トップ > 業界トレンド > 旅館業許可98,338施設 vs OTA掲載27,248 — 差7万の正体を数える2026

旅館業許可98,338施設 vs OTA掲載27,248 — 差7万の正体を数える2026

投稿日 : 2026.08.31

指定なし

旅館業許可98,338施設 vs OTA掲載27,248 — 差7万の正体を数える2026

厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」によると、2024年度末時点で旅館業の営業許可を受けている施設は全国98,338施設ある。一方、メトロエンジンリサーチがOTA上で価格・在庫を継続観測できている施設は27,248施設にとどまる。差は71,090施設。この7万という数字を「見えない宿が7万軒ある」と読むのは誤りで、正しくは「2つの統計が数えている対象がそもそも違う」という話である。本記事では、その差が何でできているかを営業種別・都道府県・客室数の3つの角度から分解する。

本記事における指標の定義

  • 許可ベース:厚生労働省「衛生行政報告例(年度報)」で報告された旅館業法の営業許可施設数。営業種別は「旅館・ホテル営業」「簡易宿所営業」「下宿営業」の3区分。数値は令和6年度=2024年度末(2025年3月31日)現在。
  • 掲載ベース:メトロエンジンリサーチが追跡する国内宿泊施設レコード134,727件のうち、OTA上での稼働が確認できる27,248施設(客室1,266,645室)。2026年8月時点。OTA等に掲載されていない施設、掲載を停止している施設は含まない。
  • 掲載率:掲載ベース施設数 ÷ 許可ベース施設数。分子と分母は集計主体・集計時点・定義がいずれも異なるため、施設の「捕捉率」ではなく母集団の重なり具合を示す参考指標として読む。
  • データ出典:厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」、メトロエンジンリサーチ
Key Takeaways
  • — 差71,090施設は「見えない宿」ではない。旅館業の営業許可は98,338施設、OTA上で価格・在庫が観測できるのは27,248施設で、2つの統計は数えている対象がそもそも違う。
  • — 許可ベースの増加4,863施設のうち61.5%が簡易宿所営業。山小屋・保養所・季節営業など、一般販売を前提としない施設を広く含む区分である。
  • — 掲載ベースでも小規模タイプは施設数の33.0%を占めるが、客室数では6.2%(1施設あたり8.7室)。施設数と客室数では市場の絵が別物になる。
  • — 同じ2つのデータでも、施設数なら27.7%、旅館・ホテル営業だけを分母にすれば51.5%、客室数なら71.1%。数え方だけで3つの答えが出る。
  • — 都道府県別の掲載率は京都府45.4%〜長崎県18.5%で2.5倍差。簡宿比率との相関は-0.396(N=47)で、分母の構成に強く引きずられる。

既刊記事との線引き

本媒体では以前、OTA掲載母集団27,248軒の内部構造としてチェーン化率を扱った。あれは母集団の内側を割った話である。本記事はその母集団の外側、すなわち行政の許可統計との差分そのものを主題とする。また、観光庁「宿泊旅行統計調査」の速報値と確定値の読み方については別稿で層化基準の変更を扱ったが、本記事は厚生労働省の許可統計と当社観測データの母集団比較であり、切り口が異なる。

98,338施設の内訳 — 増えているのは簡易宿所と、小さくなった旅館・ホテル営業

まず許可ベースの内訳を確認する。2024年度末の旅館業98,338施設は、旅館・ホテル営業52,946施設(53.8%)、簡易宿所営業44,901施設(45.7%)、下宿営業491施設(0.5%)で構成される。前年度からの増加4,863施設のうち、簡易宿所営業が2,992施設(61.5%)を占め、旅館・ホテル営業が1,908施設(39.2%)、下宿営業は37施設の減少だった。

この5年間の推移を見ると、旅館・ホテル営業は2020年度50,703施設からいったん2022年度50,321施設まで減り、そこから2年で2,625施設増えている。簡易宿所営業のほうは2020年度37,847施設から一貫して増え続け、4年間で7,054施設(+18.6%)増加した。長期でみるとこの構図はさらにはっきりする。1997年度の旅館・ホテル営業は76,751施設あり、2017年度の49,024施設まで20年かけて36%減った。底を打ったのが2017年度で、翌2018年度から増加に転じている。簡易宿所営業は逆に2005年度の22,396施設が底で、そこから倍増した。

