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原爆ドーム対岸のGS跡地に62室・定員362人のホテル計画|中区ADR1万円、1室5.8人型の成立条件を試算

投稿日 : 2026.10.16

広島県

投資・開発

原爆ドーム対岸のGS跡地に62室・定員362人のホテル計画|中区ADR1万円、1室5.8人型の成立条件を試算

原爆ドームの対岸、相生橋の西詰にあたる広島市中区本川町1丁目で、穴吹興産株式会社を建築主とする「(仮称)広島市中区本川町ホテル計画」の建築計画標識が2026年9月に確認された。再開発情報サイトAND BUILD HIROSHIMAが現地の標識を転記した内容によると、RC造・地上13階地下1階、客室62室に対して宿泊定員は362名、延床面積は4,100㎡で、2027年1月13日(水)に着工し、2028年8月31日(木)の竣工・開業を予定している。敷地625.97㎡は旧ENEOS相生橋SS(2024年3月頃閉店)の跡地で、現在はコインパーキングとして使われている。

1室あたりの宿泊定員5.8人、1室あたり延床66㎡という諸元は、中区に蓄積してきたビジネスホテル中心のストックとは別の客室像を示している。本稿では、この計画を主要予約サイト掲載ベースの1km圏ストック、中区の推定成約ADR、2026年GW・8月6日前後の在庫消化、そして国土交通省の地価・用途地域・災害想定の各データに重ね、ガソリンスタンド跡地という小敷地で多人数型ホテルが成立する条件を読み解く。なお、ブランド名・運営会社は2026年10月8日時点で公表されておらず、本稿では推定しない。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設が主要予約サイト上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。本稿は2025年9月〜2026年8月の確定月のみを比較に用い、調査時点(2026年10月8日)以降の月は用いない。
  • OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。本稿の在庫消化は中区の固定母集団(対象62施設/客室4,718室、主要予約サイト掲載ベース)を対象とし、LT(リードタイム=チェックイン日までの日数)45日以内の観測のみを使う。
  • 早期完売LT:残室数が初めて0室に到達したリードタイム。値が大きいほど早く完売。45日超は「宿泊日の45日以上前から完売」と表記する。
  • 客室ストック:当社の施設データベースのうち、閉館・掲載終了の登録がなく、客室数1室以上で、直近3か月に主要予約サイトで価格観測がある施設を名寄せして集計(開業年の集計は開業年が判明する施設に限定)。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング、国土交通省 不動産情報ライブラリ、広島市、公益財団法人広島平和文化センター
計画規模(現地標識)
62室 / 362名
1室あたり定員5.8人・延床66㎡
1km圏の客室ストック
57施設 4,179室
現役施設・名寄せ後(2026年10月)
中区の推定成約ADR
¥10,046
2025/9〜2026/8平均・N=56〜64施設
8月5日(水)泊の早期完売
18 / 62施設
宿泊日の45日以上前から完売
洪水浸水想定(最大規模)
3.0〜5.0m
太田川水系・計画地周辺の区域
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省 不動産情報ライブラリ/AND BUILD HIROSHIMA(現地の建築計画標識の転記)
Key Takeaways
  • — 62室・定員362名:広島市中区本川町の給油所跡地(敷地625.97㎡)に穴吹興産が計画。1室あたり定員5.8人・延床66.1㎡で、2028年8月31日の竣工・開業予定(現地の建築計画標識による)。
  • — 1km圏は57施設・4,179室:2022〜2026年に加わった客室は計76室。6名以上の1室料金を掲載する施設は13施設・254室(客室の6.1%)にとどまる。
  • — 中区の推定成約ADRは約¥10,000:2025年9月〜2026年8月の平均で前年比+4.6%(N=56〜64施設)。2名1室の水準で、1人あたり約¥5,000が多人数型の価格設計の基準線になる。
  • — 8月5日(水)泊は62施設中18施設が45日以上前に完売:2026年の平和記念式典前夜はLT14時点の推定稼働が87.2%で、GWとほぼ同じ山をつくる。
  • — 総投資に対するGOP利回りは2.6%〜5.3%:2名利用中心の仮定では2.6%、平均4名・1人¥6,000の仮定では5.3%。洪水浸水想定3.0〜5.0mへの設備対応と、景観の事前協議・土壌の自主調査が工程の前提になる。

