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部屋食が残る宿 全国TOP30 — 旅館の58.3%に残存、推定ADRは言及ゼロ比+91%

投稿日 : 2026.08.22

指定なし

調査

部屋食が残る宿 全国TOP30 — 旅館の58.3%に残存、推定ADRは言及ゼロ比+91%

夕食を宴会場やレストランではなく客室に運ぶ「部屋食」は、宿泊業のなかでもっとも人手を要する提供形態のひとつである。配膳・下げ膳の動線が客室ごとに分散し、料理の温度管理も個別になる。調理とサービスの採用が同時に難しくなっている今、この形態を続けている宿はどこに、どれくらい残っているのか。そして、手間をかけた分は単価に乗っているのか。

本稿では、直近24か月(2024年8月〜2026年8月)に投稿された宿泊者口コミ6,952,636件を意味解析し、夕食を客室で提供したことが語られた口コミ51,290件(全体の0.74%)を抽出した。言及が20件以上ある469施設を分析対象とし、言及率の上位30軒、都道府県別の残存度、そして部屋食を運用している旅館とそうでない旅館の推定成約ADRの差を検証する。

本記事における指標の定義

  • 部屋食言及:宿泊者口コミを意味解析し、「夕食を客室内で提供された」体験が肯定的に語られていると判定された口コミの件数。宿の設備表示ではなく、実際に宿泊した人の記述に基づく。
  • 言及率:部屋食言及数 ÷ 当該施設の同期間の口コミ総数 × 100。
  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(184物件月・2026年4〜5月)で誤差中央値は7.5%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • 集計期間:口コミは2024年8月〜2026年8月の24か月。ADRは2026年9月〜11月の3か月平均。
  • データ出典:ホテルバンク編集部調べ(口コミ)/メトロエンジンリサーチ(価格)
Key Takeaways
  • — 口コミ20件以上の旅館5,924軒のうち58.3%(3,451軒)で部屋食が語られている。ただし言及20件以上まで定着しているのは238軒・4.0%にとどまる。
  • — 部屋食の言及20件以上の旅館の推定成約ADR中央値は¥24,400(N=237)。言及ゼロ群の¥12,800(N=2,103)に対し+91%(2026年9〜11月)。
  • — 客室数10〜40室にそろえると+115%、口コミ件数50〜200件にそろえると+67%。規模と露出量を統制しても7割前後の差が残る。
  • — 残存度は県差が大きい。山口75.4%・静岡71.0%に対し東京33.9%・宮崎33.3%。定着度では埼玉9.8%・神奈川8.8%・静岡8.3%が上位。
  • — 上乗せの大半は「部屋食があること」ではなく語られる密度に対応する。中間群との差は条件統制後+16%まで縮む。

夕食の提供形態は5つに分かれる — 部屋食は旅館の58.3%に残っている

まず全体像を押さえたい。口コミが20件以上ある旅館5,924軒を母集団として、夕食の提供形態がどう語られているかを整理した。もっとも多いのは館内レストラン(5,086軒・85.9%)と会席(5,013軒・84.6%)で、これは旅館の標準装備といってよい。部屋食は3,451軒・58.3%が「一度以上語られている」水準にある。

ただし、一度語られることと、定常的な運用として定着していることは別である。部屋食の言及が20件以上ある旅館は238軒、母集団比で4.0%にとどまる。つまり「部屋食が選べる宿」は半数以上ある一方で、「部屋食が宿の顔として語られる宿」は25軒に1軒という構造になっている。個室の食事処(809軒・13.7%)はさらに希少で、20件以上の言及がある施設は全国で1軒しか存在しない。

出典:ホテルバンク編集部調べ(宿泊者口コミのNLP解析)/メトロエンジンリサーチ

注目したいのは、言及施設比率が低い提供形態ほど、推定成約ADRの中央値が高いという並びである。館内レストランが語られる旅館の中央値は¥17,500、会席は¥18,000。これに対し部屋食は¥19,500、個室食事処は¥23,400と、希少な形態ほど単価が高い位置に立っている。部屋食の言及が20件以上ある238軒に絞ると中央値は¥25,700まで上がる。夕食の提供形態がまったく語られない旅館292軒の中央値は¥8,800だった。