出典:厚生労働省「衛生行政報告例」よりホテルバンク編集部作成

2018年度を境に流れが変わった理由のひとつは、制度側の変更である。2018年6月15日に施行された改正旅館業法は、それまで別区分だった「ホテル営業」と「旅館営業」を「旅館・ホテル営業」に統合し、あわせて最低客室数の基準(ホテル営業10室以上、旅館営業5室以上)を撤廃した。玄関帳場(フロント)についても、緊急時の駆けつけ体制やICTによる本人確認を条件に、設置しない運用が認められるようになっている。つまり2018年度以降の「旅館・ホテル営業」という区分は、それ以前と同じ意味の箱ではない。数室規模の施設が同じ区分に入ってくるようになった。この基準撤廃が実際の新規開業にどう表れたかは、改正旅館業法6/15施行『1室営業解禁』で554軒の新規開業データから追っている。

「7万施設が営業している」とは読めない理由

差分の71,090施設を「まだOTA等に出ていない営業中の宿」と読むのは、いくつもの点で成り立たない。整理しておく。

第一に、簡易宿所営業という区分の中身が広い。旅館業法上の簡易宿所は「宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設」を指し、観光庁の宿泊旅行統計調査もこの区分の例としてベッドハウス・山小屋・カプセルホテルを挙げている。ここには一般の旅行者が予約サイトで選べるゲストハウスやホステルだけでなく、山小屋、ライダーハウス、企業や団体の保養所、季節営業の施設なども含まれる。そもそも一般販売を前提としていない施設が相当数入っている。

第二に、許可は生きていても営業実態がない施設がある。旅館業の許可は取得後に自動失効せず、廃止届が出るまで統計に残る。2024年度の営業許可件数は7,720件、営業廃止件数は2,817件だった。許可の交付は年度中の行為として即時に計上されるが、廃止のほうは事業者が届け出て初めて反映される。休業中・実質廃業だが未届けという施設が残留する構造がある。

第三に、住宅宿泊事業法(民泊新法)の届出はこの98,338施設に含まれない。住宅宿泊事業は旅館業法の営業許可ではなく都道府県知事等への届出であり、観光庁が所管する別枠の制度である。旅館業の許可を取って営業している施設と、住宅宿泊事業の届出をして営業している住宅は、統計上まったく別に数えられる。「宿泊施設数」を語るときに両者を足すのか足さないのかで数字は当然変わる。

第四に、OTA等への掲載を選ばない事業者がいる。常連・直販・旅行会社経由・法人契約のみで稼働する宿、会員制の保養所、団体受入専門の施設は、営業していてもOTA等には出てこない。掲載ベースの27,248施設は「販売チャネルとしてOTA等を使っている施設」であって、「営業している施設」ではない。

掲載ベース側の中身 — 施設数の33%は小規模タイプ、客室数では6%

次に掲載ベース側を分解する。27,248施設を施設タイプ別に見ると、旅館7,753施設・ビジネスホテル6,387施設・シティホテル1,102施設・リゾートホテル1,224施設といった従来型の宿泊施設に対して、ペンション1,911・民宿1,829・ゲストハウス1,515・ホステル1,042・貸別荘825・町家663・コテージ405・ロッジ397・ドミトリー166・農家民宿128といった小規模タイプが並ぶ。これら小規模タイプ(ユースホステル・グランピング・キャンプ場・ライダーズハウスなどを含む14分類)を合計すると8,998施設で、掲載ベース全体の33.0%を占める。

ところが客室数で数え直すと様相が変わる。同じ8,998施設の客室数は合計78,623室、掲載ベース全体1,266,645室の6.2%にすぎない。1施設あたり8.7室である。対してビジネスホテル6,387施設は643,452室(1施設あたり100.7室)、シティホテル1,102施設は176,355室(同160.0室)。施設を1軒ずつ数えるか、客室を1室ずつ数えるかで、市場の絵はまったく別物になる。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(N=27,248施設・1,266,645室、2026年8月時点)

この「施設数では多いが客室数では少ない」という性質は、許可ベースで簡易宿所営業が45.7%を占めるという事実と表裏の関係にある。行政の許可統計で施設数が伸びている領域は、客室在庫としてはごく薄い層なのである。