計画の諸元 — 1室66㎡・定員5.8人は、中区のどの既存ホテルとも違う

まずは標識に記された数字を整理する。建築面積420㎡は敷地625.97㎡の67%にあたり、商業地域の建蔽率80%の内側に収まる。延床4,100㎡を敷地で割ると655%になるが、容積率の算定対象となる床面積は駐車場や地下部分の扱いで変わるため、容積率そのものはこの数字から断定できない。用途は「ホテル・飲食店」で、低層部に飲食店を置く構成と読める。設計・監理はアルファデザインスタジオ一級建築士事務所、施工者は未定と記されている(以上、現地の建築計画標識による)。

(仮称)広島市中区本川町ホテル計画の諸元(現地の建築計画標識による)
項目内容
名称(仮称)広島市中区本川町ホテル計画
建築主穴吹興産株式会社
構造・規模RC造 地上13階・地下1階、高さ45.20m
用途ホテル・飲食店
客室数/宿泊定員62室/362名(1室あたり5.8人)
敷地/建築/延床面積625.97㎡/420.00㎡/4,100.00㎡(1室あたり延床66.1㎡、定員1人あたり11.3㎡)
着工・竣工予定2027年1月13日着工、2028年8月31日竣工・開業
従前用途ENEOS相生橋SS(2024年3月頃閉店)→解体後コインパーキング
出典:AND BUILD HIROSHIMA「平和公園の対岸『相生橋』西側に新ホテル計画」(2026年9月28日、現地の建築計画標識の転記)。穴吹興産の公式発表は2026年10月8日時点で確認できず、各項目は現地の建築計画標識による

この諸元がどれほど異例かは、同じ1km圏で延床面積が把握できる既存施設と並べると分かる。宴会場やレストランを抱えるフルサービス型のリーガロイヤルホテル広島は1室あたり延床138.5㎡(491室・68,000㎡)、ANAクラウンプラザホテル広島は78.9㎡(402室・31,700㎡)である一方、宿泊特化型のTHE KNOT HIROSHIMAは37.2㎡(201室・7,485㎡)、ホテルリブマックス広島平和公園前は20.2㎡(63室・1,270㎡)にとどまる。本川町計画の66.1㎡はフルサービス型と宿泊特化型の中間に位置するが、宴会場の記載はなく、延床の多くが客室側に振られていると読むのが自然だろう。定員1人あたりに換算すると11.3㎡で、これは宿泊特化型ビジネスホテルの1室(1〜2名)あたり面積に近い。つまり「2名用の客室を62室つくる」のではなく、「2名用の客室に相当する面積を1人ずつに割り当てた多人数客室」という設計思想が、標識の数字から透けて見える。

1室あたり延床面積の比較 — 本川町計画と1km圏の既存4施設
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(既存4施設の延床・客室数は当社の施設データベース)/本川町計画は現地の建築計画標識による

立地 — 平和記念公園の対岸、商業地域の縁、そして川の間近

計画地は本川(旧太田川)の右岸、相生橋の西詰に接し、原爆ドームまでは橋を渡って約300m、広島電鉄の本川町電停・十日市町電停のいずれも徒歩圏にある。平和記念公園側の紙屋町・大手町が商業地域でも容積率600〜900%の都心核であるのに対し、川を渡った西岸は容積率400〜600%の商業地域で、さらに西へ進むと第二種住居地域に切り替わる。国土交通省 不動産情報ライブラリの用途地域データで計画地周辺を確認すると、商業地域(容積率400%・建蔽率80%)と商業地域(容積率600%・建蔽率80%)の境界付近に位置しており、どちらに属するかの確定には広島市の都市計画図での照合が必要になる。

計画地と1km圏の宿泊施設分布(円の大きさ=客室数)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(1km圏57施設・現役施設のみ)
用途地域・建築規制(計画地周辺)
用途地域商業地域
容積率/建蔽率400〜600%/80%
景観法の事前協議対象(45m超は届出60日前まで)
高さの基準50m以下(現地の建築計画標識による)
出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(用途地域)/広島市「景観法に基づく届出等に係る事前協議に関する取扱要綱」
災害想定(計画地周辺)
洪水(想定最大規模)浸水深3.0〜5.0m
津波(周辺区域)0.3〜1.0m未満
液状化傾向自然堤防・液状化しやすい
高潮浸水想定同ライブラリに該当区域の収録なし
出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(洪水浸水想定区域・津波浸水想定・地形区分に基づく液状化の発生傾向図)