表1:夕食の提供形態別に見た言及施設数と推定成約ADR中央値(旅館5,924軒/口コミ2024年8月〜2026年8月・ADR 2026年9〜11月)
夕食の提供形態言及のある旅館母集団比言及20件以上推定成約ADR中央値
館内レストラン5,086軒85.9%532軒¥17,500
会席5,013軒84.6%832軒¥18,000
部屋食3,451軒58.3%238軒¥19,500
夕食ビュッフェ585軒9.9%69軒¥18,200
個室の食事処809軒13.7%1軒¥23,400

母集団=直近24か月の口コミが20件以上ある旅館5,924軒。ADRは2026年9〜11月の推定成約ADR中央値(N=当該グループのうち価格データを取得できた施設)。1施設が複数の形態に該当するため、比率の合計は100%を超える。

出典:ホテルバンク編集部調べ(宿泊者口コミのNLP解析)/メトロエンジンリサーチ

部屋食が語られる宿 全国TOP30 — 言及率トップは37.0%

言及数が20件以上ある469施設を言及率の高い順に並べたのが次の表である。首位は北海道幕別町の幕別パークホテル悠湯館(20室)で、口コミ135件のうち50件、37.04%が部屋食に触れている。2位は静岡県伊東市のラ・ドッグリゾート(12室・35.11%)、3位は熊本県玉名市の八芳園(12室・32.00%)と続く。

上位30軒のうち24軒が旅館で、客室数の中央値は20室。全国の旅館の平均規模を大きく下回る小規模施設が中心である。配膳動線を客室に分散させても回せる規模であること、そして客室単位で完結する体験を売りにできることが、この形態が残った条件になっていると読める。

表2:部屋食の言及率 全国TOP30(言及20件以上の469施設を対象・2024年8月〜2026年8月)
順位施設名所在地業態客室数部屋食言及口コミ総数言及率所在市町村の旅館ADR
1幕別パークホテル悠湯館北海道幕別町旅館205013537.04%¥11,768(N=3)
2ラ・ドッグリゾート静岡県伊東市ペンション12339435.11%¥20,949(N=69)
3八芳園熊本県玉名市旅館12247532.0%¥25,777(N=10)
4ホテル千倉千葉県南房総市旅館20216830.88%¥15,519(N=14)
5坂のうえの宿高知県高知市貸別荘1237530.67%¥9,518(N=8)
6レジーナリゾート箱根仙石原神奈川県箱根町リゾートホテル227324030.42%¥28,011(N=147)
7すゞきや旅館宮城県白石市旅館336421130.33%¥25,161(N=6)
8ホテルゆもと登別北海道登別市旅館6917056530.09%¥18,896(N=14)
9両築別邸大分県別府市旅館4210133630.06%¥18,311(N=79)
10レジーナリゾート箱根雲外荘神奈川県箱根町リゾートホテル10279129.67%¥28,011(N=147)
11松平閣島根県松江市旅館135618929.63%¥20,190(N=30)
12下呂ロイヤルホテル雅亭岐阜県下呂市旅館3210237127.49%¥19,796(N=41)
13旅館 ふくぜん群馬県渋川市旅館357728427.11%¥17,421(N=40)
14大黒屋栃木県那須塩原市旅館315018626.88%¥18,412(N=48)
15伊勢神宮のお膝元 鳥羽 胡蝶蘭三重県鳥羽市旅館399334626.88%¥17,566(N=71)
16なかや旅館福島県福島市旅館8217926.58%¥15,115(N=44)
17伊豆長岡温泉 福狸亭 小川家静岡県伊豆の国市旅館152810626.42%¥15,209(N=33)
18有馬館山形県上山市旅館356022826.32%¥20,382(N=15)
19ホテルベル鐘山山梨県富士吉田市ビジネスホテル39207725.97%¥30,542(N=4)
20かくれの里 ゆかり島根県浜田市旅館153413225.76%¥16,408(N=7)
21旅宿よぶこ佐賀県唐津市旅館243915225.66%¥21,854(N=20)
22太子館栃木県栃木市旅館7239025.56%¥20,917(N=4)
23下呂温泉 木曽屋岐阜県下呂市旅館263614125.53%¥19,796(N=41)
24ホテル鶯岩手県雫石町旅館16207925.32%¥10,174(N=9)
25井筒屋福島県石川町旅館57228924.72%¥14,433(N=3)
26昇陽館熊本県水俣市旅館22229124.18%¥11,178(N=5)
27小さなアジアン宿 rakuyadoはなはな静岡県伊東市ペンション6218923.6%¥20,949(N=69)
28岩魚茶舎山梨県山中湖村旅館10208523.53%¥11,606(N=17)
29玄 箱根強羅神奈川県箱根町旅館69139323.16%¥28,011(N=147)
30ゆらりゆら 水鳥の宿 さきはな新潟県阿賀野市旅館13229822.45%¥18,263(N=9)

