株式会社阪急阪神ホテルズが2025年12月2日に公表した「京都新阪急ホテル 契約満了による営業終了のお知らせ」によると、JR京都駅烏丸口の正面で1981年7月から営業を続けてきた同ホテルは、定期建物賃貸借契約の満了に伴い、2027年1月17日(日)の宿泊利用をもって営業を終了する。発表文は1枚で、建物・土地の所有者、契約期間、跡地の計画、客室数のいずれにも触れていない。一方で京都市が公開するバリアフリー情報のカルテには、同ホテルが客室総数325室、地上9階・地下2階、宴会場とレストランを備える施設として記載されている。
本稿は、この「契約の満期で客室が市場から抜ける」という退出側の供給変化を、京都駅周辺の客室ストック、下京区の推定成約ADRと推定稼働率、同じ町内の地価公示から読み解く。2026年11月16日には八条口側でコートヤード・バイ・マリオット京都駅(270室)が開業し、紅葉の最盛期をはさんで駅前の客室が入れ替わる。賃貸借でホテルを運営する事業会社、ホテルを貸す建物オーナー、京都駅周辺の既存施設の所有者・運営者、そしてレンダーが、満期前の判断材料として使える形で数字を揃えた。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
- OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。
- ブッキングカーブ:チェックイン日に向けたOTA残室数の推移。LT(リードタイム)=チェックイン日までの日数。本稿ではLT45〜1の観測点のみを使用。
- 客室ストック:10室以上で、2026年7〜9月に主要予約サイトで販売価格が観測できた施設を施設単位で集計(開業前・閉館済みの施設は含まない)。駅圏はJR京都駅(北緯34.9858度・東経135.7588度)を中心とする半径500m・1km。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(2026年10月13日時点)
出典:阪急阪神ホテルズ発表資料、京都市「人にやさしいお宿情報カルテ」、国土交通省 不動産情報ライブラリ、メトロエンジンリサーチ&コンサルティング
- — 325室・2027年1月17日:京都新阪急ホテルは定期建物賃貸借の満了で営業終了。所有者・跡地計画は公表されていない。
- — 純減55室:11月16日開業の270室と差し引くと駅500m圏11,073室の−0.5%だが、下京区シティ区分では4,241室の−7.7%。
- — シティ区分 推定成約ADR 25,223円(下京区・2025年10月〜2026年9月平均)はビジネス区分の1.7倍、推定稼働率は2026年6〜9月も88%前後。
- — LT45で79.5%:シティ区分は宿泊日45日前に8割が埋まる早期確定型の床で、その受け皿が区内で薄くなる。
- — 土地は建設費の1.4〜1.8倍:地価770万円/㎡・容積率600%・高さ31mでは延べ床が現建物並みにとどまり、建設費上昇率と地価を振っても土地の機会費用が採算を決める。
発表文で確認できること、できないこと — 325室・宴会場付きの床が2027年1月に抜ける
まずは一次資料の範囲を確定しておきたい。阪急阪神ホテルズの発表文(2025年12月2日付)が述べているのは、①1981年7月より営業を続けてきたこと、②定期建物賃貸借契約の満了に伴うこと、③2027年1月17日(日)の宿泊利用をもって営業を終了すること、の3点に尽きる。建物や土地の所有者、契約の始期と期間、終了後の建物の用途は発表文に書かれておらず、本稿でも推測しない。「再開発のため」「老朽化のため」といった説明は二次情報にとどまるため採らない。
施設の規模は京都市の公開資料で確認できる。京都市が整備する「人にやさしいお宿情報カルテ」(最終更新2023年2月10日)には、京都新阪急ホテルが客室総数325室、階数は地上9階・地下2階、共用エリアに宴会場・レストラン・案内所・駐車場を備え、開業年月は1981年7月と記載されている。公式サイトもビュッフェ、鉄板焼、欧風料理、京懐石、バーの5つの料飲施設と宴会・会議の案内を掲げており、宿泊特化型ではなく宴会・料飲を持つシティホテルの床である点が、今回の退出の性格を決める。
つまり2027年1月に京都駅烏丸口から抜けるのは、宿泊客室325室だけではない。駅正面で45年間稼働してきた宴会場と5つのレストランも同時に市場から離れる。次節では、この床が駅周辺のストックの中でどの程度の比率を占めるかを、施設単位の棚卸しで示す。