公示地価は川の東西で水準が大きく違う。計画地から約410mの十日市町2丁目5番27(商業地域)は2026年1月1日時点で49万4,000円/㎡(前年比+7.2%)、約620mの堺町2丁目2番8は47万6,000円/㎡(+4.8%)である一方、川を渡って約460mの紙屋町2丁目2番20は228万円/㎡(+4.6%)、中町7番15は246万円/㎡(+5.6%)に達する。西岸の地価は都心核の4〜5分の1にとどまりながら、上昇率では西岸の河原町1番21が+8.1%、十日市町が+7.2%と都心核を上回っており、「都心に近い割安なエリア」としての評価が地価に乗り始めていると読める。計画地の敷地625.97㎡に十日市町の公示地価水準を機械的に当てると約3.1億円の規模になるが、実際の取得価格は公表されておらず、本稿ではこの水準を参考値としてのみ扱う。

計画地周辺の公示地価(2026年1月1日時点)と前年比 — 川の東西で4〜5倍の差
出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示・令和8年)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。本通5番8外のみ都道府県地価調査(2026年7月1日時点)

一方で、川の間近という立地は災害想定の数字にも表れる。国土交通省の洪水浸水想定区域データ(想定最大規模)では、計画地周辺の街区は太田川・旧太田川・天満川のいずれの想定でも浸水深3.0〜5.0mの区域に含まれる。これは建物の2階床付近まで水に浸かる想定であり、受変電設備や非常用電源、地下1階の用途をどの階に置くかが設計上の論点になる。津波浸水想定では計画地の周辺区域が0.3〜1.0m未満、地形区分に基づく液状化傾向では「自然堤防・液状化しやすい」に分類される。高潮浸水想定区域については同ライブラリに当該区域の収録がなく、広島県が公表する高潮浸水想定図で別途確認する必要がある。河川沿いの眺望を売る立地であるほど、1階の飲食店や地下階の計画は浸水想定と抱き合わせで評価したい。用途地域・景観・浸水・地価を同じ枠組みで重ねた別の例は、彦根城の世界遺産2028年登録へ、城1.5km圏の宿は947室で扱っている。

1km圏の客室ストック — 2017年以降の参入は平均48室、小型化が進んだ

供給側の構造を見ていこう。当社の施設データベースから、閉館・掲載終了の登録がなく、客室数1室以上で、直近3か月に主要予約サイトで価格観測がある施設を名寄せすると、計画地から半径1km圏の現役ストックは57施設・4,179室になる(2026年10月8日時点)。規模別に分けると、300室以上の3施設(1,277室)と100〜299室の8施設(1,747室)だけで客室の72%を占め、他方で10室未満の施設が17施設(76室)、10〜29室が15施設(274室)と、施設数では小規模帯が過半になる。

計画地から半径1km圏の客室ストック(客室規模別・2026年10月8日時点、N=57施設)
客室規模施設数客室数客室シェア
300室以上31,27730.6%
100〜299室81,74741.8%
30〜99室1480519.3%
10〜29室152746.6%
10室未満17761.8%
合計574,179100%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(計画地から半径1km、現役施設・名寄せ後、N=57施設)

開業年が判明する45施設(4,049室)を時系列に並べると、参入の形が変わってきたことが分かる。2016年以前に開業して現在も営業する19施設は平均147.7室(計2,807室)だが、2017年以降に開業した26施設は平均47.8室(計1,242室)にとどまる。年次で見ると2019年に347室、2020年に345室、2021年に330室と3年連続で300室超が加わった後、2022〜2026年の5年間に加わったのは計76室で、いずれも30室未満の小規模施設である。本川町計画の62室はこの「小型化した参入」の列に入るが、定員362名という受け入れ人数では、2022年以降に加わった5年分の客室が収容する人数をこの1棟で上回ることになる。

1km圏の現役客室ストック(開業年判明分)— 累積客室数と年次の新規客室
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(現役45施設・開業年判明分、閉館済み施設は含まない。閉館分を含む過年度の総量は別途の検証が必要。開業年は主要予約サイトでの掲載確認ベースのため、直近の2025〜2026年分は今後の掲載確認で増える可能性がある)