対象=直近24か月の部屋食言及が20件以上ある469施設。現在OTA等で販売が確認できない施設は除外した(1施設)。所在市町村の旅館ADRは2026年9〜11月の推定成約ADR平均で、括弧内Nは集計対象施設数。N=10未満の市町村はサンプルが薄く、参考値として扱われたい。

出典:ホテルバンク編集部調べ(宿泊者口コミのNLP解析)/メトロエンジンリサーチ

宿泊者の言葉に踏み込むと、部屋食が何を担っているかが見えてくる。「夕食が部屋食の舟盛り付で…」「お部屋でのお食事でゆっくり周りを気にせず食べられた…」「夕食は部屋食でゆっくり食べれて、子どもが遊べるところもあって…」といった記述が並び、いずれも他の客と空間を共有しないことが評価の中心にある。「源泉掛け流しの客室風呂、お部屋食…部屋で全て完結します」という声もあり、客室内で滞在が完結する設計そのものが商品になっている。

残った県と薄くなった県 — 山口75.4%、静岡71.0%に対し東京33.9%

次に、県ごとの残り方を見る。口コミ20件以上の旅館を分母に、部屋食の言及が一度でもある旅館の比率を算出した。全国平均は58.3%だが、県による幅は大きい。

もっとも高いのは山口県の75.4%(61軒中46軒)、次いで佐賀県72.7%、静岡県71.0%、千葉県70.5%、栃木県67.8%と続く。伊豆・房総・那須・湯河原箱根といった首都圏近郊の温泉地と、山陰・北部九州の小規模旅館地帯が上位に並ぶ構図である。逆に低いのは宮崎県33.3%、東京都33.9%、青森県36.5%、徳島県44.4%、長野県46.7%だった。

出典:ホテルバンク編集部調べ(宿泊者口コミのNLP解析)/メトロエンジンリサーチ

長野県が46.7%と低い点は補足を要する。長野は旅館の母集団が505軒と全国最大でありながら、部屋食の言及が20件以上ある施設は6軒(1.2%)にとどまる。大型の温泉旅館とスキー宿が多く、会場食を前提とした設計の施設が母集団に厚く含まれているためと考えられる。同様に、青森・秋田・北海道といった大型温泉旅館の比重が高い地域も相対的に低い位置にある。

一方で、言及率の高さと「定着度」は必ずしも一致しない。山口県は一度以上の言及では全国1位だが、20件以上の施設は0軒である。定着度で見ると埼玉県9.8%、神奈川県8.8%、静岡県8.3%、鳥取県8.3%、三重県7.2%、兵庫県7.0%が上位に立つ。首都圏・中京圏から日帰り圏にある温泉地ほど、部屋食を常設運用として維持できている。