都道府県別の掲載率 — 最高45.4%、最低18.5%で2.5倍差

許可ベースと掲載ベースを都道府県ごとに並べ、掲載率(掲載÷許可)を計算した。全国平均は27.7%。最も高いのが京都府45.4%(許可4,657・掲載2,112)、次いで愛知県44.7%、富山県43.2%、大阪府41.5%と続く。最も低いのが長崎県18.5%(許可2,065・掲載382)、次いで沖縄県19.4%、東京都21.1%、香川県21.2%となった。最高と最低で2.5倍の開きがある。

出典:厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」、メトロエンジンリサーチよりホテルバンク編集部作成

ここで強調しておきたいのは、掲載率の低さは販売の遅れでも取り組みの差でもないということである。掲載率は分母(許可施設)の構成に強く引きずられる。実際、47都道府県で掲載率と簡易宿所比率の相関係数は-0.396、掲載率と「許可1施設あたり客室数」の相関係数は+0.431だった。いずれも中程度の関係で、小規模許可施設が多い県ほど掲載率が下がる傾向は確かにあるが、それだけで説明しきれるほど強くもない。分母の取り方次第で県の順位がどこまで入れ替わるかについては、県別の宿泊供給は分母で入れ替わるが同じ簡易宿所44,901施設を軸に具体例を示している。

出典:厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」、メトロエンジンリサーチよりホテルバンク編集部作成(N=47都道府県)

散布図で外れているのが東京都と沖縄県である。沖縄県は許可1施設あたり客室数が17.8室と全国で最も小さく、簡易宿所が3,804施設と旅館・ホテル営業3,799施設をわずかに上回る。小規模施設の密度がそのまま掲載率19.4%に効いている、という理解でおおむね説明がつく。

東京都は事情が違う。簡易宿所比率は17.6%と全国で2番目に低いのに、掲載率は21.1%と下から3番目である。鍵は旅館・ホテル営業の中身の変化にある。東京都の旅館・ホテル営業は2022年度末3,774施設から2024年度末5,858施設へ2年で2,084施設(+55.2%)増えた。同期間の客室数は205,381室から212,888室へ7,507室の増加にとどまる。増えた施設1軒あたりの客室数は3.6室でしかない。1施設あたり平均客室数は54.4室から36.3室へ下がった。2024年度に東京都で交付された旅館業の営業許可は1,589件で、全国7,720件の20.6%を占める。廃止は113件だった。前節で触れた最低客室数の撤廃を背景に、数室規模の施設が旅館・ホテル営業の区分に大量に流入している、という読み方が自然である。

客室数で数えると差は7万施設から51万室に変わる

衛生行政報告例は、旅館・ホテル営業についてのみ客室数を集計している(簡易宿所営業・下宿営業は施設数のみ)。2024年度末の旅館・ホテル営業52,946施設の客室数は1,782,232室。掲載ベースの27,248施設は1,266,645室である。

施設数で比べると27,248÷98,338=27.7%。旅館・ホテル営業だけを分母にすれば27,248÷52,946=51.5%。客室数で比べると1,266,645÷1,782,232=71.1%。同じ2つのデータセットを突き合わせているのに、数え方を変えるだけで27.7%・51.5%・71.1%という3つの数字が出てくる。市場の在庫規模を論じたいなら客室数、事業者数の分布を論じたいなら施設数、と目的に応じて使い分ける必要がある。

出典:厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」、メトロエンジンリサーチよりホテルバンク編集部作成

もうひとつ、許可ベース側で起きている変化として押さえておきたいのが客室数の伸び方である。旅館・ホテル営業の客室数は2022年度1,770,752室、2023年度1,776,994室、2024年度1,782,232室。2024年度の増加は5,238室(+0.3%)で、同じ年の施設増加1,908施設に対して1施設あたり2.7室という計算になる。前年の2023年度は施設+717に対して客室+6,242室(1施設あたり8.7室)だったから、1年で急速に小口化した。

これは新規供給の量そのものが細ったという話ではない。行政の許可統計に計上される「1施設」の平均的な大きさが変わったということである。宿泊マーケットの供給圧力を許可施設数の伸び率(+3.7%)で語ると、実際の客室在庫の伸び(+0.3%)とは1桁違う結論に着地してしまう。当社の掲載ベースでも1施設あたりの平均客室数は46.5室で、許可ベースの旅館・ホテル営業33.7室を上回る。OTA等に継続して掲載される施設のほうが、相対的に規模が大きい層に寄っている。