多人数型の希少性も数字で確かめておく。主要予約サイトで6名以上の1室料金を掲載している施設は、1km圏では13施設・254室(客室の6.1%)、中区全体でも31施設・1,296室(137施設・10,927室のうち11.9%)にとどまり、いずれも平均20〜40室台の小規模なアパートメント型やホステル型が中心である。隣接する南区(荒神町)では157室のホステル型「GRAND HOSTEL LDK広島」の開業が予定されているが、個室で1室5〜6人を受け入れる中層ホテルは、現役ストックの中に類例がほとんどない。本川町計画の62室・362名は、1km圏の6名以上対応客室を一気に24%増やす規模にあたる。

中区の推定成約ADRは1万円台 — 「1室」ではなく「1人」で見ると様相が変わる

単価の水準を確認する。広島市中区の推定成約ADR(全業態・対象56〜64施設)は、2025年9月〜2026年8月の12か月平均で約¥10,000、前年同期間の約¥9,600に対して+4.6%だった。月別の振れは大きく、紅葉と修学旅行が重なる2025年11月の約¥12,600が最高、2026年1月の約¥7,600が最低で、年間の高低差は1.65倍に開く。前年同月比では2026年4月が+17.9%(約¥10,800)、2025年11月が+13.8%と伸びた一方、2026年8月は約¥12,300と前年同月(約¥12,900)を4.8%下回り、夏場の伸びは一服している。業態別ではビジネスホテルが約¥9,800(+1.9%、N=48〜53)、シティホテルが約¥14,300(+7.8%、N=7)で、隣接する南区の約¥9,400(+3.5%)、広島県全体の約¥8,700(+5.3%)と比べても、中区は県内で単価の高い市場だが1万円台前半の水準である。

広島市中区 推定成約ADRの月次推移(2024〜2026年・年別重ね描き)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(中区・全業態、確定月のみ、N=56〜64施設/月)
推定成約ADRの比較(2025年9月〜2026年8月平均と前年同期間)
エリア・業態2025/9〜2026/8 平均前年同期間前年比対象施設数
広島市中区(全業態)¥10,046¥9,603+4.6%56〜64
中区 ビジネスホテル¥9,843¥9,662+1.9%48〜53
中区 シティホテル¥14,340¥13,307+7.8%7
広島市南区(全業態)¥9,412¥9,094+3.5%23〜24
広島県(全業態)¥8,692¥8,257+5.3%294〜303
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR・確定月の単純平均)

ここで視点を1室から1人に移す。中区の推定成約ADR約¥10,000は2名1室の水準なので、1人あたりでは約¥5,000になる。この1人単価を本川町計画の定員5.8人にそのまま掛ければ1室約¥29,000、平均4人の利用でも約¥20,000となり、1室単価は中区のシティホテル平均(約¥14,300)を大きく上回る計算になる。多人数型の価格設計は「1室をいくらで売るか」ではなく「1人あたりの単価を周辺の2名利用と同水準に保ちつつ、1室の人数で売上を積む」という発想に立つ。清掃や寝具の負荷は人数に比例して増えるため粗利率は宿泊特化型より低くなりやすいが、延床1㎡あたりで見れば2名用客室を並べる設計より売上密度を高められる余地がある。

この1人単価に反応する需要は広島に厚い。広島市の統計では2025年の入込観光客数は1,476万人(前年比+2.9%)で過去最高、うち外国人観光客は256万1千人(+1.9%)、宿泊客は711万5千人(+2.2%)だった。広島平和記念資料館の2025年度入館者数は226万7,662人(2026年2月6日までの速報値)で3年連続の最多更新となり、外国人が83万3,054人と36.7%を占める。家族・友人グループで動くインバウンドにとって、1室に4〜6人で泊まれる客室は「2室取るより安い」選択肢になる。他方、修学旅行生等は31万6千人(-4.8%)と2年続けて減っており、市は行き先を遠方に戻す学校の動きや大阪・関西万博の影響を要因に挙げる。修学旅行は2〜3年前に行き先が決まるため、2028年8月の開業時点で取り込めるのは2026〜2027年に営業活動を行った学校になる。多人数型の需要源を修学旅行だけに置かず、インバウンドのグループと国内の3世代旅行に分散させる設計が、この立地の成長余地を広げる。