表3:都道府県別の部屋食残存度と定着度(口コミ20件以上の旅館・上位12県/下位6県)
都道府県旅館(口コミ20件以上)部屋食言及あり言及率言及20件以上定着度
山口県614675.4%00.0%
佐賀県775672.7%45.2%
静岡県37326571.0%318.3%
千葉県1057470.5%54.8%
栃木県20513967.8%125.9%
神奈川県26217366.0%238.8%
長崎県614065.6%11.6%
石川県1046865.4%43.8%
群馬県26216864.1%93.4%
埼玉県412663.4%49.8%
大分県27217263.2%41.5%
山形県17611163.1%52.8%
島根県914347.3%44.4%
長野県50523646.7%61.2%
徳島県361644.4%12.8%
青森県742736.5%00.0%
東京都561933.9%00.0%
宮崎県331133.3%00.0%

上位12県と下位6県を抜粋。旅館数が20軒未満の県は集計対象外。全国の母集団は5,915軒(46都道府県)。

出典:ホテルバンク編集部調べ(宿泊者口コミのNLP解析)/メトロエンジンリサーチ

単価の上乗せ幅 — 部屋食を運用する旅館の推定ADRは中央値¥24,400

ここからが本題である。人手をかける提供形態は、単価にどう乗っているのか。旅館5,924軒を部屋食言及の強度で3群に分け、2026年9〜11月の推定成約ADRの中央値を比較した。

言及20件以上の群(N=237)は¥24,400、言及1〜19件の群(N=3,033)は¥19,200、言及ゼロの群(N=2,103)は¥12,800。上下の差は+91%に達する。

出典:ホテルバンク編集部調べ(宿泊者口コミのNLP解析)/メトロエンジンリサーチ

ただしこの差をそのまま「部屋食の付加価値」と読むのは早い。部屋食を運用する宿は規模が小さく(中央値35室に対し言及ゼロ群は14室)、口コミの蓄積量も多い(414件に対し55件)。規模と露出量の違いが単価差に混ざっている可能性がある。そこで条件をそろえた比較を2通り行った。

客室数10〜40室に限定すると、¥26,100(N=133)/¥19,000(N=1,790)/¥12,100(N=1,290)となり、差はむしろ広がって+115%。口コミ件数50〜200件に限定すると、¥22,100(N=40)/¥19,100(N=1,399)/¥13,200(N=923)で+67%となった。条件をそろえても、部屋食が語られる宿は言及ゼロの宿に対して7割前後の単価差を保っている。ただし言及1〜19件の中間群との差は+16%まで縮まり、上乗せの大半は「部屋食があること」より「部屋食が滞在の中心として語られる密度」に対応している。

表5:統制条件 × 言及密度で見た推定成約ADR中央値と差の幅(2026年9〜11月・本文中の数値を再掲)
統制条件言及20件以上言及1〜19件言及ゼロ上位群 − ゼロ群上位群 − 中間群
統制なし(旅館5,924軒)¥24,400(N=237)¥19,200(N=3,033)¥12,800(N=2,103)+91%+27%
客室数 10〜40室にそろえる¥26,100(N=133)¥19,000(N=1,790)¥12,100(N=1,290)+115%+37%
口コミ件数 50〜200件にそろえる¥22,100(N=40)¥19,100(N=1,399)¥13,200(N=923)+67%+16%
観測された幅(下限/中位/上限)統制条件によって上位群の水準は¥22,100〜¥26,100の間で動く+67% / +91% / +115%+16% / +27% / +37%

3行はいずれも本文で示した実測値であり、将来の見通しではない。「下限/中位/上限」は統制条件を変えたときに差がどこまで動くかの観測レンジを示す。中間群との差(+16%〜+37%)が上位群との差より小さいことが、上乗せが「部屋食の有無」ではなく「語られる密度」に対応していることを示す。