退出と開業の差し引き — 駅500m圏で−55室、下京区のシティ区分では−7.7%
京都駅周辺の客室ストックを、10室以上で2026年7〜9月に主要予約サイトで販売価格が観測できた施設に限定して棚卸しした。同一地点・同規模の施設は1施設として数えている。この定義で、駅500m圏は63軒11,073室、1km圏は156軒17,018室、下京区全体は230軒20,150室になる。既刊「コートヤード・バイ・マリオット京都駅 11月16日開業 — 駅1km圏1.7万室に270室」の1km圏約1.7万室と同じ定義で再計算しており、数字の桁は揃っている。
この母集団に対して、2026年11月16日に八条東口側で270室(駅から約370m、シティホテル区分)が加わり、2027年1月18日以降は烏丸口側の325室(駅から約215m、シティホテル区分)が抜ける。差し引きを圏域別に並べたのが次の表である。
| 圏域・区分 | 現在のストック | 開業(+270室) | 営業終了(−325室) | 2027年1月18日以降 | 純増減 |
|---|---|---|---|---|---|
| 駅500m圏・全区分(63軒) | 11,073室 | +270 | −325 | 11,018室 | −55室(−0.5%) |
| 駅500m圏・シティ区分(10軒) | 3,503室 | +270 | −325 | 3,448室 | −55室(−1.6%) |
| 駅1km圏・全区分(156軒) | 17,018室 | +270 | −325 | 16,963室 | −55室(−0.3%) |
| 駅1km圏・シティ区分(13軒) | 3,994室 | +270 | −325 | 3,939室 | −55室(−1.4%) |
| 下京区・全区分(230軒) | 20,150室 | —(開業地は南区) | −325 | 19,825室 | −325室(−1.6%) |
| 下京区・シティ区分(19軒) | 4,241室 | —(開業地は南区) | −325 | 3,916室 | −325室(−7.7%) |
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(10室以上・2026年7〜9月に販売価格を観測した施設、2026年10月13日時点)、JR東海ほか「コートヤード・バイ・マリオット京都駅 2026年11月16日開業」(2026年8月6日)、阪急阪神ホテルズ発表資料
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(2026年10月13日時点、N=駅500m圏63軒・1km圏156軒・下京区230軒)
圏域を駅周辺全体に広げると純減は55室にとどまり、ストック全体に対する比率は0.3〜0.5%である。しかし区分と行政区を絞ると見え方が変わる。開業する270室の所在地は八条口側の南区であり、下京区のシティホテル区分だけを見ると325室がそのまま抜けて19軒4,241室が18軒3,916室、7.7%の減少になる。さらに駅500m圏のシティ区分では、現在の3,503室のうち325室が9.3%に相当し、入れ替わりの前後で区分内の顔ぶれが大きく変わることになる。
ここまでを整理すると、量としての供給ショックは小さく、質としての入れ替わりは大きい。駅周辺の宿泊需要が吸収すべき客室数はほぼ変わらない一方、宴会・料飲を伴うシティホテルの床が烏丸口から八条口へ、45年稼働した建物から新築へ移る。この性格の違いが、次節以降で扱う契約満期の構造と単価・稼働の季節性に結びつく。
駅前の1960〜80年代開業・100室以上の施設 — 下京区に9軒2,130室
賃貸借の満期が供給を動かす構造を考えるうえで、同じ世代の大型施設がどれだけ駅前に残っているかは基礎情報になる。下京区で稼働中の施設のうち、1960〜80年代の開業年が登録されている100室以上の施設は9軒2,130室で、これに1950年代以前の開業年が登録されている3軒488室を加えると12軒2,618室になる。京都市も有識者会議の資料で「駅北側に築40年以上の大型ビルが多数存在」と現状認識を示している。一覧は開業年と客室数だけを中立に示し、契約形態は公表されている今回の1件以外は記載しない。
| 施設名(下京区) | 客室数 | 登録開業年 | 区分 | 駅からの距離 |
|---|---|---|---|---|
| 京都タワーホテル | 161室 | 1964年 | シティ | 約200m |