1km圏の既存施設ポジショニング — 客室数 × 推定成約ADR(10室以上・24施設、円の大きさ=客室数)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(2025/9〜2026/8の各施設推定成約ADR中央値、N=24施設。施設名は非表示)

ポジショニングマップでは、1km圏の既存施設は「2名1室で¥7,000〜¥13,000」の帯に集中し、¥15,000超は300〜500室のフルサービス2施設と200室のライフスタイル型1施設、30室の旅館1施設に限られる。本川町計画が1室¥20,000〜¥30,000の水準で売るとすれば、この図の右上にある既存施設と同じ1室単価帯に、62室という小規模で入っていくことになる。ただし比較の軸が違う。既存の高単価帯は2名利用の単価であり、本川町計画は4〜6名で割った1人単価が中区平均に並ぶ構造なので、価格帯としては競合せず、受け入れ人数の面で補完する関係になる。

ピーク日の在庫消化 — 8月5日泊は62施設中18施設が45日以上前から完売

需給の強さを、確定済みのピーク日で確かめる。中区の施設のうち、主要予約サイトの公開枠が総客室の30%以上ある施設を平常日(2026年4月14日・4月21日・9月16日)で抽出し、62施設・4,718室を固定母集団とした。平和記念式典前夜の2026年8月5日(水)泊では、この62施設のうち18施設が宿泊日の45日以上前から完売し、LT30以上で24施設、LT14以上で31施設、LT7以上で36施設が残室0に達していた。式典当日の8月6日(木)泊は45日以上前からの完売が7施設、LT7以上で18施設と前夜より緩む。宿泊需要の山は式典当日ではなく前夜に立つことが、在庫の消え方からはっきり読み取れる。

広島市中区・固定母集団62施設の早期完売施設数と推定稼働(2026年の宿泊日別)
宿泊日対象施設45日以上前に完売LT30以上LT14以上LT7以上LT14時点 推定稼働LT1時点 推定稼働
4月14日(火)平常日49000173.7%91.9%
4月21日(火)平常日49002576.5%93.8%
5月2日(土)GW46010141489.2%93.9%
5月3日(日)GW4207151590.6%95.9%
5月4日(月)GW4706101387.7%97.5%
8月5日(水)式典前夜621824313687.2%95.7%
8月6日(木)式典当日62710151875.9%92.1%
8月14日(金)お盆621016242679.7%94.7%
9月16日(水)平常日62345672.0%94.0%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(広島市中区、固定母集団62施設/客室4,718室・主要予約サイト掲載ベース、公開枠30%以上。GW各日は母集団のうち当日の観測がある施設数。推定稼働は観測施設の客室合計に対する販売済み客室の割合)
中区 固定母集団62施設の推定稼働(主要予約サイト掲載在庫ベース)— LT30・LT14・LT7・LT1時点
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(主要予約サイトで販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なる)

平常日との差も明確だ。4月の火曜日はLT14時点で推定稼働73〜77%、前日時点で92〜94%に達するのに対し、GWの5月2〜4日はLT14時点で88〜91%、前日で94〜98%まで積み上がる。8月5日泊はLT14時点87.2%、前日95.7%で、GWとほぼ同じ山をつくる。一方で平常日でも前日時点の推定稼働が9割を超えている点は、中区の客室が日常的に高い水準で消化されていることを示す。2028年8月の開業は、この8月5〜6日の山と、8月14日のお盆の山(45日以上前からの完売10施設、前日95%)の双方を初年度から取り込める時期にあたる。

周辺商圏 — 1.5km圏8.1万人、就業者6.9万人の都心西縁

観光需要と重なる足元の商圏も見ておく。国土交通省 国土数値情報の250mメッシュ将来推計人口によると、計画地から半径1.5kmの居住人口は2025年推計で80,518人、2040年には78,319人(2020年比-2.1%、2025年比-2.7%)にとどまり、広島市全体の人口減少局面でも都心西縁は人口を維持する見通しである。高齢者比率は24.0%、生産年齢人口比率は66.0%で、川沿いに高層マンションが並ぶ都心居住エリアの構成に近い。総務省・経済産業省の経済センサス(2021年)では半径1kmに事業所5,352、従業者69,369人が集まり、うちオフィス系従業者は27.6%を占める。紙屋町・大手町のオフィス街を川越しに抱える位置で、平日のビジネス需要と週末・連休の観光需要を両取りできる立地である。なお、居住人口は国勢調査ベースの夜間人口であり、滞在・通過人口ではない。