出典:ホテルバンク編集部調べ(宿泊者口コミのNLP解析)/メトロエンジンリサーチ

都道府県別に同じ比較を行うと、差の出方にも地域性がある。山梨県では部屋食群¥31,400に対し言及ゼロ群¥11,600(+171%)、鳥取県は¥26,300対¥10,800(+144%)、栃木県は¥30,900対¥14,100(+119%)。いずれも県内に価格帯の広い温泉地を抱える県である。

出典:ホテルバンク編集部調べ(宿泊者口コミのNLP解析)/メトロエンジンリサーチ

個別施設のレベルでも確認しておきたい。TOP30のうち価格データを取得できた27施設について、施設単位の推定成約ADRを所在市町村の旅館ADR(表と同じ市区町村平均)と比べると、15施設が市町村平均を上回り、乖離率の中央値は+19%だった。とくに箱根町のレジーナリゾート箱根仙石原(22室)は市町村平均の約2.0倍、玄 箱根強羅(6室)は約3.4倍の水準にある。小規模で客室内完結型の設計を徹底している施設ほど、エリア平均から離れた価格帯に立っている。

誰が部屋食を選んでいるか — 家族14.2%、愛犬同伴4.3%

部屋食に言及した口コミに、同時にどんな要素が語られているかを見ると、需要の輪郭が浮かぶ。もっとも多く共起するのはスタッフの気配り(29.5%)、次いで温泉(27.4%)、客室の清潔感(24.4%)、客室の広さ(23.5%)である。料理そのものより、接客と空間がセットで語られている点が特徴的だ。

利用シーンでは家族利用が14.2%と突出し、一人旅5.9%、連泊・長期滞在5.4%、愛犬同伴4.3%、記念日3.7%と続く。乳幼児や高齢の家族を連れた滞在、あるいはペットと離れずに過ごしたい滞在では、会場に移動しないこと自体が価値になる。実際、上位30軒には愛犬同伴を主軸とする宿が3軒含まれており、部屋食が「和の旅館文化の名残」だけでなく、同伴需要という新しい文脈で再定義されつつあることを示している。ペット同伴を受け入れる宿そのものの分布については、ペット同伴の宿・全国81施設ランキングが口コミ言及ベースで整理している。

表4:部屋食の口コミに共起する要素と利用シーン(言及箇所57,288件)
部屋食の口コミに同時に語られる要素共起率利用シーン共起率
スタッフの気配り29.5%家族利用14.2%
温泉27.4%一人旅5.9%
客室の清潔感24.4%連泊・長期滞在5.4%
客室の広さ23.5%愛犬同伴4.3%
コストパフォーマンス20.4%記念日3.7%
露天風呂15.6%カップル3.1%

分母=部屋食に肯定的に言及した記述57,288件(言及箇所ベース。1件の口コミに複数の言及箇所が含まれるため、抽出口コミ51,290件より多い)。1件の口コミに複数の要素が含まれるため合計は100%にならない。

出典:ホテルバンク編集部調べ(宿泊者口コミのNLP解析)/メトロエンジンリサーチ

人手をかける形態をどう値付けに乗せるか — 三つの成長余地

ここまでのデータから、部屋食という提供形態には次の三つのアップサイドが見える。

第一に、密度を上げる余地。言及1〜19件の中間群(3,033軒)と20件以上の群(237軒)の単価差は+27%(条件をそろえた比較では+16%まで縮む)だった。部屋食を「選べるオプション」として持っている宿は多いが、滞在の中心として語られる密度まで届いている宿は少ない。プラン構成・客室タイプ・写真訴求を部屋食側に寄せ、口コミで語られる比率そのものを引き上げることが、既存設備のままで取りにいける伸びしろになる。

第二に、同伴需要という新しい入口。愛犬同伴の共起率4.3%は現時点では小さいが、上位30軒に3軒が入っている事実は、この文脈での部屋食が高い価格帯で成立していることを示している。ペット同伴・小さな子ども連れ・多世代旅行といった「会場に出づらい」滞在は、部屋食にとって構造的な追い風である。