| リーガロイヤルホテル京都 | 489室 | 1969年 | デラックス | 約570m |
| 京都セントラルイン | 138室 | 1973年 | ビジネス | 約2.2km |
| 京都タワーホテル アネックス | 126室 | 1978年 | ビジネス | 約330m |
| 京都新阪急ホテル(2027年1月17日で営業終了) | 325室 | 1981年 | シティ | 約215m |
| 京都東急ホテル | 408室 | 1982年 | シティ | 約1.5km |
| からすま京都ホテル | 231室 | 1983年 | ビジネス | 約1.8km |
| ホテルサンルート京都 | 144室 | 1986年 | ビジネス | 約1.6km |
| EN HOTEL Kyoto | 108室 | 1988年 | ビジネス | 約2.0km |
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(登録開業年・客室数、2026年10月13日時点。登録値は改装・リブランド前の年を含む場合がある)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=230軒20,150室、開業年未登録27軒629室を除く)
開業年代別に見ると、下京区の20,150室のうち2010年代が77軒6,452室、2020年代が74軒6,779室で、この2つの年代だけで65.7%を占める。1980年代以前は33軒3,132室(15.5%)にとどまり、駅前の大型施設が集中する世代である。1980年代に開業した8軒1,275室のうち325室が今回の営業終了に当たり、この世代の客室の25.5%に相当する。
賃貸借で運営されるホテルは、所有者が建物を保有し、運営会社が賃料を払って営業する。定期建物賃貸借では期間満了で契約が終わり、更新という概念がない。上場ホテルREITの保有物件では、既刊「ホテルREITの固定賃料は減額請求に耐えるか — 定期建物賃貸借94%、改定不可85.6%」で整理したとおり、定期建物賃貸借が94%を占めており、満期の分布がそのまま将来の退出・再契約の時期を決める。今回の京都駅前の事例は、REITが保有しない事業会社系の建物でも同じ力学が働くことを示している。
競合分布マップ — 烏丸口の退出と八条口の開業、駅前の大型施設
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング。円の大きさは客室数。破線は駅から500m・1km。赤=2027年1月17日で営業終了、青=2026年11月16日開業、紺=駅1km圏で1989年以前の開業年が登録されている100室以上の施設
地図で見ると、烏丸口(北側)には塩小路通沿いに駅前の大型施設が並び、八条口(南側)には2010年代以降の宿泊特化型が集積してきた。今回の入れ替わりは、北側のシティホテル床が1件減り、南側に新築のシティホテル床が1件加わるという、駅の南北をまたぐ移動である。駅1km圏で1989年以前の開業年が登録されている100室以上の施設は9軒2,897室あり、烏丸口側に集中している。
シティ区分の床が減る影響 — 11月・4月の山と2月の谷、推定稼働率は夏も88%前後
宴会・料飲を持つシティホテルの床が1件抜けることが単価と稼働にどう効くかは、施設単体ではなく区とカテゴリの集計で読む。下京区の推定成約ADR(全区分・中央値)は、2025年11月に23,885円(N=157、前年同月比+9.3%)、2026年4月に22,305円(N=167、+1.4%)の山をつくり、2026年2月の10,932円(N=160、+3.2%)が谷になる。山と谷の比は2.2倍で、2025年10月〜2026年9月の12か月平均は15,652円だった。
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(確定月のみ。N=157〜170施設/月、2024年は7月以降)
シティホテル区分(N=18〜22)だけを取り出すと、山はさらに高い。2025年11月が35,427円(前年同月比−0.1%)、2026年4月が35,990円(+3.4%)で、2026年2月の19,260円(+5.6%)との比は1.8〜1.9倍、12か月平均は25,223円である。ビジネスホテル区分(N=111〜118)の12か月平均14,701円に対して1.7倍の水準にあり、この価格帯の床が区内で7.7%減ることになる。