計画地から半径1.5kmの居住人口分布(250mメッシュ・2025年推計)
出典:国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口・R6国政局推計)

ガソリンスタンド跡地と景観の高さ基準 — 小敷地開発に乗る2つの手続き

この計画が示唆的なのは、全国に増え続ける給油所跡地の活用例でもあるからだ。給油所跡地の土壌については、土壌汚染対策法が2つの入口を定めている。第3条は水質汚濁防止法の「有害物質使用特定施設」を廃止した土地に調査義務を課すが、一般の給油所はこの特定施設に該当しないことが多く、第3条の義務は限定的である。第4条は3,000㎡以上の土地の形質変更に届出を求めるが、本件の敷地は625.97㎡で、この面積基準にも届かない。つまり法律上の調査義務が自動的に発生する類型ではない。ただし、ガソリンに含まれるベンゼンは同法の特定有害物質であり、1986年以前の有鉛ガソリン時代から営業していた給油所では鉛も論点になりうる。実務では、環境省の油汚染対策ガイドラインに沿った自主調査、金融機関のデューデリジェンスでの調査要求、地下タンク撤去時の土壌確認が標準的な工程となり、調査結果によっては掘削除去や封じ込めの措置が工期と費用に乗る。費用の水準は汚染の有無と範囲で桁が変わるため、本稿では金額を示さない。

もう1つは景観の手続きである。広島市の「景観法に基づく届出等に係る事前協議に関する取扱要綱」(2015年1月施行、2022年1月改正)は、原爆ドーム及び平和記念公園周辺地区での建築行為に事前協議を求め、高さ45mを超える建築物は景観法の届出の60日前までに協議を終えるよう定めている。本件の高さ45.20mはこの閾値をわずかに超えるため、基本設計段階からの協議が前提になる。現地の建築計画標識には高さ50m以下の基準が適用される区域である旨が記されており(AND BUILD HIROSHIMAの転記による)、13階という階数は、この高さの枠内で階高を詰めて容積を使い切る設計と読める。小敷地では「高さの上限」と「1室あたりの面積」が客室数を決めるため、本件のように1室66㎡・定員5.8人という選択は、高さ制限の下で延床あたりの受け入れ人数を最大化する一つの答えといえる。

開発シナリオの簡易試算 — 1人単価で売る設計が成立条件を変える

以上を踏まえ、公開情報だけで組める範囲の簡易試算を示す。前提は次のとおりで、いずれも穴吹興産の事業計画とは無関係の仮定である。建設費は、アーキブックが国土交通省 建築着工統計調査をもとに集計した2025年のホテル・旅館RC造の坪単価(全国)202.6万円を採用し、延床4,100㎡(約1,240坪)で約25.1億円。着工2027年1月から竣工2028年8月の工期中間(2027年10月頃)まで、Turner & Townsendの建設コスト予測(2026年+5.3%、2027年+5.0%)を複利で織り込むと約27.4億円、1室あたり約4,400万円になる。土地は実際の取得価格が非公表のため、近傍の公示地価(十日市町・49万4,000円/㎡)を敷地に機械的に当てた約3.1億円を参考値とし、総投資は約30.5億円と置く。公示地価と実際の取引価格の開きについては、商業地の取引価格は公示地価の0.86倍、上位25%で1.19倍が10商圏394件で検証しており、この参考値の幅を見る目安になる。GOP率は、多人数客室の清掃・リネン負荷を考慮した40%の仮定値を使う。