都道府県別 一覧(許可ベース vs 掲載ベース)

47都道府県の全数を掲載率の高い順に並べた。「室/許可施設」は旅館・ホテル営業の客室数を同施設数で割った値で、その県の許可施設がどれくらいの規模感で構成されているかを示す。

都道府県別 旅館業許可施設数とOTA掲載施設数・掲載率(N=47都道府県)。出典:厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」(2024年度末現在)、メトロエンジンリサーチ(2026年8月時点・N=27,248施設)
#都道府県 許可計旅館・ホテル 簡易宿所掲載 掲載率簡宿比率 室/許可施設
1京都府4,6579553,6472,11245.4%78.3%52.4
2愛知県1,3801,22015861744.7%11.4%56.0
3富山県58637121425343.2%36.5%41.0
4大阪府2,4251,6467731,00641.5%31.9%78.1
5山形県1,00773727038938.6%26.8%25.7
6宮城県1,01666333538938.3%33.0%50.4
7岩手県1,01271329235435.0%28.9%29.2
8兵庫県2,4211,41198682734.2%40.7%33.1
9新潟県2,2151,92627975334.0%12.6%22.6
10佐賀県52432919417533.4%37.0%28.5
11群馬県2,0471,12192667633.0%45.2%26.5
12福岡県1,7161,31540055932.6%23.3%49.1
13奈良県78941837125332.1%47.0%24.9
14静岡県4,5562,5352,0161,43731.5%44.2%26.9
15神奈川県2,4281,3081,11676031.3%46.0%44.8
16三重県1,5641,27528448831.2%18.2%23.5
17埼玉県84670314325229.8%16.9%38.1
18岐阜県1,9131,06583857129.8%43.8%25.1
19秋田県81749730723829.1%37.6%30.8
20大分県1,99399099158029.1%49.7%23.8
21福島県2,1351,38265260428.3%30.5%29.8
22愛媛県95041453226728.1%56.0%42.7
23山口県79755224122227.9%30.2%31.7
24広島県1,48274873341127.7%49.5%44.3
25和歌山県1,45858887039627.2%59.7%28.3
26茨城県1,16587826631527.0%22.8%32.7
27石川県1,53571581941427.0%53.4%40.8
28長野県7,0222,6564,3611,89126.9%62.1%23.8
29鳥取県77232444820826.9%58.0%29.9
30徳島県72140731319426.9%43.4%23.2
31熊本県1,81696285047626.2%46.8%28.0
32栃木県2,3171,39891957224.7%39.7%26.1
33岡山県1,14572941227724.2%36.0%30.4
34島根県89037351020923.5%57.3%29.3
35千葉県2,7671,2321,53363422.9%55.4%47.9
36宮崎県93840952821522.9%56.3%41.5
37青森県1,05555649324022.7%46.7%34.4
38北海道6,3572,9303,3141,43222.5%52.1%41.8
39滋賀県1,01848652722822.4%51.8%31.5
40高知県83033249718422.2%59.9%30.2
41福井県1,42187754131222.0%38.1%18.0
42鹿児島県2,4808471,62653221.5%65.6%32.0
43山梨県3,4121,3252,08072221.2%61.0%20.6
44香川県1,14433281124221.2%70.9%41.9
45東京都7,1225,8581,2561,50621.1%17.6%36.3
46沖縄県7,6123,7993,8041,47419.4%50.0%17.8
47長崎県2,0656391,42538218.5%69.0%35.7

出典:厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」(2024年度末現在)、メトロエンジンリサーチ(2026年8月時点・N=27,248施設)よりホテルバンク編集部作成

「宿泊施設数」を語るとき、どの母集団を指しているか

ここまでの整理を踏まえると、日本の「宿泊施設数」には少なくとも3つの異なる数字が並立していることがわかる。

日本の「宿泊施設数」を示す3つの母集団の定義・時点・所管(N=3系列)。出典:厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」、観光庁「宿泊旅行統計調査」、メトロエンジンリサーチ
母集団施設数定義・時点所管
旅館業 営業許可施設98,338旅館業法の許可を受けている施設。2024年度末現在。営業実態の有無は問わない厚生労働省
宿泊旅行統計調査 母集団名簿約76,000事業所母集団データベースを基に補正した名簿。2026年1月1日時点。うち調査対象は約23,000施設観光庁
OTA掲載・稼働確認施設27,248OTA上で価格・在庫が観測できる施設。2026年8月時点。客室1,266,645室メトロエンジンリサーチ