ただし2026年の夏場は、シティ区分の単価が前年同月を下回って推移した。6月18,277円(−12.1%)、7月18,519円(−11.8%)、8月17,906円(−16.7%)、9月20,462円(−13.6%)で、全区分でも6〜8月は−5.7%から−11.9%の範囲にあった。京都全体の確定6〜8月の動きは既刊「京都の推定成約ADR、確定6〜8月は前年比二桁減」で整理している。単価が調整局面にある時期に、駅前のシティ区分の供給が約1割減ることは、残る施設にとって価格の下限を支える要因になりうる。
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(確定月1〜9月。シティ区分N=18〜22、ビジネス区分N=111〜118)
稼働の側はどうか。下京区の推定稼働率(OTA掲載在庫ベース)をカテゴリ別に見ると、シティホテル区分は対象9〜10施設/客室1,834〜2,014室(主要予約サイト掲載ベース)で6月87.7%、7月87.7%、8月88.0%、9月89.7%と、単価が前年を下回った夏場も88%前後を保っていた。ビジネスホテル区分は対象67〜68施設/客室7,948〜8,066室で6月82.0%、7月82.1%、8月82.4%、9月85.3%である。全区分では対象148〜158施設/客室11,616〜11,923室で82.1〜85.4%だった。
| 下京区・区分 | 対象施設/客室(9月) | 2026年6月 | 7月 | 8月 | 9月 |
|---|---|---|---|---|---|
| シティホテル | 10施設/2,014室 | 87.7% | 87.7% | 88.0% | 89.7% |
| ビジネスホテル | 68施設/8,066室 | 82.0% | 82.1% | 82.4% | 85.3% |
| 旅館 | 11施設/349室 | 83.0% | 76.8% | 76.2% | 82.0% |
| 全区分 | 156施設/11,923室 | 82.5% | 82.3% | 82.1% | 85.4% |
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(稼働率はOTA掲載在庫ベースの推定。総客室の30%以上を主要予約サイトに掲載する施設で構成した固定コホート、月内の施設数は日によって変動する)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(シティ区分:対象10施設/客室2,023室、ビジネス区分:対象69施設/客室7,996室、いずれも主要予約サイト掲載ベース。LT45超とLT0は使用していない)
ブッキングカーブは、シティ区分の床の性格をもう一段はっきりさせる。2026年9月のチェックイン日について、下京区のシティ区分はLT45の時点で推定稼働率79.5%に達し、LT1で89.7%に至る。ビジネス区分はLT45で52.6%、LT1で85.3%であり、45日間で32.7ポイントを積み上げる。つまりシティ区分は宿泊日の45日以上前に8割が埋まる「先に決まる床」であり、宴会・団体・旅行会社経由の需要を含む早期確定型の在庫である。この型の床が駅前から1件抜けると、早期に確定する需要の受け皿が区内で薄くなり、残る施設には早期予約の価格設定を見直す余地が生まれる。
街区の評価 — 地価770万円/㎡・容積率600%・高さ31m、同じ敷地で建て替えるなら
跡地の用途は公表されていないため断定しないが、建物オーナーと将来の借り手が判断する材料として、街区の評価を整理しておく。国土交通省 不動産情報ライブラリの地価公示2026(2026年1月1日時点)によると、同じ東塩小路町の「塩小路通烏丸西入東塩小路町614番」は770万円/㎡で前年比+13.9%(前年676万円/㎡)、用途地域は商業地域、指定容積率600%・建蔽率80%、防火地域、地積3,710㎡、駅から280mの店舗兼事務所の敷地である。烏丸通沿いの「烏丸通七条下る東塩小路町734番外」は887万円/㎡(+15.2%)、地価調査2026(7月1日時点)では同地点が914万円/㎡(+12.8%)、新町通沿いの「東塩小路町727番5」が276万円/㎡(+15.0%)だった。
出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示・都道府県地価調査 2026年)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成