開発シナリオの簡易試算(62室・3シナリオ、単価・稼働・GOP率はすべて仮定値)
項目A. 2名利用中心B. 平均4名利用 基準C. 平均5名利用
1室あたり単価(仮定)¥11,000¥24,000(1人¥6,000)¥27,500(1人¥5,500)
想定稼働率80%75%70%
年間客室売上(62室)約1.99億円約4.07億円約4.36億円
GOP(40%)約0.80億円約1.63億円約1.74億円
建設費のみ(27.4億円)に対するGOP利回り2.9%5.9%6.4%
総投資(30.5億円・土地参考値込み)に対するGOP利回り2.6%5.3%5.7%
出典:アーキブック(国土交通省 建築着工統計調査に基づく2025年のホテル・旅館RC造坪単価)、Turner & Townsend建設コスト予測、国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。単価・稼働・GOP率はすべて仮定値。飲食店部分の収入は含まない

結果は明快で、同じ62室でも2名利用の中区平均単価で売るシナリオAでは総投資に対するGOP利回りが2.6%にとどまり、1室66㎡という床の使い方は成立しにくい。平均4名で1人¥6,000を取るシナリオBでは5.3%、平均5名のシナリオCでは5.7%に乗る。つまり、この計画の成立条件は「2名用客室の相場で62室を売ること」ではなく「1人単価を中区の2名利用水準(約¥5,000)と同程度に保ちながら、1室に4〜5人を安定して入れること」にある。感度を確かめると、シナリオBで1人単価が10%下がれば利回りは4.8%、稼働率が5pt下がれば5.0%、両方が重なれば4.5%まで低下する。多人数型の収益は人数の充足に強く依存するため、修学旅行・インバウンドグループ・3世代旅行という3つの需要を季節ごとに切り替える販売設計が、計画の前提を支えることになる。

シナリオBの感度分析(1人単価と稼働の変動)
感度分析(シナリオB)ベース1人単価 -10%稼働 -5pt両方
年間客室売上約4.07億円約3.67億円約3.80億円約3.42億円
GOP(40%)約1.63億円約1.47億円約1.52億円約1.37億円
総投資に対するGOP利回り5.3%4.8%5.0%4.5%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(簡易試算)。本試算は公開情報に基づく概算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要

1人単価と稼働を同時に動かした2軸の感度も確認しておく。平均4名利用を固定し、1人単価を¥5,000〜¥7,000、通年平均の稼働を65〜85%の範囲で動かすと、総投資30.5億円に対するGOP利回りは3.9%から7.1%まで開く。1人単価が中区の2名利用の1人あたり水準(約¥5,000)にとどまる場合、基準の稼働75%では4.5%、稼働85%まで埋めても5.0%で、1人¥7,000を取れれば稼働65%でも5.4%になる。基準(1人¥6,000・稼働75%)から1人単価だけを¥500下げると4.9%、稼働だけを5pt下げると5.0%で、単価と人数充足のどちらが欠けても5%前後まで下がる。

1人単価 × 稼働の2軸感度(シナリオB・平均4名利用、通年平均の稼働、総投資30.5億円に対するGOP利回り)
1人単価(1室単価)稼働65%稼働70%稼働75%稼働80%稼働85%
1人¥5,000(1室¥20,000)3.9%4.2%4.5%4.7%5.0%
1人¥5,500(1室¥22,000)4.2%4.6%4.9%5.2%5.5%
1人¥6,000(1室¥24,000)4.6%5.0%5.3%5.7%6.1%
1人¥6,500(1室¥26,000)5.0%5.4%5.8%6.2%6.6%
1人¥7,000(1室¥28,000)5.4%5.8%6.2%6.6%7.1%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(簡易試算)。62室×365日×1室単価×稼働×GOP率40%を総投資30.5億円(土地参考値込み)で割った値。太字は基準(シナリオB)、色付きは5.0%以上。単価・稼働・GOP率はすべて仮定値

投資判断の視点 — 跡地保有者・地銀が確認したい5つの項目

最後に、地方都市で小規模用地や給油所跡地を持つ事業者、融資を審査する立場から、この計画が示す確認項目を整理する。第一に、新規供給の環境である。中区では2027年初頭にコートヤード・バイ・マリオット広島(三川町・183室)、2028年6月末頃にリーガグラン広島(東平塚町・168室)の開業が報じられており、いずれも2名利用を基本とする中〜高単価帯に入る(広島市内の開業予定を完成年ごとに並べた供給圧は、広島・札幌のホテル開業予定 — 全国69件15,189室の完成年タイムラインと供給圧で整理している)。本川町計画はこれらと1室単価帯は重なっても人数帯が異なるため、直接の競合よりも中区全体の受け入れ人数を押し上げる位置にある。第二に、ピーク日の需要の厚みで、8月5日泊や5月3日泊の在庫消化は、観測施設の36〜50%が2週間前までに残室0になる水準にあり、多人数型が高単価で埋まる日が年に複数回ある。

