年に稼働見込み |
| 高崎市(倉渕町) | 小栗上野介記念館(展示施設) | — | 2026年12月開館を目指す | 放送開始前に開館 |
| 横須賀市(汐入) | 大河ドラマ館(集客施設) | — | 2027年7〜12月 | 放送年の後半 |
| 横須賀市(横須賀中央駅前) | 京急EXイン 横須賀中央駅前(仮称) | 129 | 2029年12月竣工予定 | 放送年の後 |
出典:アパホテル公式サイト、上毛新聞、タウンニュース横須賀版、京浜急行電鉄・若松町1丁目地区市街地再開発組合の発表よりホテルバンク編集部作成/メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース)
一方で横須賀側は、横須賀中央駅前の若松町1丁目地区再開発に入る京急EXイン(仮称・129室)が2029年12月の竣工予定で、放送年には間に合わない。したがって2027年の横須賀は、ヴェルニー公園5km圏の既存10施設892室で来訪を受けることになり、既存施設にとっては新規参入を挟まずに単価と稼働の両面で機会を取りにいける1年になる。倉渕の現地(10km圏)でも、当社がOTA上で掲載を確認できる範囲では2025年以降の新規開業は見当たらなかった。
※新規開業・計画の情報はOTA掲載確認および各社の公表・報道に基づく調査時点の把握分であり、掲載は開業の数か月前から始まるため、今後の掲載・発表で件数は増加する可能性がある。全数を網羅したものではない。
宿泊事業者・自治体・投資家への示唆 — 距離を「時間」で売る
ここまでの数字から、放送年に向けた準備の焦点を三つ挙げておきたい。第一に、倉渕については「何分で着くか」を前面に出した商品設計である。高崎駅前から約44分、伊香保から約37分、安中榛名駅から約34分という時間距離は、いずれも半日観光の拠点として十分に近い。宿泊事業者にとっては、記念館や東善寺への行き方、所要時間、駐車場の情報を自社の予約ページに載せるだけでも、検索する来訪者との接点が生まれる。
第二に、単価への期待の置き方である。過去3作の検証では、ゆかり地の市区全体の単価が放送年に一律に上がる姿は確認できなかった。放送を理由に年間を通じた強気の価格を敷くよりも、記念館の開館直後や放送開始月、ドラマ館の開設期間、物語の山場といった需要が集まりやすい時期を見極め、日別に価格と在庫を調整していく運用のほうが、収益機会を取りこぼしにくいといえる。高崎市・横須賀市ともに2026年は県を上回るペースで単価が伸びており、その基調の上に放送年の需要が重なる形になる。
第三に、自治体や地方案件を見る投資家にとっての余地である。倉渕の10km圏40室という現状は、裏返せば小規模な滞在拠点の受け皿に伸びしろがあることを示している。ただし大河の放送は1年間であり、ドラマ館の来館者数も放送終了とともに落ち着くのが通例だ。新設を検討する場合は、放送年の需要だけを前提にせず、榛名・伊香保の通年需要や国道406号沿いの周遊と組み合わせて成り立つ規模を見極めたい。群馬県内の予約の入り方は群馬県4業態のブッキングカーブ比較でも確認できる。
まとめ
『逆賊の幕臣』の舞台地は、宿泊の観点では性格の異なる二つの型に分かれる。高崎市倉渕は半径10km圏が3施設40室で、車で30〜47分の高崎駅前・伊香保・安中・北軽井沢などに計5,804室が広がる「泊まって通う」型。横須賀はヴェルニー公園の5km圏に10施設892室がまとまる「現地に泊まる」型である。単価は高崎市が約¥7,700、横須賀市が約¥12,200と階層が異なり、どちらも2026年は県を上回る伸びを続けている。
過去3作のゆかり地を月次で辿った限りでは、放送年の単価の動きは県比−6.9〜+6.0ポイントと割れており、大河は需要の一因として捉えるのが妥当だろう。放送年に間に合う新規供給は高崎市内の378室で、横須賀は既存ストックが主役になる。舞台地の事業者にとっては、放送開始までの約3か月が、距離を時間で伝える案内と、時期を絞った価格・在庫の設計を整える準備期間になる。