高さについては、京都市の有識者会議資料が、京都駅前は15m・20m・25m・31mの高度地区で構成され、京都駅ビルのみ特定街区として最高60mが定められていると整理している。駅北側の烏丸通・塩小路通沿道は現行では最高限度31mの区域であり、現建物の地上9階という階数構成はこの範囲に収まる規模である。京都駅南側については、2023年4月の都市計画変更で大通り沿いが31mに引き上げられ(既刊「高さ制限31mはホテル何階分か — 京都2023年緩和から3年」)、さらに2026年7月24日〜8月24日に市が意見募集した「京都駅前南側エリアにおける特定用途誘導地区」の都市計画案では、誘導施設に限って容積率900%・高さ45mを認める内容が示された。同案は北側エリアについて「引き続き、総合的に検討を深めていく」としている。
北側の将来像は検討途上である。京都市が2025年4月に設置した「京都駅前の再生に係る有識者会議」は、2026年1月に公表した意見まとめ案で駅前に60mの区域、その周囲に45mの区域を置く考え方を図示し、2026年4月15日に市長へ意見まとめを提出した。現時点で北側の高度地区は変更されておらず、本稿の試算は現行の31m・容積率600%を前提にする。規制が将来変わる可能性は、跡地の活用余地を広げる方向の要因として把握しておけばよい。
同じ敷地で建て替える場合の延べ床と客室数のレンジを、敷地面積を3つ仮定して示す。敷地面積は非公表のため、同じ町内の地価公示地点の地積(3,710㎡)を参考に3,000㎡・3,500㎡・4,000㎡を置いた。延べ床の上限は容積対象で敷地の6倍、建設費は国土交通省「建築着工統計」の2025年(令和7年)計・全国の「ホテル又は旅館」の工事費予定額を床面積で割った65.9万円/㎡(坪あたり約217.8万円)を2025年単価とし、Turner & Townsendの建設コスト見通し(2026年+5.3%、2027年+5.0%)に、同社見通しの公表がない2028年以降は年+4.5%を本稿で仮置きして、2029年施工中間時点まで複利で織り込んだ値を併記した。
| 項目 | 敷地3,000㎡ | 敷地3,500㎡ | 敷地4,000㎡ |
|---|---|---|---|
| 延べ床上限(容積率600%・容積対象) | 18,000㎡ | 21,000㎡ | 24,000㎡ |
| 高さ31m・建蔽率80%で必要な階数 | 地上8〜9階 | 地上8〜9階 | 地上8〜9階 |
| 客室数レンジ:宿泊特化(1室あたり延べ床40㎡) | 約450室 | 約525室 | 約600室 |
| 客室数レンジ:宴会・料飲付きシティ(同60㎡) | 約300室 | 約350室 | 約400室 |
| 客室数レンジ:アッパー(同80㎡) | 約225室 | 約260室 | 約300室 |
| 建設費(2025年単価 65.9万円/㎡) | 約119億円 | 約138億円 | 約158億円 |
| 建設費(2029年施工中間・インフレ織込み ×1.21) | 約143億円 | 約167億円 | 約191億円 |
| 土地の参考評価(地価公示770万円/㎡×敷地) | 約231億円 | 約270億円 | 約308億円 |
出典:国土交通省「建築着工統計」(2025年計・ホテル又は旅館)、Turner & Townsend 建設コスト見通し、国土交通省 不動産情報ライブラリ よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。解体費・設計監理費・金利は含まない。
この表が示すのは、現行規制のままでは延べ床の上限が敷地の6倍で頭打ちになり、325室・宴会場付きの現建物とほぼ同規模のボリュームしか得られないという点である。客室数を増やすなら1室あたり延べ床を40㎡台に絞る宿泊特化の設計になり、宴会場を持つシティホテルの床を再現するなら客室数は現状並みにとどまる。一方、土地の参考評価は建設費の1.6〜1.9倍に達しており、建て替えの採算は建物よりも土地の機会費用で決まる街区だといえる。解体費を含めた建て替え原価の考え方は既刊「ホテル建替えの解体費は㎡5.1万〜14.7万円」を参照されたい。所有者による建て替えの先行事例としては、既刊「187室を閉じて建て替える東山七条」がある。