投資判断の確認項目と本件での読み方
項目本件での読み方評価
需要の厚み入込1,476万人・外国人256万人(2025年、過去最高)。式典前夜・GWはLT14時点で推定稼働87〜91%強い
価格水準中区ADR¥10,046(2名1室)。1人約¥5,000が多人数型の価格設計の基準線中立
供給1km圏4,179室、2022〜26年の追加は76室。2027〜28年に中区で計約350室の新規開業報道中立
災害想定洪水(想定最大規模)浸水深3.0〜5.0m、液状化しやすい地形区分。設備配置と保険設計で対応要対応
手続き景観事前協議(45m超は届出60日前まで)、給油所跡地の土壌調査(法定義務は限定的、自主調査が実務)工程に織込
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング、広島市、国土交通省 不動産情報ライブラリ、各社報道

第三に災害想定で、浸水深3.0〜5.0mの区域では、機械室・電気室を上階に置く、地下階の用途を限定する、水害時の避難計画を宿泊約款に組み込むといった対応が融資条件や保険料に反映されうる。第四に手続きの工程で、景観の事前協議と土壌の自主調査はいずれも基本設計の前倒しを要し、小敷地ほど設計の自由度が限られるため、着工予定の2027年1月に向けた逆算が重要になる。第五に、売り方の設計で、1人単価で売る多人数型は団体営業と予約サイトでの人数別料金設定の両方を必要とし、開業前の2026〜2027年に修学旅行の営業サイクルへ入れるかが初年度の人数充足を左右する。給油所跡地という小敷地を、高さの上限の中で延床あたりの受け入れ人数を最大化する設計で活かす本件は、同様の用地を抱える地方都市の事業者にとって、客室数ではなく定員で供給を測り直す視点を与えてくれる計画といえる。

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参考資料・出典一覧

■ 計画情報

■ データソース

推定成約ADR(広島市中区・全業態、2025年9月〜2026年8月の確定月、N=56〜64施設)、計画地から半径1km圏の客室ストック(現役57施設・4,179室、2026年10月8日時点)、中区の固定母集団62施設・4,718室の在庫消化(リードタイム45日以内の観測)は、メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが主要予約サイトの公開価格・販売在庫から集計した。計画の諸元は現地の建築計画標識(AND BUILD HIROSHIMAによる転記)、用途地域・地価・災害想定は国土交通省 不動産情報ライブラリ、観光客数は広島市の公表資料による。

■ 試算前提

建設費は本文に示した坪単価と建設コスト上昇率の仮定による約27.4億円、土地は近傍の公示地価を敷地面積に機械的に当てた約3.1億円(参考値)、総投資は約30.5億円。GOP率は40%、1室単価と稼働は3つのシナリオごとの仮定値で、62室×365日で年間客室売上を置いた。飲食店部分の収入は含めていない。いずれも建築主の事業計画とは無関係の仮定である。

■ 限界・留意点

推定成約ADRと推定稼働は公開情報に基づく推定値であり、各施設の実際の成約価格・稼働とは異なる。計画の諸元は建築主の公式発表では確認できておらず、ブランド名・運営会社も2026年10月8日時点で未公表である。GOP利回りはGOPを投資額で割った目安で、運営委託料・固定資産税・保険料・家具什器の更新費などを差し引いた後のNOI利回りやIRRではない。用途地域の境界と高潮浸水想定は、広島市の都市計画図と広島県の公表図で別途確認が必要になる。

■ 市場データ

■ 政府統計・公的データ

■ 業界レポート・報道

将来日程・推定値に関する注意:本記事のADR・推定稼働は調査時点(2026年10月8日)に主要予約サイトで公開されていた販売価格・在庫に基づく推定値であり、各施設の実際の成約価格・稼働とは異なる。開発シナリオの数値は公開情報に基づく仮定の組み合わせであり、建築主の事業計画を示すものではない。計画の諸元はAND BUILD HIROSHIMAが転記した現地の建築計画標識によるもので、今後の設計変更で変わる可能性がある。

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