第三に、希少性そのものの価格化。個室の食事処が語られる旅館は809軒(13.7%)で中央値¥23,400、部屋食で20件以上の言及がある238軒は¥25,700。館内レストラン中心の¥17,500に対し、この差は提供形態の希少性がそのまま価格帯に反映されていることを意味する。全国の旅館で調理・サービス人材の確保が難しくなるほど、続けている宿の相対的な希少性は高まっていく。個室の食事処が需要側でどう使われているかは、七五三は宿で祝う — 個室の食事処が語られる22軒と11月中旬週末の単価で扱っている。

宿泊業の採用面では、2025年11月時点の調査で「サービス(レストラン・宴会)」が不足懸念職種の1位(26.7%)、「調理」が2位(25.6%)となっており、この二職種はまさに部屋食を支える職種である。2025年3月には特定技能「外食業」の在留資格をもつ外国人が旅館・ホテル内の飲食施設で就労できるよう制度が改正され、担い手確保の選択肢は広がりつつある。人手をかける形態を維持するコストと、それが単価に乗る幅を並べて見ることが、これからの一泊二食モデルの設計につながる。調理・配膳人材の逼迫を効率化の機会として組み替える論点は、一泊二食モデルの再設計で詳しく掘り下げている。

⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事のADR(2026年9〜11月)は調査時点でOTA等に公開されている販売価格をもとにした推定値であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。現時点の水準がそのまま実現するとは限らない点にご留意ください。

集計方法と出典

口コミデータは、直近24か月(2024年8月〜2026年8月)に投稿された宿泊者口コミ6,952,636件を意味解析し、夕食が客室内で提供された体験が肯定的に語られていると判定された記述を抽出した。ランキングの対象は、同期間の口コミ総数が20件以上あり、かつ部屋食の言及が20件以上ある469施設である。言及率が高くても言及件数が20件に満たない施設は表から除外している。また、現在OTA等で販売が確認できない施設1件を除外した。

都道府県別の分析は、業態構成の違いによる見かけ上の差を避けるため、旅館カテゴリに限定して算出した。母集団は口コミ20件以上の旅館5,924軒(旅館数が20軒未満の県は集計対象外のため、県別集計は5,915軒・46都道府県)。ADRは市区町村×旅館カテゴリの2026年9〜11月の推定成約ADRを用い、施設単位の比較では同期間の施設別推定成約ADRを使用した。

なお、本稿のADR差は相関を示すものであり、部屋食の導入が単価上昇を引き起こすという因果を示すものではない。部屋食を運用する宿は規模・立地・価格帯において固有の特徴を持つため、客室数と口コミ件数をそろえた比較を併記している。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

宿泊者口コミの意味解析(2024年8月〜2026年8月・6,952,636件、うち部屋食に肯定的に言及した口コミ51,290件/言及箇所57,288件)と、市区町村×業態および施設別の推定成約ADR(2026年9〜11月)。施設属性(業態・客室数・所在地)と販売継続の確認は宿泊在庫データによる。

■ 試算前提

ランキングは口コミ総数20件以上かつ部屋食言及20件以上の469施設が対象。県別集計は業態構成の差を避けるため旅館カテゴリに限定し、旅館数20軒未満の県を除外(5,915軒・46都道府県)。ADRは2026年9〜11月の月次推定成約ADRの平均で、群別比較は中央値。統制比較は客室数10〜40室、口コミ件数50〜200件の2条件で行った。

■ 限界・留意点

口コミ言及は宿の設備表示ではなく宿泊者の記述に基づくため、部屋食を提供していても語られなければ計上されない(過小評価方向のバイアス)。ADR差は相関であって因果ではなく、規模・立地・価格帯の違いが混在する。2026年9〜11月は将来日程のため価格は今後変動しうる。N=10未満の市町村は参考値。

■ 口コミ・価格データ

  • ホテルバンク編集部調べ — 宿泊者口コミの意味解析(対象6,952,636件/2024年8月〜2026年8月)
  • メトロエンジンリサーチ — 推定成約ADR(2026年9〜11月、市区町村×業態および施設別)

■ 人材・制度

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