表4の土地・建設費の比は、建設費の上昇率と地価の置き方で動く。2028年以降の建設費上昇率を年+3.0%・+4.5%・+6.0%の3通り、地価を公示価格の±10%の3通りに振ると、土地の参考評価は2029年施工中間時点の建設費に対して1.4〜1.8倍の範囲に収まる(表5)。比は敷地面積に依存しないため、敷地がどの規模でも同じ読み方ができる。最も建設費が重く地価が低い組み合わせでも土地が建設費を4割上回り、「建て替えの採算は土地の機会費用で決まる」という表4の読みは前提を振っても崩れない。
| 建設費シナリオ | 2025年比の倍率 | 建設費(敷地3,500㎡) | 地価−10%(693万円/㎡) | 地価公示どおり(770万円/㎡) | 地価+10%(847万円/㎡) |
|---|---|---|---|---|---|
| 低位(2028年以降 年+3.0%) | ×1.17 | 約162億円 | 1.49倍 | 1.66倍 | 1.83倍 |
| 中位(同 年+4.5%・本稿の仮置き) | ×1.21 | 約167億円 | 1.45倍 | 1.61倍 | 1.77倍 |
| 高位(同 年+6.0%) | ×1.24 | 約172億円 | 1.41倍 | 1.57倍 | 1.72倍 |
出典:表4と同じ前提(2025年単価65.9万円/㎡、容積率600%、2026年+5.3%・2027年+5.0%は Turner & Townsend 見通し、2028〜29年の上昇率は本稿の仮定)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。土地の参考評価は隣接する地価公示地点の単価を敷地に乗じた簡易値で、実際の取引価格とは異なる。解体費・設計監理費・金利は含まない。
借り手・貸し手・レンダーへの示唆 — 満期前の更新投資、再契約とリブランドの選択肢
賃貸借でホテルを運営する事業会社にとって、今回の事例が示すのは、定期建物賃貸借の残存期間が更新投資の回収期間の上限になるという当たり前の構造である。客室改装の回収を7〜10年で見込むなら、残存期間がそれを下回った時点で、投資の対象を客室全面改装から料飲・宴会の収益改善や設備の延命に切り替える判断が合理的になる。満期の2〜3年前には、再契約の条件交渉と、再契約が成立しない場合の人員・顧客基盤の移転先を同時に設計しておきたい。京都駅前のように同じ運営会社が近隣に拠点を持たない場合、宴会の顧客基盤をどこへ引き継ぐかが営業終了後の企業価値に効く。
建物を貸すオーナー・アセットマネジャーには、満期を「退出」ではなく「再契約・リブランド・建て替え」の3択として扱う機会がある。本稿の数字でいえば、下京区のシティ区分は夏場も推定稼働率88%前後(2026年6〜9月・OTA掲載在庫ベースの推定、対象9〜10施設)、12か月平均の推定成約ADRは25,223円と、ビジネス区分の1.7倍の単価帯で稼働している。この需要の厚みは、同じ建物を別の運営会社と再契約してリブランドする選択肢を支える。建て替えを選ぶ場合は、現行規制では延べ床が現建物と同規模にとどまる一方、北側エリアの高さ規制が検討途上にあるため、都市計画の動きを見てから着手時期を決めるという待機の価値もある。
レンダーの観点では、定期建物賃貸借のホテルに対する融資期間は契約の残存期間と整合させることが基本になる。今回のように発表から営業終了まで13か月半という時間軸は、運営会社側の撤退コスト(原状回復、従業員の配置転換、予約済み宴会の対応)を織り込むうえで短くはないが、オーナー側の次の用途が決まらないまま空室期間が生じれば、建物の収益は一時的に途切れる。満期前後のキャッシュフローの空白をどの程度見込むかが、与信判断の分かれ目になる。
まとめ — 量は小さく、質は大きい入れ替わり
2027年1月17日の営業終了で京都駅烏丸口から抜けるのは、325室の客室と、宴会場・5つの料飲施設を備えた45年稼働のシティホテルの床である。駅500m圏11,073室、1km圏17,018室に対する比率は2.9%・1.9%にすぎず、2026年11月16日に八条口で開く270室と差し引けば純減は55室にとどまる。しかし下京区のシティホテル区分に限れば4,241室の7.7%が抜け、早期に確定する需要の受け皿が区内で薄くなる。
下京区の推定成約ADRは11月と4月に山、2月に谷をつくる季節性が明瞭で、シティ区分は12か月平均25,223円、推定稼働率は夏場も88%前後にある。地価公示770万円/㎡(前年比+13.9%)・容積率600%・高さ31mの街区では、同じ敷地で建て替えても延べ床は現建物と同規模にとどまり、土地の参考評価が建設費の1.6〜1.9倍に達する。跡地の活用余地は、再契約・リブランド・建て替えのいずれにも開かれており、北側エリアの高さ規制の検討が進むほどその幅は広がる。契約の満期で供給が動く構造を、駅前の他の大型施設の世代分布とあわせて読んでおくことが、借り手にも貸し手にも次の判断材料になる。