出典:厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」、観光庁「宿泊旅行統計調査の層化基準見直しに伴う変更点について」、メトロエンジンリサーチ

最大の98,338と最小の27,248で3.6倍。中間の約76,000を挟んで、どれも公的または継続的に集計されている正当な数字である。問題は、これらが混在して引用されることにある。

宿泊旅行統計調査については、調査対象の抽出方法も知っておく価値がある。2010年第2四半期から2025年12月調査までは従業者数を層化基準とし、10人以上を悉皆調査、5〜9人を3分の1、0〜4人を9分の1の無作為抽出としていた。2026年1月分調査からは層化基準が客室数に変更され、20室以上が悉皆調査、1〜19室が都道府県ごとに抽出率を設定した標本調査となっている。観光庁は母集団施設数への影響はなく、調査対象施設数も従来同様約23,000施設程度としている。つまりこの統計の延べ宿泊者数や客室稼働率は、小規模施設については推計値である。

比較するときの作法

実務上は次の3点を確認すれば足りる。

1. 分母がどれかを明示する。「県内の宿泊施設は◯◯軒」と書くとき、それが許可ベースなのか調査母集団なのか販売可能在庫なのかで、意味も使い道もまったく違う。自治体の観光計画で許可ベースを使い、稼働率の議論で宿泊旅行統計調査を使い、競合分析でOTA掲載ベースを使う、という併用自体は正しい。混ぜて割り算をするのが危ない。

2. 時点をそろえる。衛生行政報告例は年度末(3月31日)現在で、公表は翌年度後半になる。令和6年度分の概況公表は2025年10月21日だった。宿泊旅行統計調査は月次で速報・第2次速報・確定値と段階的に確定していく。OTA掲載データは観測時点のスナップショットである。1年以上ずれた数字を並べて増減を論じてしまう事故が起きやすい。

3. 施設数と客室数のどちらで語るかを先に決める。本記事で見たとおり、同じ差分が施設数では72.3%(27.7%の裏返し)、客室数では28.9%(71.1%の裏返し)と表現できる。供給過剰・供給不足を論じる文脈ではほぼ常に客室数のほうが適切だが、事業者支援や制度設計の文脈では施設数が意味を持つ。

都市部と地方の宿泊在庫の厚みの違いについては、掲載施設が1軒以下の自治体を数えた記事や、県庁所在地以外の「第2都市」市場を扱った記事でも別角度から扱っている。業態構成の地域差については主要34市区町村の業態ミックス分析を参照されたい。

まとめ

旅館業の営業許可98,338施設とOTA掲載27,248施設の差71,090施設は、隠れた市場でも未開拓の在庫でもない。営業種別の定義の広さ、許可の残存、届出制度の別枠、販売チャネルの選択という4つの要因が重なった、母集団の定義差である。

増加分の6割超を占める簡易宿所営業は、客室在庫としてはごく薄い層で構成される。掲載ベースで同種の小規模タイプが施設数の33.0%を占めながら客室数では6.2%にとどまることが、その薄さを裏づけている。旅館・ホテル営業の側でも、2024年度は施設が1,908増えたのに客室は5,238室しか増えていない。制度改正で最低客室数が撤廃されて以降、行政統計に計上される「1施設」の平均サイズが下がり続けている。

この構造を踏まえると、実務上の示唆は3つに整理できる。ひとつは、供給圧力を許可施設数の伸び率で判断しないこと。2024年度の旅館・ホテル営業は施設+3.7%だが客室は+0.3%であり、客室在庫としての新規供給は数字が示すほど厚くない。ふたつめは、地域の掲載率の低さを販売機会と読み替える前に、分母の構成を確認すること。沖縄県のように1施設あたり17.8室という県で全国平均並みの掲載率を期待するのは、そもそも母集団が違う。みっつめは、統計を引用する側が母集団と時点を明示すること。98,338・約76,000・27,248という3つの数字はどれも正しく、どれも別のことを測っている。

よくある質問

Q. 日本の宿泊施設数は結局いくつなのですか。

目的によって使う数字が変わります。旅館業法の営業許可を受けている施設は2024年度末で98,338施設(厚生労働省)、観光庁の宿泊旅行統計調査の母集団名簿は2026年1月1日時点で約76,000施設、OTA上で価格・在庫が観測できる施設は2026年8月時点で27,248施設です。3.6倍の開きがありますが、どれも定義どおりの正しい数字です。