データに関する注意:本記事のADRは2026年9月までの実績月を対象とした推定値で、将来日程の価格は扱っていない。受け皿の集計は調査時点でOTA上に掲載が確認できる施設に限られる。OCC(稼働率)は本記事では数値を引用していない。大河ドラマの放送と宿泊単価の変動との因果関係を特定するものではなく、万博・国際大会・訪日需要など他の要因と切り分けていない点にご留意ください。
関連記事
参考資料・出典一覧
■ 大河ドラマ・舞台地
横須賀市「2027年NHK大河ドラマ「逆賊の幕臣」の決定について」(2025年3月5日)
高崎市「本市ゆかりの幕臣・小栗上野介」(デジタル広報高崎)
上毛新聞「小栗上野介の「記念館」 群馬・高崎市で12月オープン目指す」(2026年2月12日)
タウンニュース横須賀版「近づく大河の足音 PR本格化 「産プラ」に大河ドラマ館開設」(2026年9月25日)
ステラnet「大河ドラマ「逆賊の幕臣」」(NHK財団)
■ 過去作の大河ドラマ館
日本経済新聞「滋賀県大津市の「大河ドラマ館」が閉館 目標上回る28万人来館」
中日BIZナビ「「光る君へ」大河ドラマ館閉館 越前、312日で16万人超来場」
台東区「べらぼう 江戸たいとう 大河ドラマ館」(2025年2月1日〜2026年1月12日)
名古屋市「大河ドラマ「豊臣兄弟!」の放送を契機とした豊臣ミュージアムについて」
「戦国を攻略せよ〜豊臣秀吉・秀長兄弟ゆかりの地 滋賀県長浜市」(北近江豊臣博覧会)
■ 宿泊供給
アパホテル「アパホテル〈高崎駅東口〉開業日決定・予約受付開始」
上毛新聞「天然温泉のビジネスホテル「ドーミーイン」が群馬・関越道前橋IC近くに」(2025年3月4日)
若松町1丁目地区市街地再開発組合・京浜急行電鉄「横須賀中央『若松町1丁目地区第一種市街地再開発事業』」(2026年1月21日)
■ データソース
メトロエンジンリサーチが追跡するOTA公開価格・掲載情報に基づく推定成約ADR(市町村別・月次の中央値)と、施設別の掲載確認・客室数。舞台地・過去作・新規供給の事実関係は、自治体・事業者の公表資料と報道(上記一覧)による。
■ 試算前提
受け皿は2026年4〜9月に掲載が確認できた施設(レジャーホテルを除く)を、起点からの直線距離で集計。クラスター別のADR中央値は2025年10月〜2026年9月の施設別平均の中央値で、算出対象5施設未満は非表示。過去3作の検証は、同じ月どうしの月次ADRの単純平均を前年と比べた伸び率を、所在都府県の伸び率と比較した。新規供給の客室数は各社の公表・報道値をそのまま用いた。
■ 限界・留意点
ADRは推定値であり、各施設の実際の成約価格とは異なる。OTA未掲載の旅館・民宿・簡易宿所は受け皿に含まない。道路距離・所要時間は渋滞や冬季の路面状況を考慮しない目安。過去作の比較は3作・6比較に限られ、万博や訪日需要など他の要因と切り分けていないため、放送と単価変動の因果関係を示すものではない。開業・完成時期は公表・報道時点の予定で、変更される可能性がある。
■ 市場データ・集計方法
メトロエンジンリサーチ — 推定成約ADR(市町村別・月次、2024年8月〜2026年9月の実績月。2026年8月:高崎市N=33/安中市N=13/前橋市N=30/横須賀市N=17/群馬県N=429/神奈川県N=578)、施設別の掲載確認と客室数(倉渕町権田20km圏N=148施設、高崎駅3km圏N=31施設、ヴェルニー公園5km圏N=10施設)。伸び率は各期間の月次ADRの単純平均どうしを比較し、ゆかり地と都府県の差は表示した伸び率の引き算で求めた。道路距離・所要時間は公開されている道路ネットワークデータに基づく経路計算。