⚠ 数値の性質に関する注意:本記事のADR・稼働率はいずれも主要予約サイトの公開情報に基づく推定値であり、各施設の実際の成約価格・稼働率・会計数値とは異なります。客室ストックは2026年7〜9月に販売価格が観測できた施設の施設単位の集計で、未掲載の施設は含みません。建て替え試算は敷地面積を仮定した簡易試算です。京都新阪急ホテルの建物所有者・契約期間・跡地の用途は公表されておらず、本記事はこれらを推測していません。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
客室ストックは10室以上で2026年7〜9月に主要予約サイトで販売価格が観測できた施設(駅500m圏63軒・1km圏156軒・下京区230軒、2026年10月13日時点)。推定成約ADRは下京区の月次中央値(全区分N=157〜170、シティ区分N=18〜22、ビジネス区分N=111〜118)、推定稼働率・ブッキングカーブは主要予約サイト掲載在庫ベースの固定コホート。地価は国土交通省 不動産情報ライブラリの地価公示・地価調査(2026年)、建設費は建築着工統計(2025年計)。
■ 試算前提
敷地面積は非公表のため3,000・3,500・4,000㎡を仮定。延べ床上限は容積率600%(容積対象)、1室あたり延べ床は宿泊特化40㎡・シティ60㎡・アッパー80㎡。建設費は2025年単価65.9万円/㎡に2026年+5.3%・2027年+5.0%・2028年以降年+4.5%(仮置き)を2029年まで複利で乗じた×1.21を中位とし、感度分析では2028年以降を年+3.0%〜+6.0%、地価を±10%で振った。
■ 限界・留意点
ADR・稼働率はOTA公開情報に基づく推定値で、各施設の実績・会計数値とは異なる。建て替え試算は解体費・設計監理費・金利・税を含まない簡易試算で、土地の参考評価は隣接する公示地点単価を用いた目安値。建物所有者・契約期間・跡地の用途は公表されておらず、本稿は推測していない。北側エリアの高さ規制は検討途上で、試算は現行の31m・容積率600%を前提とする。
■ 一次資料(発表資料・公式サイト)
- 株式会社阪急阪神ホテルズ「京都新阪急ホテル 契約満了による営業終了のお知らせ」(2025年12月2日)
- 京都新阪急ホテル 公式サイト(料飲施設・宴会案内・営業終了のお知らせ)
- 東海旅客鉄道・JR東海不動産・JR東海ホテルズ・マリオット・インターナショナル「『コートヤード・バイ・マリオット京都駅』2026年11月16日開業」(2026年8月6日)
■ 政府統計・公的データ
- 京都市「人にやさしいお宿情報カルテ 京都新阪急ホテル」(最終更新2023年2月10日)
- 国土交通省 不動産情報ライブラリ — 地価公示・都道府県地価調査(2026年)、用途地域
- 京都市「第1回京都駅前の再生に係る有識者会議」資料(2025年4月17日、京都駅前の現状・高さ規制の概要)
- 京都市「第2回京都駅前の再生に係る有識者会議」資料(2025年6月16日、現行の都市計画・建物規模)
- 京都市「京都駅前の再生に係る有識者会議 意見まとめ(案)に関する市民意見の募集」(2026年1月23日〜2月24日)
- 京都市「京都駅前の再生に係る有識者会議からの意見まとめの提出」(報道発表 2026年4月10日)
- 京都市「京都駅前の再生に向けた都市計画案(京都駅前南側エリアにおける特定用途誘導地区の指定について)に関する市民意見の募集」(2026年7月24日〜8月24日)
- 京都市「31m高度地区・空間創出型高度地区 高度地区計画書の解説」(2023年4月)
- 国土交通省「建築着工統計調査」2025年計 用途別・構造別(ホテル又は旅館)
■ 市場データ・業界レポート
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 客室ストック(駅500m圏63軒・1km圏156軒・下京区230軒)、推定成約ADR(下京区N=157〜170/シティ区分N=18〜22)、推定稼働率・ブッキングカーブ(下京区固定コホート)、2026年10月13日時点
- Turner & Townsend 建設コスト見通し(日本:2026年+5.3%、2027年+5.0%。2028年以降の+4.5%は本稿の仮置き)