Q. 許可施設数と掲載施設数の差7万施設は、営業しているのに予約サイトに出ていない宿ですか。

そうは読めません。差分には、山小屋や企業保養所のように一般販売を前提としない簡易宿所、廃止届が未提出のまま許可だけが残っている施設、直販や旅行会社経由のみで稼働する施設などが混在します。営業実態のある未掲載施設が何軒あるかは、この2つの統計の突き合わせだけでは特定できません。

Q. 民泊は98,338施設に含まれますか。

住宅宿泊事業法に基づく民泊は、旅館業法の営業許可ではなく都道府県知事等への届出制度であり、観光庁が所管しています。したがって厚生労働省が集計する旅館業許可施設数98,338には含まれません。一方、旅館業法の簡易宿所営業や旅館・ホテル営業の許可を取得して短期滞在向けに営業している施設は、98,338に含まれます。

Q. 簡易宿所営業が増え続けているのはなぜですか。

2024年度末の簡易宿所営業は44,901施設で、前年度から2,992施設(+7.1%)増えました。2005年度の22,396施設を底に倍増しています。ゲストハウス・ホステル型の宿泊形態の広がりに加え、短期滞在向け物件が旅館業の許可を取得して営業する動きが背景にあると考えられます。ただし本統計は許可の有無を示すもので、稼働状況までは示しません。

Q. 東京都の掲載率が21.1%と低いのはなぜですか。

東京都の簡易宿所比率は17.6%と全国で2番目に低い一方、旅館・ホテル営業の施設数が2022年度末3,774から2024年度末5,858へ2年で55.2%増えています。同期間の客室増は7,507室で、増えた1施設あたり3.6室。1施設あたり平均客室数は54.4室から36.3室に下がりました。2018年の旅館業法改正で最低客室数の基準が撤廃されて以降、数室規模の施設が旅館・ホテル営業の区分に多く入ってきていることが、分母を押し上げていると考えられます。

Q. 宿泊旅行統計調査の対象は全施設ですか。

全数ではありません。母集団名簿約76,000施設に対し、調査対象は約23,000施設程度です。2026年1月分調査から層化基準が従業者数から客室数に変更され、客室数20室以上が悉皆調査、1〜19室は都道府県ごとに抽出率を設定した標本調査となっています(それ以前は従業者数10人以上が悉皆、5〜9人が3分の1、0〜4人が9分の1の抽出)。小規模施設の値は推計であることを踏まえて読む必要があります。

あわせて読みたい

参考資料・出典一覧

■ データソース

許可ベースは厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例(年度報)」の統計表4および e-Stat 第8表(令和4〜6年度)、長期系列は同付表「旅館業数,年次別 平成9年度以降」による。母集団名簿の規模・抽出方法は観光庁「宿泊旅行統計調査の概要」および「層化基準見直しに伴う変更点について」。掲載ベースはメトロエンジンリサーチが継続観測する国内宿泊施設データ(N=27,248施設・1,266,645室、2026年8月時点)。

■ 試算前提

掲載率は「掲載ベース施設数 ÷ 許可ベース施設数」で算出し、分母には各都道府県の旅館業合計(旅館・ホテル営業+簡易宿所営業+下宿営業)を用いた。簡宿比率は簡易宿所営業÷旅館業合計、「室/許可施設」は旅館・ホテル営業の客室数÷同施設数。相関係数は47都道府県を1標本とするピアソン相関(N=47)。小規模タイプ8,998施設は掲載ベース27分類のうち14分類を合算した値。

■ 限界・留意点

許可ベース(2024年度末)と掲載ベース(2026年8月時点)は集計主体・集計時点・集計定義がいずれも異なるため、掲載率は施設の捕捉率ではなく母集団の重なり具合を示す参考指標である。旅館業の許可は廃止届が提出されるまで統計に残るため、営業実態のない施設が分母に含まれる。客室数は旅館・ホテル営業についてのみ公表され、簡易宿所営業・下宿営業は施設数のみのため、客室ベースの比較は旅館・ホテル営業に限られる。住宅宿泊事業法に基づく届出施設は許可ベースの98,338施設には含まれない。

■ 政府統計

■ 制度

■ 市場データ

関連記事